死神×少女+2【続編】

桜咲かな

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第3話『漆黒のシンデレラ(後)』

(3)

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その頃、グリアとコランは待合室にいた。
大きなテーブルが真ん中に1つ。
足と腕を組んで椅子に座っているグリア。
そのテーブルを挟んで、グリアの正面に座るもう一人の男。
その男は、魔王に仕える魔獣・ディアだ。
魔獣と言っても、普段は人間の姿をしていて、性格も穏やかで大人しい。
誰に対しても人当たりがいい彼だが、今は目の前にいるグリアをじっと冷たい視線で見ている。
ディアは主人である魔王に従順で、魔王の敵は自分の敵、くらいに思っているのだろう。
だが、ディアがグリアに対し、冷たく嫌うのはそれだけではない。
そんなディアに対抗するかのように、グリアも鋭く睨み返す。
一言も言葉を交わさず睨み合い続ける状態がずっと続いた。
この緊迫感を分かってないのか、コランがディアの横に歩いていき、いつもの明るい調子で話しかけた。

「なあなあ、なんで二人共ずっとしゃべらないんだ?」

ディアは視線をグリアに向けたまま、相変わらずの無表情で答えた。

「あちらが話さないので」

その言葉に、グリアがついにキレた…というか、我慢出来なくなった。
元々、グリアは無言の睨み合いよりも、言葉で言い争う方が性に合う。

「言いたい事があるんなら言いやがれ。ねえなら、この場から消えろ」

すると、ディアはようやくグリアに向かって口を開いた。

「なら、言わせて頂きます。……亜矢サマの命を救ってくれた事に関しては、感謝します」

グリアは少し瞳を開いた。が、表面上は鋭く睨み据えたままだ。

「てめえに感謝される筋合いはねえよ」

なんだ、コイツ何を言ってやがる?と、グリアは心で詮索しても、相手の表情からはまったくその心は読めない。
ディアは、一切の感情を出さないのだ。

「亜矢サマは、大切なお方だからです。ずっと妃をとらなかった魔王サマが、ようやくお決めになった一人の女性ですから。それに、今は王子サマの契約者でもある」

その一瞬、ディアの瞳が少し揺れた。
グリアはその一瞬を見逃さなかった。

「それは、魔王でなくてめえ自身の感情だろ?」
「!!」

ディアの瞳が大きく開かれる。
図星か……と、グリアはまるで優勢な立場に立った気分で言葉を続ける。

「今、ここにてめえの主人はいないぜ。言ってもいいんだぜ、『亜矢に惚れてる』ってな」

ディアは、口を閉ざした。目を伏せると、再び感情を自分の中に押し込めた。
そして、静かに席を立った。

「………おしゃべりが過ぎました」

そう言うと、ディアはグリアに背中を向け、部屋から出ていこうとした。
ディアの背中に向かって、グリアが言葉を投げる。

「亜矢に手出すんじゃねえぞ」

ディアは一瞬足を止め、振り向きもせず言葉を返す。

「ご安心を。私は手など出しません」

―――いえ、手を出さないんじゃない、手が出せないんです――――

自分自身にそういい聞かせ、ディアは部屋を出た。
魔王の敵は、自分の敵。
魔王の大切な人は、自分にとっても大切な人。
そう思っていたいのに、いつでも半分は自分の意志が存在している。
魔王に忠誠を誓う魔獣・ディアには、自分の感情を殺してでも主人に従う道しか選べない。

「ディアっ!!」

後を追ってきたコランが、パタパタと走り寄ってくる。

「どうしたんだよ?さっき…すごく悲しそうな顔してた!!」

ディアの、ほんの一瞬の表情の変化をコランは見逃さなかったのだ。
幼いながらも心配そうに見上げるコラン。
冷えた魔獣の心に、かすかな温もりが生まれる。
ディアは身を屈めると、コランに優しく微笑んだ。

「ありがとうございます、王子サマ。私は平気ですよ」

だが、コランは表情を曇らせたままだ。

「ホントか?オレ、ディアが元気になるなら、何でもするぜ?」

コランは、ディアを家族のように慕っている。
ディアもまた、自らが仕える主人の一人としてコランを魔王と同じように敬い、慕っている。

「では、お願いです。先程の話は内緒にして下さい」
「え……?」
「出来れば、無かった事にして下さい」

幼いコランには、先程の会話を内緒にする意味が分からなかった。

「なんで?」

不思議そうにしてコランが聞き返すが、ディアは理由を口にせず、少し困った顔をして穏やかに笑うだけだ。

「私のお願い、聞いて頂けますか?」
「う、うん……分かった」

本当は分かっていないのだが、コランは頷いた。

「ありがとうございます」

ようやく、ディアはいつものように明るく笑った。
だが、コランの心には疑問が残ったままだ。

(オレが大人になったら分かるのかな……)

どこか、取り残されたような気がして寂しくなったコランは、ディアの片手をギュっと握った。

「王子サマ、少し手が大きくなられましたね?」
「そうか?……へへっ」

そうして、二人は手を繋いだまま、城の廊下を歩いて行った。
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