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木曽義仲
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六郎の話をまとめると。
どうやら彼は一つの戦を終えたばかりだったという。
友の亡骸を眺め、気付けば私たちがいた。らしい。
「やば。本物の武士って事?友達が死んだとか…。戦って本当にあったんだ。」
巴衣は歴史の教科書でしかそれを知らない。むしろ授業でさえも嫌煙しているのだ。
戦いで友を亡くす。現実味がなさ過ぎる。全然わからない。
その状況も、気持ちでさえも、どうしても理解出来なかった。
「何を言っておる。戦は常であろうが。友を亡くすは毎度の事。次は拙者かもしれぬのだ。だが、やはり戦の後は少し気が滅入るな。」
明も姫乃も黙ってしまう。
何となく暗い空気が流れた時、六郎が明るく言う。
「何、気にしていては生きて行けぬ。そなたらは戦を知らぬのか?その着物も何やら見たこともござらぬ。」
そうだった。この侍に現代というものを説明しなくては。常識が違いすぎて話が進まなくなってしまう。
「あのね。六郎…さん?」
「六郎で構わぬ。さん。とは何だ。拙者は小さくとも武家の生まれじゃ。名の後に珍妙なものを付けるでない。」
「はいはい。六郎。ちゃんと説明するから、とりあえず黙って聞いて。」
姫乃が変わって説明する。
「ここは未来なの。あなたが生きている時代から遥か先の日本。今の日本に戦なんてものは無いのよ。
理由はわからないけど…。あなたは自分の時代から現代へと来てしまった。ここまではわかるかしら?」
六郎は黙り込んでしまう。
状況が飲み込めず、きっと混乱しているのだろう。
巴衣は六郎が少し気の毒に見えてきた。が。
「ふむ。なるほど。つまり、拙者は古の人という訳か。…仕方ないのう。」
「え?あんた。どうしようとか思わないの?家族とかと離れちゃったんだよ?」
巴衣は言ってからハッと気付く。明の前でこんな話。しかし当の本人は、六郎の置かれている状況の方が気になっている。
「考えても仕方ないではないか。本物の巴殿と違って肝が小さいのう。」
一言余計だ。本物ってなんだ。本物って。
「それに拙者には家族も嫁もおらぬし、そこに問題はござらん!ハッハッ!
…だが。気掛かりはあるの。拙者は武士故、主君である義仲殿から離れてしまっていてはお力になれぬ。
巴殿も戦場に出ているとゆうに。
まぁ拙者がいても大きな力にはなりますまいがな!」
そう言うと豪快に笑う六郎。姫乃は尋ねる。
「あの…。さっきから『巴(トモエ)』とか『義仲(ヨシナカ)』って。それに『平清盛(タイラノ キヨモリ)』とも言ったわね。あなたは『源氏(ゲンジ)』の一族なの?」
「某は『根井(ネイ)』の遠縁に当たり申す。義仲殿の心意気に賛同し、打倒平家と参陣いたした。故に心残りは義仲殿でござる。」
姫乃は歴史をそこそこ知っている。
今の六郎の言葉で、彼の立場はある程度理解できた。
「彼は有名な『源平時代』からタイムスリップしてきたみたいね。義仲殿っていうのは『木曽義仲(キソ ヨシナカ)』よ。きっと、平家を滅ぼすために挙兵している時期なのね。根井といったら『根井行親(ネイ ユキチカ)』義仲の超強力戦力の一人だわ。」
側で聞いていた六郎は驚く。
「おぉ。流石は姫にございますな。行親殿を知っておられるとは。そう。某なぞ必要の無いほどに、行親殿はお強いですぞ!
義仲殿には、他にも。兼平殿。兼光殿。親忠殿もおられます。拙者が出来ることは盾になるくらいであろうか!」
ガハハと笑っているが、こちらは頭が混乱している。一気に登場人物が出てきた。
明はかろうじて追えている様だが、巴衣はもう降参だ。
「源平ってのは、あの『諸行無常の鐘の音』…ってやつだろ?今出てきた人物は、姫。全員わかったか?」
「えぇ。まさに平家物語(ヘイケモノガタリ)のそれよ。人物はざっと説明するとね。まず兼平は『今井兼平(イマイ カネヒラ)』。兼光が『樋口兼光(ヒグチ カネミツ)』。この二人は兄弟なの。そして行親(ユキチカ)に、その息子である『楯親忠(タテ チカタダ)』。この四人は、義仲の四天王として名を知られてる。
そして命が狙われていた義仲を助けて匿った人物。それが『中原兼遠(ナカハラ カネトオ)』。兼平(カネヒラ)達のお父さん。だから義仲は共に育った義兄弟ってやつね。」
巴衣はパニックだ。
「ちょっ…、ちょっと待って。頭が追いつかない。明わかった?」
「巴衣よりはな。要するに、六郎が生きている時代はまさに戦嵐中のど真ん中。六郎は源氏側って訳か。」
三人で話していると六郎が入り込む。
「姫の仰る通りでござります。凄いですなぁ。姫は御神託の力がお有りか?」
ごしんたく?
巴衣は六郎の言葉が解読できない。助けて、姫…。
「いいえ。ここは未来なのよ。木曽義仲(キソ ヨシナカ)と、その周りの人達は『歴史』となって今でも語り継がれているの。」
突然、六郎の目から涙。
本当に情緒が忙しい人だな。
「真にござるか?!義仲殿のご活躍が語り継がれているとは。根井の名まで…。感激致す。
では、巴殿もご存知でございますか?
ぬ、お主ではないぞ。」
いきなり巴衣に振ってくる。
そもそも『巴(トモエ)』ではない。名前も覚えられないのか、こいつは。
「えぇ。巴。『巴御前(トモエゴゼン)』の事ね。義仲の側室…。もうひとりの奥さん。兼遠(カネトオ)の娘。
凄く強い女武者だったとか。義仲の四天王に加えて、この巴御前がいたことが、彼の軍の最強たる所以だったって。」
姫乃はわかりやすく説明をしてくれる。
「そうであろう!巴殿はまさに武人の中の武人。戦に出て負けた事なぞない。おまけにお美しく気高い。しかし気さくなお方じゃ。」
(へぇ。そういうこと。)
思わずニヤける巴衣。それに気付いた六郎。
「お主では無いわ!偽巴(ニセトモエ)め。」
酷い言いようだな、本当。偽って。
一瞬でも微笑ましく思った時間を返せ。
まぁ良い。無視だ。
巴衣はため息をつくと二人に向かって問いかける。
「で。どうする?」
どうやら彼は一つの戦を終えたばかりだったという。
友の亡骸を眺め、気付けば私たちがいた。らしい。
「やば。本物の武士って事?友達が死んだとか…。戦って本当にあったんだ。」
巴衣は歴史の教科書でしかそれを知らない。むしろ授業でさえも嫌煙しているのだ。
戦いで友を亡くす。現実味がなさ過ぎる。全然わからない。
その状況も、気持ちでさえも、どうしても理解出来なかった。
「何を言っておる。戦は常であろうが。友を亡くすは毎度の事。次は拙者かもしれぬのだ。だが、やはり戦の後は少し気が滅入るな。」
明も姫乃も黙ってしまう。
何となく暗い空気が流れた時、六郎が明るく言う。
「何、気にしていては生きて行けぬ。そなたらは戦を知らぬのか?その着物も何やら見たこともござらぬ。」
そうだった。この侍に現代というものを説明しなくては。常識が違いすぎて話が進まなくなってしまう。
「あのね。六郎…さん?」
「六郎で構わぬ。さん。とは何だ。拙者は小さくとも武家の生まれじゃ。名の後に珍妙なものを付けるでない。」
「はいはい。六郎。ちゃんと説明するから、とりあえず黙って聞いて。」
姫乃が変わって説明する。
「ここは未来なの。あなたが生きている時代から遥か先の日本。今の日本に戦なんてものは無いのよ。
理由はわからないけど…。あなたは自分の時代から現代へと来てしまった。ここまではわかるかしら?」
六郎は黙り込んでしまう。
状況が飲み込めず、きっと混乱しているのだろう。
巴衣は六郎が少し気の毒に見えてきた。が。
「ふむ。なるほど。つまり、拙者は古の人という訳か。…仕方ないのう。」
「え?あんた。どうしようとか思わないの?家族とかと離れちゃったんだよ?」
巴衣は言ってからハッと気付く。明の前でこんな話。しかし当の本人は、六郎の置かれている状況の方が気になっている。
「考えても仕方ないではないか。本物の巴殿と違って肝が小さいのう。」
一言余計だ。本物ってなんだ。本物って。
「それに拙者には家族も嫁もおらぬし、そこに問題はござらん!ハッハッ!
…だが。気掛かりはあるの。拙者は武士故、主君である義仲殿から離れてしまっていてはお力になれぬ。
巴殿も戦場に出ているとゆうに。
まぁ拙者がいても大きな力にはなりますまいがな!」
そう言うと豪快に笑う六郎。姫乃は尋ねる。
「あの…。さっきから『巴(トモエ)』とか『義仲(ヨシナカ)』って。それに『平清盛(タイラノ キヨモリ)』とも言ったわね。あなたは『源氏(ゲンジ)』の一族なの?」
「某は『根井(ネイ)』の遠縁に当たり申す。義仲殿の心意気に賛同し、打倒平家と参陣いたした。故に心残りは義仲殿でござる。」
姫乃は歴史をそこそこ知っている。
今の六郎の言葉で、彼の立場はある程度理解できた。
「彼は有名な『源平時代』からタイムスリップしてきたみたいね。義仲殿っていうのは『木曽義仲(キソ ヨシナカ)』よ。きっと、平家を滅ぼすために挙兵している時期なのね。根井といったら『根井行親(ネイ ユキチカ)』義仲の超強力戦力の一人だわ。」
側で聞いていた六郎は驚く。
「おぉ。流石は姫にございますな。行親殿を知っておられるとは。そう。某なぞ必要の無いほどに、行親殿はお強いですぞ!
義仲殿には、他にも。兼平殿。兼光殿。親忠殿もおられます。拙者が出来ることは盾になるくらいであろうか!」
ガハハと笑っているが、こちらは頭が混乱している。一気に登場人物が出てきた。
明はかろうじて追えている様だが、巴衣はもう降参だ。
「源平ってのは、あの『諸行無常の鐘の音』…ってやつだろ?今出てきた人物は、姫。全員わかったか?」
「えぇ。まさに平家物語(ヘイケモノガタリ)のそれよ。人物はざっと説明するとね。まず兼平は『今井兼平(イマイ カネヒラ)』。兼光が『樋口兼光(ヒグチ カネミツ)』。この二人は兄弟なの。そして行親(ユキチカ)に、その息子である『楯親忠(タテ チカタダ)』。この四人は、義仲の四天王として名を知られてる。
そして命が狙われていた義仲を助けて匿った人物。それが『中原兼遠(ナカハラ カネトオ)』。兼平(カネヒラ)達のお父さん。だから義仲は共に育った義兄弟ってやつね。」
巴衣はパニックだ。
「ちょっ…、ちょっと待って。頭が追いつかない。明わかった?」
「巴衣よりはな。要するに、六郎が生きている時代はまさに戦嵐中のど真ん中。六郎は源氏側って訳か。」
三人で話していると六郎が入り込む。
「姫の仰る通りでござります。凄いですなぁ。姫は御神託の力がお有りか?」
ごしんたく?
巴衣は六郎の言葉が解読できない。助けて、姫…。
「いいえ。ここは未来なのよ。木曽義仲(キソ ヨシナカ)と、その周りの人達は『歴史』となって今でも語り継がれているの。」
突然、六郎の目から涙。
本当に情緒が忙しい人だな。
「真にござるか?!義仲殿のご活躍が語り継がれているとは。根井の名まで…。感激致す。
では、巴殿もご存知でございますか?
ぬ、お主ではないぞ。」
いきなり巴衣に振ってくる。
そもそも『巴(トモエ)』ではない。名前も覚えられないのか、こいつは。
「えぇ。巴。『巴御前(トモエゴゼン)』の事ね。義仲の側室…。もうひとりの奥さん。兼遠(カネトオ)の娘。
凄く強い女武者だったとか。義仲の四天王に加えて、この巴御前がいたことが、彼の軍の最強たる所以だったって。」
姫乃はわかりやすく説明をしてくれる。
「そうであろう!巴殿はまさに武人の中の武人。戦に出て負けた事なぞない。おまけにお美しく気高い。しかし気さくなお方じゃ。」
(へぇ。そういうこと。)
思わずニヤける巴衣。それに気付いた六郎。
「お主では無いわ!偽巴(ニセトモエ)め。」
酷い言いようだな、本当。偽って。
一瞬でも微笑ましく思った時間を返せ。
まぁ良い。無視だ。
巴衣はため息をつくと二人に向かって問いかける。
「で。どうする?」
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