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感動

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ネコの最期の時間が始まる。

血を吐いたその日、ネコは病院で命のタイムリミットを宣告された。
私は受け入れられずにいた。
いやだ。失いたくない。離れたくないんだ。ネコが死んでしまう。そんなの認めない。

私はネコの側から離れなかった。
何もありませんように。明日も生きていてくれますように。
どうか、ネコを連れて行かないで。
一体。何に願ったら良いのだろう。

ネコはそんな私を心配していたのか、いつだって気丈に振る舞っていた。
息子の相手をして、少ないけれどご飯もしっかり食べた。
トイレだって、階段だって、自分で何でもやった。

まるで病気なんかないかのように。
私が泣かないように。
当たり前を頑張った。

何度も危なくなるたびに私は乱れた。
覚悟なんか出来ない。ネコがいない人生なんていらない。
そう言って泣いたから。
きっとネコは待っていてくれた。

頼りなくてゴメンね。
情けなくてゴメンね。
でも。どうしても失えないの。

安楽死の話も出た。
鼻と喉の間に腫瘍が出来ている可能性があり、このままだと徐々に息が出来なくなっていく。苦しむことになるかもしれない。と。

私は選べなかった。
苦しんでる姿を見たくない。でも命の灯火を消すこともしたくない。
迷い、悩み、答えは出ない。

答えを出したのはネコ。
その日ネコは久しぶりにドライフードを食べた。固形物は痛いのか、今まで食べなかったのに。
大好きだったドライフードを食べる姿は、まさに生きることを望んでいる。そう見えた。

苦しくても、命をまっとうする。
それなら私は目を背けない。
もう、逃げない。

ネコとの別れは、すぐ目の前まで迫ってきている。

少しずつ決まる覚悟。
理解していく現実。
後悔だけはしたくなかった。
今をもっと、もっと。この目に焼き付けておかなくては。

桜は見に行けなかった。まだ春を過ぎ出したばかり。年は…越せるのかな?

ネコは22歳になった。
そんな老体でどれほど無理をしていたのだろうか。
毎日打たれる点滴、飲まなくてはいけない薬。
動くことだって辛くなかった?
子どもの遊びに付き合うのは痛くない?

私がグズグズしてるから、平気なフリをしていたのかな。そうやって人知れず、病気と戦っていたのかな。

私の覚悟が決まるまで。私がちゃんと笑えるように。しっかりと前に踏み出せるように。
賢いネコ。
優しいネコ。
私との約束を叶えてくれた。
中学生の夢物語を、自分勝手な約束を、守ってくれた。

大切で、大好きで、唯一無二の私のネコ。
もう覚悟は決まった。

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