桃李し男は鬼愛し

佐橋 竜字

文字の大きさ
上 下
21 / 24

21.愛が勝つって、マ?

しおりを挟む
 
 故郷、原点でもある桃源郷を離れて都市への進出を試みた桃達がいた。彼らは鬼との共存を信念に活動を続けた。そうして誕生したのが。
 桃月院。
 噂で聞いたことがあるけれど、まさか鬼にまで関与してるとは思ってはいなかった。あくまで自己防衛の手段として鬼癒しをしてるのだと考えていた。
「・・・懐かしい・・・」
 俺の部屋。必死に勉強した机に参考書、お世話になったベッド。埃がないことから、誰かが掃除してくれていたようだ。もうこの部屋も無くなっているものだと思っ。
「へぇ~」
「ぅわっ!?」
 いきなり背後から声がしたと思ったら。
「ここが董一郎君のお部屋?」
 本当に鬼は背後を取るのが上手いな。どうたら玲さんに後を付けられていたようだ。まぁ、粗方来られない先生の代わりだろう。
「そうです。まだ前のままでした」
 いきなり玲さんはベッドの下やら、襖を開ける。
「エロ本は~?」
「・・・ありませんありませんから!」
「何処に隠してるのよぉ」
「どぉからぁ! 無いんですってば!」
 玲さんはゆっくり襖を閉めた。
「ねぇ董一郎君」
「? はい」
「統吾のこと、何処まで知ってる?」
「何処まで・・・?」
 難しい質問だ。答えられるものが少ない。
「最近は、権力のある名家なんだなってのと、ついさっきお兄さんがいるのを知ったくらいですかね」
「ふふ、そうよね。あいつ、何も言わないでしょ?」
「俺も、知らなくていいんだと思ってました。だけど、先生は勝手に俺達の関係を進めてくから・・・」
 気が付けば婚約。この短期間でどうしてこうなった?
「お互いのこと、何も知らないのに。先生は・・・勝手です」
「そうよねぇ。早急っちゃ早急なんだけど。そうせざるを得なかった、ってのが言い訳なんだけど」
 この言いぶり。
「玲さんはその、知ってるんですか? せ、先生の・・・事情といいますか」
 玲さんは堂々と俺のベッドに座った。
「純血種の鬼はね、本来鬼同士での婚姻が義務付けられていたの。でも桃の進出で、鬼の攻撃特製が緩和されて、人間への被害が納まっていて、鬼癒しを施されたい鬼達が増えた。普通の人間達と普通に過ごせるように」
 普通に、普通の人間として。俺も望んでいたこと。
「でもね、頭の固いじじ共と、桃を毛嫌いする鬼はいてね、断固桃拒否って、純血を汚すなと、真純血派なんてものができちゃって」
 桃思の代表が鬼頭、つまり玲さんだ。
「・・・先生の家が」
「そう、真純血派。当の本人は他人に、桃にも興味が無くて。ただ、桃太郎の先祖返りには興味が少しあったみたいよ?」
「? なんでですか?」
 玲さんは苦笑する。
「また怒らないで欲しいんだけど。聞きたい?」
「怒りませんよ。先生の最初の俺に対する扱い、何だか知ってます? 護って欲しかったらセフレ以下の食事、扱いですよ? 今更です」
「・・・えっと、それは、その・・・」
「・・・?」
 何。鬼はそんな扱いが常識なのか!?
「先祖返りは鬼の力のブースター、増強させる力がある。桃としての癒しの力の質と量、器が大きい。それ故に鬼に大きな影響を与えるの」
 そういえばまどかに俺がブースターだとか言ってたっけ。つかなんで本人の俺が知らんし。
「先生が力を欲しがっていた、と?」
「あいつのお兄さん、正司さんって言うんだけど。あの人が本当に強くて。統吾も十分強いんだけど、何だろう? 何が強いっていうのかなぁ、兎に角強いのよ」
 まぁ、兄弟あるあるだな。
「お兄さんに勝つために俺を探して利用したということですね」
「あいつも言ってたでしょう? きっかけは不純な動機だったって。今は、指環が物語ってるし」
 指環・・・ねぇ。
「指環の素材が鬼の角? 性感帯? 言わば幼少時の鬼の第二のペニス? ・・・恥ずかしくて付けたくなくなりました」
「・・・ぅっ。お、お願い付けて上げて。桃に愛想をつかれた哀れな鬼のレッテルが貼られてしまうの」
 何だそれ。
「お願いぃ~、それだけは本当に可哀想だから止めたげてぇ~」
「そっ」
 そんなに!?
「鬼の力は桃から教えられた愛の力の方が何よりも強いの。それを知った以上、鬼は桃には勝てない逆らえない」
 なるほど。だから桃月院は鬼に干渉できるのか。
 先生の『愛して欲しい』って。
「・・・桃が鬼以上に愛したら、その鬼は強くなれるんですか?」
「えぇそれはもう。それで、わたしは第二にまで昇りつめたものぉ。そうよねぇ? 子供が出来ちゃうくらいまどかに愛されてるのよねぇわ・た・し♡」
 つまり鬼頭が玲さんの代で強くなったわけで、昔から強いわけではなかった?
「鬼倉は元祖鬼の力が強いから。でも今のままじゃ、わたしが勝つわね」
「えっ」
 玲さんがウインクしてみせる。
「誰かさんが愛してあげなければ、ね?」
「ぐ」
 コンコン。
 扉がノックされる。
「はーい」
 扉を開けたのは、お久しぶりの茶髪ツンツンヘアのヤンキー鬼塚さんだ。
「鬼塚さんっ!?」
「ちーっす、おひさ」
「鬼塚の。貴方もここへ来ていたの?」
「あぁ、密子と一緒にここへ呼ばれてな」
「そう」
「うちの妹がほんとすいません」
「ふはっ。ま、振り回されるのは慣れてるからよ」
 チャライ見かけに寄らず、懐が大きい。
「玲、統吾が呼んでる。こいつはオレっちが見てるからよ」
「統吾が? えぇ、お願いね」
 玲さんが俺にウインクをして立ち去る。
「さてと」
 鬼塚さんが俺に歩み寄る。正直この人と二人切りは気まずい。
「先生も反省した頃かな? 俺達も行きましょ・・・」
 行こうとした俺の腕が掴まれた。
「まぁまぁ」
「? く、くろづ・・・」
「オレっちのお嬢がおまえさんに会いたがっててよ」
 鬼塚さんのお嬢?
 ふとバタバタと騒がしい足音が聞こえだす。
「え」
 俺と鬼塚さんの下に何やら怪しげな光が光出す。
「え、え」
「ちょっくら誘拐、されてくんね?」
「・・・・・・へっ!?」
 ゆゆゆゆゆ誘拐っ!? こんな堂々と!?
「董一郎!」
「せっふぐ」
 口を押さえられた。先生が物凄く睨んでいる。今にも襲い掛かりそうだけど苦虫を噛んだ表情だけだ。来られない事情でもあるのか。
「んじゃーなぁ統吾! こっちの姫さんによろしくー☆」
 光が眩しくて見えなる直前、先生の焦った表情を見た。
「は~最高。煽るの楽しぃー☆」
「ふがが!」
 煽るな! と俺は言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中

夕日(夕日凪)
BL
レイラ・ハーネスは、しがないうさぎ獣人のオメガである。 ある日レイラが経営している花屋に気高き狼獣人の侯爵、そしてアルファであるリオネルが現れて……。 「毎日、花を届けて欲しいのだが」 そんな一言からはじまる、溺愛に満ちた恋のお話。

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話

いんげん
BL
僕の運命の番は一見もっさりしたガテンのおっさんだった。嘘でしょ!?……でも好きになっちゃったから仕方ない。僕がおっさんを幸せにする! 実はスパダリだったけど…。 おっさんα✕お馬鹿主人公Ω おふざけラブコメBL小説です。 話が進むほどふざけてます。 ゆりりこ様の番外編漫画が公開されていますので、ぜひご覧ください♡ ムーンライトノベルさんでも公開してます。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ひとりじめ

たがわリウ
BL
平凡な会社員の早川は、狼の獣人である部長と特別な関係にあった。 獣人と人間が共に働き、特別な関係を持つ制度がある会社に勤める早川は、ある日、同僚の獣人に迫られる。それを助けてくれたのは社員から尊敬されている部長、ゼンだった。 自分の匂いが移れば他の獣人に迫られることはないと言う部長は、ある提案を早川に持ちかける。その提案を受け入れた早川は、部長の部屋に通う特別な関係となり──。 体の関係から始まったふたりがお互いに独占欲を抱き、恋人になる話です。 狼獣人(上司)×人間(部下)

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...