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【#04】マルクス・ショー

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 由利亜嬢の受付が終わると、宇宙人は次に荷物検査を行う。
「はい、パスポート、出して」
 そうぶっきらぼうに言うのは、荷物検査班のベテラン、若くしてのベテラン、眼鏡男子こと、マルクス・ショー。黒縁眼鏡にボサボサかつ重たい前髪で顔が上手く見えない。どっからどう見てもオタク属性。
 パスポートを受け取り、内容を確認。
「荷物はこっち」
「ア、ハイ」
 宇宙人は大きなスーツケースを検査台に乗せる。
 今回の宇宙人は最近「ヒトグループ」のカテゴリーに認定されたばかりの噂の新人種、「機人」だ。そのまま、機械ボディに機械フェイスのイカした生命体。地球でも「アンドロイド」と「サイボーグ」の違いがあり、機械が人間になるか、人間が機械になるかの意味合いの違いだ。この機人は、後者の人を機械に寄せたもので、地球にはまだ早過ぎる機械生命体である。
 生きた体を捨て、人が機械になり永遠の意識自我じぶんを手に入れた存在。
 永遠の『自我意識じぶん』であって。
 それは、永遠の『命』ではないのか?
 わたくしですら、その判断は出来かねる。
 それはわたくし達が決めることではなく、当事者である彼彼女らが、自分達でその答えを見つけなければならない。
 これが、ヒトグループに中々加入できなかった理由の一つ。人からしたら、元は人なのだから、ヒトグループで当然だ。そう思う者もいれば、いや、生身の部分がない、つまり男女の性器がない=人には非ず、という議論が長年行われていたのだ。そこから、『命』の定義が変わる。『生きる』の意味が変わる。
 人の『命』は『心臓』。
 では機械は?
 CPU? バッテリー? でもバッテリーっていつか切れるし充電必要だし・・・エトセトラ(パソコンやないかーいっ)。
 と、地球人は考えるだろう。
 だがしかしこの機人、なんと、金属を食べてエネルギーを補充することができるのだ。宇宙は地球人が思っているほど文明が酷く凄く進んでいるので、地球人の疑問は可愛いものだ。
 冒頭でも喋ったが、地球人の文明レベルはランクE、つまり下の下。
 私は今、監査と言いつつも、地球が大好きで、これからの未来を応援したくて報告書を書いている。地球人にもっと頑張って貰いたい。それだけはまた伝えておく。
 えー、話は戻るが、機人は人かそうでないかの論議の末、ヒトグループカテゴリーになった、その一体である彼が、アルファ・ユーレンだ。
 いや、機械に雌雄はないので、彼なのか彼女なのかは分からない。
「・・・・・・」
 じろじろと、マルクス氏はそんな機人を凝視する。荷物を見ていないようだ。
 スーツケースが検査機に四方八方グリーンのレーザービームを受ける。そしてそのデータがマルクス氏のコンピューターに送られる。
 コンピューターは検知異常なしと表示する。その表示は彼らの前のモニターにも表示された。
「ア、アノ・・・」
「はい?」
「イ、イジョウガナイヨウナノデ、モウ、ニモツ、ヨロシイデスカ」
「ちょい待った」
 アルファがスーツケースの取っ手を掴もうとした、その手をマルクス氏が制止した。
「え~っと、アルファ・ユーレンさん」
「ハ、ハイ」
「次は目視で、このスーツの中身チェックするんで」
「エッ、アッ」
 今度は、マルクス氏の手を、アルファが止めた。
「何か?」
「エ、アノ」
「はい」
「コノキカイデ、ナカミヲチェックシタカラ、モウヒツヨウナイトオモイマス」
 ふっ、とマルクス氏は笑う。
「それはあんたが決めることじゃない。これはココの、ルールだ」
「ソレハ・・・ソウデスガ」
「それに、世の中、機械には分からないものがある」
 マルクス氏、煽っていくスタイルか。
「『直感』だよ」
「ナッ・・・ントイウ、チュウショウテキデコンキョノナイモノ」
「それを信じるのが、人、だからさ」
 ちょいちょいと、マルクス氏はスーツケースのロックナンバーに指をかける。
「これ、開けて」
「・・・・・・」
「なんで躊躇する? 見られたくないものでも入ってるのか?」
「ソ、ソウデス。プ、プライベートナモノガ・・・」
「あぁ、エロ本? 機人でも使うのか?」
「ナッ!?」
 デリカシーのない男とは彼のことだ。
「というのは冗談で、開けてよ。目視チェックは必要事項なんだ。それを拒否するということは」
 マルクス氏はポケットから、チャキーンッとドリルと金槌を取り出した。
「ぶっ壊されても文句言えないってことだよ?」
「!」
「おれさぁ、不器用だから。スーツケースごと、やっちゃうかも」
「!!」
 マルクス氏は眼鏡を光らせてながら、不遜の笑みを浮かべる。
「だ、か、ら? 開けようか」
「・・・・・・」
 渋々、アルファはスーツケースのロックナンバーに触れた。
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