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アメリアの過去

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 夜通し馬を走らせ、モーヴァ前侯爵の屋敷に到着した。何故かブライアンはここにいる。詳しいことは書かれていなかったが、もしかして前団長が何かしら関係しているのかも知れない。

「来たかルイス。すまん、夫人が攫われたのは俺のミスでもある」
「なんだと?」

 思ったより低い声が出てしまった。
 詳しく聞くと、アメリアが攫われたのは騎士団に来た帰りだと言う。正確にはゼルビー辺境伯夫人とお茶をした後らしいが。

「もっと強く注意をして、騎士団からも何人か護衛をつけるべきだった」

 まさかアメリアが、薬の件に関しての証拠を持っているとは思わなかった。結果的にだが。

「そしてフランツ・モーヴァの取り調べをしようとしたのだが……」

 屋敷にはおらず、調べてみると最近母方の祖父より別荘を譲り受けていることが分かった。

「アメリアはそこか!?」
「まあ待てルイス。焦るな」
「焦るなと? アメリアはきっと私を待っている」
「別荘は三軒ある。部下に探らせているが証言もあり、ここから一番近いところが怪しいと思っている」
「証言?」
「ああ。ひとつは通りがかった行商人が、その別荘の方向から不規則に揺れる、妙な光を見たという」

 その行商人は、いつも通る道が崖崩れで通行できなかった為、回り道をしたところその光を目撃したようだ。
 誰かが故意にその光を作り、外に知らせているのでは?と推測されている。

「それに私にも根拠があるのだ」

 この家の主、モーヴァ前侯爵が部屋に入ってきた。

「これは団長。ご無沙汰しております」
「お前もかリックメラー。丁寧な挨拶をしている場合ではないぞ。それにとうの昔に団長は辞めておる」

 団長が引退したのはちょうど五年前だ。『年には勝てない』と言って退いたのに、今も随分元気そうである。

「私はアメリア嬢と面識がある。あまり思い出したくない出来事でもあるがな」

 アメリアは今回と同じように誘拐された過去があった。たまたまモーヴァ前侯爵が秘密裏に救出したが、どこか様子がおかしかった。誰にも知られないように子爵家へ送り届けた。しかし表情は変わらず、どこか一点を見つめたまま。とてもじゃないが話を聞ける状態ではなかった。

「もう少し早く助けていれば、ああはならなかったかもしれない。様子を見ながら屋敷に入る直前で捕らえたのだが」

 騎士団を辞していればもはや普通の人である。大義名分なしの救出は躊躇ってもおかしくはない。それでもアメリアを助けてくれたのだ。そこが今回の屋敷と同じらしい。

「犯人はフランツの叔父、あいつの母親の弟だった」
「事件を公にできない以上、表立って罰することもできなかった」
「アメリア嬢の不名誉な噂はその叔父か、フランツから出たものだろう」

 聞けば聞くほど腹立たしく、アメリアをそんな目に遭わせておいて、今ものうのうと生きている叔父とやらも許せない。

 デビュタントのパーティでとびきりの笑顔を見せ、周りを魅了していた。しかし私と顔を合わせた時の表情は乏しく、結婚してからも最低限の触れ合いだけで、やはり結婚を嫌がっていたのかと思っていた。

 事故で肝を冷やしたが、それがきっかけで思いを通じ合わせることができた。
 再びアメリアを貶めようとする輩は、私の手で潰してやる!

「そこにアメリアがいる可能性があるならば、私は行きます。必ず助ける」
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