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帰国

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 色々思うところはあるが、帰国の許可が出たのだ。さっさと帰ろう。ここから国境までは半日とかからない。もうすぐ会える。アメリア。

「リックメラー殿」

 声をかけてきたのは、先ほどまであちらの重鎮と会談をしていた外務大臣だった。

「何でしょう大臣」
「貴殿には話しておきたいことがある。馬車に乗ってくれ」

 帰りはどうしても気が緩む。決して油断しないように指示を出した。そして部下に愛馬を預け、馬車に乗り込んだ。

「議題は主にあの薬の件だったのだが……」
「ええ」
「どうやらあちらの貴族にも何件か被害が出ているようで、それがこちら側レムイズ王国から入ってきたと言っているんだよ」

 私が把握しているのは八件。最初は裕福な平民の家で見つかった。隣国との国境に面しているゼルビー領からだ。妻の方から『夫の様子がおかしい』と巡回中の衛兵に申し出たのが最初だった。その後も間を置かず発生し、ついに王都まで入ってきた。大体の被害者が喋れる状態ではなく、本人以外の話を聞くと、誰しもが隣国の名前を出す。そう、不自然なくらいに。

 私たちも流石に、国民のすべてを把握している訳ではない。最悪なことにならなければいいが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 夜遅くに国境を抜け、ゼルビー領に辿り着いた。
 
「お帰りなさいませ。遅くまでお疲れ様でございます」

 辺境伯は留守らしいが、執事長が丁寧な対応をしてくれる。

「行きと同様世話になる。殿下を部屋へ」
「承知いたしました」

 帰りは馬車に乗っていたので、愛馬が拗ねていないか確認に行こうとした時、よく通る声が聞こえた。

「リックメラー副団長はどちらに!」
「ここだ! どうした」

 見知った団員が馬を降り、血相を変えてこちらに近寄ってきた。

「団長からの手紙を預かって参りました。早急にご確認ください」
「ブライアンから? いったいなん……」

 折りたたまれた紙を開くとそこには──。頭に血が上るのが分かった。駄目だ、落ち着けルイス。冷静にならなければ重要なことを見落とす。

 できるだけ落ち着いた声で団員を労う。

「ご苦労だった。犯人の目星は」
「団長によると、フランツ・モーヴァの可能性が高いと」
「あの男……」

 抗議文など生温いことをせず、捻り潰しておけば良かった。だが今はアメリアを助けるのが優先だ。

「私は行く。みなには適当に言っておいてくれ。アメリアのことは話すな」
「分かりました」

 私は馬に話しかけた。

「今日は走っていないから大丈夫だな。頼むぞ」

 愛馬は嬉しそうに嘶いた。
 アメリア、すぐに行く。私が必ず助けるから待っていてくれ。
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