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ノーヴァ前侯爵
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ノーヴァ侯爵邸から単騎で一時間弱駆けて、前侯爵が住まいを移している場所へと到着した。
ノーヴァ前侯爵はブラオール騎士団の前団長でもあり、下っ端時代から厳しくも目をかけられていた。しかし俺にとって、この世で一番苦手な人物と言っても過言ではないだろう。
今は気楽な隠居生活と聞いていたが、まだまだ影響力もある。だが、戦争も起こりうるこの件で一歩も引くわけにはいかない。改めて気持ちを入れ直し、邸の門を叩いた。
「ノックスではないか。急にどうした。久しいな」
とうに六十を超えているはずだが、矍鑠としている。体つきも現役時代と全く変わらず、今すぐにでも復帰できそうだった。
「ノーヴァ前侯爵、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
「堅苦しい挨拶はよせ。背中が痒くなるわ。それで要件は何だ? わざわざこの外れまで顔を見に来た訳ではなかろう」
回りくどいことはやめて、単刀直入に聞くことにした。
「フランツ・ノーヴァはどこですか」
「フランツ? ここにはおらんし居所も知らん。それにこの家には一度も来たことすらないぞ」
嘘はついてないように見える。この場所ではなかったのか?
「最後に会ったのはいつです?」
「フランツが成人を迎えた時だな。もう三年以上前だ」
真意を確かめようと、目を逸らさず固定したが、あちらもまっすぐ見返してくる。
「フランツが何かやったのか。訳を話せ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふむ。その件は少し耳にしておる。それにフランツが関わっていると?」
「ええ。こちらに来る前に物証が手に入り、出る時国の検査機関に提出してきましたが、恐らく間違いないかと」
「急展開だな。その物証はどこから出てきたのだ」
迷ったが、ここまで話している以上隠しても仕方がない。
「リックメラー公爵夫人が持って来ました」
「何だと!? アメリア嬢が?」
「ご存じで?」
血縁関係などなかったように思うが、何か接点でもあったのだろうか。
「あ、ああ。少しな」
珍しく歯切れの悪い返しだった。
「それはそうと何故ここに来たのだ? 先ほども言ったように、フランツとはしばらく会っておらん。あれは私を怖がっている節があるからな。あまり近付いてこんのだよ」
この方は前団長だけあって威圧感が凄い。叱責されると萎縮してしまうだろう。団員でさえそうなのだから、甘やかされたお坊ちゃんはひとたまりもない筈だ。
「それはフランツが祖父のところに行ったっきり戻らないと聞いたものですから、あなたが匿っているのかと」
「私も甘く見られたものだな。そこまで耄碌しとらん。逆に叩き出しておるわ」
実際会ってみて間違いだと気がついた。この方の正義感は微塵も変わっていない。
「お前もまだまだだな。お前に近い存在が私だから真っ先に思い浮かぶのも分からんでもないが、あいつの祖父は私一人ではない」
「!?」
俺は何というミスを!その時階下から騒がしい音と「団長」という声が響いた。応援が来たようだ。ここではなかったと伝えようとした時、とんでもない知らせが耳に入ってきた。
「リックメラー公爵夫人が何者かに攫われました!」
ノーヴァ前侯爵はブラオール騎士団の前団長でもあり、下っ端時代から厳しくも目をかけられていた。しかし俺にとって、この世で一番苦手な人物と言っても過言ではないだろう。
今は気楽な隠居生活と聞いていたが、まだまだ影響力もある。だが、戦争も起こりうるこの件で一歩も引くわけにはいかない。改めて気持ちを入れ直し、邸の門を叩いた。
「ノックスではないか。急にどうした。久しいな」
とうに六十を超えているはずだが、矍鑠としている。体つきも現役時代と全く変わらず、今すぐにでも復帰できそうだった。
「ノーヴァ前侯爵、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
「堅苦しい挨拶はよせ。背中が痒くなるわ。それで要件は何だ? わざわざこの外れまで顔を見に来た訳ではなかろう」
回りくどいことはやめて、単刀直入に聞くことにした。
「フランツ・ノーヴァはどこですか」
「フランツ? ここにはおらんし居所も知らん。それにこの家には一度も来たことすらないぞ」
嘘はついてないように見える。この場所ではなかったのか?
「最後に会ったのはいつです?」
「フランツが成人を迎えた時だな。もう三年以上前だ」
真意を確かめようと、目を逸らさず固定したが、あちらもまっすぐ見返してくる。
「フランツが何かやったのか。訳を話せ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふむ。その件は少し耳にしておる。それにフランツが関わっていると?」
「ええ。こちらに来る前に物証が手に入り、出る時国の検査機関に提出してきましたが、恐らく間違いないかと」
「急展開だな。その物証はどこから出てきたのだ」
迷ったが、ここまで話している以上隠しても仕方がない。
「リックメラー公爵夫人が持って来ました」
「何だと!? アメリア嬢が?」
「ご存じで?」
血縁関係などなかったように思うが、何か接点でもあったのだろうか。
「あ、ああ。少しな」
珍しく歯切れの悪い返しだった。
「それはそうと何故ここに来たのだ? 先ほども言ったように、フランツとはしばらく会っておらん。あれは私を怖がっている節があるからな。あまり近付いてこんのだよ」
この方は前団長だけあって威圧感が凄い。叱責されると萎縮してしまうだろう。団員でさえそうなのだから、甘やかされたお坊ちゃんはひとたまりもない筈だ。
「それはフランツが祖父のところに行ったっきり戻らないと聞いたものですから、あなたが匿っているのかと」
「私も甘く見られたものだな。そこまで耄碌しとらん。逆に叩き出しておるわ」
実際会ってみて間違いだと気がついた。この方の正義感は微塵も変わっていない。
「お前もまだまだだな。お前に近い存在が私だから真っ先に思い浮かぶのも分からんでもないが、あいつの祖父は私一人ではない」
「!?」
俺は何というミスを!その時階下から騒がしい音と「団長」という声が響いた。応援が来たようだ。ここではなかったと伝えようとした時、とんでもない知らせが耳に入ってきた。
「リックメラー公爵夫人が何者かに攫われました!」
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