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ルイスの信者

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「何をおっしゃってるのか分かりません。わたくしは正真正銘子爵家で生まれました。それは間違いないことですわ」

 ここで役に立つポーカーフェイス。少しの動揺も見せずに言い切ってやったわ。それにしてもさすが団長をやってるだけあってノックス様は鋭い。すべて見透かしてしまいそうな目をしている。

「まあいいけど」

 そう言いながら傍に控えているヘレナに紅茶のおかわりを要求していた。

「これから話すことは他言無用だ」
「もちろんですわ」

 本来は聞いてはいけない内容なんだろう。それでも私は、ルイス様に関わることならどんなことでも知っておきたい。

「いまこの国に、性質の悪い薬が入り込んでいる」

 先ほどお茶会で聞いたものと一緒かしら。しかし余計な話はしない方がいいだろう。

「騎士団で確認されたのは最近だが、かなり前から入ってきていると思っている」

 それは特徴として、花を煮詰めたような濃く甘い匂いがするそうだ。部屋の中で香のように炊いて使っていたと思われる。既に火は消えた後だったが、煙を少し吸っただけのメイドが昏倒したとか。香炉には木片が残っていたという。
 ある貴族の屋敷の一室だったらしいのだが、発見した時情事の跡があり、一人残されていた女性はまだ意識が戻っていなかった。だが一昨日のこと。目を覚ましたかと思えば訳の分からないことを喚いて暴れたのだ。鎮静剤を打たれて眠らされているが、何をしでかすか分からないので監視付きである。

 その相手を捜査していたところ、最近羽振りの良くなった商人だったそうで、昨日発見された時にはこちらも既に錯乱状態だった。そして証言を集めていたところ隣国との関わりが分かったのだ。

「いまその二人はまともに話せる状態じゃない。完全な証拠も無いのに訪問を中止することはできないからな。それでルイスを殿下につけた。殿下はルイスを信頼しているのでな」

 ルイス様は何年か前に、殿下の命をお助けしたことがあると聞いた。お顔の傷がその時の傷だとも。それに戦争があったのも十年以内の出来事だと聞く。平和ボケしている私には、どちらもピンとこなかった。

「それにあいつルイスはただ立っているだけで抑止力にもなる」

「俺にはできない芸当だ」と皮肉ではなく心からそう言っているように見えた。

「ルイスには腹芸ができない。心が真っ直ぐなんだよ。心理戦で有利に持っていくのが圧倒的に下手でね。その代わり剣を抜いてしまえば一騎当千。敵をすべてなぎ倒していく」

 何となくお強いのは察していたけど、身近にいる人から聞くと現実味を帯びてくる。

「私の手柄になっているものは、ほとんどあいつの功績だ。あいつは人前に出るのを好まないからな」

 ルイス様の話をしているノックス様は、段々と表情が柔らかくなってくるのが分かった。

「俺たちは色んなことを補い合って長い間やってきた。だからルイスを煩わすやつは、誰であろうと消してやろうかと思ったけど──」

 ノックス様の顔が急変し、突き刺すような目で私を見た。

「ま、いまのところは大丈夫かな」

 そう言うと「見送りはいらないよ」とあっさり帰って行った。

 私もしかして消されるところだった?さすが騎士団の団長なだけあって圧がすごい。何だか悔しかった。
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