上 下
99 / 119
第九話 『闇の領域』

99

しおりを挟む
 現在、最新のアップデートが行われた状態の第二世界スフェリカで。

 キャラクターを作成する時。

 プレイヤーは、『光の領域の住人』か、『闇の領域の住人』かそれとも『無所属』かを選択する。

 光の領域を選べば。
 ヒュム、エルフ、ドワーフ、人工精霊ホムンクルス、天使などに加えて、中立に属する種族でプレイすることが可能で。
 これらは一般的で、プレイ人口の7割以上を占める種族達だ。

 一方。
 闇の領域を選べば。
 後から追加された新種族である、魔族、悪魔、悪霊、鬼、ダークエルフ、ダークドワーフなどに加えて、中立に属する種族でプレイが可能で。
 これらは、光の領域に敵対するための特殊仕様を持った、いわゆる悪の種族となる。
 

 また、無所属を選べばどちらにも属さない種族。
 つまり、中立に属する種族――。 
 獣人、アンデッド、吸血鬼、精霊、妖精、甲殻人などを選択可能で。
 これらが多くを占める中立の領地に所属することになる。

 例えば、妖精郷や、孤島の大地、冥界など。

 そしてどちらにせよ、一度所属領域を決めたら変更は容易ではなく。
 
 これらの仕様によって、他社製MMOにあるGvGの要素に加えて。
 正VS悪の領域戦の側面を持つことになる。

 
 ―――。


 そんな現在の第二世界スフェリカの。

 闇の領域に。

 アンデッド種族を統べる領地、ギルド名『ギムダル』が存在する。

 古戦場と鉱山、そして鍛冶に秀でた一つの街。
 それを主な領域とする、まだ出来立ての弱小ギルドなのだが。

 唐突に。 


 ある日、そのギルドマスターの元に隣の領地ギルドから訪問があった。

 まだ城を立てるお金もギルドレベルも無い『ギムダル』に謁見の間など無く。

 鍛冶師の街の中に立つ、一番大きいの邸宅。
 そのエントランスで、ギルドマスター、ギムダはその者たちを出迎える。
 
 ギルドメンバーもマスター含め二人で、一人は領地戦に興味もなく自由に行動しているため。
 当然ながら、出迎えるのはギムダひとりだけだ。


 そしてまず。
 
 ギムダの前に並ぶ三人のうち、まず口を開いたのは。

 右側に立つ一人。

 畳んだ大きな蝶羽をマントのように垂らし、煌びやかな見た目の妖精のような女性。
 だが、その者は『甲殻人種』の中の蝶型の昆虫をモチーフとした姿であり。
 蝶を擬人化しました、みたいな見た目をしている。
 
 なので、顔は普通に可愛らしい女性であり。
 所々は外骨格の装甲で覆ってあるモノの、太腿は眩しいわ、ヘソは見えているわ、南半球は爆乳モロだしだわで。
 目のやり場に困るエロさで。

「初めまして。『ギムダル』の王ギムダ様、わたくしは隣の領地『ミウラケ』からの使者、アゲハと申します」

  ――なんて挨拶は、ギムダの心に入ってこない。
 チラチラとその肢体に視線をやりながら、目を泳がせながら。
 ギムダは、適当に返事をする。 

「あ、ええ……は、はじめまして? ……シシャ、ですか?」

 
 左側に立つもう一人が答える。
 

「ああ。そちら、以前から山向こうの領地に度々攻め込んでいるだろう?」

 そう低い声で話すのは、全身を真っ白なフルプレートで覆い、頭に一本角を付けたようなヘルムで。
 赤いマントを羽織る、伝説の騎士みたいな見た目のヤツで。

 色は白いが。
 カブトムシをモチーフにした甲殻人種だ。
 名はヴィルトールと言う。

 こちらは顔もヒトのそれではなく。
 イケメンロボ面のフルフェイスであって。
 どちらかといえば、戦隊ヒーロー、仮免ライダー、巨大リアル系ロボット大戦的なイメージが強い。
 もっというならば、〇ーバイン、のような外見だ。
 
 そして、ギムダは思い当たる。

「ええ、確かに、私は一番近い光の領地を攻めておりますが?」 

 なぜなら。
 
 闇の種族は、光の種族を攻めるように設計されているから。
 これは、ゲームシステムに定められたことで。
 闇の住人は、魔物を狩っても、最大で0.5ポイントしかスキルポイントが得られない。
 代わりに、光の種族(プレイヤー、NPC問わず)を狩れば最大1.5ポイントとなっており。
 Pvしなさい、Gvしなさい、という圧がかけられた状態だ。
 無論、PVモードをオンにするまでもなく、光の領域所属のプレイヤーを攻撃可能な仕様なのだ。 

 それはギルドにおいても顕著で。
 闇の領域に所属するギルドが、ギルド経験値や資金を稼ぐのに一番効率が良いのは、光の領域を攻めることだ。
 けれど別に、相手のギルドの核となるアーティファクトを破壊して、領地を奪うとか、そこまでする必要はなく。
 相手のギルドスキルで作られたギルド兵やNPCを殺害すれば、それなりの報酬を得ることができる。

 だからギムダはそうしていた。

「なにか、おかしいでしょうか?」

 そこそこ高級なローブを着て、錫杖を手にするスケルトンメイジ――ギムダは、首をかしげる。 

「いや、何もおかしなことではないのだが……」

 カブトムシ型甲殻人種のヴィルトールから、そんな話を引き継いで。
 真ん中に立つ、小柄でお胸もペラペラで、黄色と黒のカラーリングな甲殻人種。
 
 スズメバチ少女が答える。

「効率が悪いって話です。いちいち、山向こうまで部隊を送り込んでいるんでしょ? あんな大部隊を何度も用意してたんじゃ、時間もかかるし、ギルド資金もバカにならないと思いますけど? カツカツでしょうに中級レベルの魔物とか作ってるみたいですし」


「た、確かに」

 生産性に優れているアンデッド種であり。
 古戦場という不死の生産力に優れた立地をもってしても。 
 デュラハンロードや、ジャイアントゾンビ等、高コストな兵士の生産には時間とお金がかかる。
  
 それを、山向こうに配備して攻撃を実行する。

 効率が悪いと言われてもしょうがない。

 でも……。

「……他に手立てが」

「だから、私達が道を作ってあげるわ」

「へ?」

「あなたのところ、山に鉱山があるでしょ?」

「はい」

「そこから、山向こうまで、私の昆虫部隊で通路を掘る。そうしたら部隊の配備も楽になる」

「確かにそれはそうですけど? そんなことをしてあなた達に何の得が?」

「別に得とかじゃないですよ。あまりに下手くそだったから見てられなかっただけ」

「へ、へたくそ……!?」

 ショックでスケルトンメイジの顎が、外れそうになる。


「ま、そうですね。例えば、この領地の鍛冶能力を活かして、我々の部隊に武器とかたまに作ってくれたら、嬉しいかな?」


 これはつまり取引であり。

 簡単に言うならば――。


「つまり、同盟を組む、と言う話ですか、コレ?」


「そうですけど?」

「しかし、それならば、一度そちらのギルドマスターとも話をですね……」

「今話してますって」

「え?」

 スケルトンメイジは、目の前に立つ小さい少女を見やる。
 パパとママとお嬢さん。そんな雰囲気を醸し出す三人のうち、もっともソレらしくない見た目の少女だから。

 そして、少女は紙を取り出して掲げるのだ。

「ほら、ちゃんと同盟契約書も持ってきましたよ」

 イキナリな話で驚くばかりのギムダだが。
 まじまじと見つめる書類も、目の前に立つ3人の顔も。
 それはどう見てもまじな話で。


 そんなアンデッドの領地『ギムダル』が攻め込んでいる相手。
 それは、山一つを隔てた所にある光の領域『ブラッドフォート』と言うギルドなのである。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪いでお嬢様と結ばれるのは本当の縛りプレイなのか? ~VRMMO『Real Role Online』がリアルすぎる~

夜野半月(よるのはんげつ)
SF
ゲーム開始早々、出会ったお嬢様風の少女と共に「お互いの物理的距離が一定以上離れられない」スキルを取得し、文字通りの「縛りプレイ」を強要されてしまう! VRMMOの世界で、この呪いのスキルを解くため(そして少女にまつわるクエストを完了させるため)、出会った仲間達との冒険が始まる。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています

私たちだけ24時間オンライン生産生活

滝川 海老郎
SF
VR技術が一般化される直前の世界。予備校生だった女子の私は、友人2人と、軽い気持ちで応募した医療実験の2か月間24時間連続ダイブの被験者に当選していた。それは世界初のVRMMORPGのオープンベータ開始に合わせて行われ、ゲーム内で過ごすことだった。一般ユーザーは1日8時間制限があるため、睡眠時間を除けば私たちは2倍以上プレイできる。運動があまり得意でない私は戦闘もしつつ生産中心で生活する予定だ。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜

五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。 ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。 NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。 ※軽い性表現があるため、R-15指定をしています ※最初の1〜3話は説明多くてクドいです 書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

トロイメア・オンライン! 〜ブラコンでロリ巨乳の私は、クソザコステータス『HP極振り』と残念魔法『自爆魔法』で、最強で快眠な女子になります〜

早見羽流
SF
不眠症治療のための医療用VRデバイス『トロイメギア』を病院で処方された女子高生――小見心凪。 彼女が『トロイメギア』でプレイするのはサービス開始したばかりのフルダイブ型VRMMOの『トロイメア・オンライン』だった! よく分からずとりあえずキャラエディットで胸を盛ってしまった心凪。 無自覚のうちで編み出した戦法は、脱衣からの自爆魔法という誰も見向きもしなかったかつ凶悪千万なもの! 見た目はロリっ子、中身はハイテンションJKの心凪が、今日も元気に敵と仲間を巻き込みながら自爆するよ! 迷惑極まりないね! 心凪は果たして自爆魔法で最強になれるのか! そして不眠症は治るの? そんなに全裸になって大丈夫なの!? 超弩級のスピード感と爽快感で読者のストレスをも吹き飛ばす。ちょいエロなVRバトルコメディー! ※表紙、挿絵はリック様(Twitter→@Licloud28)に描いていただきました。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

処理中です...