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第九話 『闇の領域』

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 今回は、ヒューベリオンの背中に縛り付けて3人。その口に咥えてプラス1人。
 
 ウィスタリアがズタ袋に入れてロープで引き摺って1人。

 ローリエが重力のギミック用魔法、【重量操作ウェイトコントロール】で重さ激減させ、て1人抱えて。

 合計6人の囚人を運搬する。

 ちなみに、ローリエの魔法はドグルスキルで、ギミックに対して掛け続けなければ効果を発揮しないので、他人の者には使用が出来ない。
 
 NPCに利用できるかは、不明だったがチャレンジしたら出来たという状況だ。
 ウィスタリアのように引き摺っても良かったが可哀そうなので、ローリエはそうしている。

「いつも1人づつ交換してたけど、1回で6人も運べるなんて。今度からロリお姉ちゃんに依頼しようかな」

 運搬途中。  
 ウィスタリアはそんなことを言う。

「そ、そうなんですか……」
 
 もはやいつもの作業と化していて、このキツネ耳もふ尻尾のメイド獣人は何も思わないのかもしれないけれど。 
 今の状況は普通に考えて、すごく犯罪的な様子を醸し出していて、ローリエはちょっとドキマギしていた。

 しかも、暴れたり呻いたりするとめんどうで煩いから、と。
 ウィスタリアは、NPC全員【制圧模擬弾スタンブリット】で撃ち倒し、気絶させたのだ。
 『殺害すると悪性カルマが増えるから、高級な弾を使うんです、面倒な』とさえ言っていた。

 ローリエはなんとなく感じているのだが。
 言動などから、ウィスタリアはきっと、若いプレイヤーなのだろう。
 それが、こんな倫理観で良いのだろうか。リアルではまともなヒトなのだろうか。
 ちょっと不安になった。


 っていうか、横を歩くアンデッドのドラゴンといい。
 完全に悪魔の所業として見ると、城の景観に似合いすぎていて。
 魔王の仕事をする配下のような気分になる。

 これは、ローリエの倫理観に、ちょっと抵触する。

 あまり自分のやっていることを考えたくなくて。
 ローリエは珍しく、他人ウィスタリアに話を振った。

「そ、そういえば、ウィスタリアち……ゃんの名前って、『藤』って意味なんですか?」

 これは、少し前、ゼナマ・クラインが言っていた言葉だった。
 それに、ウィスタリアはさらっという。

「そうですよ? そっちは月桂樹なんでしょ?」

「そ、そうなんです。お花の名前ですね。お揃いですね」
   
「なんで月桂樹なの?」

 ローリエは早口気味に説明する。
「た、単に月桂樹の花が可愛くて好きなんですっ。あと! 冠にしたりして、勝ったことを祝うのに使ったりされるそうで。カッコいいかなって」

「へぇ、ロリコンって意味じゃなかったんだ?」

「ち、違います!」
 ローリエは思わず全力で否定する。

「でも確か、月桂樹って、裏切るって花言葉じゃなかった?」

「えっ!?」

 ローリエの顔が一気に青ざめる。
 そんな意味だとは知らなかったからだ。
 こともあろうに一番嫌な花言葉だ。
 思わず。
「ほんとですか? ほんとに!?」
 と念を押して聞いてしまう。

「確か、そうだったような? 知らないけど」

「うっ」

 ちょっと。
 いや、ローリエのテンションがかなり下がった。
 ログアウトしたら絶対に調べよう、と思った。
 
 それを見たウィスタリアが。

「ああ、でも。花言葉は一つじゃないと思うから。きっとそれだけじゃないよ。ウィスタリアだってうろ覚えだし」

「そ、そうですよね! 見間違いかもしれないんですよね!」  
 
 フォローされて気を取り直すローリエは逆に問う。

「ウィスタリアちゃ、んは? どうして藤なんです?」

「苗字に『藤』が入ってるから。それだけ」

 なるほど。プレイヤーの名前が由来なのだ。

「じゃ、じゃあジルシスさんは?」

「マスター?」

 いつも一緒にいるし。
 この前闘技場で、親族を思わせるような言葉を呟いていた。
 だから知っているのではないかと、ローリエは思ったのだが。

「マスターは、すごいテキトーだけど?」

「テキトー?」

「うん。お寿司とお味噌汁が好きだから、って言ってたよ」

「へっ!?」

 ウィスタリアは、だから、と念を押し。

「お『スシ』と、おみそ『シル』よ」

 お寿司は座銀で『シースー』的なニュアンスである。
 でもローリエは何のことかよくわからず。
 『?』がいっぱい浮かぶだけであった。



 そうして、古城に一つしかない時空結晶ゲートクリスタルがあるエントランス。
 その先に向かうために、差し掛かると。

 剣戟が聞こえてくる。

 エントランスフロアに入ると解る。

 ユナとゼナマが戦っていたのだ。
 ジルシスも、観戦しているし、メイドは仕事を止めて待機している。

 しかし、よく見れば戦っているというよりは、何度も打ちのめされているという風でもある。
 勿論、打ちのめされているのはユナの方だ。

「なにやってるの?」

「PVP……?」

 面白そうなことしてる。オレ様も混ざろうかな。
 と、言いたげに頭を振って楽しそうなヒューベリオンが。
 頭を振る度に、ざくざくNPCに牙がめり込んでその微々たるHPが減っていく。
  
 ああ、死んじゃう。

 ローリエが心配していると。
 今にも斬りかかろうかという所で、ゼナマの手が止まる。
 
 そうして、ローリエ達が居る方を見て。
「おお。戻ったか……? ん? そのNPCたちは? どこかへ行くのか?」

 ローリエが真っ先に取り繕う。

「は、はい! ちょ、ちょっと、街までNPCを返却に!」

 返却? 
 その言葉に首をかしぎつつ。
 ゼナマは、そうか、と言った。
 そして問う。

「……それは良いが。ローリエ殿、依頼の方はどうするのだ? 兵士の訓練をするのだろう?」

「あ……ッ」

 そういえばそうだったと、ローリエは思い出す。
  
「良いよ、ウィスタリアだけでやるから。いつもそうしてるし」

 どうしよう、と困るローリエに、ユナが武器を仕舞いながら。

「じゃあ、先輩の代わりに、私が行きます。たぶんその方が効率的ですよね?」

 ローリエは少し考えて。
「そ、その方が良いかな?」

「はい、交代します、先輩」

 ユナがローリエの抱えているNPCを奪い取って担ぐ。
 それで、魔法によって軽減されていた重量が元に戻るが。
 筋力値が高いので、ユナにとっては苦にもならないらしい。 

「わ、解りました。お願いします、ユナ……ちゃん」

「承ります♪」

 ちゃん呼びにご機嫌になりつつ、笑顔でユナは応じる。


 そこに、踊り場から颯爽と飛び降りる吸血鬼の主が。
 紙を一枚手にして、寄ってくる。

「そんなら、兵士の訓練はローリエとゼナマにお願いするわな」

 はいこれ、依頼書やで、と。
 ジルシスが正式な書類を、ローリエとゼナマに見せる。

 システムのクエストの受諾を行い。

「解りました、やってみます。ジルシスさん」

「ワシもか? ジルシス公」

「いちおうな。あんたも強いみたいやし、見てるだけなのも面白ないやろ?」

「心得た。ヴァンパイアに東洋の剣術を仕込んでやろう」
 楽しそうなゼナマに。

「ヴァンパイアいうか、ノスフェラトゥやけどね? あいつら能力は高いけど、頭は悪いさかい、あんまり期待はでけへんよ?」

 そんな感じで。

 ローリエとゼナマは訓練に。
 ウィスタリア、ユナ、ヒューベリオンはひとまずジルシス領の城下街に向かうのだった。




 


 





 

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