105 / 119
第九話 『闇の領域』
105
しおりを挟む今回は、ヒューベリオンの背中に縛り付けて3人。その口に咥えてプラス1人。
ウィスタリアがズタ袋に入れてロープで引き摺って1人。
ローリエが重力のギミック用魔法、【重量操作】で重さ激減させ、て1人抱えて。
合計6人の囚人を運搬する。
ちなみに、ローリエの魔法はドグルスキルで、ギミックに対して掛け続けなければ効果を発揮しないので、他人の者には使用が出来ない。
NPCに利用できるかは、不明だったがチャレンジしたら出来たという状況だ。
ウィスタリアのように引き摺っても良かったが可哀そうなので、ローリエはそうしている。
「いつも1人づつ交換してたけど、1回で6人も運べるなんて。今度からロリお姉ちゃんに依頼しようかな」
運搬途中。
ウィスタリアはそんなことを言う。
「そ、そうなんですか……」
もはやいつもの作業と化していて、このキツネ耳もふ尻尾のメイド獣人は何も思わないのかもしれないけれど。
今の状況は普通に考えて、すごく犯罪的な様子を醸し出していて、ローリエはちょっとドキマギしていた。
しかも、暴れたり呻いたりするとめんどうで煩いから、と。
ウィスタリアは、NPC全員【制圧模擬弾】で撃ち倒し、気絶させたのだ。
『殺害すると悪性が増えるから、高級な弾を使うんです、面倒な』とさえ言っていた。
ローリエはなんとなく感じているのだが。
言動などから、ウィスタリアはきっと、若いプレイヤーなのだろう。
それが、こんな倫理観で良いのだろうか。リアルではまともなヒトなのだろうか。
ちょっと不安になった。
っていうか、横を歩くアンデッドのドラゴンといい。
完全に悪魔の所業として見ると、城の景観に似合いすぎていて。
魔王の仕事をする配下のような気分になる。
これは、ローリエの倫理観に、ちょっと抵触する。
あまり自分のやっていることを考えたくなくて。
ローリエは珍しく、他人に話を振った。
「そ、そういえば、ウィスタリアち……ゃんの名前って、『藤』って意味なんですか?」
これは、少し前、ゼナマ・クラインが言っていた言葉だった。
それに、ウィスタリアはさらっという。
「そうですよ? そっちは月桂樹なんでしょ?」
「そ、そうなんです。お花の名前ですね。お揃いですね」
「なんで月桂樹なの?」
ローリエは早口気味に説明する。
「た、単に月桂樹の花が可愛くて好きなんですっ。あと! 冠にしたりして、勝ったことを祝うのに使ったりされるそうで。カッコいいかなって」
「へぇ、ロリコンって意味じゃなかったんだ?」
「ち、違います!」
ローリエは思わず全力で否定する。
「でも確か、月桂樹って、裏切るって花言葉じゃなかった?」
「えっ!?」
ローリエの顔が一気に青ざめる。
そんな意味だとは知らなかったからだ。
こともあろうに一番嫌な花言葉だ。
思わず。
「ほんとですか? ほんとに!?」
と念を押して聞いてしまう。
「確か、そうだったような? 知らないけど」
「うっ」
ちょっと。
いや、ローリエのテンションがかなり下がった。
ログアウトしたら絶対に調べよう、と思った。
それを見たウィスタリアが。
「ああ、でも。花言葉は一つじゃないと思うから。きっとそれだけじゃないよ。ウィスタリアだってうろ覚えだし」
「そ、そうですよね! 見間違いかもしれないんですよね!」
フォローされて気を取り直すローリエは逆に問う。
「ウィスタリアちゃ、んは? どうして藤なんです?」
「苗字に『藤』が入ってるから。それだけ」
なるほど。プレイヤーの名前が由来なのだ。
「じゃ、じゃあジルシスさんは?」
「マスター?」
いつも一緒にいるし。
この前闘技場で、親族を思わせるような言葉を呟いていた。
だから知っているのではないかと、ローリエは思ったのだが。
「マスターは、すごいテキトーだけど?」
「テキトー?」
「うん。お寿司とお味噌汁が好きだから、って言ってたよ」
「へっ!?」
ウィスタリアは、だから、と念を押し。
「お『スシ』と、おみそ『シル』よ」
お寿司は座銀で『シースー』的なニュアンスである。
でもローリエは何のことかよくわからず。
『?』がいっぱい浮かぶだけであった。
そうして、古城に一つしかない時空結晶があるエントランス。
その先に向かうために、差し掛かると。
剣戟が聞こえてくる。
エントランスフロアに入ると解る。
ユナとゼナマが戦っていたのだ。
ジルシスも、観戦しているし、メイドは仕事を止めて待機している。
しかし、よく見れば戦っているというよりは、何度も打ちのめされているという風でもある。
勿論、打ちのめされているのはユナの方だ。
「なにやってるの?」
「PVP……?」
面白そうなことしてる。オレ様も混ざろうかな。
と、言いたげに頭を振って楽しそうなヒューベリオンが。
頭を振る度に、ざくざくNPCに牙がめり込んでその微々たるHPが減っていく。
ああ、死んじゃう。
ローリエが心配していると。
今にも斬りかかろうかという所で、ゼナマの手が止まる。
そうして、ローリエ達が居る方を見て。
「おお。戻ったか……? ん? そのNPCたちは? どこかへ行くのか?」
ローリエが真っ先に取り繕う。
「は、はい! ちょ、ちょっと、街までNPCを返却に!」
返却?
その言葉に首をかしぎつつ。
ゼナマは、そうか、と言った。
そして問う。
「……それは良いが。ローリエ殿、依頼の方はどうするのだ? 兵士の訓練をするのだろう?」
「あ……ッ」
そういえばそうだったと、ローリエは思い出す。
「良いよ、ウィスタリアだけでやるから。いつもそうしてるし」
どうしよう、と困るローリエに、ユナが武器を仕舞いながら。
「じゃあ、先輩の代わりに、私が行きます。たぶんその方が効率的ですよね?」
ローリエは少し考えて。
「そ、その方が良いかな?」
「はい、交代します、先輩」
ユナがローリエの抱えているNPCを奪い取って担ぐ。
それで、魔法によって軽減されていた重量が元に戻るが。
筋力値が高いので、ユナにとっては苦にもならないらしい。
「わ、解りました。お願いします、ユナ……ちゃん」
「承ります♪」
ちゃん呼びにご機嫌になりつつ、笑顔でユナは応じる。
そこに、踊り場から颯爽と飛び降りる吸血鬼の主が。
紙を一枚手にして、寄ってくる。
「そんなら、兵士の訓練はローリエとゼナマにお願いするわな」
はいこれ、依頼書やで、と。
ジルシスが正式な書類を、ローリエとゼナマに見せる。
システムのクエストの受諾を行い。
「解りました、やってみます。ジルシスさん」
「ワシもか? ジルシス公」
「いちおうな。あんたも強いみたいやし、見てるだけなのも面白ないやろ?」
「心得た。ヴァンパイアに東洋の剣術を仕込んでやろう」
楽しそうなゼナマに。
「ヴァンパイアいうか、ノスフェラトゥやけどね? あいつら能力は高いけど、頭は悪いさかい、あんまり期待はでけへんよ?」
そんな感じで。
ローリエとゼナマは訓練に。
ウィスタリア、ユナ、ヒューベリオンはひとまずジルシス領の城下街に向かうのだった。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
Festival in Crime -犯罪の祭典-
柿の種
SF
そのVRMMOは【犯罪者】ばかり――?
新作VRMMO「Festival in Crime」。
浮遊監獄都市を舞台に、【犯罪者】となったプレイヤー達がダンジョンに潜ったり、時にプレイヤー同士で争ったりしつつ、ゲームを楽しんでプレイしていく。
そんなお話。
普通にやってたらイベントNPCに勘違いされてるんだけど
Alice(旧名 蒼韻)
SF
これは世の中に フルダイブゲーム 別名 VRMMOが出回ってる時 新しく出たVRMMO Yuggdracil online というVRMMOに手を出した4人のお話
そしてそこで普通にプレイしてた4人が何故かNPCに勘違いされ 運営も想定してなかった独自のイベントを作り出したり色々やらかし 更に運営もそれに協力したりする物語
モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜
五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。
ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。
NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。
※軽い性表現があるため、R-15指定をしています
※最初の1〜3話は説明多くてクドいです
書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。
コンプ厨の俺が「終わらない神ゲー」を完クリします
天かす入りおうどん
SF
生粋の完クリ厨のゲーマーである天方了は次なる完全クリアを求めて神ゲーを探していた。すると、自身のsnsや数少ない友達からとあるゲームを勧められる。
その名は"ゲンテンオブムーンクエイク"通称"無限"。
巷で噂の神ゲーに出会った了に訪れる悲劇と出会いとは――――。
『999個……回収したぞ…これでもう…終わりだろ…!』
ゲーム内のアイテムを無限に回収し続ける事を目的とする俺にとって、カンストというのは重大な物事だ。
カンストに到達する最後の1個…999個目を回収し、遂に終わったと思ったが、試しにもう1つ回収してみると……
……取れちゃった……
まさかのカンストは999ではなく9999だったのだ。
衝撃の事実に1度俺の手は完全に止まった。
だがここで諦めないのが俺がコンプ厨たる所以。
これまでにかかった多くの時間に涙し、俺はまた回収を再開するのだった。
そんな俺が今後のゲーム人生を変えるとある人物と出会い――――。
ツインクラス・オンライン
秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。
「unknown」と呼ばれ伝説になった俺は、新作に配信機能が追加されたので配信を開始してみました 〜VRMMO底辺配信者の成り上がり〜
トス
SF
VRMMOグランデヘイミナムオンライン、通称『GHO』。
全世界で400万本以上売れた大人気オープンワールドゲーム。
とても難易度が高いが、その高い難易度がクセになると話題になった。
このゲームには「unknown」と呼ばれ、伝説になったプレイヤーがいる。
彼は名前を非公開にしてプレイしていたためそう呼ばれた。
ある日、新作『GHO2』が発売される。
新作となったGHOには新たな機能『配信機能』が追加された。
伝説のプレイヤーもまた配信機能を使用する一人だ。
前作と違うのは、名前を公開し『レットチャンネル』として活動するいわゆる底辺配信者だ。
もちろん、誰もこの人物が『unknown』だということは知らない。
だが、ゲームを攻略していく様は凄まじく、視聴者を楽しませる。
次第に視聴者は嫌でも気づいてしまう。
自分が観ているのは底辺配信者なんかじゃない。
伝説のプレイヤーなんだと――。
(なろう、カクヨム、アルファポリスで掲載しています)
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる