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第六話 『鮮血の古城にて』
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しおりを挟むフェルマータ、ローリエ、ウィスタリア。
さらにヒューベリオンは、『カイディスブルム城』に帰還を果たしていた。
そして今、城の玉座に座るジルシスに、クエストの成果を報告したところだ。
ちなみに、ユナは習い事があるということで、既にログアウトしている。
報告に関しては、ウィスタリアが代表してすべてを説明した。
フェルマータの魔法戦技によって、一時的に全滅させることに成功したこと。
それにより、アンデッドの討伐は、想定以上の成果だったこと。
追加でやってくるアンデッドも追撃して撃滅したため、予想では当分やってこないだろう、ということ。
それらを受けて、城主でありマスターである吸血鬼の少女は、
「ようやってくれたな、ほんにおおきに」と礼を述べる。
そんな吸血鬼の少女は、ローリエの眼からは、今までと少し雰囲気が違って見えた。
城の玉座に座る、ということは、『王』だという証。
王というものは、最上の階級であり。
将棋やチェスの、王の扱いを思えば、いかに重要な立ち位置にいるのかは明白だ。
だから。
何かを進言しようと。
「あ、あの……せ――」
ローリエは言葉を絞り出すのだが。
緊張のせいか、上手くいかない。
加えて、もともと口下手で、話し慣れていないせいもある。
たくさんの言葉が、喉につっかえるのだ。
だから、ローリエが何を言いたいのか。
内容を察するフェルマータが補足する形で代行する。
「――ジルシス様、時に、雪原のアンデッドですが、湧いて出ているというよりは、どこからかやってきているという感じがしました。おそらく、アンデッドの分布を考えますと、北東から来ているのではないかと思いますが……」
それに。
ジルシスは、まずフェルマータの言葉遣いに。
ほっほっほ、と笑う。
「……そんな堅苦しゅう話さんでも良い。このギルドは二人しかメンバァもおらんし。普通にお話して。な?」
「解りました。ジルシスさん。じゃあ改めて、雪原のアンデッドがただのモブではないかもしれない、というのは気づいていますか?」
質問の最中に、ウィスタリアが、フェルマータ達に丁寧に一礼するとどこかへ消えていく。
その様子を、ローリエとフェルマータは横目で見送って。
ジルシスが答える。
「うん、知っとるよ。ウイスも前にそんなこと言っとったし。あたしも、なんとはなしに思っとったんよ。もとから、あたしの領地には、ノスフェラトゥは生まれても、アンデッドは産まれんさかいね」
「そうですか……では、なぜ……?」
「さぁ。どこかからあふれて来とるんやろうか?」
そんな話の最中。
ウィスタリアがワゴンを押して戻ってきた。
ワゴンの上には、大き目の袋が幾つか乗っている。
「今、ウイスにクエスト分の報酬渡してもらうさかい」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは、こっちよ? こんな不気味な城のある領地からの依頼やなんて、だれも受けてくれへんで困っとったからね」
「こんな、雪ばっかりの場所だからでは? 立地も悪いし」
そんな言葉を挟みつつ。
ウィスタリアが、皆にクエスト報酬を受け渡す。
なかなかの高額だ。
「こんなに?」
フェルマータはその額に驚き。
「……」
その額がどれほどの価値なのか解らず。
貯金もいっぱいあるローリエは、袋の中を確認することもなく無反応で。
「ロリちゃん、ユナちゃん達の分預かっといてくれる?」
「あッ、はい。解りました」
ユナとヒューベリオンの分は、ローリエに任された。
ジルシスが再び礼を言う。
「今回は、ほんまに、ありがとうな。もし、そっちにも困ったことがあったら、あたしらも手貸すさかい、気軽に言うて」
ジルシスがその言葉を言いきった時。
同じタイミングで、フェルマータにピコン、とサウンドが鳴る。
この音は、フェルマータにしか聞こえず。
音の種類から【伝言】の魔法によるものだと解る。
同時に、パーティメンバーにマナがログインした通知が行き。
フェルマータは、マナからの伝言だとすぐに察した。
内容は――。
(ログアウトのついでに、アシュバフ主催の闘技イベントのこと少し調べてきたわ。
今回開催されるのは、『対魔物戦闘技』で、つまり魔物VSキャラクターで行われる闘技って意味ね。
これは1チームの合計SP160Kを限度にして、3チームを作って。
順番に魔物と戦うってルールよ。
この3チームのうち2チーム勝利すれば、決着という形ね。
つまり。
合計SP160Kということは。
例えば。76Kのフェルと69Kの私で145Kだから、あと15Kのキャラクターなら一緒に戦えるって意味よ。
これは騎乗ペットにも適応されてて、ユナが25K、ベリオンが20Kで合計45Kになるわ。
ただ、これには問題があって。
ロリのSPが75K以上と見積もっても、今のメンバーだと2チームしか作れないわ。
必ず3チーム必要みたいだから、戦力を分散させないといけないの。
こっちでも考えてみるけれど、もしフェルに何かいい案があったら、教えて頂戴。
あ、あと、スポンサーである『猫ミミ』の宣伝する物もまだ未定のままだから、こっちも何か考えないといけないわね)
フェルマータはこれを読んで、丁度いいと思った。
戦力が足りない、とマナは言うが。
たった今、目の前の吸血鬼はこう言った『困ったことがあれば手を貸すと』
今はこれに飛びつく時だ。
今回のアンデッド討伐で、ウィスタリアがかなりの戦力だという事は良く解っている。
ジルシスの言葉に乗り、懇願すれば。
もしかしたらギルドマスターであるジルシスは無理かもしれないが、ウィスタリアの力なら借りれるのではないかと。
そう思うフェルマータだから。
すぐに言う。
「すいません、ジルシスさん。今の、手を貸す、って話。今借りても構いませんか?」
そんな言葉に。
フェルマータ以外のだれもが驚いたのは言うまでもない。
いや。
ヒューベリオンも、寝そべってゴロゴロしていたので聞いていなかったけどね。
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