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第六話 『鮮血の古城にて』

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 ヒューベリオンにご飯をあげているユナ。
 その横で、ジルシスがウィスタリアに尋ねる。

「そうや。そういえば、ウイスにお願いしてた依頼、どうやった?」

 ウィスタリアは首を振って。
「反応なしです。どの冒険者の宿も、掲示板に貼られたまま残っていました」
 
 
「そうか」

 ジルシスは少し考えるそぶりを見せる。

「もうすこし報酬をうわのせする?」

「そうやね……それがええのかもしれんけんど……」

 暫くして、おもむろに。
 ジルシスは、「なぁ」とローリエに振る。

「は、はいッ?」

「あんた、結構強いやろ? 違う?」

「えっ?」

「さっき、ウイスのピストルの弾ハジいとったし、あたしの看破でも、あんたのすてぇたすは見えん。そんな子が、弱いはずないわな?」

「え……ッ」

 ちょっと詰問されているように感じるローリエと。

「先輩は強いと思いますけど……」

 横から肯定する、ユナ。
 そしてユナが聞く。

「先輩に何か用ですか?」

「その通りや。今ちょっと困ってることがあってな。中々依頼も受けてもらえんし、あんたらに頼めへんかなぁ、と思て」

「どんな依頼です?」

「ちょっとしたアンデッド退治なんやけど……。数は多いけど、あんたらなら問題ないと思うん」

 ふたりの様子を伺いながら、ジルシスはそう説明して。
 どう、頼めんやろか?
 と、ジルシスはローリエにお願いする。 
「ああ、もちろん、ウイスにも行ってもらうさかい」と付け加えて。

 ローリエは尋ねる。
「クエスト、ですか?」

「そう。報酬も仰山ぎょうさん出すで。なんせギルドからのお願いやし」

 ローリエは、ヒューベリオンとユナの経験にも良いのではないかと考え。

「どうですか、ユナさん。せっかくだからヒューベリオンさんと一緒にやってみませんか?」

「先輩がそういうなら、良いですよ?」

「ほな、決まりやね。ちょっと依頼書持ってくるさかい、待っててな。あ、その前に、あたしらをそっちのパーテーに入れとくれん?」

 ジルシスにそう言われるのだが。
 ローリエが居るパーティは、フェルマータが管理している。
 フェルマータに許可を貰わなければならない。

 だからローリエは少し待ってください、と言って、【風の囁きウィスパー】でフェルマータに連絡を取る。
 フレンドリスト上では、マナはログアウトしているが、フェルマータは接続中だ。

 暫くすると、フェルマータから反応があり、どういう理由かを尋ねる感じの返事が来た。
 アンデッド退治をクエストで頼まれたことを説明すると。
「アンデッド!? 私も行っていい?」
 という、すごい食いつきの返事が来て。
 とりあえず、助っ人メンバーの一時的な加入はOKということで。
 ついでに、ローリエにパーティ加入受諾権限が付与された。

 パーティの操作などしたことがないローリエは、慣れない所作でジルシスとウィスタリアをパーティに加入させた。
 
 すると。
 フェルマータからハイテンションな【風の囁きウィスパー】が来る。

「ちょっと!? 『カイディスブルム城』のジルシスって、もしかしてあの吸血種ギルドの『ブラッドフォート』のマスターじゃないわよね!?」

 フェルマータは、フレンドリストのローリエの居場所と、加入したキャラクターの名前からそう考えたのだろう。
 ローリエは、イケナイことをしてしまったのかと気が気ではなく。
「なにかダメでしたか?」と慌てて返すと。

「ううん。ダメとかじゃないわ。領主ギルドマスターっていうのは結構有名人なのよ。だから驚いたってだけ。特にジルシスって言ったら、『吸血鬼の庭』って呼ばれてるノスフェラトゥ地域を一人で治めてるっていわれてて……。あ、ごめん、とりあえず私も向かうわね」

 そうして通信は切れた。

 
 パーティの加入が終わって。
 
 ジルシスは依頼書を作りに行き。
 ウィスタリアは『拳銃』はサブアームだからメインを取ってくる、とどこかに行き。

 ローリエ、ユナ、ヒューベリオンはエントランスの時空結晶ゲートクリスタルで、フェルマータを待つ。


 やがて、それぞれが集結し。

「うわ、初めて来たけど趣あるわね」

 時空結晶ゲートクリスタルから出てきたフェルマータは、エントランスの内装をあちこち眺めながら、そんな感想を言った。
 まるで悪魔城というか、ラストダンジョンというか。
 そんな古めかしく薄暗いお城だから。
 
 その感想はさもありなん。
 ローリエたちもちょっと前に思ったことだ。

 
 その様子を見つめていたジルシスが、フェルマータに歩み寄る。
「はじめまして、あんたがパーテーのリーダーか?」
 
 城主である吸血鬼の少女に、フェルマータは恐縮し、敬語で受け応える。
 有名人タレントが目の前にいる。そういう心境で。
「はいッ、ドワーフのフェルマータです。よろしくお願いします」

「あたしはジルシス。ここの城主で『ブラッドフォート』のマスターしとります、よろしゅうね」

「こ、こちらこそ……?」
 訛った言葉に若干首を傾げつつも、フェルマータはクエストの内容を尋ねる。

「クエストですよね? アンデッド退治ですか?」

「そう。最近ようこの辺りを襲ってくるんよ。夜中やとあたしだけでなんとかなるけんど、日中はほれ、あたし吸血鬼やさかい、よう役に立たんやろ? そうすると、どんどんこっちに入って来よるわな? あたしの魔法とも相性が悪いし、領内に不法侵入されるのも適わんしで、往生しとるんよ」

「なるほど」

 日中に領内に押し寄せるアンデッドの駆逐。
 それがジルシスからのクエストというわけだ。

「どの程度ですか?」

「きりがない。やから、多ければ多いほどええ。報酬は成果分ださせて貰う。あと、アンデッドもそこそこ強いの混じってるさかい、SP稼ぎにもええと思うよ」

「解りました、頑張ります」

 フェルマータは快く承諾する。
 対アンデッドがそこそこ得意であり、アンデッド退治が割と好きなフェルマータだから。
 そのクエストに躊躇する理由は無かった。 
  
「おおきに。あたしは日中で一緒にいけん代わりに、うちのウイスに行ってもらうわな」

 メイド服姿の、キツネ耳獣人少女が前に出る。

「よろしく……お願いします」
  
 
 そうしてジルシスは、
「ほな、よろしゅうたのむわね」

 そう言って、お城の奥に引っ込んでいった。
 

「じゃ、案内するね。こっち」
 
 というわけで、ガイド役のウィスタリアに従う感じで。
 パーティの一団は、時空結晶ゲートクリスタルを使って城の外へ出る。
 吹雪に見舞われる極寒地方だ。
 そこを吹き荒れる風は、強烈で。
 ローリエが【無風領域カームダウナー】を使って全員を強風から防御しつつ。

 アンデッドが襲ってくるという一帯にやってきた。

 そして。
 全員が武器を取る。
 
 まだ魔法使いモードのローリエは日傘を。
 フェルマータは大盾と戦槌を。 
 ユナはちょっと仲良くなったヒューベリオンに騎乗してハルバードを構え。
 ウィスタリアは、小盾と魔工短機杖マシジック・オートワンドを。
  
 ローリエとフェルマータが基本強化を全員に施し。

 駆除作業を開始する。

 
 いやその前に。
 フェルマータは、子狐が手にする見慣れない武器が気にかかる。

「あの、ウィスタリアさんだっけ、それ何……?」 
 
魔工短機杖マシジック・オートワンド、です」

 だから……。

「なに、それ……?」

魔工短杖マシジック・ワンドの改良型」


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