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第四話 『暗闇の底で』
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しおりを挟む壁にあいた、亀裂のような隙間をまたぎ。
ローリエは、別のフロアと思われる空間に、降り立つ。
すると、唐突に。サウンドエフェクトが鳴って。
――フレンド:ユナがログインしました――
そんなメッセージが流れた。
フレンドリストを確認すると。
今まで消息不明だったユナの表示が、『石蛇王遺跡――至宝の間――』と書き換えられている。
そこはローリエが今、足を踏み入れた場所に他ならない。
そしてユナは、遺跡の床が崩落した時に、通路の先に残っていた筈だ。
なのになぜ?
「ユナさん? どうしてここに……?」
ローリエが居る場所は、ダンジョンの中でもかなり奥地になる。
なんなら、ラスボスが居てもおかしくないフロアだ。
その証拠に。
フロアをしばらく進んだ先に、巨大な影が視界に入る。
まるでスポットライトのように、天井にあいた穴から月明かりが差し込む。
そんな幻想的なビジュアルに、ローリエは近づいていく。
聳える巨大な影は、二つ。
争いの末に、地表を突き破ってこの地下にもつれ込み。
そこで、相打った竜とカトブレパスの亡骸だ。
そして、フロアの中には。
動かない気配がひとつ。
動く気配がひとつ。
ローリエの探知はそれらを感じ取り。
その一つに歩み寄る。
ユナが、ヒトゴロシの気配を見送って。
暫くして。
ユナが、悔しさと絶望を噛み締めていた時。
居ない。
と言われていた筈の。
ローリエが接続した、という旨のSEが鳴って。
先輩が同じフロアにやってきたことを知る。
居ない筈の人がやってきたことが。
ユナは嬉しくて。
でも、ユナはもう動けなくて。
駆け寄ることは適わない。
ユナの、倒れたままのその視界はただの闇で。
音も、香りも何も伝わらずに。
キャラクターとして、というよりは。
プレイヤーとして。
できることは、声を上げることだけだった。
「先輩……!? そこに……居るんですか……?」
「ほんとに、ユナさん?」
ローリエは、見知った姿が倒れていることに驚きを覚えた。
インスタントダンジョンに入るには、崩落した場所から降りなければならず。
落ちたら決して助からないし。
初心者のユナに、降りる手段なんてありはしないのに。
それなのに。
この魔物がひしめくダンジョンを抜けて。
至宝の間に居ることが、どれほどの奇跡なのか。
信じられなかった。
いったいどうやってここにたどり着いたのか。
でも、その姿はユナでしかなく。
フレンドリストの表示を見ても、疑いようがない事実だ。
「ほんとに、ユナさんだ……」
「先輩……?」
けれど、ユナのHPは真黒で、0になっている。
死んでいるのだ。
パーティが全滅した時にも、コミュニケーションが取れるように。
声だけは発せられるけれど、一切の身動きも視界も得られていない状態だ。
ここのフロアボスにでもやられたのか?
でも、今のところボスの姿は見えない。
いや。
今はそんなことは良いだろう、と。
ローリエは慌てて行動に移そうとする。
蘇生アイテムを使用して、ユナを起こさなければ。
そう思うのだが、ずっとソロしかしてこなかったローリエは、蘇生アイテムの用意が無い。
エリクシルで復活するだろうか?
試したことはないが、やってみようか。
小瓶を取り出そうとした時。
「先輩、私のカバンに、アウェイクポーションがあります。使ってもらえませんか」
ユナがそう言った。
本当は、ローリエに使うつもりだったポーションだ。
ローリエは、その方が確実だと思い。
ユナのカバンをまさぐって、ポーションを取り出すと。
倒れたままのユナに振りかけた。
程なくして。
ユナの感覚が、キャラクターに再接続される。
仄かな花の香りがして。
眼を開けば。
傍には、膝を折りたたみ、座った状態のローリエが見えた。
その腰を超える若草色の髪が、波のように、床に広がっていて。
琥珀色の幼い瞳が、心配そうにユナの顔を見つめている。
「ローリエ先輩……」
ユナは、本当は少しの間だったのに。
ずっと何年も探していた人物にやっと会えたような、錯覚がして。
「……やっと会えました。探しましたよ」
「ご、めんね、ユナさん。私、何か間違えてた……? なんか、怖い思いさせた……?」
ローリエは、申し訳ない気持ちでいっぱいで。
何だかわからないけれど、ユナに苦労をかけただろうことは、なんとなく解った。
こんな場所で、倒れていることが、そう思わせた。
「大丈夫です。私が、ただ、弱かっただけですから……」
どこか悔しそうに言う。その声。
でもユナはすぐに、ローリエの心配をする。
「先輩は大丈夫でしたか?」
「う、うん。なんとか……」
1回死にかけはしたけど。元々防御よりの構成なので、何とか生きていた。
ふと。
そして、ローリエは見つける。
ユナの傍らに、落ちている投擲用の短剣を。
「ユナさんを、殺したのはやっぱりあのPK?」
「あ、はい……そうです。すいません、私が弱いばかりに」
弱いのは仕方がない。
始めたばっかりなのだから。
その始めたばかりの初心者を殺すなんて。
確か、PK対策はされていたと思うのに。
どうやったのかは解らないけど。
「……じゃあ、今あっちに居るヤツが、そうなんだね……!」
ローリエは立ち上がる。
そして。
「ごめん、ユナさん、私ちょっと行ってくる――」
「え?」
ローリエは、駆けた。
PKが佇む、そのさらなる奥のフロアへ。
至宝の卵が、鎮座する先へ。
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