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第三話 『気づかぬ原動』

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 山岳での戦いの後。
 そして。
 ローリエが、ログアウトした後の『ミミズクと猫・亭』


 マナとフェルマータは、まだ少し残って話を始めた。

 真っ黒なローブと、ジェスターキャップのような魔法帽子の魔法使い――。
 マナの席には、何もなく。
 
 対して。

 甲冑を着こみ、ロングマント姿のいかにも騎士然とした、小柄――。
 うさみみドワーフのフェルマータの席には、マスターに入れてもらったミルクティーが湯気を燻らせている。

 その白いカップに入った液体を指さし、常時ジト目の魔法使いは、胡乱げに問いかける。

「ほんとに味するの、それ」

「え? するよ? 普通に。ここの味は、その辺の食べ物屋さんより、凄いんだから」

 一口飲む?
 と進めるフェルマータに。
 手で、いらねえ、と合図するマナ。


 そう?美味しいのに、と言って。
 フェルマータが、熱々のミルクティーをふーふーしていると。
 マナが口を開く。

「それにしても、良く見つけてきたわね、あんな子」

「ロリちゃんの事?」

「ええ」

「うん、何かこの前の夕立の時にさ、たまたま駆け込んだ軒下でね。一緒に雨宿りしてたんだ。そこでね……」

「ふ~ん。カナデには似合わなさすぎるドラマチックね」

「うるさぁい。中のヒトのことは良いでしょ、今は!」

「いつも、私の事、先生っていうからよ」
 



「それは置いといて。――で、マナ先生は、どう思う? ローリエちゃんの事」


 マナは少し思案する。
 少し前の、ローリエというキャラクタ―の戦いぶりを、思い出すかのように。


「そうね……。おそらく、構成は、ボス向けとは言い難い感じかしら。どちらかというと、殲滅戦向けね。あと、プレイヤーが、パーティ慣れしていないように感じたわ」

「うんうん、そうだね。私もおおむね同感。今後はなるべく一緒に狩りに出て、慣れていってもらいましょ」

「それが良いわね。――ああ、そういえば、ロリの総SP幾つ?」

「さぁ?」

「さぁ、って。あなた、看破できるアイテム持っていたじゃない」

「『赤のメガネ』でしょ? このまえ試したけど、看破阻害の装備着てるみたいで、何も見えなかったのよ」

「看破阻害? ……PK対策用のOPオプションね」

 看破阻害は、相手の強さが解らなくなる事で、PKが警戒して襲いづらくなるという効果が確認されている。
 それで襲ってくる輩は、相当高SPの自信家野郎か、慢心イキリPKくらいだ。
 
「看破阻害って、珍しいわよね?」

「まぁ、ね。モブ用とは言い難い。――ということは、ロリはPK対策そっちがメインの構成かしら?」

「かなぁ? 今日、凄かったもんね。『いきなり、先生に蹴りかましたww!』って思ったら、まさか先生がPKにからまれそうになってたなんて。ロリちゃん、良く気付いたわ」

「うん、今日は助かった。――ところで、あのときフェル笑ってたでしょ」

「あ、気づいてた? そうそう。まさかの裏切り、と思ったら、PKがアホ面で吹き飛んで行ったのが見えて、思わず中の人が笑っちゃってて、助けに入るのが遅れちゃった」

 フェルマータは口に手を当てて意地悪くくすくすと笑う。

「だろうと思ったわ。何にせよ、フェルは、今度から狩場では念のためにクレボヤ使っておいて」
 クレボヤとは、【視覚強化/千里眼付与クレヤボヤンス・オブ・ライト】という光属性の強化魔法で、より遠くが見えるようになったり、視覚的に隠蔽されている物、NPC、プレイヤーを見つけやすくなるという効果がある。
 
「言われなくてもそうするつもりよ。余ってるSPで【視界強化サイト】のパッシブを上げるかも、検討するわ」
 

 そして、フェルマータは続けて先生に聞く。 

「で、ロリちゃんは、合格?」
「当然でしょ。あの感じだと少なくとも60Kはあるはずよ。構成的にも、『紫系』の大精霊サートゥルニーへのアドバンテージもあることだし」

「よかった。ダメって言われたらどうしようかと思ったわ。……ロリちゃんがログアウトする時に、『またね』って言っちゃったし」

「言わないわよ」
 
「でも、もう一人くらい欲しいわね、ボス向きの子が」

「そうね……」

 マナは、以前大精霊にフェルマータと挑んだ時のことを考える。
 正直、二人では太刀打ちできなかった。
 防御タイプのフェルマータは生き残れるのだが。
 耐えれても、倒せないのでは意味が無い。
 今、必要なのは、火力なのだ。
 
 そのことを考え、マナは言う。 

「今のままだと、ボスの討伐に必要な単体火力がちょっと足りないわ。だからフェルは引き続き、メンバー探しをお願い」
「りょーかい。先生は、今後のプラン考えておいてよ。新しい、狩場とかね」

「解ったわ。でも当面は、SP稼ぎついでに、ロリとの連携を考えましょ」


 そんな感じで。
 フェルマータとマナは、1時間ほど雑談して、ログアウトしていたのだった。
 



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