上 下
23 / 119
第二話 『初めてのパーティ』

23

しおりを挟む

 「ロリ、平気!?」

 崖にぶら下がったままのローリエに、上から顔をのぞかせるマナとフェルマータ。
 
 「あ、はい……大丈夫です」

 ローリエは、再び【超高度跳躍ハイジャンプアシスト】を使って、崖を駆け上がる。
 合流すると、フェルマータは満面の笑みで。
 マナは胸をなでおろし、安堵の息を吐いた。 
 それぞれが、ローリエのことを迎えてくれる。
 
 「よかったわ。あのまま落ちたんじゃないかと……」
 
 そう言うフェルマータに対し。
 あはは、とローリエは乾いた笑いで。
 「すいません、心配をおかけして。風の魔法で何とか踏みとどまれてよかったです」
 流れるように出てくるごまかしの言葉。その自責に苛まれながら。
 
 マナは言う。

 「それにしても、良く、PKに気づいたわね。助かったわ」
 
 「アッ、いえ。風のパッシブスキルにそう言うのが解るものがありますから」
 それは嘘じゃないホントです。

 「ああ、ウルトラサウンドだっけ? そういえば、そんなのもあったわね」
 さすが、マナは魔法使いだけあって察しが良い。

 「そう。それです!」


 フェルマータも言う。
 「そうね。崖に叩き落とすとか、機転も効いてたしね」
 そう言いながらフェルマータが。
 まだ傷を負ったズタボロテクスチャーな状態で、HPも半分以上減っているローリエに。
 回復の魔法をかけてくれる。 

 しかしフェルマータが魔法を準備する間に、再生が1回発動してしまった。
 でも、そのことは、ローリエが思うほど、気にされなかった。
 そういう装備を付けているのだと、思われたのだろう。

 心配し過ぎだったのかもしれない。


 それに本当は、必死で保身に走っただけだったのに。
 マナを助けたことになって感謝されて。
 崖に飛ばしたのは、機転が利いたことにされていた。


 まだ、ボロは出て無さそうだと。
 ローリエは、少し安心する。

 

 やがて回復魔法が発動して、フェルマータの治療が終わり、

 「これでHPは全快ね。でも、さっきは瀕死になってたと思ったけど、もう半分くらいになってたわ。自動回復積んでるのね。ロリちゃんは頑丈ね、そこのモヤシと違って」

 ローリエは、ごまかすようにまた笑って。
「あはは、意外と、硬いですから、私!」
 
 そしてローリエは思う。
(良かった、看破阻害の装備で。装備の効果でHP増やしてるとか、特殊効果の装飾品着けてるとか、実は意外と防御力あるんですとか。ごまかしが効く。――あんまり褒められたことではないけど)

 そこでフェルマータはマナもやしを見る。
 

「――たぶんさっきのPKに絡まれてたら即死だったんじゃない?」
 
 ね?先生。とフェルマータは意地悪くウィンクをする。

 マナは、「うるさいわね」と。
 もともとジト目系の顔立ちなのに、それをさらに深めて。
 フェルマータを睨んだ。

「でも事実でしょ? ロリちゃんには感謝しなさい」
「解ってるわよ。感謝してるわ」
「じゃ、この後も頑張ってよね。まだ、あと23個のこってるんだから」

 そう、クエストがまだ残っているのだ。



 そうして、その後、狩に戻り。
 3人でオーグジェリーの核を30個集め終わった。 
 

 その間に、マナは種族限界が1アップし、総合SPが67Kになった。
 メンバーの種族限界の上昇は、パーティメンバーに通知が行く。

 だから、フェルマータとローリエは、おめでとう、といって祝福した。

 ちなみに、ローリエは1ポイントもSPが増えていない。
 敵性から大きく離れているからだ。
 ここの狩場で、ローリエが1匹辺りから得られているSPは、10万分の1ポイントくらい、もしくはもっと少ないだろう。
 つまり、0.00001SPくらいということだ。
 それで1ポイントに届かせることは、難しい。

 

 ゲーム内の空が夕日に染まり。
 現実の世界でも22時を回っている。

「そろそろ戻りましょうか」
「そうね。ロリの活躍は十分見れたし。中の人がどんな人なのかもちょっと見えたわ」

 うっ。
 とローリエは咽ぶ。

「うん。いきなりサイクロンを撃っちゃうのとかね」

 うぐ。
 とローリエは咽ぶ。

「あの後ろ回し蹴りキックも、なかなかすごかったわ」
 
 話が。
 自己嫌悪や風魔法使いのイメージを、つついてくるので。
 ローリエはたまらずに、話題を逸らそうと

「そ、そういえば!」 

「?」

「――どうして、マナさんは、先生なんですか?」

「え? あぁ」
「フェル、それは言ってはダメよ」
「え? なんで?」
「ダメってば!」

 しかし、フェルマータはスクロールを1枚取り出した。
 スクロールと言っても、このゲームではカードのような形状だが。

 それは『|風の囁き《ウィスパー』の魔法で。

 フェルマータはこっそりとローリエに囁く。
「ロリちゃん、それはね……マナの中のヒトの名字が、『先生せんせいと書いて先生せんじょう』だからよ」


 それに。
 納得と驚きの混じる表情になるローリエ。
 それで、フェルマータが告げ口したことがマナにバレる。


「あぁ、バカ! バカ!」

 え?
 え?
 え?

 ローリエは、それであることに気づいた。
 フェルマータが、マナの中のヒトの名前を知っているということは――。

 つまり。 

 ローリエは二人のノリに、付き合いの深さを察した。

「お二人ってもしかして……」

「うん、リア友なの。私とマナは」


 がーん……。

 ショックだった。
 ローリエはまた、仲間外れを感じてしまう。
 しかもリア友。

 ゲームでのフレンドとは格が違う。
 ――本物の友達だ。


 「あう……」

 「どうしたのロリちゃん?」

 それから、街に戻ったり、収穫物を生産したりしたのだが。
 ローリエの中の人は、全然記憶に残らなかった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる
SF
全世界で話題となっているVRMMOのソフトを運良く入手した高校生の上野 樹。 彼は今までの経験を生かし、トッププレイヤーを目指すのだが…このVRMMOは世界の危機に直結していた。 各国政府の要請により神々との戦いに奮闘する彼やプレイヤー達。 そして彼の人生はVRMMOで大きく変わっていく事になる。 ------ 是非お気に入りに登録をお願いします! 小説家になろう様でも投稿中。

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 俺は社畜だ。  ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。  諸々の情報を整理するに、ここはどうやら異世界のようである。  『ジョブ設定』や『ミッション』という概念があるあたり、俺がかつてやり込んだ『ソード&マジック・クロニクル』というVRMMOに酷似したシステムを持つ異世界のようだ。  俺に初期スキルとして与えられた『ジョブ設定』は、相当に便利そうだ。  このスキルを使えば可愛い女の子たちを強化することができる。  俺だけの最強ハーレムパーティを築くことも夢ではない。  え?  ああ、『ミッション』の件?  何か『30年後の世界滅亡を回避せよ』とか書いてあるな。  まだまだ先のことだし、実感が湧かない。  ハーレム作戦のついでに、ほどほどに取り組んでいくよ。  ……むっ!?  あれは……。  馬車がゴブリンの群れに追われている。  さっそく助けてやることにしよう。  美少女が乗っている気配も感じるしな!  俺を止めようとしてもムダだぜ?  最強ハーレムを築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!  ※主人公陣営に死者や離反者は出ません。  ※主人公の精神的挫折はありません。

【完結】今更告白されても困ります!

夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。 いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。 しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。 婚約を白紙に戻したいと申し出る。 少女は「わかりました」と受け入れた。 しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。 そんな中で彼女は願う。 ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・ その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。 しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。 「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」

Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei
SF
最新のVRゲームを手に入れた彼は早速プレイを開始した。

処理中です...