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第二話 『初めてのパーティ』
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しおりを挟む「くそっ、見えていたのか、貴様! 隠密特化のこの俺がッ!」
PKは、そのような戯言をほざきながら、器用に体を捻って受け身を取り。
地面に、ズザァ……と、手足をへばりつけて踏みとどまった。
さらに、その反動、屈した膝の力を利用して、ローリエに躍りかかる。
全身黒ずくめの分かりやすいコーディネートの暗殺者。
その手には、短剣が握られている。
その凶器を、ものすごい攻撃速度で、ローリエに叩きつけてきた。
蹴りを放った時から。
否。
近づいてきているPKの存在に気づいた時から。
ローリエは、少しマジモードになっていた。
だから咄嗟に、危うく『自分の剣』を掌に、作り出しかけた。
しかし、寸出で止める。
その隙に、一撃、刃を身に浴びた。
ダメージエフェクトと、血潮の演出と共に、ローリエのHPが削られる。
指輪の効果で、HPが半減している上に、VITも1(種族補正込みでも5)しかないので、割と馬鹿にならないダメージ量だ。
さらに、暗殺者は――。
「よくもこの俺を暴いたな! しねしねしねしねしねしねぇ!」
短剣スキルを使って、無数の斬撃を一瞬で繰り出す。
その数は、全部で12斬。そのすべてを浴びたら、紙装甲のローリエは死ぬ。
だからそれを――。
『風の羽根杖』をナイフのように扱って、いなし、パリィングし。
高DEXを活かした、素早い杖捌きで3斬をさばき。
補正こみ135というトップクラスの俊敏性を活かして3斬を回避し。
半分ののこり6斬を、身体で受けた。
「う、くっ――ッ!」
プレイヤーに、きわめて緩和された痛みが、伝達されていく。
怪しまれたくないから。
ローリエは、あえて必要最低限だけを躱した。
それでローリエは瀕死に陥る。
これ以上は受けられない。
「はははははっ!」
「ロ、ロリちゃん!?」
「ロリ!?」
調子に乗ったPKの馬鹿笑いと、フェルマータとマナの心配する声がする。
横目で見る。
フェルマータが、駆けてくる。
マナが魔法を紡ぎ出す。
ふたりは、PKの相手をしようとしてくれている。
うれしい。
本当に仲間のようで。
でも、まずい、とローリエは思う。
今、ゲーム内は日中だ。
木属性の光合成がHPを再生してしまう。
そうすれば、ウソがばれるかもしれない。
やっと入れたパーティだ。
ローリエは、フェルマータとマナに嫌われたら終わりだ。
風の魔法使いであり続けなければいけない。
一度始めたうそを、つきとおさないといけない。
そう考えて。
「まず一人目ェ!」
一撃を振り下ろす暗殺者。
それを――。
短剣もろとも、垂直に、強烈に蹴り上げる。
「なにぃ!?」
ローリエの、白いサイハイソックスに包まれためしべのような足。その爪先が。
暗殺者の顎にめり込み、身体を浮き上がらせた。
キックの反動を、身体を回転させて殺しつつ。
掌底のように、間髪入れずに叩き込む。
「『大衝撃波』!!」
「ぐへ、はッ」
蹴り上げから、1秒もおかずに放たれた、ノックバックに特化した風の魔法、その衝撃波が、暗殺者を物凄い生き良いで吹き飛ばす。
ここは山岳地帯。
その先は崖だ。
それを追いかける。
この場には居られない。
フェルマータが近づいてきている。
マナの魔法が届く。
【超高度跳躍】
足裏から発する衝撃波の反動で、跳躍力を、瞬間的に超増強する風の魔法。
そのベクトルを、真横に転じれば、それは超加速スキルとなる。
「ロ、ロリちゃ……!?」
間近に来ていたフェルマータが、一瞬で遠ざかる。
今、吹き飛んでいる最中の暗殺者の身体に。
まるで突風のように、ローリエは追いついた。
そのまま膝蹴りで突き飛ばす――。
さすれば。
そこはもう空中で。
断崖絶壁の突破先。
視界には、真下のはるか遠くに、流れる河が見て取れる。
ローリエの身体が。
落とされた、暗殺者と。
ふたりして、真っ逆さまに、落ちて行く。
高い崖が、背後を凄い速さ縦スクロールしていく。
そして。
単身で遠ざかったことで、パーティ行動の圏外扱いになり、メンバーのステータスが黒くなり。
状態の把握が出来なくなる。
その瞬間、ローリエの自動回復が1回分作動した。
HPとMPが10%、スタミナが5%回復する。
もう今は、この崖がフェルマータ達の視界を遮っただろう。
あの二人が、この距離、この遮蔽での視認スキルを持っていないことを、節に祈りながら。
落ちながら。
ローリエは、武器を紡ぐ。
「『大自然の弓』、『木製矢製造』、『猛毒付与』」
その手に、短弓を。
矢に、神経、血液、腐食の毒をこめて――。
「貴様ァ!」
受け身を取り、悪あがきにナイフを投げてくる暗殺者の
その短剣を、ローリエは容易く躱し。
少し距離の開いた、直下を落ちる身体に向けて。
矢を、撃ち放つ。
『弓の武芸』と『木の魔法』の合わせ技、
「魔法戦技――『死毒の棘』!!」
「ぐはぁ!」
空中で放たれた毒矢が、暗殺者の身体に突き刺さり、
「覚えてろよ、貴様ァァァァァ!」
捨て台詞を残して、そのまま奈落へと落ちて行った。
まだ暗殺者は死んではいない。
けど、かなりの高所からの落下ダメージだ。
何か対策していないのなら、絶対に死ぬ。
そして、PKを仕掛けたもの、そして、PKに応じたもの。
この双方は、絶命した時、または、HPが1/4になった瞬間に、ペナルティドロップの判定が発生する。
この確率は、絶命した時の方が圧倒的に高く、PKを仕掛けたほうが2倍高い。
その結果か。
落ちて行く暗殺者の落し物が、ひらひらと、キラキラと、宙を舞って。
ローリエはそれを掴み取る。
筋力を大きく補正してくれるアクセサリーだった。
そして、ローリエは――。
そもそも落下ダメージは無効で、空中機動も可能なので。
弓を解除しつつ、良い感じに減速してから。
適当に崖に生えている枝を掴んで、ぶら下がる。
「はぁ」
一息。
そして思う。
ごまかせただろうか、と。
……ローリエは、そんな心配をまずするのだが。
すぐに、ローリエは首を振って。
恥ずかしい自分の性格に自己嫌悪する。
だって。
この行動の全ては保身のためなのだ。
マナを守るため。
PKという悪を懲らしめるため。
そういう、真っ当な理由じゃない。
そういうとこだぞ、私。
だから、嫌われるのだ。
崖の上からフェルマータが顔をのぞかせるまで。
その自己嫌悪は続くのだった。
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