上 下
22 / 119
第二話 『初めてのパーティ』

22

しおりを挟む
 

「くそっ、見えていたのか、貴様! 隠密特化のこの俺がッ!」

 
 PKは、そのような戯言をほざきながら、器用に体を捻って受け身を取り。
 地面に、ズザァ……と、手足をへばりつけて踏みとどまった。


 さらに、その反動、屈した膝の力を利用して、ローリエに躍りかかる。

 
 全身黒ずくめの分かりやすいコーディネートの暗殺者。
 その手には、短剣が握られている。

 その凶器を、ものすごい攻撃速度で、ローリエに叩きつけてきた。
 
 蹴りを放った時から。

 否。
 
 近づいてきているPKの存在に気づいた時から。
 
 ローリエは、少しマジモードになっていた。
 だから咄嗟に、危うく『自分の剣』を掌に、作り出しかけた。

 しかし、寸出で止める。

 その隙に、一撃、刃を身に浴びた。
 ダメージエフェクトと、血潮の演出と共に、ローリエのHPが削られる。
 指輪の効果で、HPが半減している上に、VITも1(種族補正込みでも5)しかないので、割と馬鹿にならないダメージ量だ。

 さらに、暗殺者は――。

 「よくもこの俺を暴いたな! しねしねしねしねしねしねぇ!」

 短剣スキルを使って、無数の斬撃を一瞬で繰り出す。
 その数は、全部で12斬。そのすべてを浴びたら、紙装甲のローリエは死ぬ。

 だからそれを――。

 『風の羽根杖フェザーワンド』をナイフのように扱って、いなし、パリィングし。
 高DEXを活かした、素早い杖捌きで3をさばき。
 補正こみ135というトップクラスの俊敏性AGIを活かして3を回避し。
 半分ののこり6を、身体で受けた。

「う、くっ――ッ!」

 プレイヤーに、きわめて緩和された痛みが、伝達されていく。

 怪しまれたくないから。
 ローリエは、あえて必要最低限だけを躱した。

 それでローリエは瀕死に陥る。
 これ以上は受けられない。
 
 「はははははっ!」

 「ロ、ロリちゃん!?」
 「ロリ!?」

 調子に乗ったPKの馬鹿笑いと、フェルマータとマナの心配する声がする。

 横目で見る。


 フェルマータが、駆けてくる。
 マナが魔法を紡ぎ出す。

 ふたりは、PKの相手をしようとしてくれている。

 うれしい。
 本当に仲間のようで。 
  
 でも、まずい、とローリエは思う。
 今、ゲーム内は日中だ。
 木属性の光合成フォトシンセシスがHPを再生してしまう。
 そうすれば、ウソがばれるかもしれない。

 やっと入れたパーティだ。
 ローリエは、フェルマータとマナに嫌われたら終わりだ。


 風の魔法使いであり続けなければいけない。
 一度始めたうそを、つきとおさないといけない。
 そう考えて。

 「まず一人目ェ!」

 一撃トドメを振り下ろす暗殺者。

 それを――。
 短剣もろとも、垂直に、強烈に蹴り上げる。

 「なにぃ!?」

 ローリエの、白いサイハイソックスに包まれためしべのような足。その爪先が。
 暗殺者の顎にめり込み、身体を浮き上がらせた。

 キックの反動を、身体を回転させて殺しつつ。
 掌底のように、間髪入れずに叩き込む。

 「『大衝撃波ショッキングブラスト』!!」
 
 「ぐへ、はッ」

 蹴り上げから、1秒もおかずに放たれた、ノックバックに特化した風の魔法、その衝撃波が、暗殺者を物凄い生き良いで吹き飛ばす。

 ここは山岳地帯。
 その先は崖だ。
   
 それを追いかける。
 この場には居られない。
 フェルマータが近づいてきている。
 マナの魔法が届く。

 【超高度跳躍ハイジャンプアシスト

 足裏から発する衝撃波の反動で、跳躍力を、瞬間的に超増強する風の魔法。
 そのベクトルを、真横に転じれば、それは超加速スキルとなる。

「ロ、ロリちゃ……!?」

 間近に来ていたフェルマータが、一瞬で遠ざかる。
 今、吹き飛んでいる最中の暗殺者の身体に。
 まるで突風のように、ローリエは追いついた。

 そのまま膝蹴りニータックルで突き飛ばす――。

 さすれば。 

 そこはもう空中で。
 断崖絶壁の突破先。

 視界には、真下のはるか遠くに、流れる河が見て取れる。


 ローリエの身体が。
 落とされた、暗殺者と。
 ふたりして、真っ逆さまに、落ちて行く。

 高い崖が、背後を凄い速さ縦スクロールしていく。

 そして。
 単身で遠ざかったことで、パーティ行動の圏外扱いになり、メンバーのステータスが黒くなり。
 状態の把握が出来なくなる。

 その瞬間、ローリエの自動回復が1回分作動した。
 HPとMPが10%、スタミナが5%回復する。 

 もう今は、この崖がフェルマータ達の視界を遮っただろう。
 あの二人が、この距離、この遮蔽での視認スキルを持っていないことを、節に祈りながら。


 落ちながら。
 ローリエは、武器を紡ぐ。
 
 「『大自然の弓フォレストアーク』、『木製矢製造クリエイトアローズ』、『猛毒付与ポイゾナスウェポン』」


  

 その手に、短弓ショートボウを。
 矢に、神経、血液、腐食の毒をこめて――。

 
「貴様ァ!」

 受け身を取り、悪あがきにナイフを投げてくる暗殺者の

 その短剣を、ローリエは容易く躱し。

 少し距離の開いた、直下を落ちる身体に向けて。
 


 矢を、撃ち放つ。

 『弓の武芸アーツ』と『木の魔法エレメンツ』の合わせ技、

 
魔法戦技コーディネート――『死毒の棘アキューリアス』!!」


「ぐはぁ!」

 空中で放たれた毒矢が、暗殺者の身体に突き刺さり、


「覚えてろよ、貴様ァァァァァ!」

 捨て台詞を残して、そのまま奈落へと落ちて行った。
 
 
 まだ暗殺者は死んではいない。
 けど、かなりの高所からの落下ダメージだ。
 何か対策していないのなら、絶対に死ぬ。

 そして、PKを仕掛けたもの、そして、PKに応じたもの。
 この双方は、絶命した時、または、HPが1/4になった瞬間に、ペナルティドロップの判定が発生する。
 この確率は、絶命した時の方が圧倒的に高く、PKを仕掛けたほうが2倍高い。


 その結果か。

 落ちて行く暗殺者の落し物が、ひらひらと、キラキラと、宙を舞って。


 ローリエはそれを掴み取る。


 筋力を大きく補正してくれるアクセサリーだった。



 そして、ローリエは――。

 
 そもそも落下ダメージは無効で、空中機動も可能なので。 
 
 弓を解除しつつ、良い感じに減速してから。

 適当に崖に生えている枝を掴んで、ぶら下がる。



「はぁ」
 
 一息。

 そして思う。
 
 ごまかせただろうか、と。
 ……ローリエは、そんな心配をまずするのだが。
 

 すぐに、ローリエは首を振って。
 恥ずかしい自分の性格に自己嫌悪する。



 だって。
 この行動の全ては保身のためなのだ。 
 マナを守るため。
 PKという悪を懲らしめるため。

 そういう、真っ当な理由じゃない。


 そういうとこだぞ、私。
 だから、嫌われるのだ。


 崖の上からフェルマータが顔をのぞかせるまで。
 その自己嫌悪は続くのだった。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種
SF
そのVRMMOは【犯罪者】ばかり――? 新作VRMMO「Festival in Crime」。 浮遊監獄都市を舞台に、【犯罪者】となったプレイヤー達がダンジョンに潜ったり、時にプレイヤー同士で争ったりしつつ、ゲームを楽しんでプレイしていく。 そんなお話。

普通にやってたらイベントNPCに勘違いされてるんだけど

Alice(旧名 蒼韻)
SF
これは世の中に フルダイブゲーム 別名 VRMMOが出回ってる時 新しく出たVRMMO Yuggdracil online というVRMMOに手を出した4人のお話 そしてそこで普通にプレイしてた4人が何故かNPCに勘違いされ 運営も想定してなかった独自のイベントを作り出したり色々やらかし 更に運営もそれに協力したりする物語

モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜

五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。 ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。 NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。 ※軽い性表現があるため、R-15指定をしています ※最初の1〜3話は説明多くてクドいです 書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。

コンプ厨の俺が「終わらない神ゲー」を完クリします

天かす入りおうどん
SF
生粋の完クリ厨のゲーマーである天方了は次なる完全クリアを求めて神ゲーを探していた。すると、自身のsnsや数少ない友達からとあるゲームを勧められる。 その名は"ゲンテンオブムーンクエイク"通称"無限"。 巷で噂の神ゲーに出会った了に訪れる悲劇と出会いとは――――。 『999個……回収したぞ…これでもう…終わりだろ…!』 ゲーム内のアイテムを無限に回収し続ける事を目的とする俺にとって、カンストというのは重大な物事だ。 カンストに到達する最後の1個…999個目を回収し、遂に終わったと思ったが、試しにもう1つ回収してみると…… ……取れちゃった…… まさかのカンストは999ではなく9999だったのだ。 衝撃の事実に1度俺の手は完全に止まった。 だがここで諦めないのが俺がコンプ厨たる所以。 これまでにかかった多くの時間に涙し、俺はまた回収を再開するのだった。 そんな俺が今後のゲーム人生を変えるとある人物と出会い――――。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...