21 / 119
第二話 『初めてのパーティ』
21
しおりを挟むあまりAGIに振っていないフェルマータが、現実のニンゲンに近しい速度で、エルダートレントの巨体に向かっていく。
左手には、文様の描かれた大盾を。
右手には、工具のハンマーに似た形状の、片手戦槌を。
マントと、ツーサイドアップの髪を靡かせながら、
スカートを翻しながら、全身甲冑の小柄が駆ける。
そのスケール感は、象に立ち向かう、猫(――いや、ウサミミなので、ウサギ?)と言った様相で。
『風の大災害』とその落下ダメージ、『炸裂魔弾』による余波を受けて、それなりに傷を負っているが。
エルダートレントは巨体な上に、樹木の魔物だけあって、タフでもある。
おそらくまだまだ、HPは残っているに違いなかった。
そんなエルダートレントに、立ち向かおうとしているフェルマータとマナを、ローリエは油断なく見ている。
なにせ、相手は木属性の魔物で、木、土、風属性魔法を使ってくる。
そして、ローリエの属性攻撃は全て半減になる。
特に、『木』は『土』に強い上に、『土』の属性耐性を上乗せされているため、土属性は1/2を吸収されてしまう。
ローリエはエルダートレントに対しては、物理攻撃しか打つ手がない。
しかしながら、後方で魔法を準備し始めるマナの使う属性は無属性だから、耐性など、関係ない。
『魔気』+『魔素』+『魔素』
以上の『三気合成』から、マナは単体用の攻撃魔法を構築する。
フェルマータが、接敵し。
即座に。
何らかの魔法を、準備し始めていたトレントに対し。
大盾を振り回す。
「『超・強打盾』!!」
防御力をダメージに追加参照するシールドバッシュの上位スキルが、トレントの頑丈な外皮を粉砕し。
さらに、トレントは怯み、よろけ、少しの間、思考を停滞させた。
そこに、マナの声が。
「カウント! 3・2・1――」
カウントダウンのあと、マナは準備していた中級小範囲魔法、『魔漣洪波』を開放する。
同時に、カウントの0に合わせ、フェルマータが片手戦槌の攻撃スキル『グラウンドインパクト』を繰り出す。
これは、二人による、連携攻撃だ――。
第二世界では、特定の『武芸』と『魔法』を合わせると、統合さて『魔法戦技』になるというシステムがあり。
これは、キャラクター一人で指定のスキル全てを取得し、自分で組み合わせて行うことも可能なのだが。
パーティーメンバーと協力して、実行することも可能であり、その方がダメージ倍率に大きな補正を得るようになっている。
だから、マナの魔法と、フェルマータの技は、混ざり合い、統合されて。
別の超必殺技にとって代わる。
「『魔神撃陣衝』!!」
振り下ろしたフェルマータのハンマーから。
マナから与えられた無属性の魔力が迸る。
その威力に、エルダートレントの身体に大きな風穴があき。
さらに、その一撃を起爆剤に、トレントの居る地面から魔力性の衝撃波が上空に向かって吹きあがった。
ハンマーの一撃で既に絶命寸前に追い込まれたトレントは、衝撃による絶え間ない連続ダメージに、なすすべもなく、砕け散る。
そうして、霧散し、塵となり、消え失せて行った。
「やったわ」
「まぁ、いつものことだけどね」
勝利に歓喜するフェルマータと、マナ。
ローリエもそれに参加し。
はじめてみた連携攻撃に感動し。
ふたりの阿吽の呼吸による息の合ったコンビネーションに羨望を送る。
それを素直に、満面の笑みと、真っ直ぐな気持ちで出来ればよかった。
本当に、ローリエはそうしたかった。
でも。
今、ローリエの心境はそれどころではなかった。
なぜなら――。
気合一閃。
唐突に繰り出された、ローリエの『後ろ回し蹴り』
綺麗な弧を描く、強烈なキックが、マナの脇を狙い撃つ。
「!?」
急にローリエから攻撃を受けたマナは、驚嘆する。
しかしながら、その蹴りの行く末は『マナの脇』だ。
「ぐぇぁ!!」
そこから、無様な男の苦悶が上がった。
――ローリエの索敵能力を舐めてはいけない。
【完全なる方向感覚】
【地上振動感知】
【超音波空間認識】
それぞれのパッシブスキルは。
あらゆる生物の向いている方角を割り出し。
地面を動く者の振動を感知し。
建物も動物も、全ての動きと構造を超音波で検知し得る。
ぐぇあ、と無様な声を上げ。
姿をさらけ出し。
身体を『く』の字に折り曲げて吹き飛ばされたのは。
マナを背後から狙っていた潜伏者。
姿を消し、気配を消し、PKをしかけてきていた、プレイヤーの暗殺者だった。
1
お気に入りに追加
81
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる