18 / 119
第二話 『初めてのパーティ』
18
しおりを挟む水素、酸素、窒素、etc……。
現代世界に満ちる、エレメンタルたち。
VRMMO-RPG第二世界には。
そこに、もう一つの、元素が加わる。
『魔素』
この世界には、現代世界の自然元素に混じり、『魔素』と呼ばれる粒子が大気に満ちている。
それには、伝説として語り継がれている諸説と歴史があった。
――それは何千年も前の事。
かつては、この世界には巨大な大樹――世界樹が聳えていた。
それは物理的に存在する植物ではなく。
精神性の霊的な、いわゆる神に近しいモノだった。
しかし、大樹に内包する膨大な『力』を欲した魔族の王によって、ある時、大樹は滅ぼされる。
そうして、大樹がこの世から消える瞬間。
霧散した世界樹の欠片が、まるで雨のように、世界に降り注いだのだという。
その欠片は、大地に刺さり、粒子を放ち始めた。
それが、魔素であり、マナという別名を持つ魔法の源となったのだ。
しかし 魔素は有害な物質だ。
そんなものが世界に充満してしまっては、どのような動物もそのままではいられない。
だから。
世界の環境は、魔素に適応するために、あるいは利用するために、少しづつ変化を遂げていった。
まず、植物は大きく、禍々しく成長し。
時に自我をもって闊歩する植物系の魔物となった。
さらに、魔素に汚染された植物を食料にしていた草食動物も、少しづつ魔物となっていき。
魔物となった動物を食すようになった肉食獣もまた、同様の変化を遂げる。
それだけにとどまらず、やがてその影響は当然ヒト族にも波及した。
そうしてエルフやドワーフといった特殊な人類が誕生していったのだ。
特に、魔素は過剰に摂取すると、残虐性や攻撃性を強める働きがあることで知られているが。
その作用に影響を受けない進化を遂げた新生物が、現在の人類――キャラクターであり。
その作用に抗う術を持てなかった狂暴な存在が、魔物、あるいはモンスターと呼ばれている。
さて。
ローリエたちがやってきたのは、中級~上級冒険者御用達の山岳地帯で。
一帯には、山岳系モンスターの昆虫、鳥類、動物、爬虫類、両生類、植物、怨霊、骸骨、不定形、精霊、亜人などが生息している、SP60K~70Kくらいが適正の狩場だ。
そんな山道を歩く最中。
「いたわ。アイツね」
魔銀製全身甲冑に身を包んだ、うさみみドワーフの少女
――フェルマータが声を上げる。
フェルマータは、首都での準備時間の間に、魔物素材の収集クエストを受けてきていた。
依頼内容は、『オーグジェリーの核』を30個程度収集してほしいとのこと。もしも30個を超える収穫になった場合、超過分一定数につきボーナスが支給されるそうだ。
ちなみに。
この世界では、クエストはNPCが依頼している物ばかりではない。
プレイヤーが依頼書を提出して、冒険者のお店が斡旋している例が多分にある。
例えば。
スキルの構成上、戦闘力に乏しい生産特化職からの依頼や。
属性相関において火属性特化キャラクターが水属性モンスターに太刀打ちできない例などがあげられる。
ただ、どちらかといえば、生産特化を目指すプレイヤーは、課金ガチャで最高レアを5連引きするくらいには希少な生存確率なので、後者の例のほうが多い。
まぁそんなわけで。
今回の依頼書は、自称錬金術師様からの依頼である。
フェルマータが示した先を、ローリエが見ると、そこには大きな不定形のモンスターが蠢いていた。
半透明の身体は、ジェル状に自在の形状を取り、内部は常に気泡が立ち上っている。
かなり美味しそうな表現をするならば、シャンパンやソーダのようなシュワシュワ感だ。
ただ。
美味しそうな表現というのは、かなりのオブラートであり。
実際には、超強酸のボディを持った魔物である。
現に、発見した個体はその体内に、消化中の獣の肉や骨格が収まっている。
むしろ、あばら骨は、ジェル状のボディを突き出てしまっていて、全体的にとてもグロい見た目だ。
「うっ、苦手なタイプです」
ローリエは、思わずその姿から目を背けた。
盾を背中から外し、後衛より前に出て、殺る気満々だったフェルマータが振り返る。
「え? アイツ水属性よ? ロリちゃん、火属性マスタリも取ってた?」
「いえ、そういう訳ではなくて……」
って、あれ? そういえば、マナさんが見当たらない。
ローリエが周囲を見渡すと、かなり後ろにポツンと黒い人影が。
膝に両手を置いて、肩で息をしている。
大盾の裏側からウォーハンマーを引き抜き、戦闘態勢を取るフェルマータ。
「ああ、見た目の話? まぁ、でも、そんなことを言ってたら、アンデッドとか相手にしてられないわ」
全くマナのことを気にしていないフェルマータに、ローリエが声をかける。
「フェルマータさん、あ、あの……マナさんが」
「ああ? 先生まだあんなとこに居るのね」
先生? マナさんのこと?
「先生って、殆どFAI極なのよ。VITも1だし、MENもちょっとしか振ってないから、スタミナ140くらいしか無いの。だから山道はつらかったのね、忘れてたわ」
草と、語尾にたくさんつきそうなほど、フェルマータは含み笑い気味に言う。
まだローリエは戦闘シーン扱いでないため、各自のHP、MP、STの状況が解らないが――。
140という数値はかなり低い部類だ。
ローリエの1/3ほどしかない。
「だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんとスタポいっぱい買ってるはずよ。ほらね」
ローリエが、フェルマータの指差す後方を、再び見やると。
「せ、先生って言わないで」
口元から、スタミナポーションの液を滴らせ、手に小瓶を握った、自称魔法使いが、ヨロヨロと追いついてくる。
魔法使いって大変なんだ、とローリエは思いました。
というわけで、やっとメンバーがそろった。
フェルマータは、大盾と戦槌を構えて戦闘準備は終わっている。
マナは、魔導書のようなモノを取り出し。
ローリエは、大きな羽ペンのようなワンドを構える。
その様子をAIが感知すると、戦闘用インターフェースが起動し、全員の情報が視界の端に移りこむ。
【ローリエ】
HP 392/392
MP 626/626
ST 452/452
【フェルマータ】
HP 1481/1481
MP 160/160
ST 451/553
【マナ】
HP 214/214
MP 645/645
ST 101/141
「さて、気を取り直して、始めるわよ。私が注意をひきつけるから、ロリちゃんは好きにやっちゃって」
「うん、ロリに任せる」
「わ、わたし!?」
「もちろん。私はロリの戦いぶりを見に来たのよ」
まるで、面接か試験みたいだ。
ローリエは緊張してきた。
怖いし、恥ずかしい。
でも、やらなければ――。
何も始まらない!
仮にも、カンスト間近の実力があるんだ。
格下の狩場で、失敗する筈ない。
「わ、解りました」
そして、ローリエは、風の魔法を準備し始める――。
1
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最強のVRMMOプレイヤーは、ウチの飼い猫でした ~ボクだけペットの言葉がわかる~
椎名 富比路
SF
愛猫と冒険へ! → うわうちのコ強すぎ
ペットと一緒に冒険に出られるVRMMOという『ペット・ラン・ファクトリー』は、「ペットと一緒に仮想空間で遊べる」ことが売り。
愛猫ビビ(サビ猫で美人だから)とともに、主人公は冒険に。
……と思ったが、ビビは「ネコ亜人キャラ」、「魔法攻撃職」を自分で勝手に選んだ。
飼い主を差し置いて、トッププレイヤーに。
意思疎通ができ、言葉まで話せるようになった。
他のプレイヤーはムリなのに。
VRMMOの世界に私だけ閉じ込められてしまいました
べちてん
SF
とある町の普通の高校生、熊谷春瀬はある日、部活に疲れてそのままベッドにダイブした。そして、起きたときには最新のVRMMOゲームの中にいた。
NPCの態度が気に食わず、軽く嫌味を言ったら、そのままお任せで設定されてしまい、しかも他の人は普通にログアウト出来ているみたいなのに、なぜか春瀬だけログアウトができなくなってしまっていた!運営に問い合わせても『仕様です』と言われて詳しく教えてくれない。
どうやってもログアウトできないし、開き直ることにした春瀬。吹奏楽部で鍛えたど根性と、昔から作業が大好きな性格のお陰で寝ずにひたすらゲームをやり込んでいたら、いつの間にか最強プレイヤーになっていました!
この作品はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
「unknown」と呼ばれ伝説になった俺は、新作に配信機能が追加されたので配信を開始してみました 〜VRMMO底辺配信者の成り上がり〜
トス
SF
VRMMOグランデヘイミナムオンライン、通称『GHO』。
全世界で400万本以上売れた大人気オープンワールドゲーム。
とても難易度が高いが、その高い難易度がクセになると話題になった。
このゲームには「unknown」と呼ばれ、伝説になったプレイヤーがいる。
彼は名前を非公開にしてプレイしていたためそう呼ばれた。
ある日、新作『GHO2』が発売される。
新作となったGHOには新たな機能『配信機能』が追加された。
伝説のプレイヤーもまた配信機能を使用する一人だ。
前作と違うのは、名前を公開し『レットチャンネル』として活動するいわゆる底辺配信者だ。
もちろん、誰もこの人物が『unknown』だということは知らない。
だが、ゲームを攻略していく様は凄まじく、視聴者を楽しませる。
次第に視聴者は嫌でも気づいてしまう。
自分が観ているのは底辺配信者なんかじゃない。
伝説のプレイヤーなんだと――。
(なろう、カクヨム、アルファポリスで掲載しています)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ツインクラス・オンライン
秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。
チート級最強戦艦 風香
レミクロ
SF
時は2034年
異星人が地球に攻撃をし、多くの国に打撃を受けた。
その後も何度も攻撃を受け、いつかは国が滅ぼさせてしまうと恐れた国連は世界中の首相を集め、「地球防衛連合軍」を結成。
対異星人兵器も沢山作られると同時に異星人は攻撃を激化し、「地球防衛戦争」が始まり、異星人との全面戦争の幕をあげた。
うちらは「世界連合防衛海軍」
東南アジアに向けて出港したが途中で異星人の奇襲にあい、味方の大軍隊と離れてしまい、救助を呼ぼうにしても攻撃により、艦橋が破壊され、通信不能で今ここがどこかのかすらもわからず、護衛艦もいない戦艦1隻だけが広い海を彷徨い続けていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる