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第二話 『初めてのパーティ』

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 水素、酸素、窒素、etc……。
 
 現代世界に満ちる、エレメンタルたち。

 
 VRMMO-RPG第二世界スフェリカには。

 そこに、もう一つの、元素が加わる。



 『魔素』



 この世界には、現代世界の自然元素に混じり、『魔素』と呼ばれる粒子が大気に満ちている。


 それには、伝説として語り継がれている諸説と歴史があった。







 ――それは何千年も前の事。



 

 かつては、この世界には巨大な大樹――世界樹が聳えていた。
 それは物理的に存在する植物ではなく。
 精神性の霊的な、いわゆる神に近しいモノだった。

 
 しかし、大樹に内包する膨大な『力』を欲した魔族の王によって、ある時、大樹は滅ぼされる。
 
 そうして、大樹がこの世から消える瞬間。
 霧散した世界樹の欠片が、まるで雨のように、世界に降り注いだのだという。

 その欠片は、大地に刺さり、粒子を放ち始めた。

 それが、魔素であり、マナという別名を持つ魔法の源となったのだ。


 しかし 魔素マナは有害な物質だ。
 そんなものが世界に充満してしまっては、どのような動物もそのままではいられない。

 だから。
 
 世界の環境は、魔素マナに適応するために、あるいは利用するために、少しづつ変化を遂げていった。

 まず、植物は大きく、禍々しく成長し。
 時に自我をもって闊歩する植物系の魔物となった。

 さらに、魔素マナに汚染された植物を食料にしていた草食動物も、少しづつ魔物となっていき。
 魔物となった動物を食すようになった肉食獣もまた、同様の変化を遂げる。

 それだけにとどまらず、やがてその影響は当然ヒト族にも波及した。
 そうしてエルフやドワーフといった特殊な人類が誕生していったのだ。 

 特に、魔素マナは過剰に摂取すると、残虐性や攻撃性を強める働きがあることで知られているが。

 その作用に影響を受けない進化を遂げた新生物が、現在の人類――キャラクターであり。
 その作用に抗う術を持てなかった狂暴な存在が、魔物、あるいはモンスターと呼ばれている。
 
 

 さて。


 ローリエたちがやってきたのは、中級~上級冒険者御用達の山岳地帯で。
 一帯には、山岳系モンスターの昆虫、鳥類、動物、爬虫類、両生類、植物、怨霊、骸骨、不定形、精霊、亜人などが生息している、SP60K~70Kくらいが適正の狩場だ。


 そんな山道を歩く最中。

「いたわ。アイツね」

 魔銀製全身甲冑ミスリルフルプレートメイルに身を包んだ、うさみみドワーフの少女
 ――フェルマータが声を上げる。

 フェルマータは、首都での準備時間の間に、魔物素材の収集クエストを受けてきていた。
 依頼内容は、『オーグジェリーの核』を30個程度収集してほしいとのこと。もしも30個を超える収穫になった場合、超過分一定数につきボーナスが支給されるそうだ。

 ちなみに。
 この世界では、クエストはNPCが依頼している物ばかりではない。
 プレイヤーが依頼書を提出して、冒険者のお店が斡旋している例が多分にある。
 例えば。
 スキルの構成上、戦闘力に乏しい生産特化職からの依頼や。
 属性相関において火属性特化キャラクターが水属性モンスターに太刀打ちできない例などがあげられる。

 ただ、どちらかといえば、生産特化を目指すプレイヤーは、課金ガチャで最高レアを5連引きするくらいには希少な生存確率なので、後者の例のほうが多い。
 
 まぁそんなわけで。
 今回の依頼書は、自称錬金術師様からの依頼である。
 
 
 フェルマータが示した先を、ローリエが見ると、そこには大きな不定形のモンスターが蠢いていた。
 半透明の身体は、ジェル状に自在の形状を取り、内部は常に気泡が立ち上っている。
 かなり美味しそうな表現をするならば、シャンパンやソーダのようなシュワシュワ感だ。

 ただ。
 美味しそうな表現というのは、かなりのオブラートであり。
 実際には、超強酸のボディを持った魔物である。

 現に、発見した個体はその体内に、消化中の獣の肉や骨格が収まっている。
 むしろ、あばら骨は、ジェル状のボディを突き出てしまっていて、全体的にとてもグロい見た目だ。

 
「うっ、苦手なタイプです」
 ローリエは、思わずその姿から目を背けた。
 盾を背中から外し、後衛より前に出て、殺る気満々だったフェルマータが振り返る。
「え? アイツ水属性よ? ロリちゃん、火属性マスタリも取ってた?」

「いえ、そういう訳ではなくて……」

 って、あれ? そういえば、マナさんが見当たらない。

 ローリエが周囲を見渡すと、かなり後ろにポツンと黒い人影が。
 膝に両手を置いて、肩で息をしている。 

 大盾の裏側からウォーハンマーを引き抜き、戦闘態勢を取るフェルマータ。

「ああ、見た目の話? まぁ、でも、そんなことを言ってたら、アンデッドとか相手にしてられないわ」
 全くマナのことを気にしていないフェルマータに、ローリエが声をかける。

「フェルマータさん、あ、あの……マナさんが」 
  
「ああ? 先生まだあんなとこに居るのね」

 先生? マナさんのこと? 

「先生って、殆どFAIファイ極なのよ。VITヴィットも1だし、MENメンもちょっとしか振ってないから、スタミナ140くらいしか無いの。だから山道はつらかったのね、忘れてたわ」
 
 と、語尾にたくさんつきそうなほど、フェルマータは含み笑い気味に言う。
 まだローリエは戦闘シーン扱いでないため、各自のHP、MP、STの状況が解らないが――。
 140という数値はかなり低い部類だ。
 ローリエの1/3ほどしかない。

「だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。ちゃんとスタポいっぱい買ってるはずよ。ほらね」

 ローリエが、フェルマータの指差す後方を、再び見やると。

「せ、先生って言わないで」

 口元から、スタミナポーションの液を滴らせ、手に小瓶を握った、自称魔法使いが、ヨロヨロと追いついてくる。
 
 魔法使いって大変なんだ、とローリエは思いました。
 

 
 というわけで、やっとメンバーがそろった。

 フェルマータは、大盾と戦槌を構えて戦闘準備は終わっている。
 マナは、魔導書のようなモノを取り出し。
 ローリエは、大きな羽ペンのようなワンドを構える。


 その様子をAIが感知すると、戦闘用インターフェースが起動し、全員の情報が視界の端に移りこむ。
 
 【ローリエ】
  HP  392/392 
  MP  626/626 
  ST  452/452 

 【フェルマータ】
  HP 1481/1481 
  MP  160/160 
  ST  451/553

 【マナ】
  HP  214/214 
  MP  645/645 
  ST  101/141
 

「さて、気を取り直して、始めるわよ。私が注意をひきつけるから、ロリちゃんは好きにやっちゃって」

「うん、ロリに任せる」

「わ、わたし!?」
 
「もちろん。私はロリの戦いぶりを見に来たのよ」

 まるで、面接か試験みたいだ。
 ローリエは緊張してきた。
 怖いし、恥ずかしい。

 でも、やらなければ――。

 何も始まらない!
 仮にも、カンスト間近の実力があるんだ。
 格下の狩場で、失敗する筈ない。

 「わ、解りました」

 そして、ローリエは、風の魔法を準備し始める――。
 

 
 
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