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第一話 『踏み出す一歩』

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「いやぁ、参ったわね」


 そう言って駆け込んできたのは、ドワーフ種族の少女だった。
 頭にはなぜか、可愛らしいウサ耳が装着されていて。
 背中には大きな盾を背負い。

 どこからどうみても、防御タイプの重戦士が。

 ローリエのすぐ隣に入ってきた。


 唖然とする。
 雨の音が聞こえなくなるくらい。

 ローリエは、驚いた。
 
 こんなすぐ隣に、他人がするりと入り込んできた。
 たった、1メートルの真横に。
 その緊張か恐怖か分からない感情に、心身が強張っていく。


 その様子を、ドワーフの少女は心配してか。
 ローリエの顔を覗き込んできた。

 大丈夫?
 そう言いたげに、首が傾げられる。

 そろり、と動かしたローリエの視線が、交差する。
 一瞬、ローリエはドワーフの少女と目が合った。

 「あっ……」
 思わず声が漏れる。
 けどどうしていいのか分からない。

 雨音だけが、ざーざーと耳に入ってくる。
 やかましく。
 うっとうしく。
 跳ね上がる鼓動を押し隠すかのように。

 そんな状況。 


 路地の軒下に、小柄ふたり。


 そう、小柄が二人だ。


 ローリエの身長は、ドワーフに近く。
 エルフ種族の平均を大きく下回る140cm程しかない。


 それは、プレイヤー:すめらぎ愛海なるみのキャラクリセンスの無さが原因だった。
 
 あえてもう一度言おう。
 ローリエのキャラクタークリエイションは、愛海のセンスが無さ過ぎた。
 そのため。
 ランダムで作成されたモノを、半ばガチャのように何度も試行して、奇跡的に超絶美形に仕上がった姿形を使用している。

 しかし、顔は完璧に仕上がっていたが、体型には一癖あった。
 まず、胸はぺらぺらで、下半身だけが艶めかしいくらいお尻が安産型で、それに倣うように太腿も『太いから太腿って言うんですよ?』と言わんばかりの高主張だ。
 そして、身長は140cmくらいしかなかった。
 これは、エルフ種族としては最低値位の低さだ。
 
 今は、プラチナ色の金髪を、太めの三つ編みお下げにしているが、その幼い髪型のチョイスが、さらに少女感を強めている。


 そのローリエを、やや中腰のドワーフ少女が、なお上目遣いで見上げてくる。
 ドワーフなのだから、背が小さいのは普通だけど。

 だからこそ、視線を遮る術に困る。

 上からの視線は遮りやすくても、下からの視線は遮りづらい。
 
 できることは、眼を逸らすことだけ。


 
 
 エルフの小柄が、どうみても陽気でキラキラの少女に見つめられる。
 ドワーフ少女の小動物のような可愛さが合わさって、ローリエの緊張がさらに加速する。

 実際、ドワーフ少女の顔の造形は、ローリエに負けず劣らずの一級品だった。
 美しいというよりは、可愛らしいという雰囲気で。
 ツーサイドアップのミディアムヘアは、薄桜色チェリーピンクで、ちょっぴり尖った耳と、色白の素肌。
 子猫のような配分でキラリと輝く赤く大きな目が印象的で、一言で言うならば、めっちゃ幼女。
 トドメとばかりに、頭にはふさふさのウサ耳を身に着けている。

 なのに、全身フルプレートメイルでがっちがちだ。
 腰部の花弁のように広がる金属プレートが、鎧の下に着こんだフワフワドレスのスカートと重なって、可憐さすらも孕んでいる。
 素晴らしいコーディネートだ。
 かわカッコいいにもほどがあろう。 

 そんなドワーフの身長は125~130くらいだろうか?

 様子を見ていた感じのドワーフだが。

 視線をそらしたローリエを追いかけるように。
 さらに1歩近づき。
 ローリエの眼を、再び見つめてくる。
 
 そして――。

「こんにちは……?」

 そんなドワーフの少女も、物は試しという感じか。
 ちょっと探り探りというニュアンスのこもった挨拶が、小さな口から放たれた。
 可愛らしい声で。

「へっ?」
 あっ、あの、その……。 

 ローリエは、小さな驚きの声を漏らし、思わず1歩後退あとずさる。
 続く言葉はまるで霞のように存在感を示さず。
 その背中が、追い詰められたかのように、背後の壁に密着した。
 
 満足な返事も返答も挨拶も、ローリエからは無く。 
 けれども、ドワーフ少女は止まらなかった。

「あなたも、雨宿り……ですか?」
「あ、は……は、はい……」

 霞から雲くらいには進化した声量で、ローリエは言葉を絞り出す。
 その最中。
 右へ左へ、ローリエが外す視線をドワーフ少女がホーミングしながら。 

「そう、ですか。急に降ってきましたもんね」
「そ、ソウデスネ」

 眼がぐるぐると回っているような錯覚に陥る。
 ローリエはまちがいなくテンパっている。
 なんなら、この3年間で一番他人と接近しているかもしれない。
 

 どどど、どうしよう。
 どうしたら……?

 どぎまぎのローリエ。

「……」

 そのあたりで、ドワーフの少女は悟ったのかもしれない。
 目の前のエルフが、他人が苦手だという事に。

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