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第一話 『踏み出す一歩』

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 仮想空間。
 
 
 ――VRという物は、利用方法も、空間の設定も、多種多様になっている。
 特に、それを利用したゲームが、近年、爆発的にヒット、シェアを拡大してきている。
 VRゲームは、元々は大型の商業施設で展開されていたものだが、今では家庭でも手軽にできる。

 そんな仮想空間は、現実逃避するには持ってこいだ。
 仮想現実という言葉がある通り。
 仮想空間に降り立った時、そこはもう、もう一つの現実になるのである。




 第二世界スフェリカ、そう呼ばれるMMORPG。
 キャラクターネーム:ローリエ。

 今日もその姿が、森林地帯の奥に現れる。
 
 たった一人。

 パーティプレイ推奨の高難度地域に、ローリエはひとりだけ。

 軽装に身を包んだ、金髪のエルフ。

 その声がつぶやく。

「――「『身軽さ上昇アジリティ・オブ・ウィンド』『生命力上昇タフ・オブ・ソイル』『自己治癒力上昇リジェネレーション・オブ・ウッド』……」
  

 唱えられる単語の度に、短いエフェクトが奏でられ、ローリエのステータス数値を彩っていく。
 強化の魔法だ。
 
 
 
 やがて持ちうる10種以上、すべての強化を終えたローリエは、1本のレイピアを手に、駆けだした。
 森を徘徊する、厄介者――魔物を狩るために。


 
 最高難度の地域だけあって、出会う魔物の強さも、雑魚とはいえすさまじい。
 それを慣れた所作で、ローリエは狩っていく。

 
 また1匹が、血潮を噴きだしながら、その身体を霧散させながら、消えうせて行った。


 ローリエは、手を止める。


 空を見上げれば真昼間の太陽が。
 19時という現実世界の時刻を無視して、煌々と輝いていた。


 そのまぶしさを、翳した掌で遮りながら。
 ローリエ――いや。
 プレイヤー:すめらぎ愛海なるみは、ぽつりと零す。


「……どうしてこうなっちゃったのかな」――と。



 

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