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第二十九話 ハイスラでボコるわ

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───異世界の婚活───
異世界の婚活は元の世界と余り変わりはない。主な手段はお見合いや婚活パーティーである。違う点はステータスを重視する事と人気がある職業が特殊であると言う事である。ちなみに、女性の1番人気の職業は魔法使いで、男性1番人気の職業は騎士である。───Maoupediaより抜粋




☆   ☆   ☆   ☆




 木刀をアイテムボックスから取り出し腰に指す。他にはパチンコの玉とアレとコレと……。


「おい、ホウリ」
「なんだ?」


 俺が色々と準備をしていると横からフランが口を挟んできた。


「お主が出した条件アレで良かったのか?」
「ああ、アレで良いんだ」


 俺が出した本を渡すための条件、それはこの勝負を受ける事だった。つまり、勝負を受けさえすれば勝っても負けてもミエルには本を渡すと言う事だ。
 

「勝負を受けさえしてくれれば後は何とかなるし、仲間になったら婚活の方も纏めて面倒見るからな」
「お主はもう勝った気でいるんじゃな」
「俺は勝てない勝負はしない」
「そうじゃったな、お主はそういう奴じゃったな……」


 フランが頭を抑えて呆れたように言う。まあ、フランに手伝ってもらったことを踏まえればこの反応も頷けるがな。
 俺は装備していた鎧を脱いでアイテムボックスに仕舞う。上下白の長袖と長ズボンで少しでも早く動けるようにする。


「ルールは一撃勝負じゃったか」
「一撃勝負ってなぁに?」


 横で準備を見ていたノエルが首を傾げる。そんなノエルにフランが説明する。


「一撃勝負とはな相手に一撃でも入れたら勝ちってルールじゃ。HPが1でも減れば一撃の扱いとなる」
「つまり、ノエルお姉ちゃんに1でもダメージを与えたらホウリお兄ちゃんの勝ちってこと?」
「そういう事じゃ。ぶっちゃけるとホウリに不利なルールじゃな」
「なんで?」
「簡単じゃ。相手の防御力が高すぎてホウリの攻撃が通らん」

 
 そう、俺の今の攻撃力は新月ありで50。ミエルの防御力は低く見積もっても600はある筈だ。普通にやったんじゃ勝ち目が全くない。
 フランの言葉にノエルが不安げな表情で俺を見てくる。俺はニヤリと笑ってノエルを見つめ返す。


「安心しろ、普通にやって勝てないんだったら普通にやらないだけだ」
「……ノエル、1つだけ言っておく。今からの試合は参考にしてはならん。絶対にじゃ」
「?」


 ノエルはよく分からないといった顔で不思議そうにフランを見る。
 まあ、余り褒められた戦法じゃないのは確かか。


「そういえば、1つだけ気になる事があるんじゃが」
「なんだ?」
「ミエルは何故自分自身を魔法使いと偽っておったのじゃ?」
「モテるから」
「は?」


 俺の言葉にフランの目が点になる。


「それだけか?何か重要な意味とかは?」
「正体を隠すとかもあるだろうが、1番はモテるからだろう」


 周りが魔法を使える奴ばっかりで感覚が狂うが、魔法は本来10人に1人しか使うことができない。だから需要も高いし収入も多い。それに、この世界だと女性の魔法使いはカワイイというイメージが強い。それらが噛み合って、女性の魔法使いはモテる。



「じゃが、そんなウソはすぐにバレるじゃろ?」
「それがそうでもないらしい」
「なぜじゃ?」
「想像はできるが決定打が無いからな。証拠が見つかればフラン達にも伝える」


 少し離れたところで重そうな鎧を装備しているミエルとそれを見ているラッカを一瞥する。


「そろそろだな」
「……なあ、本当にアレを使うのか?」
「じゃないと勝ち目が薄い。その場合は勝率1%ってとこか」
「アレを使うとどうなる?」
「99%勝てる」
「……なら仕方がない」


 諦めたようにフランが言う。


「じゃあ、最後の仕上げをしてくる」
「うむ、言ってくるが良い」
「いってらっしゃーい」


 2人に見送られながらミエルとラッカの所へ向う。
 ミエルは俺の存在に気が付くと顔をしかめつつ舌打ちをする。


「敵情視察か?」
「いや、ルールの確認をしにきた。ルールは一撃勝負、フィールドはこの畑全て、審判はラッカで間違いは無いな?」
「ああ、間違いはない。用が済んだのならさっさと行け」
「いや、もう一つラッカに用があってな」
「私にかニャ?」


 不意を付かれたのか、丸い目を更に丸くするラッカ。俺は手招きをし、広場の隅にラッカを連れて行く。


「用って何ニャ?」
「実は…………」


───5分後───


「……君は面白い事を考えるんだニャぁ」
「認めてくれるか?」
「本当は褒められた事ではないニャ。でも、面白そうだからオッケーだニャ」


 よし、これで出来ることは全部終わった。後は勝負に勝つだけだ。
 話し合いが終わり勝負開始の位置に向かおうとすると白銀の鎧に身を包んだミエルが苛立たしい様子で俺たちを睨みつけていた。


「遅い!こんなに長く何を話していた!」
「悪い悪い。少し確認したいことがあってな。もう大丈夫だ、始めよう」
「ふん、ギッタギタにしてやる」


 そう言うと、ミエルは自身の身長よりも大きな盾を取り出す。よく見ると、盾の裏には剣の鞘が付いており大剣が収まっているのが分かる。
 ミエルは軽々と剣を引き抜くと盾を突き出す様に構える。俺も新月を右手に腰に挿して構える。ちょうど居合い切りみたいな形だな。
 そんな俺をミエルは舌打ちと共に軽蔑の視線を向ける。


「おい、ふざけているのか?」
「何が?」


 ミエルの視線が鋭く俺を捉える。理由は……まあ、新月だろうな。


「その木刀だ!私を舐めているのか!」
「……はぁ」
「何だその顔は?」


 俺の呆れ顔にミエルが顔をしかめる。俺はこめかみに手を当てながら話す。
 

「俺はお前を最強の騎士だと思っている。そういう奴と戦うのに舐める?」


 俺は殺気を出しながらミエルを睨みつける。


「テメェこそ舐めてんじゃねぇぞ!」


 ミエルが少し動揺の色を見せるが、すぐさま冷静な顔に戻る。


「……どの道戦えば分かることだ」
「違いないな」


 俺とミエルの距離の約20mの間にピリピリとした緊張感が漂う。そんな中、ラッカの勝負開始を告げる声が俺達の間に響き渡った。


「それでは、今からホウリ君とミエルの一撃勝負始めまーす。私は巻き込まれない位置で見とくから二人共頑張ってね。それじゃ、両者構えて、3……2……1……始め!」
「いいや限界だ!押すね!」

 
 勝負が始まった瞬間、ミエルの地面が地面を揺るがす程の轟音と共に爆ぜた。確認した後、更に小型の爆弾を投げつける。


「オラオラオラオラ!」


 手元にある爆弾を全て投げ切る!相手に反撃のスキを与えない!
 さて、今がどういう状況かを説明しよう。といっても説明事態は1文で済む。『前もって仕掛けておいた爆薬をリモコンで起動させ、その後に大量の爆弾を投げつける』。
 昨日の晩の段階でフランの『インビジブル』で隠れながら広場に爆薬を仕掛けておき、上に乗ったら新月の影に隠し持っていたスイッチで起爆。ダメ押しに爆弾を大量に投げつけ無理矢理ダメージを通す。これが俺の戦い方だ!


「やったか!?」


 爆弾をあら方投げつけ、土煙が晴れるのを待つ。がそこから現れたのは……


「小細工は終わりか?」


 全くの無傷ミエルの姿だった。
 地面を揺らす程の火薬と数十発の爆弾を受けて無傷か。一応、遠くにいるラッカを見てみるが、ラッカが手で大きく✕を作っているのを見て、勝負は付いていないと確信する。


「次は私から行かせてもらう!」
「……クッ!」


 ダッシュで迫ってくるミエルを撃退する為に新月を構え直す。大剣なら振りが大きい筈だからそのスキに攻撃を加える。唯一の問題は全く攻撃が通らない事だな。


「はあ!」
「喰らうか!」


 計画通り横薙の攻撃をかわし、懐に潜り込む。試しに新月を振るってみるが、金属音と共に弾き返される。
 やはり、新月じゃダメージは通らないな。別の手段を試そう。
 一旦、後ろに下がりミエルとの距離をとる。流石に敏捷性は俺の方が高く、簡単に距離を取れた。


「ふー、やっぱりコイツじゃダメージは通らないな」
「当たり前だ。私じゃなくても大抵の騎士なら貴様の攻撃何か通らん」
「だよな」


 新月を防御に使うにしてもあの大剣じゃ防ぎきれないな。本当に使えないよなコイツ。
 俺は腰に挿して代わりにアイテムボックスからいくつかのアイテムを取り出す。


「ここからは本気で行くぞ」
「ふん、何が来ても無駄だ」
「やってみなくちゃ分からないさ!」


 俺は取り出した5つの玉をミエルの頭に向けて投擲する。全てが吸い込まれる様に命中すると、それぞれ赤青黄緑紫の煙を漂わせる。
 俺が投げつけたのは『異常玉』。それぞれ赤は『裂傷』、青は『低速』、黄は『麻痺』、緑は『劣化』、紫は『毒』の状態異常にする煙を出す。それぞれの詳しい説明は省くが、ダメージを与えるか行動を制限する効果を持っている。
 5つの色が混ざりあったかのような煙を纏いながら静止していたミエルだったが、唐突に剣を大きく降り煙を晴らす。


「異常状態か?悪いが私には『異常状態無効』がある。どんなに強い異常状態も私には効かない」


 異常状態も効かないのか。本格的に手が無くなってきた。一旦距離をとって体制を立て直そう。
 俺が距離を取り始めると、ミエルがニヤリと笑った。


「まさか、私から離れれば安心だと思っているのか?」


 大剣を大きく振りかぶって体を大きく捻りながら薙ぎ払う。


「『エアスラッシュ』!」


 すると、大剣の斬撃がそのまま俺に向ってくる。
 

「やっぱり遠距離攻撃あるよな!」


 腰のポーチからパチンコ玉をいくつか取り出し斬撃の側面に向って弾く。だが、斬撃は方向を変えずに俺に真っ直ぐと向かってくる。
 俺は横に跳んで間一髪で斬撃を回避する。パチンコ玉で反らせないとするなら、避けるしか手段は無いな。だが、あれだけ大振りなら連射は……


「ハァ!」


 ……出来てるなこれ。大剣を振り回す様にすることである程度の速度で斬撃を飛ばすことが出来る。しかも、狙いも正確だ。これじゃ、不容易近付けないな。
 ミエルの周りを周るように斬撃を回避する。だが、このままじゃ埒が明かないな。近付く手段は……アレを使うか。
 俺は懐からある物を取り出し、ミエルが大剣を振り切ったのを見て一気に距離を詰める。だが、俺が距離を詰めるよりもミエルが大剣を振るうのが若干早い。


「遅い!」
「それはどうかな!」


 俺は距離を詰めながら走り幅跳びをするように思いっきり跳ねる。そして、持っていた魔法道具『フェルノ』を地面に向って起動させる。
 ちなみに、『フェルノ』とは筒状の魔法兵器で、スイッチを押すと先からレベル3炎の魔法である『炎の息吹き』が放たれる。反動を利用すれば空を飛ぶとかには使えないがちょっと浮かせる位には使える。
 俺はギリギリで斬撃を飛び越え、空中からミエルに接近する。
ミエルは大剣を振り切っており、俺の迎撃することは出来ない不意をついたところで接近し、鎧を外して露出した所を攻撃を───
 そこまで考えたところで俺はミエルの異変に気付く。ミエルの目が真っ直ぐと俺を見つめており、動揺の色が見られない。そして何よりも、左手にあった盾が無くなっており手の平を俺に向けている。これはマズい!
 危機感を感じると同時にミエルは俺の予想通りの言葉を呟いた。


「『火球』」
「クソッ!やっぱりか!」


 ミエルの左手に火球が現れ、そのまま俺に向って飛んでくる。
 新月やパチンコ玉は間に合わねぇ、手元にある道具では防げねぇ、空中だから回避も出来ねぇ、八方手詰まりだ!
 少しでもダメージを和らげる為に左腕で火球を受ける。だが、勢いを殺しきれず体制を崩し、そのまま地面へ大の字の体制で打ち付けられる。


「私の勝ちだ」


 火傷を負った左腕を確認し勝ち誇った様に笑うミエル。
 ……ここまでだな。俺は大の字に倒れながら、ミエルと話す。


「なあ、1つだけ頼みがあるんだが」
「断る」
「早ぇよ。せめてどういう頼みかは聞いてくれよ」
「チッ……、何だ?」
「打ち身と火傷が酷くて立ち上がれない。ポーションがあれば1つだけ分けて欲しい」
「……少し待ってろ」


 嫌そうな顔をしながらもミエルは家へと向かった。



☆   ☆   ☆   ☆



「……これはどういう事だ」
「何が?」
「『何が?』じゃない!貴様が立てないと言ったからポーションを持ってきたのだ!なのに、貴様は普通に立てているでは無いか!」


 普通に立っている俺を見ながら激昂するミエル。周りにはフランとノエル、審判のラッカが立っている。


「私を騙したな!」
「ああ、騙した。だが、お前は根本的な所で騙されている」
「は?」


 首を傾げながら頭に?が浮かんでいるミエル。俺はミエルに説明する為にラッカに目配せをする。ラッカは小さく頷くとミエルに向って話す。


「ミエル、1ついいかニャ?」
「何だ?」
「この勝負────」


 ラッカは数秒の間を置いて言葉を続ける。


「ミエルの負けニャ」
「へ?」


 目を丸くしながらしばらく固まるミエル。だが、言葉の意味を理解すると驚きと困惑の感情をあらわにした。


「はぁぁぁ!?どういう事だラッカ!?私はダメージを受けていないし、コイツは私の火球でダメージを負っている筈だ!?私が負ける要素など無いはずだ!?」
「うーん、これは私から説明するよりも見てもらった方が早いニャ」


 俺はラッカに目配せをされ、来ていた服を脱ぎ始める。


「うわっ!変態!急に何を────え?」


 少し慌てたミエルだったが、俺の上半身を見てすぐに言葉を失う。


「全身に傷?」
「左腕には『火球』で焼いて、右腕は『風切』で無数の傷を、胴体には『雷静』で感電させた。下半身も木と水の魔法で出来た傷がある」
「と言うことは、お前は全身に傷を負いながら戦っていたというのか!?なんのために!?」
「その理由はコイツを見れば分かる」


 俺は脱いだ服をミエルに渡す。ミエルは服を受け取ると凝視するがよくわからないように首を傾げた。


「普通の服ではないのか?」
「いや、ただの服じゃない。これなら分かるか?」


 俺は服に少し触れる。すると、白色だった服が緑の袖に黄色の胴体の服に変わった。


「これは……マジックシーツか!」
「そうだ、このマジックシーツでお前の火球を防ぎ、火傷を見せることでお前に勝ったと思い込ませた」
「だ、だが私はダメージを受けていない!コイツの勝ちである理由はなんだ!」
「ミエル、どこからそのポーションは取った来たのかニャ?」
「無論家からだ」
「じゃあ、この勝負のルールを思い出してみるニャ」
「えー、確か一撃勝負でフィールドはこの畑───あ!」


 顎に手を当てながら考えていたミエルが突然大声を上げる。


「そうニャ。ミエルは勝負の途中でフィールドから出たニャ」
「と言うことは私の敗因は……」
「そう、反則負けニャ」


 呆然としながらラッカの話を聞いているミエルに俺はさっき言われた言葉をそっくりそのまま返す。


「俺の勝ちだ」
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