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越後動乱編
頼れる援軍/光秀の居場所
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「2人とも、どうして此処に?」
「無論、ご隠居様の護衛の為で御座います。龍臣丸様が元服なさったのはご存知で?」
「うむ、知っておる。」
我が孫、龍臣丸が元服した。
名を今川左兵衛佐直房と名乗り氏真の元で仕えている、成る程、傅役の2人はお役御免と言う訳だ。
この2人は要するに、私の元に返って来たいのだろう。
だが
「以降はご隠居様の道を支えたいと思っております。」
「ならん。」
私は光秀の言葉を拒絶の言葉をもって止めた、確かにこの2人が常にいてくれるのはありがたい。
光秀も左近も、私が今川領の隅で引きこもっていた時からの付き合いだ。
光秀は知略の面で散々世話になったし、左近に至っては左近が幸村ぐらいの歳から仕えてくれていた。
まさにこの旅における幸村・慶次と言っても良い。
「光秀は知、左近は武をもって今川の、ひいては我が息子の支えとなって貰わねばならん。隠居に付き合わせる訳にはいかんよ。」
戦国時代の教育係は、織田信長の傅役であった平手政秀しかり徳川家康、今川義元の傅役では無いが教鞭をとった太原雪斎然り重臣が行うというのが通例だ。逆に言ってしまえば、傅役と言うのは教育係であると同時にその家臣を信頼しているという証でもあるのだ。
「だから言ったろ十兵衛殿、ご隠居様は必要になったら俺らを呼んでくれるってよ。わざわざ俺らが言いに来る必要も無かったじゃねぇか。」
「・・・・」
光秀が左近に諭されて黙った、落ち込んじゃったか。
まぁ、この戦に参陣するぐらいなら良いだろう。
良いよね?今川からの助力と上杉方が思ったら駄目だけど。
「2人とも、戦には参陣できるよう私が謙信殿に進言しよう。それで良いか?」
「良い良い!一番槍は俺が貰う!」
「仰せのままに。」
左近が張り切って、光秀はいつものようにそう答える。
影家殿はそれを面白そうに見ていた。
「日の本の衛青、白起 (前漢、秦の武将)と会えるとは光栄ですな、某も良ければ紹介して下され。」
「それは済まないことをした、2人とも、こちら上杉の将の柿崎和泉守影家殿だ。」
「存じております、七手組大将の1人として名を馳せる影家殿を知らない者など居ないかと。」
私が紹介すると、2人ともが軽い会釈をして相手の礼に応えた。
「むしろ、私は影家殿に記憶して頂いてることに驚いております。私など越後に行く前に妻に忘れ去られた程なので。」
「はっはっは!恥ずかしながら某も知っていたのは2つ名のみで名前を知らなかった、そう言えば奥方の面子も立ちますかな?」
そう言うと、2人は一斉に笑い始めた。
本当、明智光秀を知らないってこの時代の奴等の頭ってどうなったんだろうな。光秀だよ光秀?
まぁ、光秀も慣れているらしいし気にしないでいいか。
「左近殿も、熊を素手で殺したという武勇は聞いておりますぞ。」
「熊ぁ?輝宗様に付き添ったらもっとすげぇ奴等と戦えるぞ!爺さんもどうだ?」
「なんと...血が湧きますなぁ、もう20、いや10年若ければご一緒したいものでしたが。」
「無理か!しゃーねぇな。」
左近のはシャレにならないから、やめたほうが良いよね。
左近、龍殴ったことあるんだよ...
「ご隠居様、殿が軍議を始めるそうです。」
「承知した、光秀、左近。お前たちは軍を見回ってくれ。」
「「はっ」」
さて、頼もしい援軍が来たが私は軍議の時間だ。
ちなみに、うやむやにはなったが私は弥太郎殿を置いて違うルートをいったあげく弥太郎殿より先に目標地点についてしまうという大失態を犯している。
絶対問題になるだろうなぁ...ならないと可笑しいし、これは流石にクビになるかな?
◇◇◇◇
「ご隠居様が戦場に?」
「そうだ、お藤が南蛮胴を取りに来た際に話した。」
私の名は明智十兵衛光秀、今川に仕える臣下の1人だ。
隣には胡座をかいて座る左近と、目の前には私が育てた若殿がいる。
龍臣丸様、いやもうその名前で呼ぶのは失礼だろう。
今川左兵衛佐直房様、元服し礼服を着込んだその姿は若きご隠居様にそっくりとも言えるだろう。
もう誰も直房様を罠丸と呼び蔑む者はいない、直房様は元服する少し前から徐々に変わっていっていた。
ご隠居様譲りの叡智と才覚を捻くれた使い方から民衆の為の政策へ変え、真摯に民と向き合って来た。
今なら、氏真様のご子息の従者としてもなんら問題なく動けるだろう。
天才と言う言葉は、まさにこの方の為にあるのだ。
「上杉が爺様に文を書いたようだ、全く。戦力に不安があるならば我らに援軍を頼めば良いものを。」
そう言って、直房様はため息を吐く。
「上杉方にも面子があるのでしょう、国内1つ纏められぬとわかれば上杉の名に泥を塗ることになりかねませぬ故。」
「わかっておる、ただの愚痴よ。故に爺様を引っ張りだしたのであろう。」
そう言って、直房様はニヤニヤと笑いながら私に話しかけてみた。
「爺様ならどうすると思う?」
「ご隠居様なら...ですか。」
「私なら一揆勢を内側から引っ掻き回して統率を取れなくさせるな、こちらにはお藤がいる。お藤にやってもらうか自分でやるかはそこにいなければわからんが、それを手土産に上杉に参陣するのが良いだろう。」
「成る程、ご隠居様ならそうなさりそうですな。」
「戦の前準備はそこまでだ、あとの戦は実際にどうなるかわからん。上杉が使えぬという可能性もあるしな。今爺様に倒れられては困る。」
「何か、あるのでございましょうか?」
そう言うと直房様は、罠丸と呼ばれたあの頃のような悪戯心を擽る笑みで私の問いをはぐらかした。
「その時が来たら、言おう。ともかく光秀、左近、お主らは爺様を守れ。」
「はっ、今川の草を幾人か連れて行きますが?」
「構わん、存分に使え。だが数は抑えろよ?上杉に勘ぐられては困る。」
「はっ、でき得る限り隠して行きまする。」
「そうしろ、バレても構わんが噂として広まるのは避けたいからな。」
「なぁ、話は終わったか?」
「左近殿、もしや寝てたのか?」
こうして、私と左近殿は越後へと向かうことになった。不安とは裏腹に私の心は高鳴っている。
ご隠居様との戦、どのようになるのか想像すらつかない世界。
さぁ、どうなることやら...
「無論、ご隠居様の護衛の為で御座います。龍臣丸様が元服なさったのはご存知で?」
「うむ、知っておる。」
我が孫、龍臣丸が元服した。
名を今川左兵衛佐直房と名乗り氏真の元で仕えている、成る程、傅役の2人はお役御免と言う訳だ。
この2人は要するに、私の元に返って来たいのだろう。
だが
「以降はご隠居様の道を支えたいと思っております。」
「ならん。」
私は光秀の言葉を拒絶の言葉をもって止めた、確かにこの2人が常にいてくれるのはありがたい。
光秀も左近も、私が今川領の隅で引きこもっていた時からの付き合いだ。
光秀は知略の面で散々世話になったし、左近に至っては左近が幸村ぐらいの歳から仕えてくれていた。
まさにこの旅における幸村・慶次と言っても良い。
「光秀は知、左近は武をもって今川の、ひいては我が息子の支えとなって貰わねばならん。隠居に付き合わせる訳にはいかんよ。」
戦国時代の教育係は、織田信長の傅役であった平手政秀しかり徳川家康、今川義元の傅役では無いが教鞭をとった太原雪斎然り重臣が行うというのが通例だ。逆に言ってしまえば、傅役と言うのは教育係であると同時にその家臣を信頼しているという証でもあるのだ。
「だから言ったろ十兵衛殿、ご隠居様は必要になったら俺らを呼んでくれるってよ。わざわざ俺らが言いに来る必要も無かったじゃねぇか。」
「・・・・」
光秀が左近に諭されて黙った、落ち込んじゃったか。
まぁ、この戦に参陣するぐらいなら良いだろう。
良いよね?今川からの助力と上杉方が思ったら駄目だけど。
「2人とも、戦には参陣できるよう私が謙信殿に進言しよう。それで良いか?」
「良い良い!一番槍は俺が貰う!」
「仰せのままに。」
左近が張り切って、光秀はいつものようにそう答える。
影家殿はそれを面白そうに見ていた。
「日の本の衛青、白起 (前漢、秦の武将)と会えるとは光栄ですな、某も良ければ紹介して下され。」
「それは済まないことをした、2人とも、こちら上杉の将の柿崎和泉守影家殿だ。」
「存じております、七手組大将の1人として名を馳せる影家殿を知らない者など居ないかと。」
私が紹介すると、2人ともが軽い会釈をして相手の礼に応えた。
「むしろ、私は影家殿に記憶して頂いてることに驚いております。私など越後に行く前に妻に忘れ去られた程なので。」
「はっはっは!恥ずかしながら某も知っていたのは2つ名のみで名前を知らなかった、そう言えば奥方の面子も立ちますかな?」
そう言うと、2人は一斉に笑い始めた。
本当、明智光秀を知らないってこの時代の奴等の頭ってどうなったんだろうな。光秀だよ光秀?
まぁ、光秀も慣れているらしいし気にしないでいいか。
「左近殿も、熊を素手で殺したという武勇は聞いておりますぞ。」
「熊ぁ?輝宗様に付き添ったらもっとすげぇ奴等と戦えるぞ!爺さんもどうだ?」
「なんと...血が湧きますなぁ、もう20、いや10年若ければご一緒したいものでしたが。」
「無理か!しゃーねぇな。」
左近のはシャレにならないから、やめたほうが良いよね。
左近、龍殴ったことあるんだよ...
「ご隠居様、殿が軍議を始めるそうです。」
「承知した、光秀、左近。お前たちは軍を見回ってくれ。」
「「はっ」」
さて、頼もしい援軍が来たが私は軍議の時間だ。
ちなみに、うやむやにはなったが私は弥太郎殿を置いて違うルートをいったあげく弥太郎殿より先に目標地点についてしまうという大失態を犯している。
絶対問題になるだろうなぁ...ならないと可笑しいし、これは流石にクビになるかな?
◇◇◇◇
「ご隠居様が戦場に?」
「そうだ、お藤が南蛮胴を取りに来た際に話した。」
私の名は明智十兵衛光秀、今川に仕える臣下の1人だ。
隣には胡座をかいて座る左近と、目の前には私が育てた若殿がいる。
龍臣丸様、いやもうその名前で呼ぶのは失礼だろう。
今川左兵衛佐直房様、元服し礼服を着込んだその姿は若きご隠居様にそっくりとも言えるだろう。
もう誰も直房様を罠丸と呼び蔑む者はいない、直房様は元服する少し前から徐々に変わっていっていた。
ご隠居様譲りの叡智と才覚を捻くれた使い方から民衆の為の政策へ変え、真摯に民と向き合って来た。
今なら、氏真様のご子息の従者としてもなんら問題なく動けるだろう。
天才と言う言葉は、まさにこの方の為にあるのだ。
「上杉が爺様に文を書いたようだ、全く。戦力に不安があるならば我らに援軍を頼めば良いものを。」
そう言って、直房様はため息を吐く。
「上杉方にも面子があるのでしょう、国内1つ纏められぬとわかれば上杉の名に泥を塗ることになりかねませぬ故。」
「わかっておる、ただの愚痴よ。故に爺様を引っ張りだしたのであろう。」
そう言って、直房様はニヤニヤと笑いながら私に話しかけてみた。
「爺様ならどうすると思う?」
「ご隠居様なら...ですか。」
「私なら一揆勢を内側から引っ掻き回して統率を取れなくさせるな、こちらにはお藤がいる。お藤にやってもらうか自分でやるかはそこにいなければわからんが、それを手土産に上杉に参陣するのが良いだろう。」
「成る程、ご隠居様ならそうなさりそうですな。」
「戦の前準備はそこまでだ、あとの戦は実際にどうなるかわからん。上杉が使えぬという可能性もあるしな。今爺様に倒れられては困る。」
「何か、あるのでございましょうか?」
そう言うと直房様は、罠丸と呼ばれたあの頃のような悪戯心を擽る笑みで私の問いをはぐらかした。
「その時が来たら、言おう。ともかく光秀、左近、お主らは爺様を守れ。」
「はっ、今川の草を幾人か連れて行きますが?」
「構わん、存分に使え。だが数は抑えろよ?上杉に勘ぐられては困る。」
「はっ、でき得る限り隠して行きまする。」
「そうしろ、バレても構わんが噂として広まるのは避けたいからな。」
「なぁ、話は終わったか?」
「左近殿、もしや寝てたのか?」
こうして、私と左近殿は越後へと向かうことになった。不安とは裏腹に私の心は高鳴っている。
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