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本編
フィーリン商会
しおりを挟む私達、フィーリン商会で働く従業員は恩人である商会長、エリス様からの言伝をハーネスさんより受け、店を臨時休業にし、すぐに動けるように会議室へと集まっていた。
「……さて、では今後のフィーリン商会の動きについての会議を始めます。
エリス様は不在となりますが、私アリスが進めさせてもらいます」
私はこの本店の店長として、エリス様に仕える者として、必ず守らなければいけないものがある。
エリス様への恩だけではない。
私は、この商会とこの商会の従業員も好きなのだ。
だからこそ、守りたいし、害をなす者がいるのならば全て取り除きたいとも思う。
「今回は危険が伴うことになるでしょう。
ですから、強制ではありません。
参加の意思がない者は帰りなさい」
人手は多い方がいい。
だが、強制してしまうわけにはいかないのだ。
それをやってしまえばエリス様の想いまで踏みにじることになるのだから。
「……アリスさん、お言葉ですが。
私達を舐めないで頂きたい!」
「僕達は、エリス様のおかげでここにいられるのにそのエリス様への恩を返さずにいる程恩知らずではありません!」
「この商会を守りたいと思ってるのはアリスさんだけではありません!」
一人一人が自分の想いを語っていく中、私はその光景を見て、エリス様のことを思わずにはいられなかった。
エリス様がこの国のために立ち上げたフィーリン商会は、こんなにも愛されているのだと、声高々に叫びたくなるほどだった。
ここにいるものは少なかれエリス様に救われてきた者達だ。
だからこそ、エリス様のために、商会のためにこんなにも動こうと、守ろうと思うのだろう。
「分かっていると思いますが、誰か一人でも傷付けば、エリス様はその全てを一人で抱え込むことになるでしょう。
それを避けるためにも、私達は傷付いてはいけない。
私達のことであの方を煩わせるわけにはいきませんから。
大丈夫ですね?」
これは、最後の確認だ。
戦闘も多少は出来る。
だからといって怪我をしない訳では無いし、命が助かったからといって大丈夫、となるわけでもない。
私達は無傷で終わらなければいけないのだ。
でなければ、あのお優しいエリス様は私達の怪我を自身のせいにされ、苦しまれることとなるだろう。
そして、きっと泣きながら謝られるのだろう。
それは、それだけはダメだ。
私達がエリス様を苦しませることなど、泣かせるようなことなどあってはならないのだ。
「……大丈夫そうですね。
では、説明します。
まず初めに、こちら本店に残る者が20名。
そのうち5名は連絡、10名は警備、残り5名を医療担当とします。
残りの者は4手に分かれ、それぞれ男爵、侯爵、王家、エリス様についてもらうことになりますが、そのうちの何名かは諜報としてまわってもらうことになるでしょう」
ここまでは良いだろう。
諜報は少人数でも問題ないとして、反乱の兆しありと判断された男爵家と侯爵家につくのは上位の戦闘員でなければ危険だろう。
とはいえ、戦闘員だけでは不味いので医療、諜報に秀でた者は少なからず必要となる。
「各グループの責任者にはそれぞれ別れてもらうことになりますが……そう、ですね。
医療班と諜報班の責任者には本店に待機してもらうことになるでしょう」
医療班はあまり動かしたくはない。
もし、エリス様に何かあった時すぐに動けるようにしておきたいからだ。
諜報は本店を軸に動いてもらうことになるからだ。
正直、私にこういったことは向いていない。
本当ならば他の者に任せたいくらいだ。
けど、エリス様に任された以上、ここで投げ出すわけにはいかない。
「では、各班でそれぞれのグループにわけ、後程別室に集まってください。
第一会議室が男爵グループ、第二は侯爵、第三は王家、そしてホールにエリス様のグループが集まるようにお願いします」
これであとは任せてしまってもいいだろう。
あぁ、早くエリス様にお傍でお仕えしたい……。
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