王族なんてお断りです!!

紗砂

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本編

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言いたいことを全て口にした後、私の背後で動く影がありました。
二人は示し合わせたように前へ出ると、跪きます。

嫌な汗が背中を伝っていくのが分かります。
それは、この二人……エンドルース公爵とルースベル公爵が何をしようとしているのかを理解してしまったからです。


「陛下、我がルースベル公爵家はエリス・フォーリア公爵令嬢を次代の王へと推薦致します」

「同じく、エンドルース公爵家はエリス嬢を次代の王へと推薦しよう」


公爵家のうち、二家の推薦を得てしまった私に注目が集まります。
周りがザワついているのは当然でしょう。
私も観客側であれば、同じような反応をしますから。

前代未聞の女王。
この方達は私をその地位につかせようよとしているのですから。


「陛下、私は王位継承権を……」


放棄致します、そう言おうとした時でした。
ルベルコートの王子が前へと出てきました。


「エリス嬢がこの国と王になるのなら、ルベルコート側からと一つお願いしたいのですが」

「ほう……?
内容によっては……」

「これは、エール側としても悪くない話のはずです。
両国間での取引を増やしたい、というものですから。
そうですね、こちらからは砂糖と酒の輸出を増やしましょう」


砂糖はフィーリン商会にとってかなり有難いです。
砂糖がなければ作れませんから。


「……考えておこう」


そこは断って欲しかったのですが……。
国益のことを考えると断れないと分かっていますが。


「では、エリンスフィールからは布の輸出を増やそう」


エリンスフィール産の布は上質で、最高級品としても名高いものです。
それを、となるとまた私を王にしようとする輩が増えてしまいそうで嫌なのですが……。
どうせ私が言っても聞いてもらえないのでしょうね。
そんな気がします。


次の王についての話が終わると、ようやく曲が流れ始めました。
既に疲労感がかなりあるのは公爵方と王族達のせいでしょう。


「エリス、ファーストダンスを……」

「お願いします、アル」


約束通り私にファーストダンスを申し込んできたアルの手をとり、私達はホールの中央へと向かいました。


「さっきは済まなかった。
エリスが王となることを望んでいないと知っておきながらあのようなことを……」


それは多分、つい先程陛下に対して口にしたことでしょう。
アルが気にする必要はないと思いますが。


「もとはと言えば公爵方が私を推薦したのがいけないのですから、アルが気にする必要はありません」

「……そうか」


アルは薄く笑みを浮かべるとそのまま優雅にステップを踏みます。
以前も思いましたが、アルはリードが上手いですね。


「これで、もし王位を押し付けられた時は……アルがサポートをしてくださいね?」

「っ……あぁ、勿論だ」


嬉しそうに目を細めるアルに、ドキッとしてしまいます。
アルと出会ってから時々感じるこの変な感覚はなんなのでしょうか?
何かの病でしょうか。
このような時期に倒れてしまうわけにもいかないのですが……。


「エリス、どうした?
具合が悪いのなら少し休むか?」

「あ……いえ、大丈夫です。
婚約の件について考えてしまって……」


従弟のルアンは、私がこの国の王となればフォーリア公爵家を継ぐことになるでしょう。
そうでなければ、アルの側近になれませんから。
ですが、にも関わらずルアンには婚約者がいません。
それを思うと心配になってきます。
そういった場をセッティングするべきでしょうか?


「こ、婚約……か。
そうだな、あぁ……いや、だが……」


アルが何やら一人で呟いています。
どうかしたのでしょうか?
私のことよりも自分のことを考えた方が良いような気がしてくるのですが……。


「エ、エリス……このダンスが終わったら、少し、いいか?
渡したいものがあるんだ……」

「はい……?」


アルは緊張気味に口にしました。
それだけ大切な物を、ということなのでしょう。
ならば、断るのは良くありませんね。


「分かりました」


ダンスの誘いを断る理由にもなりますし。
先程の件もあり、精神的にも疲れているので夜風にあたって休みたいですから。

ダンスが終わり、すぐにアルや私をダンスへ誘おうと人が集まってきます。
私に対する申し込みは、大抵公爵家という地位が目当てなのでしょうが。
アルに集まってくるのは地位と顔、でしょうか?

まぁ、なんにせよ二人で談笑しながら外へ向かえば止めるような人はいないので問題ないのですが。
それに加え、アルと私が外へ移動すると、アルを守るようにしてルアンとカイン様が着いてくるので盗み聞きも出来ない状態になっています。

さり気なくそういったことをする二人はさすがというべきなのでしょうか。


「エリス……本当は、正式に婚約を交わしてからと思っていたのだが……。
やはり、今渡しておく」


アルから渡されたのはリングのついたチェーンでした。
リングの裏にはそれぞれの名が刻まれており、特注品だということがわかります。
表の模様は、蔦が複雑に絡み合っており、所々に散りばめられた青やピンクの宝石も澄んだ色で、かなりの高級品だということが伺えます。


「これは……?」

「婚約の証だ。
エリンスフィールでは、婚約中はこうして対になっているリングを首から下げるんだ。
そして、婚姻を交わすとき、チェーンを外し、互いの指にはめる。
その時にリングを交換するのは、婚約期間中肌身離さず持っていたリングを自分の代わりと見立てているからだそうだ。
意味としては、『何時いかなる時もあなたの傍に』だな」


つまり、これはアルの分身、ということなのでしょうか。
相手を守る、という意味も込められているようにも感じます。


「だから……これを持っていて欲しい」


アルが少し不安げに私を見つめてきます。
そんなアルに、私はクスリと笑って言いました。


「受け取れません」

「……そう、か」


アルは何か勘違いしているようです。
いえ、私が勘違いするような言い方をしたのが悪いのですが。


「だって、私はアルに渡すリングを用意していませんから。
なので、少し待っていてくれませんか?」

「っ……あぁ!」


私の言葉に、アルは嬉しそうに笑いました。
そんなアルの表情を見て、ふわふわとした気持ちになってくるのは、何故なのでしょうか?
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