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魔神編

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「カイ様のお役に立てるためなら、この程度!!
いくらだって耐えてみせます!!」


と意気込み走り込みをしているのは俺に着いてきたイルミだ。
隊の中では一番の頑張り屋で伸び代がある。
そう思って選択肢を与えていたのだが……思ったよりもやりすぎる奴だったようだ。

やりすぎる奴は早々に体を壊す。
それは、軍人にとってあってはならないことだ。
常に戦える状態でいなければいけない軍人にとって体を壊すのは未熟である証。
俺は絶対にそういうことは許さない。


「イルミ、今日は終わりだ。
帰るぞ」


無理に進めようとするイルミに俺は終わりの声を掛ける。
だが、イルミは俺の声を聞いて尚、走り続ける。


「ま、まだ……まだ、僕はやれます!!
お願いします、カイ様!!
カイ様のお役に立てるようになり……」

「甘ったれんじゃねぇよ、イルミ。
俺の役に立つだと?

自分の管理も出来ねぇ奴が俺の役に立てるなんて思ってんじゃねぇ!」

「っ……申し訳、ございません……」


悔しそうにイルミは唇を噛み締める。
それを見ていた俺はため息を吐いてからイルミを労ってやる。


「初日にしちゃあ、出来た方だ。
基礎がよく出来てる証だ。
よくやった。
明日もある、今日はもう休め。
もう少ししたら俺も帰る。
それまでは部屋で休んでおけ。
命令だ、いいな?」

「は、はい!」


俺は転移陣でイルミを家に送ると、カリンのもとへ向かう。
これからは2人きりの時間だ。


「カリン」

「あっ……カイ、もう終わったの?」

「おう。
終わらせてきた。
これから時間あるか?」

「悪いけれど、今日は無理ね。
先約があるの。
明日なら空いているけど……」


……いや、これは約束をしていなかった俺が悪い。
まぁ、残念だが仕方ない。
先約の方が大事だしな。
……相手が男だったら殺す必要があるが。


「そうか……分かった。
なら、明日久しぶりに2人で街に行かないか?」

「えぇ。
楽しみにしているわね」


楽しみにしている、か。
それだけで数日は頑張れる気がするな。
何より、カリンの笑顔が可愛い!!


「おう。
んじゃ、送ってくぜ」

「いいわよ、先約っていってもリナだもの。
送ってもらう必要はないわ。
でも、ありがとう、カイ」


少しショックだったが、リナならば安心だろうと俺はカリンを見送る。
そして、カリンが行った後、陣を使って使い魔を呼び出した。

魔鳥のルアだ。
ルアは俺が公爵位についた日にフェイルから貰ったのだ。


「ルア、カリンのことを頼む。
何かあればすぐに俺に伝えろ。
カリンが傷付くことは許さない。
頼むぞ」


簡単な命令をすると、ルアは俺の手元から飛び立った。


「よし、じゃあ俺も帰るか」


カリンのことは心配だが仕方ない。
縛り付けたりすると嫌われるしな。
それに、今だけは自由な時間を楽しんでもらいたい。
あいつにはリナっていう新友もいるしな。


「イルミの好きなもん、分かんねぇんだよなぁ……。
適当に作るか」


ということで、適当なものを買い込んで家に帰ると、大人しく休んでいる様子のイルミにフッと笑うと俺は夕飯の支度を始めた。


「……あ、も、申し訳ありません!!
カイ様、変わります!!」

「んぁ?
いい、休んでろ。
久しぶりに作るが味としては問題ないはずだ。
それとも、俺の料理は食えねぇってか?」

「い、いえっ!!
滅相もございません!!
その……僕だけが食べてしまうと他の皆に恨まれそうな気がしてしまい……。
それに、そのようなことをカイ様にさせてしまうのは……」

「俺の趣味だ、諦めろ。
他の奴らにも今度食わせてやりゃぁ問題ねぇだろ。
とりあえず、もうすぐ出来るから座ってろ」

「はい」


イルミが大人しく座ったのを確認してから、俺は続きに戻る。
最後に味見をして、自分が納得すると、そのま皿に移し替えもってく。


「食えよ。
早くしねぇと冷めるだろうが」

「あ、はい!
いただきます」


パクリ


イルミは1口食うと目を見開きトロンとした顔になる。


「美味しいです……」

「そりゃあ良かった。
料理を最後に作ったのはまだ人間だった頃のことだったからな。
不安だったんだ」


最後に作ってやったのはリュークにだったな、と思い出すと懐かしい思いに浸る。


「カイ様がまだ人間だった頃……。
……あの、1つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「ん?
いいぞ、何だ?」


俺は何も考えず、イルミに答えた。
イルミは少しホッとしたように息を吐き、質問を口にした。


「カイ様は、何故……人間をやめ、魔族になられたのですか?
人間には二度と戻ることも出来ず、ただ寿命が長いだけの魔族に……。
カイ様は、こちらの世界に大切な者が多くいらっしゃるように見えました。
なのに、何故……魔族になられたのですか?」

「……俺も最初の頃は魔族になるつもりなんてなかったさ。
こっちには、カリンもいるし、守るって誓った新友もいる。
けどよ、ディナートに会っちまった。
あいつは俺の会った誰よりも救いを求めてた。
1人で苦しんでるように見えた。

……そんなもん見ちまったら、助けずにはいられねぇだろ。
そんな中、あいつが俺に魔族になってくれって言ってきたんだよ。
もうこれ以上、大切なもんを失いたくないってな。

それ聞いたら、なるしかねぇだろ。
それに、そんときにはもう向こうの奴らが良い奴だって分かってたからな。
案外抵抗は少なかったぜ?」


まぁ、カリンのことを諦めてたってのもあるが。
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