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客船
しおりを挟むそれからしばらくたち、夏休みに入ると私達6人は豪華客船の旅に出ていた。
「う、うわぁ……」
「咲夜、部屋はどこを使えばいい?」
「……さすがは海野グループ。
豪華客船に関しては一番だね……」
「わ、私……海野グループの豪華客船なんて初めてですの……」
「紫月ちゃんはまだいいですよ!
私達なんて……豪華客船乗ったことないんですから!!」
「ふふっ……お父様に頼んだかいがありましたわ。
取り敢えず、客室へ案内いたしますわ」
皆が客船に驚く中、私はスタッフから鍵を受け取ると客室へと案内した。
用意した客室は勿論、最上階。
合計六部屋のため丁度1人1室分ある。
特に変わりはないため、カードキーを選んでもらいそれぞれの部屋に入る。
「あら…私は愛音と隣室のようですわね」
「そうみたいですね!
咲夜が隣の部屋で良かったです!」
「俺も咲夜の隣室らしいな」
「僕は天也の隣か……」
「俺は…姉さんの隣か?」
「私は奏橙の隣みたいです」
それぞれの部屋を確認するとそれなりに関わりの強い者の隣になったらしい。
それにしても……天也と愛音が隣なのか。
夜は愛音の部屋で話そうかな?
「咲夜、今更かもしれないが……口調戻していいんじゃないか?」
「え?」「は?」
紫月と魁斗はそれぞれ疑問を浮かべているようだがこのメンバーなら問題ないだろうと思い、私は素に戻った。
「そう?
なら、遠慮なく。
あれだね、やっぱり令嬢としての口調って疲れるわ。
慣れてきたとはいえやっぱこっちの方が落ち着くよね」
「……さ、咲夜……?
だ、大丈夫ですの?」
「……なんか、令嬢感しないな…」
紫月には心配され、魁斗には呆れのこもった目で見られた。
天也は……満足そうだ。
………納得いかない…。
「2人共、慣れて。
咲夜は初等部の頃からこんな感じだから」
「もとはと言えば天也に言われたからだって……。
言われなかったらちゃんと口調は注意してたし。
それに、人が見てるとこでは戻すからいーの。
これでもあのシスコンのお兄様にだってバレてないんだから」
「そこら辺の切り替えだけは本当に早いよね……。
特に悠人先輩の前での変わりようは凄いと思う」
「そうでもないと思うけど……。
まぁ、いっか。
あ、そういえば、水着って持ってる?
持ってたらプールいかない?
温泉の方でもいいけど…」
苦笑している奏橙に対し、私はボソッと呟くとそんな提案をした。
この客船にはプールと温泉もある。
プールに関してはウォータースライダーや流れるプールなどといったものまであるのだ。
温泉に関しても水着着用のゾーンはジャグジーもあるし、ワインやお茶といった香りの温泉まである。
……どこかのホテルと比べても遜色ないくらいだ。
とても客船だとは思えない。
「あぁ……そうだな。
だが、どっちにする?」
「最初はプールの方でいいんじゃない?」
「んじゃ、プールの方にしよっ……」
「あ、あの……す、すいません…。
私と魁斗は持ってきてない…です……」
……ふむ、確かに言って無かったしね。
仕方ないか。
……2階のショッピングゾーンに何かしらあったはず。
行ってみるか。
「天也、ショッピングゾーンで着替えてプールで集合という事で!
魁斗の方はお願いね。
私達の方は愛音を担当するから。
あ、もし何かあったら私持ちだから適当に持ってっていいよー。
天也は分かってると思うけどカードキー出せばいいから。
そーゆー事でよろしくー」
「あぁ、分かった。
後で集合な」
「え?
…え?
さ、咲夜!?
ちょっと待ってくださっ………」
「はっ!?
待て……って、おい!?」
私は魁斗を天也と奏橙の2人に任せると愛音と紫月を連れショッピングゾーンに向かう。
ショッピングゾーンの水着コーナーに行くと私と紫月は愛音に似合いそうな水着を探し始めた。
「あ、これとかどう?」
そう言って私が出したのはピンクのフリルのついた可愛らしい水着だった。
「これもいいと思います!」
紫月が選んだのは水色の落ち着いた雰囲気の色の水着だ。
そんな私達を見てか愛音も周りを見始める。
「ピンクは咲夜の方が似合っています!
なのでこれとかどうでしょう?
紫月ちゃんはこっちの薄紫のとかどうでしょうか!」
…今の水着よりは可愛い…けど……。
私に似合うとは到底思えそうにない、ピンクの水着という選択に戸惑いながらも考える私だった。
「咲夜には確かにピンクって似合いますの。
ですが、やはり白や黒も捨て難いと……」
……何で皆白って言うんだろうね?
兄や父を筆頭とした人達も白が合うっていうし。
あ、でも黒は初かも。
「咲夜はどれにしますか?」
「わ、私は持ってきたし…」
愛音が笑顔でピンクと白の水着を持って聞いてくるが私はどうにか逃げようと持ってきた事を言うが、次に紫月の言った一言で私の意見は変わる事となる。
「咲夜、天也さんに可愛いっていってもらえるように選びましょう!」
「……うっ……言ってもらえる、かな……?」
「か…可愛い!
咲夜が小動物みたいです!」
「って、何で天也にっ……!!」
そんな愛音の言葉すら聞こえないくらいに私は自分の世界に入り込んでいた。
…天也は本当に可愛いと言ってくれるだろうか?
だけど、いってくれたとしてもこの水着は恥ずかしいし……。
そう、愛音や紫月が持ってきたのはビキニタイプの水着なのだ。
流石にそれを着て出て行く勇気は持ち合わせていない。
それに、最近マカロンやケーキの食べ過ぎか太り過ぎた気がするし……。
「咲夜、チャンスですわよ?」
「チャ、チャンスって……」
「そうですわ。
天也さんが好きなのは分かっているんですから……。
可愛いと言ってもらいたいのでしょう?
でしたら……」
そう言われ、私は意を決して愛音の持つフリルであしらわれた薄いピンクの水着へと手を伸ばした。
次いでに白の水着の上に着る上着も持つ。
そして更衣室で着替えてから出ると愛音と紫月から揃って可愛いと言われた。
……天也は可愛いといってくれるだろうか?
ついでに髪をひとつに縛っておいた。
……邪魔になるし。
その頃には愛音と紫月も選び終えていたようで着替えていた。
全員揃ったところでプールに向かう。
「咲夜、どうしましたの?」
「咲夜?」
…私は恥ずかしさのあまり足をとめてしまいプールの中に入れずにいた。
……冷静になってみればこの格好、物凄く恥ずかしい。
ピンクというのも私に合わない気がするし…。
それに、フリルとかビキニって……。
私は顔を赤く染めてすくぶってしまっていた。
それを見てどう思ったのか愛音と紫月が私の手をひき歩き出した。
「愛音、紫月来たのか…って…咲夜は?」
「2人とも、その水着似合ってるよ」
「姉さんが別人に見える……」
私は扉から出られずに隠れていた。
そんな私に対して2人が叱咤する。
「咲夜、この期に及んで往生際が悪いですわよ!」
「そうですよ、咲夜!」
皆の声にやはり持ってきていたものにしようと踵を返す。
「私、やっぱ着替えてく…」
「させません!
紫月ちゃん!」
「えぇ、愛音さん!」
愛音と紫月は息ぴったりに私の手を掴み引っ張った。
それにより扉から出てしまった私はあまりの恥ずかしさに顔が赤くなっていく。
「咲夜、似合ってるよ。
いつもとは雰囲気が違うけどね」
「……可愛い、と思う」
とは奏橙と魁斗だ。
私が一番聞きたかった天也は固まっている。
私はそんな天也にやはり似合ってないだろうか、と思い始めたころ、愛音が要らない事を話し始めた。
「天也、何か言ってあげてください!
咲夜ったら可愛いんですよ!
最初は着るのを嫌がってたくせに……」
「か、かかか愛音!?
何言ってるの!?」
「本当の事ですから」
「愛音の馬鹿ぁぁぁ!!」
そんなやり取りをしていた私に天也は顔を背けて言った。
その頬は少し赤くなっている気がする。
「その…なんだ……?
…に、似合ってる…か、可愛いと、思う……」
「な、なっ……。
何を言っているんですの!
私ですもの。
当たり前でしょう」
私はそう口にしてからしまった、と顔を青くする。
こんな事を言いたかったわけではない。
なのに照れ隠しのように勝手に口から出てしまったのだ。
「咲夜って褒められたりするとたまに心にも無いこというよね」
「うっ……。
そ、それは…!!」
「しかも、令嬢としての口調に戻るし…」
「うっ……」
「照れ隠しってバレバレだし…」
ことごとく奏橙に心を抉られる私だった。
……何もここでそんな事を言わなくてもいいと思うんだ。
そしてそのあと、皆で流れるプールやスライダーなどといった場所に移動する際、天也が私の隣にきて小さく呟いた。
「咲夜、本当に可愛いし、綺麗だ。
その、さっきはすぐに言えなくて悪かった……。
いつもの咲夜とあまりにも雰囲気が違いすぎたし…見とれてたんだ…」
「っ……。
…別に、気にしてないし。
でも、まぁ…ありがと」
私は天也の率直な言葉に思わず顔を背けた。
少しばかり顔が赤くなっている気もするが、そこはご愛嬌ということで。
私は天也にお礼を言うと、すぐに愛音達のもとへ走っていく。
「愛音、紫月!
スライダー行こう!」
と、照れ隠しのように2人を巻き込み走って行った。
もうすでに天也の事が好きなのだとバレているような気もするが……まぁ、知らないフリをしておこう。
うん、そうだ。
この前の告白のせいで変に意識していることにすれば問題はない。
……好きだと言っても、愛音の邪魔をするようなことはしたくないし。
やっぱり親友には幸せになってもらいたいし。
まぁ、奏橙と紫月をくっつけた私が言っていいことではない気もするが。
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