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結果
しおりを挟む「魁斗、落ち着いてくださいまし。
大丈夫ですわ。
先程やった事を思い出してください」
「うぐっ……わ、分かった…」
「その調子ですわ」
私達はゆったりと踊り、曲が終わるとすぐに移動した。
それは天也の方も同じだったようだ。
だが、私がリードして、ゆったりした曲だとはいえこれだけ踊れるのは一種の才能だろう。
「あぁ、いた。
3人とも、探したよ」
「咲夜、愛音さん」
奏橙と紫月はいつもよりも数倍嬉しそうな表情で私達のところへやってきた。
そして、魁斗を見つけると愛音に質問した。
「その方は?」
「あ、私の弟の魁斗です」
「私が連れてきましたの」
「……強制的だったけど……」
魁斗がボソッと呟いた気がするが気にしないでおこう。
「咲夜らしいよ」
「だろ?」
……奏橙と天也は私に対する遠慮というものはないのだろうか?
そして、このメンバーを見てある事を思いついた。
「皆さん、夏休みは予定がもう入っていますか?」
「いや、俺は無いな。
あるのはパーティーの参加くらいだ」
「僕も天也と同じかな」
「私は何もないです」
「私は最後の3日間以外なら…」
天也、奏橙、愛音、紫月の順に答える。
…つまりは最初の方なら大丈夫だと?
「魁斗、あなたは?」
「え、と……大会は終わったから……最後の辺りは部活で忙しいけど……」
なら、大丈夫だね。
父に頼んでおこう。
「船は大丈夫ですの?」
と聞いてみるが全員大丈夫そうだった。
なら問題は全くない。
「では、7月の20から27でどうでしょう?」
「いいぞ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫です」
「問題ありません」
「空いてる…けど……?
何が?」
魁斗だけは戸惑っていたが他はOKしてくれた。
良かった。
後でまた父に連絡してお願いするのを忘れないようにしよう。
「咲夜の家は客船会社なんだよ。
海野グループ、聞いた事ないか?
まぁ、客船だけじゃなくホテル運業やリゾート開拓まで行っているが」
「は……?
………本当にお嬢様だったのか!?」
魁斗は私をなんと思っていたのだろうか?
そんな驚くことか。
一応、迎えに行く時もリムジンで行ったのだが?
しかもその魁斗と愛音が来ている服も私のお小遣いから出したのだが?
「まぁ、そんな訳でお父様にお願いして客船を貸していただきますわ」
まぁ、多分あの父なら私が頼めば1番いい客船を用意してくれるだろう。
母もなんだかんだで私に甘いから許してくれるはずだ。
「運がいいな。
咲夜のとこの客船なら1番安いプランでも1年待ちだぞ?
しかも、1番高いプランなら2年待ちだったか?」
「いえ、3年ですわ」
「伸びたな…」
それ程まで人気があるのだ。
少しだけ誇らしく思う。
全ては兄と両親、従業員達のおかげであり私は何もしていないのだが。
「しかも、咲夜のお父さんなら悠人先輩と同類だからね。
きっと1番いいプランのものになると思うよ」
「ま、まじか……」
魁斗は顔を引き攣らせていた。
……うん、気持ちは分かる。
私もそうだったし。
今はまぁ……多少は慣れたけど。
庶民との違いにもこ凄く戸惑うし。
『さて、盛り上がっているところだけどここで文化祭のランキング発表をしようと思う』
その明来先輩の声で皆、ピタリと声が止まった。
「ランキング?」
「えぇ…。
売上が全校1位のクラスに対しては片付けが免除されるんですの。
私達のクラス、1ー3が入ればいいのですが……」
「クラスの奴らのためにも入りたいな…」
光隆会メンバーはそちらの仕事もあり、片付けは免除されるが1ー3はメンバーが4人もいる。
そのせいで片付けが余計に大変になってしまうのだ。
そのためなんとしても入りたいところではあった。
『じゃあ、まずは3位から順にいこうか。
3位は2年5組、ケーキショップ。
僕も行かせてもらったけど……ケーキの種類が豊富でどれも美味しかったよ。
リピートの人も多かったみたいだね。
2年5組に大きな拍手を!」
明来先輩は講評も付けていたらしい。
たしかに、ケーキショップは色々種類があってどれにしようか迷っていた気がする。
それに、この文化祭の間に2回は行ったしね。
「2位は3年2組のお化け屋敷。
血糊もかなり使ってよりリアルさを出していたね。
最初に流していた動画もより恐怖感を出していたと思うよ。
3年2組に拍手を!」
……あれは、怖かった。
本気でヤバいと思った。
兄と一緒に行ったが何度がしがみついたし。
まぁ、兄は上機嫌になってたけどさ。
妙なとこでリアルなんだもん。
「そして、1位は……2位と圧倒的な差を付け、1年3組、コスプレ喫茶!」
私のクラスだと理解した瞬間、天也や奏橙、愛音とハイタッチをした。
他のクラスメイト達も喜んでいるのが見え、後でちゃんとみんなにお礼を言おうと思う。
「
3組に拍手を』
「や、やりましたわ!」
「よしっ!」
「よ、良かったです!」
「これで片付けは免除だね」
と、4人で喜んでいると、明来先輩が咳払いをしてから好評を始めた。
「3組は不利な状況を逆に利用したようだね。
それと、珍しい格好、というのも人気のあった理由かもしれないね。
けど、何よりクレープをお皿に広げて……という見た目を重視したり、ラテアートなどの工夫も良かったと思うよ。
それもあってかリピートの人も多かったみたいだね。
皆も知っての通り、悠人先輩の存在も少なからずあったんだろうけど……。
行った人は分かるだろうけど…1つ1つのメニューに工夫を凝らしているのが良かったと思う。
3組に拍手を!」
という先輩の声で今までよりも大きな拍手が会場に響く。
ラテアートなんかは奏橙しか出来なかった事もあり、クラスで何人かが奏橙に教えて貰い、それを実用可能なレベルまで上達させたクラスメイトも、そこまで引き上げた奏橙も大変だっただろう。
クレープに関しても生地の味を変えたりということもして視覚も味覚も楽しめるように、と色々な工夫をしてきた。
そんな苦労が報われたきがした。
皆で楽しみながらも試行錯誤して作り上げてきた文化祭が終わったと、今更ながらに感じた。
「先輩と皆のおかげだな」
「咲夜が稼いでくださったおかげです!」
……うちのクラスの稼ぎはほとんどは私のコスプレで兄が支払ったものらしい。
……兄のおかげとも言えるこの現実に感謝したいとは思うものの素直になれない私だった。
「……さすが悠人先輩。
咲夜に関しては金にいと目をつけないな…」
「今回の件で考え直してくださればいいのですが……」
「無理だな」
「無理だね」
「無理だと思いますよ?」
「無理じゃないですか?」
「無理です」
「無理だと思いますわ」
……皆から否定された。
……何故だろうか?
物凄く虚しい。
「ですが、皆さんのおかげで1位をとれたと思います。
奏橙や奏橙にラテアートを教えてもらった方達の頑張りがあり、メニューにラテアートを入れることが出来ました。
調理組のおかげで、クレープが視覚と味覚の両方で楽しめるものとなりましたわ。
広報組のおかげで人を集めることが出来ました。
衣装組のおかげで、私を含めたホール組との写真撮影が成立致しました」
「ホール組は……言わずとも、だな」
「えぇ、皆さんの頑張りがありこの結果を取れましたわ。
お疲れ様でした、そしてありがとうございます」
私と天也は学級委員として、クラスメイトにお礼の言葉を口にし頭を下げた。
「天也と咲夜も学級委員としてかなり頑張ってもらったと思うけど。
特に咲夜なんか、1人1人の頑張りをちゃんとみて、言葉をかけたりして纏めていたしね。
天也は天也で完全に皆のサポートに回っていたしね。
僕達よりも咲夜と天也の2人の方が大変だったと思うけど……ありがとう」
奏橙がそんな事をいうなんて熱でもあるのかとも思ったがどうやら正常らしい。
私や天也の視線に、奏橙は苦笑をもらしたがお咎めは無しだった。
それからクラスの皆でお礼を言い合ってパーティーは終了した。
家に着くと、真っ先に兄が出迎えてくれる。
「……咲夜…」
「お兄様、ただいま帰りました」
「あぁ、おかえり咲夜。
どうだった?」
「楽しかったです。
クラスの皆さんのおかげで無事、1位を取ることが出来ました!」
私がその時のことを思い出し微笑むと兄は優しく微笑んだ。
そして、私に座るように告げると、兄はお茶を淹れ始めた。
兄に言われた通り、ソファに座ると兄が淹れたてのお茶をだしてくれた。
兄のお茶は意外と美味しいのだ。
「美味しいです……。
ありがとうございます、お兄様」
「そう言ってもらえて良かったよ」
兄は嬉しそうに笑うと、いつものように優しく私の頭を撫でる。
兄のお茶もあってか、だんだんと眠くなってくる。
それに気付いたのか、兄は私に休むように言うと、私の専属である清水を呼んだ。
「悪いけど、咲夜を頼むよ。
疲れが溜まっているようだからね。
お願いできるかな?」
「はい、お任せ下さいませ、悠人様」
清水が恭しく礼をすると、兄はフッと笑った。
兄の機嫌が良い時の証だ。
私は、そんな兄に一言だけ告げ、清水と共に部屋に戻るのだった。
「悠人様はかなり機嫌がよろしいようですね、咲夜様?」
清水は私が小さい頃から仕えていたからか兄の事は良くわかっているようだ。
「……ただ、お礼を口にしただけですわ」
「……………悠人様のお病気はそれほどまでに重症だったのですね」
周りにいた他の使用人達まで頭を抱えている始末。
皆にとってもそれほどに兄の病気は厄介らしい。
だが、今回はそこまでではないのではないかと思うのだが。
「清水、あの件はお兄様には内密にね?」
「畏まりました、お嬢様」
勿論、内容は天也からの告白だ。
それが兄の耳に入れば天也がどうなるのか分からないからね。
昨日、まる1日考えた。
天也の事について、そして愛音に気付かされた事について。
一昨日、文化祭が終わってから愛音に相談した時、言われた事があった。
『咲夜は僅かでもそんな気持ちが無ければキッパリと断ります!
それはまだ知り合って間もない私でも分かることです。
咲夜が断らなかったという事はきっと好きなんじゃないんですか?
きっと咲夜は気付いて無いだけです!』
でも、私は恋愛感情なんて分からない。
前世でも恋なんて1度もした事が無かったから。
確かに、時々ドキッとする事はあったし、カッコイイと思う事もあった。
……だけど、本当に私は天也の事が好きなのだろうか?
この感情は本当に恋なのだろうか?
私にはそれが分からなかった。
愛音に言われたあともそんな事を思っていた。
だが、それを見透かすように愛音は言ったのだ。
『なら、もしも奏橙さんや先輩から告白されていたなら咲夜はこんなに悩みましたか?』
そう言われてしまった。
……私は、きっと奏橙や先輩から告白されたのであればキッパリと断った。
そう伝えると愛音は笑顔になった。
『……もし、天也が他の方に告白していたら咲夜はどう思いますか?』
そんな愛音の言葉の通りに想像してみると何故かモヤッとした。
胸がギュッと締まるようなそんな苦しさだった。
『それが恋です。
咲夜は天也の事が好きなんです!』
すると、何故か先程とは違いストンと胸に落ちた。
恋をしている。
それも、あの天也に対して。
そう考えるととてつもなく恥ずかしく感じた。
「私が、天也に……ううぅぅぅぅ……」
私は天也の事を思い出すと顔を染め上げ近くにあった枕で顔を隠した。
すると、トントントンとノックの音が聞こえ慌てて体勢を直した。
「どうぞ」
「失礼致します。
夏休みの客船について、旦那様から後程連絡が入るそうです」
「分かりました」
きっと途中で母が出てきて私の話し相手は変わるだろうな、などと思いながら私はこれからのことについて考えるのだった。
天也の告白を、受けるか否かを。
好きだからといって告白を受けるかといえばそうではないのだから。
それに、これは一時のもので、愛音にのせられそう思い込んでいるだけかもしれないしね。
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