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「きゃあぁぁ! 可愛い!
可愛いわ! 咲夜ちゃん!」

「あぁ! 咲夜は可愛いぞ! いつもにまして可愛い!」

「父さん、母さん何言ってるの……。
咲夜が可愛いのは当たり前の事だよ」


朝から私は捕まっていた。
母と父、そこに兄まで加わり討論が始まったのだ。

……一体この家族は何をしているんだか。
このシスコン兄と親馬鹿両親め!


「お母様、お父様! お兄様も! 遅れてしまいます!」

「あら、ごめんなさいね。ついつい白熱しちゃって……」

「すまないな、咲夜。そろそろ行かなければいけないからね」

「ごめんね、咲夜。さぁ、行こうか」


私の一声でやっとあの騒ぎは終了した。
だが、三人とも悪びれた様子は微塵も無かった。

朝から無駄に疲れた気がする。
まぁ、愛されてるって事だよね……?


車の中で兄から細かい説明を受け、クラスが張り出されているはずの場所へと私は向かった。
兄は光隆会としての仕事があるらしく皐月先輩に連行された。


「えーっと……あ、ここかな」


歩いていると人盛りを見つけた為、そこに向かって歩いていく。
案の定そこにはクラスが張り出されていた。
私の名前を一組から順に探していく。
私の名前は海野咲夜だから名前があるとすれば上の方にあるはずだ。

一組だった。

入学式って一組から入場だったよなぁ……。
って事は前の方か……。

友人がいればその名前も探すのであろうが残念ながらというべきか、私にはまだ友人は存在しない。

……来年までに出来ればいいと思う。
本当に。早くヒロイン入学してこないかな……。
同じ転生者で性格最悪出なければ友人になれるはず。

最初は教室に集まるとの事なので新品の上履きに履き替え、一人で教室に向かった。


教室には既に何人かがいて、早いなぁ……と感心しつつ、私は自分の番号が書いてある席に座った。

友人がいればこういう時とかに話せるんだろうなぁ……と思うがいないものは仕方ない。
取り敢えず友達を一人でも作るとこから始めようと思う。

私は暇になったため、窓の外を眺めながら周りの話しに耳を澄ました。


「このクラスにあの天野様がいらっしゃるんですって!」

「確か、神崎様も御一緒よね!」


……とんでもないクラスだったようです。
天野天也に神崎奏橙、よりによってそこの二人と同じだとは。

あぁ、そういえば一組の最初に天野って見た気がする。
すっかり忘れていた……。


「あぁ、最悪だ」


周りに聞こえない程の声でつぶやく。


「あ……天野様よ!」

「神崎様も御一緒してるようですわ!」


このクラスの令嬢達はどうやら肉食系らしい。
私は周りのテンションについていけず遂には窓の外を見ていることにした。
もういいや、友達とかどうでもいい。
それより、攻略対象者の二人と関わらない方面でいこう。


「……すまない、開けてくれないか?」

「ごめんね、通してくれるかな?」


二人は人気者のようで自分の席に着くことも出来ていないらしい。
あぁ、可哀想に。

……えぇ、人事ですよ。
私には全くもって関係ない人達だからね。
関わりたくもない。
少し、ざまぁ、とか思ってたりもするけど。

……いや、ゲームだと確かに神崎 奏橙は好きなキャラだったさ。
けど、目の保養にはなるけど腹黒いキャラだったし関わるなんてのはゴメンだ!

現実とゲームは違うんだよ!
それに、死亡フラグなんて立てたくないし!



「あ……咲夜!
同じクラスになれたな」


なのに、何故この馬鹿…天野天也は何故こんなにも嬉しそうに私を見つけて話しかけてくるのだろうか?

天也が私に話しかけてきたせいか令嬢達がキッと私を睨みつけてきた。
その視線が痛いと思うのは当然の事だろう。
小心者の私には辛いものがある。
まだ、前世の記憶がない私なら良かったかもしれないけど。

「……えぇ、そうですね。
それよりも、後ろの令嬢達はよろしいのですか?」

「ん?
あぁ、気にしなくていい」


気にするわ!

言外に私に話しかけるな。
話しかけるくらいなら後ろの令嬢達の相手でもしていろ、と言ったつもりだったんだが……どうやら通じなかったらしい。
それとも、わざとやっているのか……。


「君が海野咲夜さん?」

「……そうですが、何か?」


こいつもか!!
何としても私を引き込みたいらしい。

いや、まだ諦める必要はないはず!


「あぁ、ごめん。
僕は神崎奏橙。
よろしく、海野さん」

「……えぇ、宜しくお願い致しますわ」


頼むから一人にしてくれ。
腹黒なんかと宜しくしたくなんかない……。
私は関わりたくないんだという思いを視線に込めるが気付いているだろうに何故か笑顔を向けられた。


「おい、奏橙。
この前の話、忘れてないよな?」

「はぁ……分かってるよ」


一体何なんだ。
私を使って賭けでもしているのだろうか。

そんな時、教室に白鳥先輩らしき人物が入ってくる。


「全員いるかな?
……うん、いるみたいだね。
初めまして。
僕は第4学年、光隆会メンバーの白鳥涼太です。
今から入学式なので並んでください」


あぁ、やっとか……というこの攻略対象者二人から解放される安堵で胸がいっぱいになる。
というか、こういうのって先生じゃなくて先輩がやるんだ。
それだけ、光隆会の権力が大きいということなんだろうけど、普通の学校での記憶がある私にとっては違和感がある。

……確か新入生代表の挨拶の後に在校生代表だよね。
在校生代表って皐月先輩だったっけ?
で、その後が光隆会会長だったよね。

あれ?
そういえば会長って誰だろう?

ま、いっか。
後で分かるだろうし。
最悪、昼休みに兄に聞いてみればいい。

それにしても緊張する。
兄の顔に泥を塗る事がないように気をつけなければいけないという緊張と新入生代表として、大勢の前に立って話さなければいけないという2つの緊張だ。


「白鳥先輩!?」

「あの白鳥先輩ですの!?」

「わ、私!
ずっとファンだったんですぅ!!」


白鳥先輩って有名なのかな?
……あぁ、顔だけはいいもんね。
というか、最後の子。
ずっとファンだったって……。

納得した。
性格は知らないだけで顔だけはっていうのには特に意味はないけど。
白鳥先輩は困り顔だったが、私を見つけると声をかけてきた。
声をかけなくて良かったのに。


「あ、さく……海野さん、1組だったんだね。
悠人が担当変われっていう訳だよ……」



兄よ。
何をやっているんだ!!
担当変われって……駄目でしょう!!
あれ、そういえば兄の担当って何だろ?
……ま、いっか。
それより、1つ気になった。


「私、お兄様にクラス教えていないのですが……」


そう、兄は私のクラスなんて知らないはずなのだ。
それなのに何故知ってる!?
私の一言で白鳥先輩も固まった。


「え……?
悠人……あいつ……いや、まさか……。
シスコンにも程があるだろう……」


顔を引き攣らせてそんな事を言っていたが知らないフリをすることにした。
この件には突っ込んじゃいけない気がする。


「……またあの子?」

「いい気にならないで欲しいわ」

「きっと何かしたんだわ」


散々な言い様だな。
気にしないけどさ。


「白鳥先輩、行かなくて大丈夫なのでしょうか?
兄の事は……その、申し訳ありません…」


私は深く頭を下げる。
兄がやらかしたのは私のせいらしいからそれくらいはしなければ……。


「いいよいいよ!
悠人の事はいいから!
頭上げて!」

「涼太、変わるよ。
咲夜、大丈夫だったかい?
こいつに何か変な事はされていないかい?」


兄よ……仕事はどうした!?
というか、やっぱり兄め人気なんだな。


「キャァァァァ!!
悠人先輩よ!」

「恰好いぃ……」


いやいや、恰好いいかもしれないけどさ……シスコンだよ!?
もう一度言う、シスコンだよ!?
というか、白鳥先輩よりも人気っぽい?


「お兄様!
何故、ここにいるんですか!?」

「それは勿論、僕の可愛い妹が心配だったからに決まっているじゃないか」

「お兄様、仕事は……」


兄はニコッと笑って誤魔化した。
つまり仕事を放り出したらしい。


「お兄様……駄目じゃないですか!
それよりも、何故私のクラス知ってるんですか!?」

「それは可愛い妹の事だからね。
何でも知ってるさ」


え?
何故だろうか、鳥肌が……。

そこで、白鳥先輩が声をかけた。


「あ、廊下に並んでください!」


白鳥先輩は兄をスルーする事に決めたようだ。
それに倣い、私は兄の事を忘れる事にした。
だが、何故か私の隣で兄がニコニコと笑っている。

気にしない、気にしないと決めたんだ!

さて、挨拶どうしようか?
全くと言っていい程考えていなかった。


挨拶を考えているうちにほぼほぼ終了し残るは挨拶だけとなった。


「新入生代表、海野 咲夜」

「はい」


私は立ち上がりゆっくりと歩きだす。
皆から視線が集まり少し強ばる。
だが、視界に兄と皐月先輩の笑顔が入った事で変な力が抜けた。
壇上に上がると一礼し、1度周りを見渡す。
そして、深めに息を吸い込んだ。


「本日、私達のためにこのような会を開いてくださりありがとうございます。
私達はこの学院の生徒になるにあたりーーーーーー。
ーーーーーーーーーーこれで新入生代表の挨拶を終わらせていただきます」


私は再び1歩下がり、一礼した後壇上から降り席へと向かった。
……あぁ、緊張した。
失敗はしてなかったよね?
……うん、大丈夫なはずだ。

それから皐月先輩の祝の言葉の後に光隆会会長の挨拶があった。
……そして、光隆会会長はまさかの兄でした。

………聞いてないよ!!
っていうか会長なら尚更仕事サボっちゃ駄目じゃないの!?
私、てっきり皐月先輩か白鳥先輩だと思ってたんだけど!!


「先程の新入生代表の挨拶をしてくれた咲夜は僕の妹だけど……手を出した奴はやる。
それより、さっきの挨拶の姿は本当に可愛い……」

「会長」


色々言いたいことがありすぎた。
兄の挨拶だけでかなり長引いたうえ、話が逸れることが多くあった。
在校生は慣れているようで特に気にした様子はなかったが、あれは酷いと思う。
特に、私に対して。
それに、やるって絶対殺るの方だよね?


「新入生退場」


この入学式が凄く長く感じたが、やっと終わるらしい。

私達は各学級に戻った後、出席番号順で簡単に自己紹介を行った。
因みに私の番号は2番だ。


「天野天也だ。
家の事は関係無く、気兼ねなく接してほしい。
1年間、よろしく頼む」

「…海野咲夜ですわ。
よろしくお願いします」


と、私は簡潔に述べ座ろうとした。
が、先生はそれを許さなかった。


「それだけか?」

「それだけです」

「…何か無いのか、好きなこととかは」

「…特にないです」

「何かもう一言くらいないのか?」


そう言われ少しだけ考えた。
その時、昨日の件が頭を過ぎる。
兄の機嫌が悪くなった時だ。


「……お兄様がこの教室に来た時は遠慮なく追い返すか、私がいないと伝えてください」

「………それはそれでどうかと思うぞ?
まぁいい、次」


いやぁ、だって下手な事言えないじゃん。
他の人と同じような事を言わないと変な奴として扱われるの確定してるし。


「神崎奏橙です。
一応、音楽が好きなので他に好きな人がいたら一緒に演奏出来れば嬉しいです。
よろしくお願いします」


………皆の挨拶が終了したところで学級委員を決めるらしい。
私には関係ないとシラを切っていたが思わぬところで回ってきてしまった。


「女子は…首席の海野、どうだ?」

「良いと思いますわ」

「えぇ、そうね」

「首席の方ですものね」

「やるべきですわ」


などと言われ、断れなかったのだ。
……あぁ、面倒臭い。


「男子は…誰かやりたい奴いるか?」

「はい」


そうして手をあげたのは案の定、私の関わりたくないランキングのトップを独走中のあの方、天野天也ですよ。
……はぁ、断固として拒否するべきだった。


「他にいないな?
なら、男子からは天野。
女子からは海野に頼む」


女子から恨めしそうな目で見られる私。

……いやいや、推薦したのは先生で断れなくしたのは貴方方でしょう。
などと言いたくなったのは仕方ないだろう。


「咲夜、宜しくな」

「……えぇ、よろしくお願いします」


ここが諦め時、か。
仕方ない、フラグを折りにいくか。
フラグを折るにはって考えるとやっぱ友人になっておけばいいのだろうか?
だが、そうした時に女子の友人が出来なくなる気がする。
……はぁ、面倒臭い。


「咲夜、これが終わったら少しいいか?」


嫌だ、とは言えず頷く。
学級委員の話だろうか?
いや、そうだと願いたい。
面倒臭い事に巻き込まれたくないのだ。
遂に、今日の予定されていた日程が終わり天也について行く。
そして、何故か神崎 奏橙もついてきた。

……家の事で何か話があるのだろうか?
それとも首席の事だろうか?


「海野さんこんなところに呼び出してごめんね」

「要件は何でしょうか?」


さっさと終わらせて兄のところに行きたいのだ。
入学式が終わったら兄と私の好きなマカロンを買いにいくと約束してあるのだ。
そのため私は早く済ませたくてうずうずしている。


「それは天也から」

「咲夜」

「何ですか?」


何故だか天也の顔が赤い気がする。
気の所為だろうか?


「その……お、俺の友人になってくれ!」

「え………嫌です。
お断りします。
断固拒否します」

「そ、そうか!
よかっ……え?
な、何故だ!?」


え?
何故って……そりゃあ……。


「面倒事には関わりたくありませんから。
それに、私は今からマカロンを買いに行くという重要な予定があるんです。
ですからそんな暇はありません」

「俺、マカロンより下………」


ブツブツと何か言いながら俯いている天野天也。

あ、傷ついた?
悪気があったわけじゃないんだよ?

私は溜息を吐いて理由を続けた。


「……まず、何故私なんですか…。
他にもいると思いますが……」

「俺の周りに近付いて来る奴は大抵俺の肩書きが目的であり俺に対して、俺の家を見ているに過ぎない。
俺はそんな奴と居る気はないんだ。
だが咲夜は違うだろう?
咲夜は俺自身を見てくれるからな」


あぁ、つまり私は最初の時点で失敗したのか。
だからあんなにしつこかったのか……。
まぁ、友人位にはなってもいいか。
フラグ、ボキッと折りに行かないとだし。


「……分かりました。
いいですよ」

「本当か!」

「えぇ、二言はありません」


しつこいな。
というか、それ以上に嬉しそうだな。


「良かったね、天也」

「あぁ!
お前のお陰だ奏橙!」


……そろそろ帰っていいだろうか?


「俺の事は天也と呼んでくれ」

「僕の事は奏橙でいいよ」

「では、私のことも咲夜と。
……ただし、兄の前では苗字で呼ぶようにしてください」


兄の前で呼ばれたらまた機嫌が悪くなる。
そんなことになってたまるか。
昨日はなんとかなったけどまたなんとかなるとは限らないからね。


「見つけた、咲夜。
さぁ、行こうか」

「え……お兄様……?
何故ここに……?」


まさかの兄の来訪に驚きを隠せない私だった。
いや、だってまさか兄が来るとは思わないじゃないか!


「咲夜が心配だったからね。
迎えに来たんだよ」

「光隆会のお仕事は…」

「光隆会よりも咲夜の方が優先順位は上だからね」


つまりやっていない…と。
駄目でしょう!?
やろうよ!!
っていうか、やらなきゃ駄目だよ!!


「お兄様……皐月先輩に怒られますよ?」

「如月さんは振り切ってきたから大丈夫」


尚、悪いわ!!
皐月先輩に申し訳ないではないか!


「お兄様、私待っていますからお仕事を終わらせてきてください!
そうでないと私、皐月先輩に申し訳なくて楽しめないです……」

「咲夜……そうだね。
分かったよ、すぐに終わらせてくるから待っててくれるかい?」

「はい!」


兄はすぐに仕事へと向かって行った。
それを確認してから私はため息をついた。
そうなるのも仕方ないだろう。


「兄が挨拶もせずに申し訳ありません」

「いや、気にしてはないが……なんというか、独特?な人だな……」


それは…否定出来ないね。
確かに独特だし。


「天也様、奏橙様、そろそろ戻りませんか?
兄がきた事でこの場所がバレてしまった様ですし……」

「あぁ、だが……様は辞めてくれ。
普通に呼び捨てで構わない」

「分かりましたわ」


まぁ、確かに様ってなんか嫌だしね。
奏橙の方も
「僕も呼び捨てにしてほしいな」
という事だったのでそちらも了承する。


「明日から昼食を一緒にとらないか?」

「無理ですね。
既に兄と皐月先輩と約束しているので。
…まぁ、皐月先輩から許可をいただけたのであれば別ですけど」


その場合は兄を私が説得しよう。
今更だが、私の中では兄よりも皐月先輩の方が上らしい。
……まぁ、あんまり変わらないけど。


「如月グループの令嬢か……。
分かった!」

「え……ちょっ……今はまずっ……。
あぁぁぁぁ!
もう!」


走って行くとかありえないから!
それに今行くと絶対兄がいるし!!
奏橙も笑ってないで追いかけようよ!


「咲夜って令嬢って感じしないよね。
あ、勿論いい意味で、だけど」

「蹴り飛ばしてさしあげましょうか?」

「いや、お断りしておくよ」


その言葉にいい意味も悪い意味もあるのか。
まぁ、確かに令嬢って雰囲気じゃないだろうけどさ。


「それより早く追いかけないと不味いです。
兄の機嫌が悪くなりますから…」

「お兄さんってそんな怖いの?」

「…私に対しては優しいですよ?
ただ…その、他の方になると怖いです。
特に機嫌が悪い時は…その、
『手が滑ってしまって』
『ついつい足が滑ってしまって』
と言い何度か………」


兄は怖いのだ。
……笑顔でいるのに何故か殺気のようなものを感じたり…。
兄は前世、暗殺者などやっていたのではと感じる程だからね。


「急ごうか」

「えぇ……」


もう遅い気がするけど。

案の定、私達が光隆会の部屋に着いた頃には兄の機嫌は悪くなっていた。


「さ、皐月先輩、これは……」

「天野さんが明日の食事を一緒にとってもいいかと聞きにきたのですが……。
咲夜さんに近付くな、と海野さんが……」


あぁ……兄が本当に申し訳ありません…。


「咲夜と友人になった?
君と?
僕はそれを認めていない」


と、そのあたりで私は軽くキレそうになる。
何故私が友人を作るのを兄に認めてもらわなければないないのだと。
こんなところでそんな事をして…くだらない。
皐月先輩に迷惑をかけるな、と。


「…お兄様、これ以上皐月先輩に迷惑をかける様でしたら…一週間お兄様とは会話をしません!」


……言ってしまってから気付く。
……兄の機嫌が益々悪くなったらどうしよう、と。

…時、既に遅し…。


「さ、咲夜!?
何を言って…」

「もうお兄様なんて知りません!」

「咲夜!
ま、待ってくれ!
僕が悪かった。
だから、ほらそんな事を言わないでくれ。

…こいつとの昼食の件も許可するし、如月さんに迷惑はかけない。
だから、嘘でも会話しないだなんて言わないでくれ」


思いの外兄の動揺が激しかった。
私は扉の前で立ち止まり、兄をみる。


「…本当、ですか?」

「あぁ、約束する!」

「分かりました…。
約束、ですよ?
守らなかったら一週間会話しませんから!」

「あぁ、必ず守る」


ふぅ…これで一件落着、だね。
……今更だが、視線が痛い。
まぁ、これだけ騒いだら当然といえば当然なんだろうけど。


「この子が海野の妹か。
確か首席だったよなぁ……。
って事は1年の光隆会メンバーの中に入ってるのか。
俺は6年代表の鬼龍院 和希だ。
よろしくな」


6年生でしたか。


「海野咲夜です。
お騒がせしてしまい申し訳ありません…」

「気にすんな」


気軽そうな先輩、それが第一印象だった。
だが、兄と白鳥先輩が横から……。


「先輩、妹に近づかないでください。
先輩の変人が妹に伝染ったらどうしてくれるんですか」

「海野さん、あの人には出来るだけ近付かないで。
あの人は変人だから…」


………白鳥先輩と兄から変人と呼ばれるなんて……何をしたんだ。


「あ、そういえば……1年の光隆会メンバーって分かる?」


白鳥先輩が話題を変えるように聞いてきた。
……そんなに鬼龍院先輩に近付かせたくないのだろうか?


「試験の上位3人、でしたよね?」

「そう、悠人から聞いたの?」

「はい。
お兄様に色々と教えてもらいました」


入学前に、ね。


「上位3名でしたら、私と天也と奏橙ですよ」

「あぁ、天野家と神崎家の……。
どんな人なの?」


え?
……あ、そっか。
紹介してなかったか。
知らなくて当然、だね。


「紹介します。
私の隣にいるのが奏橙で、お兄様の機嫌を損ねたのが天也です」

「へぇ……って、え?
海野さん、2人と知り合いだったの!?」


あ、こういう人面白くていいなぁ…。
からかうと面白いタイプの人だよね。
同学年なら確実にいじってた。

そんなことを考える私は駄目なのだろう。


「いえ、天也とは試験の日に奏橙とは今日知り合いました。
私達3人は同じクラスなので」

「へぇ……それにしては仲いいね」

「そうですか?」


そんなにも仲が良さそうに見えるのだろうかと私は首を傾げた。


「そんな事、僕は許してない!」


と、案の定兄が突っかかってきた。
本当に、何故兄はシスコンになったのだろうか?
いや、殺されるよりはいいけどさ。
私の負担が増えた気がする。

人知れず私は溜息を吐いたのであった。
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