上 下
6 / 39

5

しおりを挟む

それから月日が流れ、私は一人前の回復術師となった。
幼馴染のカーフィスも回復術師の護衛を任されるだけの信頼と強さを手に入れていた。


「ルーディア様、そろそろ専属の騎士を付けなければ示しが付きませんぞ!」

「ルバート卿……申し訳ありません。
専属の騎士を選ばなければいけない事は理解しております。
ですが、信用できると思える者が中々見つからないのです。
探そうと思ってはいるのですがまだまだ力の足りない私ですからそのような時間も無いのです」


流石にそう口にするとルバート卿も諦めざるを得ないようで顔を顰めなた。


「……ルーディア様、お願いしますぞ。
早めに決めていただきたい」

「えぇ、出来るだけ早く決めるようにいたします」


私は笑顔でそう口にするといつも通り、立ち去ろうとした。
だが……。


「その必要は無いぜ」

「……貴殿は…」

「ルーディア、悪ぃ。
待たせちまったな。
約束通り、ここまで来たぜ。
お前の専属になるにはまだ足りねぇかもしれねぇけど……な」


それは、長らく会うことの無かった幼馴染だった。
あの約束の日よりも逞しくなっていた幼馴染はあの頃と変わらぬ笑みを浮かべた。


「……カーフィス卿か。
誰かの専属にはならぬと聞いていたが?」

「ここに来る前、ルーディアの専属になると約束をしていたので」

「ほぅ?」


ルバート卿が興味深そうに私を見つめた。
それさえも気にならない程に私はカーフィスの言葉に驚いていた。
あのカーフィスが約束を覚えていると思っていなかったからだ。


「……カーフィス、あなたは……」

「ルーディア…」

「馬鹿ですね。
私に着いてきた時も思いましたが……。
あなたはあなたの道を行けばいいというのにまだあの頃の約束を果たそうとするだなんて……。
馬鹿の極みですね。
流石は、カーフィスです。
バカーフィスと言われていただけあります」

「おい!?
ちょっと待ちやがれ!
バカーフィスって何だ!?
初耳だぞ!?」

「馬鹿とカーフィスを縮めてバカーフィスです」

「そんな事聞いてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!?」


相変わらずうるさいカーフィスだったがあの頃はそんなところに救われていた。
何もわからず、不安で泣きそうになった時も私はカーフィスの馬鹿さに救われてきた。
私が前世の記憶を持っていると知っていたらどうなっていただろうか?

……馬鹿は変わらない気がする。
本能に従って行動する奴だし。


「ルーディア、俺は誓おう。
主神エンディールに…俺の命をかけて。
俺はお前を守り抜く。
だから、お前の騎士にしてくれ」

「……本当に馬鹿ですね。
……はぁ、分かりました。
私、ルーディアは主神エンディールとエンディールが第5子、シヴァへと誓います。
私はこの者を最後まで私の騎士とし、信じぬくと。
…カーフィス、私の騎士になってくれますね?」

「あぁ」


その誓いを交わした後、私の魔力がカーフィスに流れ込み、変わりにカーフィスの魔力が私へと流れこむ。
そして、その魔力は最終的に双方の右手の人差し指に可愛くも綺麗な鍵と門を作り出した。


「この様な形で見られるとは……。
しかも、門と鍵……か…。
ルーディア様、無事、専属を立てられたようで何よりですぞ」

「……えぇ、では、私は失礼致します」


まさか、こんな形でカーフィスを専属にするとは思っていなかった。


「ルーディア、よろしくな」

「……えぇ。
とりあえず、私の部屋に行きましょう」

「おう。
……なぁ、ずっと思ってたけど…何でそんな固い口調なんだよ?」

「それも後で話します」


こうして、私はカーフィスを専属にし、2人での行動が始まった。
それからすぐに戦争が始まり、私が『戦場の回復術師』の2つ名で知れ渡る事になったのだが……。

この時の私とカーフィスは知る由もなく、ただただ平凡な日々を過ごしていくのだと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...