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カイン

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私がルナに初めて出会ったのは、ルナが5歳の時だった。
その時、何かに怯えるようにヴォルの背に隠れていたことが印象的だった。


「ルーナ、俺の友人だから大丈夫だ。
ほら、挨拶しろ。
……あー、もうめんどくせぇ!
後ろに隠れんな!」


ヴォルは妹を前に押し出すと、その子はチラッと不安そうにヴォルを見たあと、私に挨拶をした。
あんなにも怯えていたのに挨拶をするときには怯えを感じさせない彼女が、何故か気になった。


「ルーナ・レヴィンです」

「カイン・アルセラートだ。
そんなに怯える必要は無い」

「あー、カイン。
悪い、ルーナが怯えてんのはお前じゃないから気にしないでくれ。
こいつ、まだ魔法の制御が出来ないんだ。
そのせいで傷付けるかもしれないって、怯えてるだけだから」


魔法の制御が出来ていない、それはよくあることだった。
有力な貴族には特にだ。
基本的に上位の家になるごとに魔力の質も、その量も大きくなっていく。
公爵家の生まれであればそうおかしなことでもなかった。


「あぁ、それなら問題ない。
これでも王族だからな。
防御陣は張ってある」

「あー……。
多分、ルーナのはそんなんじゃ防げないぞ。
俺の親父が骨何本か折ったことあっただろ?
あれ、防御陣張ってあったけど、ルーナの暴走で折ったから」

「なっ……」


先日、王宮にレヴィン公爵が重傷を負ったためしばらく休暇をとるという旨が届いていた。
それを確認するために見舞いに行ったのだが、あれはかなり酷かった。
全身に包帯を巻き付けられ、所々血が滲むほどだった。
レヴィン公爵自身は元気そうではあったが……あれを、彼女がやったと?


「それは……危険だな」

「おう。
まぁ、それでルーナがこうなっちまってな。
お前なら別に怪我しても問題なさそうだから連れてきた」

「おい、待て。
どういう意味だヴォル」


かなり酷いな。
仮にも王族なのだが。
私なら怪我をしても大丈夫だとはどういうことだ。
他に人が居れば捕まっていたぞ。


「私は近づくと避けられるのだが、カインはいいのか?」

「あー、それな」

「お兄さまは頑丈だから」


ヴォルの背に隠れながら、ルーナはうっすらと微笑んで、そう口にした。


「くっ……くくっ……そうか、頑丈、か」

「それに……お兄さま馬鹿だから怪我しないって、お母さまが言ってたもの。
お父さまも、お兄さまは馬鹿だから死ぬことはないから大丈夫だって」


公爵も夫人もそれをルーナに言っていいのか。
いや、それより馬鹿は関係ないのではないだろうか?
若干、ルーナが騙されているような気がするでもないが……まぁ、私には関係ないしな。
何より、安心しきったようにヴォルに懐いている彼女はかわいらしかった。


「おい待て。
それ、俺は初耳なんだけど?」

「ルエラが、お兄さまは言っても理解する脳がないから言わない方がいいって」

「……そうか」

「うん!」


仲のいい兄妹だ。
ルエラ、というのは家の使用人か何かだろうな。
にしても、ヴォルとは違ってルーナは可愛らしいな。
ヴォルの妹と聞いていたからもっと活発で礼儀を軽んじる者かと思えば……。


「ルーナ、私を傷つけるなどという心配は要らない。
ヴォルが壁になるからな。
だから安心するといい」

「おい、カイン!
勝手に壁にしようとするな!」

「お兄さまが……?
ホントに、傷付かないのですか?」

「うっ……ル、ルーナ。
俺がどうにかするから大丈夫だ」

「……はい!」


うん、やはりヴォルと違ってルーナは純粋で可愛いな。
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