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「さて、今年の特別メニューはSランク冒険者、マルス殿の直々の訓練だ!」


その教官の声にワッと歓声が上がる。
私とレオ以外からは。
何故ならば、お母様がSSランク冒険者であり、私はいつもそんなお母様のメニューをこなしてきた。
そして、レオは時々ではあったもののお母様のメニューをやらされていたのだ。
しかももう私もSランクになった。
まぁ、つまり感覚が麻痺していた。


「Sランク冒険者のマルスだ。
SSランクの『戦火の天獄』に剣を教わっていた事もある。
1週間、俺がお前達を強くしてやろう」


『戦火の天獄に剣を教わっていた』

その言葉に私は笑顔になる。
笑顔とは名ばかりの黒い笑みではあるが。


「アメリアさん……?」

「リ、リア…落ち着け」

「あら……充分落ち着いていますわよ?」


私は2人に対しニコッと笑顔で返すと引きつった笑みが返ってきた。
心外だ。

だが、それよりも心外なのはお母様に剣を教わっていたと口にしたあの人物だ。
お母様の品位を落とす様な事を口にしたあの人物に対してただただ怒りが込み上げてくる。
それを先輩や教官の手前ぐっと堪えているに過ぎないのだ。
もはやいつ爆発してもおかしくない。


「『戦火の天獄』に一太刀いれられるのは俺だけだろうな!」


そこで私は完全にキレた。


「お母様の品位を落とさないでくださりませんの?
あなたがお母様に一太刀いれた?
ふふっ……嘘ですわね。
お母様はそんなにも弱くありませんわ。
それに、もし本当だとしても『俺だけ』?
私もお母様に一太刀くらいは当てられますわ。
デタラメを言わないでくださいまし」


これを言った事に対し反省はしている。
だが、後悔はしていない。
お母様がこんな品位の欠片もない方に一太刀いれられるなどありえない。
一年前、少なくともお母様は私いか一太刀いれた者はいないと言ったのだから。


「お母様?
って事は……お前があの『白銀騎士』や『戦火の騎士』って呼ばれてる奴か」

「あら、ご存知でしたようで何よりですわ。
お母様に一瞬で敗北した『炎剣』さん」


私はお返しとばかりにニコッと返すとマルスはグッと言葉を詰まらせた。
そして、何を考えたのか私と決闘だ、などと言い出した。


「お前に言葉使いと言うものを教えてやろう」

「あら、結構ですわ。
これでも貴族の端くれですもの。
言葉使いについては厳しく教えられて来ましたので。
ですが、その決闘はお受け致しますわ。
……お母様の品位を落としたくはございませんから」


私とマルスは決闘ということで中央に出る。
審判は教官が務めるようだ。


「ルールは、相手が死に至る攻撃はしないこと。
そして、周りの者を傷つけないことだ。
剣を落とした場合は敗北とみなす。
いいな?」

「教官、魔法は無しでしょうか?」


これを確認しないでやると後々面倒なのだ。


「いや、ありだ。
ただし、先程のルールに反するものは無しとする」

「では、私の場合剣を落としても作る事が出来ますが…」

「……では、そのルールは取り消そう。
そうだな……。
では、どちらかの降伏又は気絶で敗北とする。
いいな?」

「えぇ、私はそれで問題ありませんわ」

「俺もいいぜ」


教官は溜息をつくと高らかに開始の宣言をした。

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