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マチの気持ち

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「ナツ、大丈夫? 苦手なら、苦手って言ってくれればいいのに」
「……黙れ。今日はちょっと体調が悪いだけだ」
「まあ、そうやって強がるナツも可愛くていいんだけどさ」

 何が可愛いだ。ふざけんな。三半規管が正常で、目が回ってなかったら頭蓋骨を握りつぶしているところだ。
 しかし、仰向けに倒れて微動だにできない今の俺には無理なことだった。

「ねえ、膝枕してあげようか?」
「いらん。お前の硬い膝を枕にするくらいなら、まだ石の方が柔らかいだろ」

 現在、園内にある芝生エリアに横になってる。
 このスペースは弁当などを食べたり、くつろいだりするためにあり、周りにもビッチや野良犬どもがベタベタとして膝枕をしているやつらもいたりする。

「ひっどーい。そんなに筋肉ついてないよ。ほら」

 不意にマチが俺の頭を持ち上げて膝に乗せる。

「……」
「どう?」

 確かに柔らかい。
 頭に登っていた血も降りていく感じがして、楽になってくる。

「ギリギリ合格点だ」
「良かった」

 マチが微笑んで俺を見下ろしてくる。

 ――くそっ。どうかしてる。
 こいつを一瞬可愛いと思うなんて。
 どうやら三半規管がやられると感情まで狂ってくるらしい。

「ねえ、ナツ。どうしてあんな変態協会に入ってるの?」

 マチが俺の髪にそっと触れながらつぶやくように言う。

「少女が好きだからだ」
「私じゃ、ダメ?」

 今度はやけに真剣な顔で俺を見てくる。

「お前はお世辞でも少女とは言えんだろ」

 マチは大きくため息をついて笑い出す。
 ……笑っているのにどこか苦しそうな、そんな顔だった。

「ホント、筋金入りよね。あーあ、ホント、なんでこんな奴に……」

 生ぬるい風が吹いたせいで後半が聞こえなかった。まあ、どうでもいいが。

「さ、休憩終わり。立てる?」
「ああ、なんとかな」

 立ち上がると、まだ少し地面が歪んで見えるがこのくらいなら問題はない。

「今度はゆったりしたの乗ろうか。コーヒーカップとかどう?」
「好きにしろ。今日はお前の言うことは聞いてやる。その代わりあの画像は消してもらうぞ」

 俺の言葉に一瞬泣きそうな顔した後、マチはいつも通りの意地悪い表情をする。

「わかってるわよ。今日は全部、あんたの奢りだからね」

 俺の腕を掴んで歩き出すマチ。

 なるほど。
 こいつはデートとか言って誤魔化しているが、結局タダで遊園地を楽しみたいだけのようだ。
 いいだろう。
 そのくらいの出費は授業料として払ってやる。
 あんなミスをした自分に対しての罰だ。

 その後からは、珍しいことに俺に気を使ったのかマチはあまりハードな乗り物に乗りたいとは言ってこなかった。
 別に一人で乗ればいいじゃねーかと思ったが言わなかった。
 それでも異常にはしゃいでいるマチ。

 この調子ならすんなり画像は消してくれそうだな。
 そうしているうちに辺りは暗くなり始めていた。
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