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「助けていただいて、ありがとうございました。これで二回目ですね」
ペコリと頭を下げる朝霧さん。
「な……なんのことだ?」
鼓動が高鳴る。
彼女の動作の可愛さと見られたかもれないという緊張のせいだ。
元々近くにいたのに彼女はさらに一歩こちらに踏み出してくる。
俺の制服の胸の部分をつかみ、涙を浮かべてキラキラと光る瞳で俺を見上げる彼女。
「腰元先生には、学校に来るたびに呼び出されてたんです。一緒にご飯食べに行かないかとか、休日に遊びにいかないかとか。体を触られたのも初めてじゃなくて……」
――死刑決定。
残念だったな腰元。
貴様は朝霧さんに近づかなくても無残な死が待つことになった。
「かっこよかったです!」
泣きそうな表情から一転、彼女は満面の笑みを浮かべる。
「だ、だから、なんの話をしている?」
「腰元先生をやっつけてるところなんて、私、感動しちゃいました!」
……マズイ。
完全に見られていたようだ。
どうする?
ここからなんとか誤魔化せるか。
「あ、あの……それでですね」
今度は胸の前で両手の人差し指を互いに絡ませてモジモジし始める。
――なんなんだ、この可愛い生物は。
「私、お礼がしたいです」
「……お礼?」
「はい! 助けてくれたお礼です」
「いや、別に……」
「え? ダメ……ですか?」
ものすごく悲しそうな表情をする彼女。
見ているこっちの胸が痛くなってきそうな、そんな感じがする悲痛な表情だった。
この俺が罪悪感だと……?
「友達……」
「ん?」
「友達になってもらうのもダメ……ですか?」
俺の制服の裾をキュッとつかみ、涙を浮かべた目で見上げてくる。
……こ、これは反則だ。
その愛らしい姿に思わず抱きしめてしまいそうになるほどの威力。
「私、体が弱くて……あんまり学校にも来れないから友達いないんです。だから、友達になってほしいって思ったんですけど……」
どうする?
協会の理念は陰ながら少女を守り、遠くから見て愛でる。
しかし、今、この申し出を断れば彼女に大きな心の傷を与えることになりかねない。
それは『守る』という大前提から外れる行為ではないのか。
……いや、待て。そんな言い訳が通じるほど協会は甘くない。
なによりそれは俺が一番わかっていることじゃないか。
「残念だが……」
「そ、そうですか……」
目を伏せて一歩下がる朝霧さん。
「迷惑を言ってすいませんでした」
ペコリと頭を下げる。
「助けてくれて、本当にありがとうございました」
丁寧にお礼を言って歩き去っていく朝霧さん。
――彼女はまた孤独に押しつぶされる生活に戻っていくのだろうか。
腰元のようなゲス野郎にさえ、一瞬頼ろうとするくらいの孤独。
ピーターパン協会の理念は『お姫様のような可憐な少女を守ること』だ。
このまま彼女を放置することが本当に守ることになるんだろうか。
確かに彼女はまだ保護対象に認定されていない。
だが、朝霧さんは守るべき可憐な少女だということは誰にだってわかるくらいだ。
孤独。
学校という一つの建物に中に大勢の人間がいるのに誰とも仲良くできない。
それどころか家族にさえ、ほとんど会えていないようだ。
その苦しさは俺も知っている。
――なぜだ?
なぜ、彼女があそこまで苦しまないとならない。
くだらない、ゲスやビッチどもが楽しく学校生活を楽しんでいるというのに。
どうして朝霧さんが寂しい思いをしないといけないんだ。
――笑顔が見てみたい。
ふと、そんな気持ちが湧き上がった。
それはほんの気まぐれ、一瞬の迷いと言っていいほどの陽炎のような淡い気持ちだった。
その油断が俺の口を動かした。
「……時々話すくらいなら」
「え?」
朝霧さんが足を止めて振り向く。
「頻繁には会ったりはできない。それでもいいなら……」
「え! ホントですか! 嬉しいです」
駆け寄って来て、パァっと花が咲いたように微笑む彼女。
思った通り、それはとっても素敵な笑顔だった。
「俺は新藤ナツ、二年生だ」
「私は朝霧ホノカです。一年生です」
「朝霧さん。ちょっと用事があるから、今日のところはこれで」
いくらなんでも学校内であまり話すことはできない。
保護対象ではないといっても、無闇に少女に近づくのはタブーだからだ。
「あ、は、はい。もう少しお話したかったですけど……。また今度、いっぱいお話してくださいね」
「あ、ああ。じゃあな」
俺が立ち去ろうとした瞬間、朝霧さんが再び俺の服をつかむ。
「あ、これ、電話番号とメールのアドレスです」
顔を真っ赤にしながら一枚のメモをそっと差し出してくる。
いつの間に書いたんだ? いや、最初から用意してたのか?
誰かとアドレスを交換することをずっと夢見て……。
なんて、考えている場合じゃないな。
「……ありがとう。後で連絡する」
俺はメモを受け取り、足早にこの場を立ち去る。
「絶対、連絡くださいねー!」
ブンブンと大きく手を振って俺を見送る朝霧さん。
……っと、危ない。
見惚れるところだった。
俺は素早く中庭の方へと出て、木の陰へと隠れる。
そこから鏡で朝霧さんを写して見てみる。
「……」
朝霧さんは両手を頬に当てて顔を赤く染めて微笑んでいた。
「やった! やった!」
その場でピョンピョンと飛び跳ねて、喜びを全身で表現している。
可愛すぎる。
俺はそんな朝霧さんの姿を見て、満足感と罪悪感を同じくらいの感覚で感じていた。
ペコリと頭を下げる朝霧さん。
「な……なんのことだ?」
鼓動が高鳴る。
彼女の動作の可愛さと見られたかもれないという緊張のせいだ。
元々近くにいたのに彼女はさらに一歩こちらに踏み出してくる。
俺の制服の胸の部分をつかみ、涙を浮かべてキラキラと光る瞳で俺を見上げる彼女。
「腰元先生には、学校に来るたびに呼び出されてたんです。一緒にご飯食べに行かないかとか、休日に遊びにいかないかとか。体を触られたのも初めてじゃなくて……」
――死刑決定。
残念だったな腰元。
貴様は朝霧さんに近づかなくても無残な死が待つことになった。
「かっこよかったです!」
泣きそうな表情から一転、彼女は満面の笑みを浮かべる。
「だ、だから、なんの話をしている?」
「腰元先生をやっつけてるところなんて、私、感動しちゃいました!」
……マズイ。
完全に見られていたようだ。
どうする?
ここからなんとか誤魔化せるか。
「あ、あの……それでですね」
今度は胸の前で両手の人差し指を互いに絡ませてモジモジし始める。
――なんなんだ、この可愛い生物は。
「私、お礼がしたいです」
「……お礼?」
「はい! 助けてくれたお礼です」
「いや、別に……」
「え? ダメ……ですか?」
ものすごく悲しそうな表情をする彼女。
見ているこっちの胸が痛くなってきそうな、そんな感じがする悲痛な表情だった。
この俺が罪悪感だと……?
「友達……」
「ん?」
「友達になってもらうのもダメ……ですか?」
俺の制服の裾をキュッとつかみ、涙を浮かべた目で見上げてくる。
……こ、これは反則だ。
その愛らしい姿に思わず抱きしめてしまいそうになるほどの威力。
「私、体が弱くて……あんまり学校にも来れないから友達いないんです。だから、友達になってほしいって思ったんですけど……」
どうする?
協会の理念は陰ながら少女を守り、遠くから見て愛でる。
しかし、今、この申し出を断れば彼女に大きな心の傷を与えることになりかねない。
それは『守る』という大前提から外れる行為ではないのか。
……いや、待て。そんな言い訳が通じるほど協会は甘くない。
なによりそれは俺が一番わかっていることじゃないか。
「残念だが……」
「そ、そうですか……」
目を伏せて一歩下がる朝霧さん。
「迷惑を言ってすいませんでした」
ペコリと頭を下げる。
「助けてくれて、本当にありがとうございました」
丁寧にお礼を言って歩き去っていく朝霧さん。
――彼女はまた孤独に押しつぶされる生活に戻っていくのだろうか。
腰元のようなゲス野郎にさえ、一瞬頼ろうとするくらいの孤独。
ピーターパン協会の理念は『お姫様のような可憐な少女を守ること』だ。
このまま彼女を放置することが本当に守ることになるんだろうか。
確かに彼女はまだ保護対象に認定されていない。
だが、朝霧さんは守るべき可憐な少女だということは誰にだってわかるくらいだ。
孤独。
学校という一つの建物に中に大勢の人間がいるのに誰とも仲良くできない。
それどころか家族にさえ、ほとんど会えていないようだ。
その苦しさは俺も知っている。
――なぜだ?
なぜ、彼女があそこまで苦しまないとならない。
くだらない、ゲスやビッチどもが楽しく学校生活を楽しんでいるというのに。
どうして朝霧さんが寂しい思いをしないといけないんだ。
――笑顔が見てみたい。
ふと、そんな気持ちが湧き上がった。
それはほんの気まぐれ、一瞬の迷いと言っていいほどの陽炎のような淡い気持ちだった。
その油断が俺の口を動かした。
「……時々話すくらいなら」
「え?」
朝霧さんが足を止めて振り向く。
「頻繁には会ったりはできない。それでもいいなら……」
「え! ホントですか! 嬉しいです」
駆け寄って来て、パァっと花が咲いたように微笑む彼女。
思った通り、それはとっても素敵な笑顔だった。
「俺は新藤ナツ、二年生だ」
「私は朝霧ホノカです。一年生です」
「朝霧さん。ちょっと用事があるから、今日のところはこれで」
いくらなんでも学校内であまり話すことはできない。
保護対象ではないといっても、無闇に少女に近づくのはタブーだからだ。
「あ、は、はい。もう少しお話したかったですけど……。また今度、いっぱいお話してくださいね」
「あ、ああ。じゃあな」
俺が立ち去ろうとした瞬間、朝霧さんが再び俺の服をつかむ。
「あ、これ、電話番号とメールのアドレスです」
顔を真っ赤にしながら一枚のメモをそっと差し出してくる。
いつの間に書いたんだ? いや、最初から用意してたのか?
誰かとアドレスを交換することをずっと夢見て……。
なんて、考えている場合じゃないな。
「……ありがとう。後で連絡する」
俺はメモを受け取り、足早にこの場を立ち去る。
「絶対、連絡くださいねー!」
ブンブンと大きく手を振って俺を見送る朝霧さん。
……っと、危ない。
見惚れるところだった。
俺は素早く中庭の方へと出て、木の陰へと隠れる。
そこから鏡で朝霧さんを写して見てみる。
「……」
朝霧さんは両手を頬に当てて顔を赤く染めて微笑んでいた。
「やった! やった!」
その場でピョンピョンと飛び跳ねて、喜びを全身で表現している。
可愛すぎる。
俺はそんな朝霧さんの姿を見て、満足感と罪悪感を同じくらいの感覚で感じていた。
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