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方向性について
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土曜日。
時刻は16時。
11月にもなると外は完全に肌寒い。
そろそろコートがないと厳しい季節かもしれない。
けれど、今、貸しスタジオは熱気に包まれている。
ケモメンのメンバーが朝の10時からずっとダンスの練習をしているのだ。
別に近くにライブやステージがあるわけではない。
ただ、麗香さんはケモメンが波に乗っている今だからこそ、基礎力を向上させる必要があるとのことだ。
最近は割と仕事が入ってきているケモメンだけれど、毎日というわけじゃない。
でも、ほぼ毎日、メンバーは招集され、今のようなダンスの練習や歌、トーク力、演技の練習など、技術力の向上に余念がないのだ。
私もそれにマネージャーとして参加している。
もちろん、学校が終わってからだ。
ケモメンのメンバーは大学生だが、私は高校生。
メンバーとは学校への拘束時間が全然違う。
マネージャーの私が一番、出席率が悪いってどうなんだろうか。
最近では望亜くんが、私がいないとイジケてしまいモチベーションが下がってしまうと麗香さんは頭を抱えている。
逆に私がいると、まわりが心配になるくらい頑張っている。
だから麗香さんも文句は言えないようだ。
マネージャー業にも慣れ、面白くなってきたから本当はその全部に参加したい。
一度、お母さんと麗香さんに休学しようかと言ったら、2人ともにメチャクチャ怒られた。
お母さんに至っては泣いてしまった。
まあ、お母さんにはなんで休学したいかの理由を話せなかったから当たり前だけど。
高校を卒業しても、麗香さんはそのまま私を雇ってくれるんだろうか?
そのままケモメンのマネージャーとして就職したい。
でも、麗香さんは何かと「大学は行きなさいよ」と釘を刺されている。
そして、「学費分くらいはこき使ってあげる」と笑っていた。
とりあえず、そのあたりまでは雇ってくれそうだ。
「はい、今日はここまで! 体を冷やさないようにすぐに着替えなさいよ」
ダンスの先生が手を叩きながら言った。
「「「ありがとうございました!」」」
メンバーの3人が頭を下げると先生は満足そうに笑って、スタジオを後にした。
「やべー。超疲れたー」
「最近、先生、気合入ってるよね」
盛良くんと圭吾がタオルで汗を拭きながらこっちへやってくる。
「お疲れさまでした。どうぞ」
私はスポーツドリンクが入ったペットボトルを2人に渡す。
「サンキュー」
「ありがとう」
2人は受け取って一瞬で飲み干してしまう。
さすがに盛良くんは、ここはお汁粉がいいなんてことは言わないようだ。
……あれ? 望亜くんは?
私がスタジオの中央を見ようとした時だった。
「お姉ちゃん。疲れた」
後ろから望亜くんに抱き着かれる。
「うわ、びっくりした!」
「お姉ちゃんの匂い、癒される」
望亜くんが私の首筋あたりに鼻を近づけてスーッと匂いをかぐ。
「ひゃああああ!」
なんだか首にキスされているみたいな感じだ。
一気に心臓の鼓動が跳ね上がり、鼻に血液が集まり始める。
やばい。このままだと噴き出しちゃう。
「ほら、望亜。ちゃんと水分補給しなさい」
「……はい」
悲しそうな顔をして私から離れる望亜くん。
そして、私からスポーツドリンクを受け取って飲み始める。
ふう。危なかった。
麗香さんが止めてくれるのがあと3秒遅かったら、鼻血が出ていたと思う。
「望亜だけズルいってば!」
今度は圭吾が正面から私を抱きしめてくる。
「なっ!?」
「圭吾、ズルい!」
また望亜くんが後ろから抱き着いてくる。
私は圭吾と望亜くんにサンドされる形だ。
「ぶっ!?」
我慢してた血が一気に噴き出してしまう。
せっかく……我慢してたのに。
「……なにやってんだよ、お前ら」
盛良くんが呆れたような声を出していた。
鼻血を掃除して、望亜くんの着替えを手伝う。
……最近、望亜くんの幼児退行が酷くなってきている気がする。
甘やかし過ぎだろうか?
そんなことを考えながら望亜くんの身体を拭いてあげる。
望亜くんの身体は凄い綺麗だ。
意外と筋肉質なのにはびっくりする。
「……下も脱ぐ?」
「再起不能になるから止めてね」
鼻血どこじゃ済まない。
下手したら出血多量になってしまいそうだ。
そんなことをしていたら、ふと麗香さんがやってくる。
「最近の望亜は、動きがキレキレね」
「……そうかな?」
「うん。凄いと思うよ。前も凄いなーって思ってたけど、最近はホント凄いもん。私、見惚れちゃうから」
「えへへへ」
子供のように笑う望亜くん。
くっ! 可愛い……。
「ねえ、望亜。あんた、そっちの方面に力入れて行く?」
おそらく麗香さんは単なるアイドルではなく、その先も見越しているんだと思う。
ずっと歌やトーク番組に出てるだけだと幅が狭くなってしまう。
ある程度、売れていくと歌、舞台、バラエティなどなど、力を入れていく方向を決めて活動していくことになる。
最近の望亜くんはトークも頑張っているけど、やっぱりバラエティ向きではないし、演技をすることもあまり好きではないようだ。
その分、歌とダンスは飛びぬけている気がする。
もしかすると後々ソロも、なんてことも、麗香さんは考えているのかもしれない。
「……」
望亜くんがジッと私の方を見てくる。
えーっと、私の意見を欲しがっているのかな?
「うん。私も望亜くんはそっち方面がいいと思うよ」
「じゃあ、それで」
望亜くんが麗香さんに即答する。
えー。いいのそれで?
「よし、じゃあ、その方向で考えておくからね。それじゃ、今日はこれで終わりだから。みんな、気を付けて帰りなさいよ」
そう言い残して麗香さんがスタジオを出ていく。
「お姉ちゃん、帰ろうか」
「え? あ、うん」
「望亜。ちょっと、赤井、借りてくぞ」
突如、現れた盛良くんが私の腕を掴んで引きずるように歩いていく。
「あーー! お姉ちゃん!」
望亜くんの悲しそうな声がスタジオの中に響いたのだった。
時刻は16時。
11月にもなると外は完全に肌寒い。
そろそろコートがないと厳しい季節かもしれない。
けれど、今、貸しスタジオは熱気に包まれている。
ケモメンのメンバーが朝の10時からずっとダンスの練習をしているのだ。
別に近くにライブやステージがあるわけではない。
ただ、麗香さんはケモメンが波に乗っている今だからこそ、基礎力を向上させる必要があるとのことだ。
最近は割と仕事が入ってきているケモメンだけれど、毎日というわけじゃない。
でも、ほぼ毎日、メンバーは招集され、今のようなダンスの練習や歌、トーク力、演技の練習など、技術力の向上に余念がないのだ。
私もそれにマネージャーとして参加している。
もちろん、学校が終わってからだ。
ケモメンのメンバーは大学生だが、私は高校生。
メンバーとは学校への拘束時間が全然違う。
マネージャーの私が一番、出席率が悪いってどうなんだろうか。
最近では望亜くんが、私がいないとイジケてしまいモチベーションが下がってしまうと麗香さんは頭を抱えている。
逆に私がいると、まわりが心配になるくらい頑張っている。
だから麗香さんも文句は言えないようだ。
マネージャー業にも慣れ、面白くなってきたから本当はその全部に参加したい。
一度、お母さんと麗香さんに休学しようかと言ったら、2人ともにメチャクチャ怒られた。
お母さんに至っては泣いてしまった。
まあ、お母さんにはなんで休学したいかの理由を話せなかったから当たり前だけど。
高校を卒業しても、麗香さんはそのまま私を雇ってくれるんだろうか?
そのままケモメンのマネージャーとして就職したい。
でも、麗香さんは何かと「大学は行きなさいよ」と釘を刺されている。
そして、「学費分くらいはこき使ってあげる」と笑っていた。
とりあえず、そのあたりまでは雇ってくれそうだ。
「はい、今日はここまで! 体を冷やさないようにすぐに着替えなさいよ」
ダンスの先生が手を叩きながら言った。
「「「ありがとうございました!」」」
メンバーの3人が頭を下げると先生は満足そうに笑って、スタジオを後にした。
「やべー。超疲れたー」
「最近、先生、気合入ってるよね」
盛良くんと圭吾がタオルで汗を拭きながらこっちへやってくる。
「お疲れさまでした。どうぞ」
私はスポーツドリンクが入ったペットボトルを2人に渡す。
「サンキュー」
「ありがとう」
2人は受け取って一瞬で飲み干してしまう。
さすがに盛良くんは、ここはお汁粉がいいなんてことは言わないようだ。
……あれ? 望亜くんは?
私がスタジオの中央を見ようとした時だった。
「お姉ちゃん。疲れた」
後ろから望亜くんに抱き着かれる。
「うわ、びっくりした!」
「お姉ちゃんの匂い、癒される」
望亜くんが私の首筋あたりに鼻を近づけてスーッと匂いをかぐ。
「ひゃああああ!」
なんだか首にキスされているみたいな感じだ。
一気に心臓の鼓動が跳ね上がり、鼻に血液が集まり始める。
やばい。このままだと噴き出しちゃう。
「ほら、望亜。ちゃんと水分補給しなさい」
「……はい」
悲しそうな顔をして私から離れる望亜くん。
そして、私からスポーツドリンクを受け取って飲み始める。
ふう。危なかった。
麗香さんが止めてくれるのがあと3秒遅かったら、鼻血が出ていたと思う。
「望亜だけズルいってば!」
今度は圭吾が正面から私を抱きしめてくる。
「なっ!?」
「圭吾、ズルい!」
また望亜くんが後ろから抱き着いてくる。
私は圭吾と望亜くんにサンドされる形だ。
「ぶっ!?」
我慢してた血が一気に噴き出してしまう。
せっかく……我慢してたのに。
「……なにやってんだよ、お前ら」
盛良くんが呆れたような声を出していた。
鼻血を掃除して、望亜くんの着替えを手伝う。
……最近、望亜くんの幼児退行が酷くなってきている気がする。
甘やかし過ぎだろうか?
そんなことを考えながら望亜くんの身体を拭いてあげる。
望亜くんの身体は凄い綺麗だ。
意外と筋肉質なのにはびっくりする。
「……下も脱ぐ?」
「再起不能になるから止めてね」
鼻血どこじゃ済まない。
下手したら出血多量になってしまいそうだ。
そんなことをしていたら、ふと麗香さんがやってくる。
「最近の望亜は、動きがキレキレね」
「……そうかな?」
「うん。凄いと思うよ。前も凄いなーって思ってたけど、最近はホント凄いもん。私、見惚れちゃうから」
「えへへへ」
子供のように笑う望亜くん。
くっ! 可愛い……。
「ねえ、望亜。あんた、そっちの方面に力入れて行く?」
おそらく麗香さんは単なるアイドルではなく、その先も見越しているんだと思う。
ずっと歌やトーク番組に出てるだけだと幅が狭くなってしまう。
ある程度、売れていくと歌、舞台、バラエティなどなど、力を入れていく方向を決めて活動していくことになる。
最近の望亜くんはトークも頑張っているけど、やっぱりバラエティ向きではないし、演技をすることもあまり好きではないようだ。
その分、歌とダンスは飛びぬけている気がする。
もしかすると後々ソロも、なんてことも、麗香さんは考えているのかもしれない。
「……」
望亜くんがジッと私の方を見てくる。
えーっと、私の意見を欲しがっているのかな?
「うん。私も望亜くんはそっち方面がいいと思うよ」
「じゃあ、それで」
望亜くんが麗香さんに即答する。
えー。いいのそれで?
「よし、じゃあ、その方向で考えておくからね。それじゃ、今日はこれで終わりだから。みんな、気を付けて帰りなさいよ」
そう言い残して麗香さんがスタジオを出ていく。
「お姉ちゃん、帰ろうか」
「え? あ、うん」
「望亜。ちょっと、赤井、借りてくぞ」
突如、現れた盛良くんが私の腕を掴んで引きずるように歩いていく。
「あーー! お姉ちゃん!」
望亜くんの悲しそうな声がスタジオの中に響いたのだった。
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