上 下
14 / 46

みんなには内緒にね

しおりを挟む
 私が発した言葉に、盛良もりよしくんはポカンと口を開けていた。
 
 自分で言っておいてなんだけど、無茶苦茶な話だ。
 本来、マネージャーの立場なら、絶対に止めなくてはならない。
 それなのに、後押ししてどうするんだって感じだよね。
 
 今ならまだ、ごめんなさい、間違いですって言えば済むだろう。
 だけど、それだけは言いたくない。
 
 たとえ、マネージャー失格の発言だったとしても。

「お前、何言ってるんだ?」
 
 半分呆れたような声で首を振る盛良くん。

「だって、由依香ゆいかさんに振り向いてもらうためにアイドルになったんですよね?」
「……」
「だったら、振り向いてもらえばいいじゃないですか!」
「んなこと……できるわけねーじゃん」
「やってもみないのに、諦めるですか? そんなの盛良くんらしくないです」
「……アイドルの恋愛なんて、タブー中のタブーだぞ。もし、バレたら……」
「バレなきゃいいんですよ!」
「お前、凄いこと言うな」
 
 盛良くんが肩を震わせて笑う。

「私、思うですけど……。これくらいのこと隠せないで、トップアイドルになれないと思います」
「っ!?」
 
 今度は目を見開いて私を見た後、フッと微笑んだ。
 そして、ポンと私の頭に手を置いた。

「焚きつけたからには責任持てよ」
「もちろんです」
「……で? いい案でもあるのか?」
「……」
「ないのかよ」
 
 噴き出してから、腹を抱えて笑い始める。
 
 うう……。
 だって、話を聞いたのも今だし、私自身、恋愛なんてしたことないし、急に話を振られてもわからないものはわからないよ。

「あははははは。けど、まあ、お前らしいな」
「……馬鹿にしてます?」
「褒めてんだよ」
 
 ホントにぃ?
 どう見ても馬鹿にしたような笑いだったんだけど。

「けど、まあ、女の視点の意見も欲しいところだな。お前の意見を聞きたい」
「はい、なんでも聞いてください」
 
 こうして、私と盛良くんは話に話し合った。
 私も色々と案を出してみる。
 
 その結果、盛良くんからいただいた感想は……。

「お前、使えねーな」
 
 だった。

 そんなこんなしていると、いつの間にか外は明るくなっていた。
 
 改めて考えてみると、私は盛良くんの部屋で一晩過ごしたことになる。
 2人きりで。

 
 
「罰として、これから1ヶ月は外出禁止ね」
 
 朝、家に帰ると、にっこりとほほ笑んだお兄ちゃんがそう言って出迎えてくれた。
 かなり怒っている証拠だ。
 
 それはそうだろう。
 なにしろ、朝帰りだもん。
 
 うう……。
 話に夢中になっててメールするの忘れてた。
 
 お兄ちゃんは夜通し心配して起きていたのだろう。
 目の下にクッキリとクマが出来てる。
 
 まあ、私も人のこと言えないだろうけど。
 
「……ごめんなさい。あのね、昨日は……」
 
 私は帰りながら必死に考えた言い訳を言おうとする。
 だが。

 お兄ちゃんが私を抱きしめてくる。

「許さないよ。でも、葵のこと信じてるから。理由は言わなくていい」
 
 お兄ちゃんの腕は優しく力強く、私の全てを包み込んでくれる。
 自然とポロポロと涙が溢れてきた。
 
 これが私のお兄ちゃんだ。
 世界で一番大好きな、私のお兄ちゃん。
 
 ――そして、私の推し。

「ごめんなさい。ごめんなさい……」
 
 謝り続ける私の頭を、お兄ちゃんはずっと撫でていてくれたのだった。
 
 
 
 結局、その日は2人して学校を休むことにした。
 まあ、こんなフラフラな状態で学校に行ったところで、授業中に爆睡して先生に怒られるだけだろう。
 その代わり、夜にお兄ちゃんがしっかり勉強を見てくれるとのことだ。
 
 うーん。
 なんだろ。この独り勝ち感。
 学校もサボれて、夜はお兄ちゃんに勉強を教えてもらえる。
 一粒で二度おいしい。
 いっそ、毎日、こうしたいくらいだよ。
 
 お兄ちゃんがしっかりめの朝ごはんを作ってくれて、一緒に食べた。
 私が後片付けをした後、不意に欠伸が出た。
 さすがに眠い。
 
 徹夜なんていつ以来だろう?
 
「お兄ちゃん、私、部屋に戻るね」
あおい、ちょっとこっちに来て」
 
 ソファーに座ったお兄ちゃんが、手招きしてくる。
 
 ううー。
 なんか、その仕草が小動物みたいでなんか可愛い。
 お兄ちゃんは大人っぽい一面もあれば、妙に子供っぽい一面も持っている。
 さすがお兄ちゃんだ。
 惚れ惚れする。

「なに?」
「隣に座って」
 
 言う通りに座ると、肩にそっと手を伸ばされて倒される形になる。
 私の頭がお兄ちゃんの膝の上に乗っかった。
 
 これはつまり、膝枕だ。
 
 そう!
 私は今、お兄ちゃんに膝枕をしてもらっている!

「おおおおおお兄ちゃん?」
「起きちゃダメだよ」
「で、でも……」
「これは葵への罰なんだから」
「罰?」
「そう。昨日、俺を寂しがらせた分、しっかり補填してもらうからね」
 
 そう言って、お兄ちゃんが私の頭を優しく撫で始めた。
 優しくて暖かい手。
 
 私は寝不足ということもあったが、お兄ちゃんに撫でられたことでの安心感か、いつの間にか眠ってしまっていた。
 
 
 
 ふと、目を覚ますと天井が見える。
 
 見覚えがない天井……というわけではないけど、なんかいつもと違う。
 そして、私は今、ベッドの中だということがわかる。
 
 布団の中の私は私服のまま。
 
 ボーっとしていた意識が徐々にはっきりしてくる。
 私は確か、お兄ちゃんに膝枕をしてもらって、いつの間にか寝てしまったのだろう。
 
 だから、お兄ちゃんが私をベットに連れて行ってくれたのだと推測した。
 
 だけど……。
 だけどね。
 
 なんで私の部屋じゃなくて、お兄ちゃんの部屋なの!?
 
 そして、今まであえて気づかないようにしてたんだけど……。
 真横から寝息が聞こえてきてるんだよね。
 
 お兄ちゃんの部屋。
 今日は家の中に私とお兄ちゃんしかいない。
 で、この状況。
 
 ゆっくりと顔を横に向ける。
 そこには予想通り、お兄ちゃんの綺麗な寝顔がアップで目に飛び込んできた。
 
 な、なに! この朝チュン的なシチュエーション!
 
 一気に胸の鼓動が爆上がりする。

 そして――。

「ぶっ!」
 
 鼻血が噴き出した。
 
 布団とシーツ、お兄ちゃんに血がぶっかかる。
 
 朝チュンのような甘々な現場が、血みどろの殺人現場のように変貌を遂げたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

花鈿の後宮妃 皇帝を守るため、お毒見係になりました

秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
キャラ文芸
旧題:花鈿の後宮妃 ~ヒロインに殺される皇帝を守るため、お毒見係になりました 青龍国に住む黄明凛(こう めいりん)は、寺の階段から落ちたことをきっかけに、自分が前世で読んだ中華風ファンタジー小説『玲玉記』の世界に転生していたことに気付く。 小説『玲玉記』の主人公である皇太后・夏玲玉(か れいぎょく)は、皇帝と皇后を暗殺して自らが皇位に着くという強烈キャラ。 玲玉に殺される運命である皇帝&皇后の身に起こる悲劇を阻止して、二人を添い遂げさせてあげたい!そう思った明凛は後宮妃として入内し、二人を陰から支えることに決める。 明凛には額に花鈿のようなアザがあり、その花鈿で毒を浄化できる不思議な力を持っていた。 この力を使って皇帝陛下のお毒見係を買って出れば、とりあえず毒殺は避けられそうだ。 しかしいつまでたっても皇后になるはずの鄭玉蘭(てい ぎょくらん)は現れず、皇帝はただのお毒見係である明凛を寵愛?! そんな中、皇太后が皇帝の実母である楊淑妃を皇統から除名すると言い始め……?! 毒を浄化できる不思議な力を持つ明凛と、過去の出来事で心に傷を負った皇帝の中華後宮ラブストーリーです。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

あやかしのエリートのみが通う学園への入学許可が出たそうです。私は、あやかしってことになるのでしょうか……?

珠宮さくら
キャラ文芸
あやかしと人間が共存共栄している世界で、宮瀬カレンにはあやかしの特徴が見当たらず、人間の面が強いのだろうと思って、比較的あやかしの少ない地区の孤児院でひっそりと暮らしていた。 両親が、あやかしの異能を持っている人たちだったのかすら覚えていないカレン。彼女が物心つく頃に亡くなっていて、天涯孤独の身の上となっていることもあり、ご先祖にあやかしがいたとしても一般的なあやかしだろうと自他ともに思っていたのだが、どうも違っていたらしい。 あやかしのエリートのみが通うことの出来る“あやかし学園”に通うことが許されたことで、あやかしの部分が、カレンは強いのだとわかるのだが……。

何が何でも爆乳ハーレムを作りたい!

山溶水
キャラ文芸
「はじめまして! 乙葉伊月です! 夢は私のための爆乳ハーレムを作ることです! そのためにみなさんと仲良くなりたいと思っています! よろしくお願いします!」 女性を拐う宇宙人「パイリアン」の出現 パイリアンの出現と共に女性に身についた力「乳力」 おっぱい大好き女子高生、乙葉伊月(おとはいづき)は乳力を駆使して夢を叶えるために戦い続ける!

欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ
キャラ文芸
長年付き合っていた男と別れてやけ酒をした翌朝、隣にいたのは天然系の神サマでした。 《やってることが夢魔な自称神様》を拾った《社畜な生真面目女子》が神様から溺愛されながら、うっかり世界が滅びないように奮闘するラブコメディです。 ※オマケ短編追加中 カクヨム、ノベルアップ+、pixiv、ムーンライトノベルズでも公開中(サイトによりレーティングに合わせた調整アリ)

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...