愚者の門番、賢者の聖杯

春森夢花

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めでたい事、めでたい男

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俺はその、ジモンの腸内に埋まっていた細長いソレをタオルごと投げ捨てて、ふっ。とジモンの体へと目線を向けた。

俺の視界には、ジモンの臀部が真っ先に映り込む。そして、その真ん中に空いている穴は、大きく広がりきり、ぱくぱく、と呼吸をしていた。

肉の、朱い色が新鮮で、浅黒いジモンの肌には似つかわしくないほど、美しい肉の色だった。

(結局のところ、こいつも人間だ。肌の色が違っても、赤色の血も、肉の色も、変わりはしない)

そう思いながら俺は何気なく衣服を整えてやり、床に這いつくばっているジモンを抱きかかえ、上半身を起こしてやった。

気が付くと、俺が投げ捨てた化け物の死骸と、タオル、それから自称、神が渡した汚れた白い衣服は消えていた。便利なものだ。そう言えば俺は毎朝ここに煙草を取りに来て、何本か吸ってから帰るが、お気に入りの灰皿は、いつも綺麗になっていた。

つまり、なんでもありだ。

俺など、たかが愚者である。

化け物共の常識に付き合っていられるかと、なぜ、どうして、という疑問をその都合の良い言葉でかき消して、ジモンに大丈夫か、と声をかけた。ジモンは顔を汗まみれにして、しばらく黙っていたが。ぽつり、と呟いた。

「思い出した」
「なにがです」
「……俺は……、神に会ったのだ。それがどんな、姿形をしていたのかは思い出せないのだが……神はこうおっしゃった。【作り変える】、と」
「……作り変える?何をです」
「俺をだ、クドウ。きっと……そうだろう。そうでなければ、こんな、ことはしないに決まっているではないか!きっと、きっと……俺は神の国へと行くために、人から神へと作り変えられているに違いあるまい!」
「でも、あんた……」
「そうでなければ説明が、つかん!」

最後の言葉はまるで吐き捨てるように怒鳴り、ジモンは俺を睨む。そこで俺は理解した。ジモンは恐らくそういう結論を出したのだ。

それ以外の結論であっては、自分が崩壊してしまう寸前なのだ。

それが間違っていたとしても、今のジモンにとっては、自分が特別な男だからこそ試練が下ったと考えなければ生きていけないほどの屈辱が与えられたのだろう。

俺はそれに異を唱えなかった。

どうでもよかった。

とにかく、この門から出たかった。

だから、愛想笑いを一つ。そして道化になって、同調した。

「……それは、それは……。アタシにはよく解らない世界が沢山あるんですねえ……。アタシは愚者なもんですから……。そんな考えには至りませんでした。すみませんねえ」
「そいつは仕方あるまい。俺は、神の子だからな。神がどうされたいのか、それが一番解っているのがこの俺だ。いいか、クドウ。俺を崇めろ」
「へえ、そうですか」
「俺が神になった暁には、お前を使用人ぐらいには取り立ててやろう。どうせ元の世界に帰っても、汚い仕事で手を汚し、最後は野垂れ死ぬようなお前にはもったいのない光栄を俺が与えてやる。だから……、いいか……。この、門の中であった事は……」
「……ふふふ、勿論ですとも、旦那。アタシは口が堅いんですよ。旦那の名前に傷がつくようなことなど、誰にも言いませんったら」
「そうか……。では頼んだ。俺はこれから神の酒を皆の者に振舞わなければならん。聖杯はどこだ」
「ああ、ここにありますよ。立てますか」
「ああ、立てる。神の国からの凱旋だからな。胸を張って戻らねばなるまい。早くしろ、クドウ」

何故かはしらないが、突然スイッチが入ったかのようにジモンはいつもの、傲岸不遜な男に逆戻りした。俺はその時点で奴の頭を想像で二、三回吹き飛ばしたが、俺だって大人である。外面は素直に頷いて従順にジモンの家臣の振りをした。ひょこ、ひょこ、と不自然にジモンは歩きながらも門の近くで聖杯を渡すと、きりり、と顔を引き締めてニヤリと笑った。

「これで、我が国は無敵になるな。ふふふ……世界を手に入れるのも夢ではない」
「はい、そうですねえ。めでたい事です」

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