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しっかりしてくれよ、ジモン。
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傲慢そうな表情を常に浮かべていたその男の顔は、蒼白だった。金の腕輪、豪華な首飾り。それだけ身に着けて。心臓の近くで守るように抱いているのはなみなみと液体が入った聖杯だ。
「おい、大丈夫か」
俺が声をかけるとジモンは体を震わせてから、なにかを喋ろうと口を開けた、開けた途端にゴボ……と薄い赤色の水がジモンの口から吐き出される。思わず顔をしかめて一歩後ずさる俺にジモンは気弱な声ですがった。
「ま……、待ってくれ……、行かないでくれ……、お、俺を……俺をこ、ここから出してくれ……」
「なにがあったって言うんです、あんた……第一なんだってそんなに体が濡れているんですか」
「わからない、おぼえていない、ただ……」
「ただ?」
「俺は、触れてはいけない存在に出会った気がする」
その言葉の時だけ、ジモンは俺と目線を合わせた。正気は、かろうじて失っていない。だけれども俺にはどうすることもできない。
とりあえずこの場所から出さなければならないが、奴の体は粘着質な液体で濡れていて、正直言って直接触れたくはなかった。そこで自称、神がジモンに着せてやれと言った服をタオル替わりに肩にかけて、その上からなんとか触れてやってもいいかな、と思えたので奴の後ろに回り込み、ついでに【社長室】と書かれたドアのドアノブを何気なく回してみたが、やっぱり開かなかった。衣服を肩にかけ、ジモンの両方の二の腕を持ち、持ち上げるように立たせようとするが、なにせ俺より体格がよい男なのだ、俺だけの力ではどうにもならない。ため息をこぼしながら俺は頼むよ、とジモンにぼやいた。
「とりあえず、ここから出たいんでしょ、だったらちょっとは協力してもらいたいね」
「あ、ああ……だが……力が出ないんだ……なぜか……たのむ……クドウ」
「仕方ないね、ちょっと待ってておくんなさい、クロイさんを呼んできますよ」
「駄目だ、頼む、行かないでくれ!」
「行かないでって、あんた……」
「一人にしないでくれ、頼む……!」
ほんの少し前までこの世で一番自分が偉いと言う顔をしていた男がこれほどまでに、何に畏怖していると言うのだろう。何を見せられたのだろうか。ジモンの肩が不自然に震えて、ふと見れば泣いていた。あの、ジモンが。一人にしないでくれと懇願している。やれやれだ。だが、こいつには一応一宿一飯の恩もある訳だし、と思い直して不本意だが奴の左腕を取り、自分の肩に回す。するとジモンは右手で大事そうに聖杯を握りしめた。
奴の濡れた体が俺に密着してうんざりしたが、ここでグダグダしていても仕方がない。いいかい、持ち上げるよと声をかけてジモンの体を押し上げるように持ちあげる。
すると、うっ、とジモンが呻いて小刻みに痙攣した。どうした、と言いかけてから俺は気づいた。ぷしゅ、と音がしたかと思うと、ジモンの背後で水音がする。ジョロ、ジョロ……、最初は小便でも漏らしたかと思ったが、小便ならジモンのペニスから出なくてはいけない。しかし俺から見えるジモンの体つきに見合った黒々としたペニスはシン……としている。
(まさか大便をもらしたのかよ、最悪だぜ)
思わず舌打ちをして、こいつを蹴り飛ばしてやりたい衝動にかられたが。それにしては排泄臭がしなかった。じゃあ、なにが漏れたんだと思いながら力の入らないジモンを抱えてよろよろと歩く。そしてドアを抜け、応接室に帰ってきた。ジモンを床に座らせる。
振り返ると、応接室の扉は閉まっていた。
俺とジモンが歩いた数メートル。そこには薄い赤色の色水が線を作っていた。見下ろすとジモンがうずくまっている。その体からじわり、と。
赤い色水が染みだして、水たまりを作る。奴の体がビクビク、と痙攣するたびに、水が。出てくる。どこから。そんなものは、決まっている。
「神の酒は一滴で強くなれる。自国の民に分け与えたまえ、と。お前には【たらふく】飲ませた、だからお前が飲む必要はない、そう伝えてくれればいい」
そう、自称、神は言った。
どこから、何を、飲ませたんだ。
「全く悪趣味、にも程がある」
俺は呟きながら、ジモンの肩にかけた服を手に取り、乱暴にジモンの体を拭いてやった。
「しっかりしてくれ、俺はさっさと自分の世界に帰りたいんだ。呆けてもらっちゃ困るよ」
「あ……、あ……、クドウ……俺は一体……、なぜ、俺は体から……何が起きているんだ」
「さあね。ただ言える事は、あんたは神に会って聖杯に【神の酒】を頂いたってことでしょう?それを国民に振舞えって神が言っていましたよ」
「クドウも神にあったのか」
「あれが神って言うんなら、会いましたとも」
「どんな、姿だった」
「まあ……普通ですよ。この国の平均的な、白い肌に金色の男ですよ」
「俺と似てはいなかったのか」
「……まあ、ね。あんたの先祖とは違う神なんじゃないですか?」
「おい、大丈夫か」
俺が声をかけるとジモンは体を震わせてから、なにかを喋ろうと口を開けた、開けた途端にゴボ……と薄い赤色の水がジモンの口から吐き出される。思わず顔をしかめて一歩後ずさる俺にジモンは気弱な声ですがった。
「ま……、待ってくれ……、行かないでくれ……、お、俺を……俺をこ、ここから出してくれ……」
「なにがあったって言うんです、あんた……第一なんだってそんなに体が濡れているんですか」
「わからない、おぼえていない、ただ……」
「ただ?」
「俺は、触れてはいけない存在に出会った気がする」
その言葉の時だけ、ジモンは俺と目線を合わせた。正気は、かろうじて失っていない。だけれども俺にはどうすることもできない。
とりあえずこの場所から出さなければならないが、奴の体は粘着質な液体で濡れていて、正直言って直接触れたくはなかった。そこで自称、神がジモンに着せてやれと言った服をタオル替わりに肩にかけて、その上からなんとか触れてやってもいいかな、と思えたので奴の後ろに回り込み、ついでに【社長室】と書かれたドアのドアノブを何気なく回してみたが、やっぱり開かなかった。衣服を肩にかけ、ジモンの両方の二の腕を持ち、持ち上げるように立たせようとするが、なにせ俺より体格がよい男なのだ、俺だけの力ではどうにもならない。ため息をこぼしながら俺は頼むよ、とジモンにぼやいた。
「とりあえず、ここから出たいんでしょ、だったらちょっとは協力してもらいたいね」
「あ、ああ……だが……力が出ないんだ……なぜか……たのむ……クドウ」
「仕方ないね、ちょっと待ってておくんなさい、クロイさんを呼んできますよ」
「駄目だ、頼む、行かないでくれ!」
「行かないでって、あんた……」
「一人にしないでくれ、頼む……!」
ほんの少し前までこの世で一番自分が偉いと言う顔をしていた男がこれほどまでに、何に畏怖していると言うのだろう。何を見せられたのだろうか。ジモンの肩が不自然に震えて、ふと見れば泣いていた。あの、ジモンが。一人にしないでくれと懇願している。やれやれだ。だが、こいつには一応一宿一飯の恩もある訳だし、と思い直して不本意だが奴の左腕を取り、自分の肩に回す。するとジモンは右手で大事そうに聖杯を握りしめた。
奴の濡れた体が俺に密着してうんざりしたが、ここでグダグダしていても仕方がない。いいかい、持ち上げるよと声をかけてジモンの体を押し上げるように持ちあげる。
すると、うっ、とジモンが呻いて小刻みに痙攣した。どうした、と言いかけてから俺は気づいた。ぷしゅ、と音がしたかと思うと、ジモンの背後で水音がする。ジョロ、ジョロ……、最初は小便でも漏らしたかと思ったが、小便ならジモンのペニスから出なくてはいけない。しかし俺から見えるジモンの体つきに見合った黒々としたペニスはシン……としている。
(まさか大便をもらしたのかよ、最悪だぜ)
思わず舌打ちをして、こいつを蹴り飛ばしてやりたい衝動にかられたが。それにしては排泄臭がしなかった。じゃあ、なにが漏れたんだと思いながら力の入らないジモンを抱えてよろよろと歩く。そしてドアを抜け、応接室に帰ってきた。ジモンを床に座らせる。
振り返ると、応接室の扉は閉まっていた。
俺とジモンが歩いた数メートル。そこには薄い赤色の色水が線を作っていた。見下ろすとジモンがうずくまっている。その体からじわり、と。
赤い色水が染みだして、水たまりを作る。奴の体がビクビク、と痙攣するたびに、水が。出てくる。どこから。そんなものは、決まっている。
「神の酒は一滴で強くなれる。自国の民に分け与えたまえ、と。お前には【たらふく】飲ませた、だからお前が飲む必要はない、そう伝えてくれればいい」
そう、自称、神は言った。
どこから、何を、飲ませたんだ。
「全く悪趣味、にも程がある」
俺は呟きながら、ジモンの肩にかけた服を手に取り、乱暴にジモンの体を拭いてやった。
「しっかりしてくれ、俺はさっさと自分の世界に帰りたいんだ。呆けてもらっちゃ困るよ」
「あ……、あ……、クドウ……俺は一体……、なぜ、俺は体から……何が起きているんだ」
「さあね。ただ言える事は、あんたは神に会って聖杯に【神の酒】を頂いたってことでしょう?それを国民に振舞えって神が言っていましたよ」
「クドウも神にあったのか」
「あれが神って言うんなら、会いましたとも」
「どんな、姿だった」
「まあ……普通ですよ。この国の平均的な、白い肌に金色の男ですよ」
「俺と似てはいなかったのか」
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