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大きく力強い目が、じっと心を見据えた。真っ直ぐで澱みない、静の全てを物語る瞳。
「俺が、どうしたいんか…」
まさか、返されるとは思わなかったのか心がフッと笑った。
心を目の前にして、怯むことなく目を合わせてくる人間はどれくらい居ただろうか。
静は初めからそうだった。心に対して恐怖もなく諂うこともなく。そして、極道と知れば怯むことなく喧嘩上等。
静が他の人間と違うと思ったのは、この折れることも緩むこともない真っ直ぐな芯の強さ。
躊躇いも迷いも恐怖もない。それが吉良 静。
心は少しばかり目を細めると、フッと笑った。
「強制はしたない」
「うん?」
「好きや」
「うん…え?は?」
一瞬、何を言われたのかわからずに、呆ける。言われた言葉を反芻してみて、カッと顔に血が昇った。
「…真っ赤」
ククッと笑われ、スッと伸びて来た指に頬を突かれる。
「う、うるさい」
パシッと手を払い除け、そうしたところで変わらない顔を擦った。
「俺は何かもう、ずっと極道やから。普通が分からん」
珍しくよく喋るなと思いながら、静は首を傾げた。
「…普通」
心の言う、普通とは何だろう?
静の歩んできた今までの長いとは言えない人生は、普通だろうか。いや、きっと普通とは言わないだろう。
では、大学で静と同じ講義を受けている学生はどうだ?
強いて言えば、両親は揃っていないといけないのか?
揃っていても、例えば父親がリストラされてたりしたら?
母親がキッチンドラッカーだったら?不倫していたら?兄弟がグレてたら?
どこからどこまでが普通で、どこからどこまでが普通じゃないのか。
そんなもの、きっと基準もなければ決まりもない。人それぞれの人生がある様に、人それぞれの捉え方があるはずだ。
「そんなの…俺にもわかんねーよ。普通ってなんだよ」
結局、答えが出なくて静は口を尖らした。
「せやな。俺も彪鷹も…成田も他の組員も、極道に関わる家の人間やった。相馬かてそうや…。ああ、崎山はちゃうけど。やから普通が分からん。ただ、普通は極道は忌み嫌われる人種やていうんは分かる。静は特に…嫌がるんは分かる。しかも俺に関わるんはリスクが大きい。強制は出来んし、する気はあらへん」
「…珍しく、よく喋ると思ったら」
普通とはそういう普通か。普通の人は、”極道”には関わらないという”普通”。
傲岸不遜で得手勝手なくせに他人の事を気遣うなんて、明日は槍でも降るのか。
「大多喜組で一度、ボコられてさ。なんだっけ?男が男に身体売る専門の店。そこに売られそうになった」
静の突然の告白に、心の顳かみがピクリと動いた。
「外見はこんなんだけど男だから、殴られたところで痛みが少しあるくらいで」
静は話ながら心の手を取った。前も思ったが、指の長い綺麗な手だ。大きくて、節がゴツゴツしてなくて心の身体同様、すらりとしている。
ところどころ傷があるのが心らしい。そんなことを思いながら、静は話し続けた。
「親父が自殺したばっかで、ちょっと感覚が鈍ってて、痛みにも鈍ってて。痛みで身体が動かないとかの感覚が麻痺してたおかげで、隙を見て逃げれた。それに、逃げるために桟橋から海にジャンプしたこともある」
「…桟橋?」
「俺は、弱くないよ」
ギュッと心の手を握った。
年下なんて嘘だろと思っていたが、時折見せる目がたまに幼い。それに獰猛な瞳の中に一瞬だけ垣間見える、静にしか分からない隙がある。それが可愛いと思う。
可愛いなんてきっと世界一似合わない形容詞だが、可愛いのだ。
静は心の手を握りながら、心の迷いを感じた。
心の言う”厄介な奴”が、恐らく、眞澄や他の組とは度合いが違うのだろう。そして、本気の殺意を持っている相手だ。
ここは年上の俺が汲んでやらないとなと、静はにっこりと微笑んだ。
「…俺も、心が好きだよ」
瞬間、獰猛な猛獣が牙を剥いた。
引き寄せられたと思ったら、床に強かに背中を打ち付けた。
きっと出逢った時に捕まってた。唯我独尊で豪放磊落で、でもやる気がなくて、でも、存在だけで皆を平伏せさせる百獣の王。
ギュッと抱き締められ、喉笛に痛みが出るくらいに吸い付かれる。喰われると錯覚しそうな感覚。
そこもライオンかと笑いそうになった。だが必死だと身体から伝わる。
これ以上、進まないように、心が自分の獰猛な理性と闘ってる。傷つけたくないと、己と闘ってる。
「心…」
広い背中におずおずと手を回す。
欲しがっているのはどっちだ?
「…来いよ」
静が耳元で囁いた。
口づけは静の全てを吸いとるようで、息つく暇さえなかった。歯列を舐めあげられ、驚いて縮こまる舌を絡みとられる。
押し倒され、尚且つ抱き締められれば身動き一つ取れない。その身体の服の下から心の手が入り込む。
大食漢だが平均体重より下。どちらかと言えば痩せすぎ。もちろん、たわわに実った果実のような膨らみのある胸なんてない。
来いと言ったものの、自分の身体の造形に血の気が引いた。
「…っやだ」
無理矢理に顔を背けて拒絶。
来いと言いながら、嫌だとは何事だと思いながらも嫌なものは嫌。無理なものは無理。
「ちょ…ちょっと待って!!」
「…なにが」
静の拒絶に、心は怯むことなく服の下を弄る。
背中に回った手が、天使の羽のような肩甲骨をするりと撫でた。
「ま、待って!待て、待て!!」
犬にでも言う様に言う。それに、ぐぐっと喉を鳴らすところは野獣そのもの。
食べてくださいと腹を見せる草食獣を目の前に、肉食獣が我慢出来るわけもなく。それでも静は精一杯、拒んでみせた。
「お、俺、無理」
「アホか、俺が無理じゃ」
腰を抱いてた方の手が、静の背中に回り腕を掴み後ろ手に回す。
「あっ!?」
力も身体も圧倒的に上。静の身体の自由を奪う事なんて、心にとっては朝飯前だ。
「…ようやく抱けるってなったのんを、無理で止めれるか。俺が今まで我慢した褒美くらい寄越せ」
「褒美って…!俺、男だぞ」
何を今更。来いと言っておいて、俺、男だぞとは支離滅裂だと自分でも思った。
でも、とりあえず、そんな言葉しか浮かばなかった。
「…この、どあほうが」
獣が唸るように言ったかと思えば、拘束された腕が離され一気にシャツを剥ぎ取られる。
暗くもない、どちらかと言えば明るい部屋で開け放たれた窓からは青空。
その青空の見える部屋で上半身を裸にされ、羞恥で身体が赤く染まった。
「諦めろ」
獣が呟いた。
「ちょっ!…あっ」
まるで捕獲した獲物を味見するように、腰をベロリと舐められる。
抵抗する手をそれぞれ心の手に掴まれた、身動きが取れない中、腹に噛みつかれた。
「痛い!!!」
なに!?本気で食べる気か!?ジクジク痛む噛み痕を舐められる。
小さな痛みが走り、腰が逃げた。
下を見れば、もしかして血塗れなんじゃないかと思ったが、まさかそんなことはなかった。
だが、痛みのある場所はじんわり血が滲んでいた。
恨めしそうに見る静の目を見ながら、心が歯で静のジーンズのボタンを外し、チャックを下ろす。
「あ…っ!バカ!」
言っても手は押さえられたまま。お互いが、両手を使えなかった。
ちゅうっと腰骨辺りを吸われる。ガクンと腰が落ちた。
ざわざわと落ち着かない。腰で履いた下着の隙間に舌を入れられ、ゾクッとする。
下着のラインに合わせ、舌を這わされ抑えきれない声が漏れた。
「…し、心っ!!」
臍の下を吸われ、ぐっと息を詰める。心拍数が異常なほど上昇して、呼吸が忙しない。
ふっと自分の姿を思い浮かべて、ぎゅーっと目を瞑った。中途半端。脱がされたのは上の服だけ。下は前を寛げたジーンズをがっちり履いている。
女じゃあるまいし、上半身裸にヤダ!なんて気持ちの悪い悲鳴はあげたりしない。だが、両手を拘束されて臍周りや腰を甘噛みされて、落ち着かない。
「う、あぁ…」
口を開けるとあえかな声が漏れる。
ちゅうっと臍の下を吸われたとき、心の顎が静の下着を持ち上げる熱を刺激して身体が跳ねた。
「し、心!!や!!ここは嫌だ!!」
横を見れば、広大に広がる庭。そよそよと場違いな風まで吹き込んで、居心地の悪さは半端ない。
ばたばたと足をバタつかして暴れ出した静に、心はやれやれとばかりに拘束している手を離した。
瞬間、静は起き上がり服を戻そうとしたのだが、そのまま米俵の様に心に担ぎ上げられた。
「ちょ、ちょっと!!」
「ここは嫌なぁ。まぁ、初めてで床は色気ないよな」
色気があるとかないとか、そ、そんなもの、求めてないよ!!
心は静を担いだまま、廊下をどんどん進む。担がれながら目に入る、小さな中庭。
紅葉の木が一本。それと水琴窟。小さい空間ながら、その醸し出す風情には息を呑む。
「おい!!」
落ち着かない。上半身裸で、心許ないジーンズを何とか履いて肩に担がれて。
何だこれ、どうなんだこれ。
ふっと、廊下の幅が狭くなった。振り返れば、格子が見えた。心は千本格子のそれをカラカラ開けて、まだ中に進む。
木の香りが鼻をくすぐる。何畳あるのか検討もつかない部屋を更に奥に進んでいく。
荷物状態の静は暴れることも何か言うこともなく、次々現れる部屋の素晴らしさに圧倒されていた。
数寄を凝らした和をベースにした部屋。そこだけ段差のついた和室には、天井から伸びた棒が飾り棚をオブジェの様に演出していた。
部屋のどこにも古めかしさはない。だが真新しさもない。古さと新しさを融合させたそこ。
と、急に視界が暗くなった。振り返ると照明の落とされた部屋。
あ…と思った時には、静の身体は宙に舞っていた。
衝撃を全て吸収するベッドに身体が落とされ、慌てて起き上がると心が静の唇を奪った。ちゅっと吸われて、離れたと思ったら唇をペロリと舐められる。
獣が味見をするようなそれを繰り返され、ぎろり睨むと心が笑った。
「あそこであのまま…ヤラれるかと思った」
「それもええけど、やっぱり誰にも見せたくない」
「あ?」
「…例えば、空にも」
そう言って、心は静の肩を緩く押す。それに静が応えるように、身体を倒した。
「俺が、どうしたいんか…」
まさか、返されるとは思わなかったのか心がフッと笑った。
心を目の前にして、怯むことなく目を合わせてくる人間はどれくらい居ただろうか。
静は初めからそうだった。心に対して恐怖もなく諂うこともなく。そして、極道と知れば怯むことなく喧嘩上等。
静が他の人間と違うと思ったのは、この折れることも緩むこともない真っ直ぐな芯の強さ。
躊躇いも迷いも恐怖もない。それが吉良 静。
心は少しばかり目を細めると、フッと笑った。
「強制はしたない」
「うん?」
「好きや」
「うん…え?は?」
一瞬、何を言われたのかわからずに、呆ける。言われた言葉を反芻してみて、カッと顔に血が昇った。
「…真っ赤」
ククッと笑われ、スッと伸びて来た指に頬を突かれる。
「う、うるさい」
パシッと手を払い除け、そうしたところで変わらない顔を擦った。
「俺は何かもう、ずっと極道やから。普通が分からん」
珍しくよく喋るなと思いながら、静は首を傾げた。
「…普通」
心の言う、普通とは何だろう?
静の歩んできた今までの長いとは言えない人生は、普通だろうか。いや、きっと普通とは言わないだろう。
では、大学で静と同じ講義を受けている学生はどうだ?
強いて言えば、両親は揃っていないといけないのか?
揃っていても、例えば父親がリストラされてたりしたら?
母親がキッチンドラッカーだったら?不倫していたら?兄弟がグレてたら?
どこからどこまでが普通で、どこからどこまでが普通じゃないのか。
そんなもの、きっと基準もなければ決まりもない。人それぞれの人生がある様に、人それぞれの捉え方があるはずだ。
「そんなの…俺にもわかんねーよ。普通ってなんだよ」
結局、答えが出なくて静は口を尖らした。
「せやな。俺も彪鷹も…成田も他の組員も、極道に関わる家の人間やった。相馬かてそうや…。ああ、崎山はちゃうけど。やから普通が分からん。ただ、普通は極道は忌み嫌われる人種やていうんは分かる。静は特に…嫌がるんは分かる。しかも俺に関わるんはリスクが大きい。強制は出来んし、する気はあらへん」
「…珍しく、よく喋ると思ったら」
普通とはそういう普通か。普通の人は、”極道”には関わらないという”普通”。
傲岸不遜で得手勝手なくせに他人の事を気遣うなんて、明日は槍でも降るのか。
「大多喜組で一度、ボコられてさ。なんだっけ?男が男に身体売る専門の店。そこに売られそうになった」
静の突然の告白に、心の顳かみがピクリと動いた。
「外見はこんなんだけど男だから、殴られたところで痛みが少しあるくらいで」
静は話ながら心の手を取った。前も思ったが、指の長い綺麗な手だ。大きくて、節がゴツゴツしてなくて心の身体同様、すらりとしている。
ところどころ傷があるのが心らしい。そんなことを思いながら、静は話し続けた。
「親父が自殺したばっかで、ちょっと感覚が鈍ってて、痛みにも鈍ってて。痛みで身体が動かないとかの感覚が麻痺してたおかげで、隙を見て逃げれた。それに、逃げるために桟橋から海にジャンプしたこともある」
「…桟橋?」
「俺は、弱くないよ」
ギュッと心の手を握った。
年下なんて嘘だろと思っていたが、時折見せる目がたまに幼い。それに獰猛な瞳の中に一瞬だけ垣間見える、静にしか分からない隙がある。それが可愛いと思う。
可愛いなんてきっと世界一似合わない形容詞だが、可愛いのだ。
静は心の手を握りながら、心の迷いを感じた。
心の言う”厄介な奴”が、恐らく、眞澄や他の組とは度合いが違うのだろう。そして、本気の殺意を持っている相手だ。
ここは年上の俺が汲んでやらないとなと、静はにっこりと微笑んだ。
「…俺も、心が好きだよ」
瞬間、獰猛な猛獣が牙を剥いた。
引き寄せられたと思ったら、床に強かに背中を打ち付けた。
きっと出逢った時に捕まってた。唯我独尊で豪放磊落で、でもやる気がなくて、でも、存在だけで皆を平伏せさせる百獣の王。
ギュッと抱き締められ、喉笛に痛みが出るくらいに吸い付かれる。喰われると錯覚しそうな感覚。
そこもライオンかと笑いそうになった。だが必死だと身体から伝わる。
これ以上、進まないように、心が自分の獰猛な理性と闘ってる。傷つけたくないと、己と闘ってる。
「心…」
広い背中におずおずと手を回す。
欲しがっているのはどっちだ?
「…来いよ」
静が耳元で囁いた。
口づけは静の全てを吸いとるようで、息つく暇さえなかった。歯列を舐めあげられ、驚いて縮こまる舌を絡みとられる。
押し倒され、尚且つ抱き締められれば身動き一つ取れない。その身体の服の下から心の手が入り込む。
大食漢だが平均体重より下。どちらかと言えば痩せすぎ。もちろん、たわわに実った果実のような膨らみのある胸なんてない。
来いと言ったものの、自分の身体の造形に血の気が引いた。
「…っやだ」
無理矢理に顔を背けて拒絶。
来いと言いながら、嫌だとは何事だと思いながらも嫌なものは嫌。無理なものは無理。
「ちょ…ちょっと待って!!」
「…なにが」
静の拒絶に、心は怯むことなく服の下を弄る。
背中に回った手が、天使の羽のような肩甲骨をするりと撫でた。
「ま、待って!待て、待て!!」
犬にでも言う様に言う。それに、ぐぐっと喉を鳴らすところは野獣そのもの。
食べてくださいと腹を見せる草食獣を目の前に、肉食獣が我慢出来るわけもなく。それでも静は精一杯、拒んでみせた。
「お、俺、無理」
「アホか、俺が無理じゃ」
腰を抱いてた方の手が、静の背中に回り腕を掴み後ろ手に回す。
「あっ!?」
力も身体も圧倒的に上。静の身体の自由を奪う事なんて、心にとっては朝飯前だ。
「…ようやく抱けるってなったのんを、無理で止めれるか。俺が今まで我慢した褒美くらい寄越せ」
「褒美って…!俺、男だぞ」
何を今更。来いと言っておいて、俺、男だぞとは支離滅裂だと自分でも思った。
でも、とりあえず、そんな言葉しか浮かばなかった。
「…この、どあほうが」
獣が唸るように言ったかと思えば、拘束された腕が離され一気にシャツを剥ぎ取られる。
暗くもない、どちらかと言えば明るい部屋で開け放たれた窓からは青空。
その青空の見える部屋で上半身を裸にされ、羞恥で身体が赤く染まった。
「諦めろ」
獣が呟いた。
「ちょっ!…あっ」
まるで捕獲した獲物を味見するように、腰をベロリと舐められる。
抵抗する手をそれぞれ心の手に掴まれた、身動きが取れない中、腹に噛みつかれた。
「痛い!!!」
なに!?本気で食べる気か!?ジクジク痛む噛み痕を舐められる。
小さな痛みが走り、腰が逃げた。
下を見れば、もしかして血塗れなんじゃないかと思ったが、まさかそんなことはなかった。
だが、痛みのある場所はじんわり血が滲んでいた。
恨めしそうに見る静の目を見ながら、心が歯で静のジーンズのボタンを外し、チャックを下ろす。
「あ…っ!バカ!」
言っても手は押さえられたまま。お互いが、両手を使えなかった。
ちゅうっと腰骨辺りを吸われる。ガクンと腰が落ちた。
ざわざわと落ち着かない。腰で履いた下着の隙間に舌を入れられ、ゾクッとする。
下着のラインに合わせ、舌を這わされ抑えきれない声が漏れた。
「…し、心っ!!」
臍の下を吸われ、ぐっと息を詰める。心拍数が異常なほど上昇して、呼吸が忙しない。
ふっと自分の姿を思い浮かべて、ぎゅーっと目を瞑った。中途半端。脱がされたのは上の服だけ。下は前を寛げたジーンズをがっちり履いている。
女じゃあるまいし、上半身裸にヤダ!なんて気持ちの悪い悲鳴はあげたりしない。だが、両手を拘束されて臍周りや腰を甘噛みされて、落ち着かない。
「う、あぁ…」
口を開けるとあえかな声が漏れる。
ちゅうっと臍の下を吸われたとき、心の顎が静の下着を持ち上げる熱を刺激して身体が跳ねた。
「し、心!!や!!ここは嫌だ!!」
横を見れば、広大に広がる庭。そよそよと場違いな風まで吹き込んで、居心地の悪さは半端ない。
ばたばたと足をバタつかして暴れ出した静に、心はやれやれとばかりに拘束している手を離した。
瞬間、静は起き上がり服を戻そうとしたのだが、そのまま米俵の様に心に担ぎ上げられた。
「ちょ、ちょっと!!」
「ここは嫌なぁ。まぁ、初めてで床は色気ないよな」
色気があるとかないとか、そ、そんなもの、求めてないよ!!
心は静を担いだまま、廊下をどんどん進む。担がれながら目に入る、小さな中庭。
紅葉の木が一本。それと水琴窟。小さい空間ながら、その醸し出す風情には息を呑む。
「おい!!」
落ち着かない。上半身裸で、心許ないジーンズを何とか履いて肩に担がれて。
何だこれ、どうなんだこれ。
ふっと、廊下の幅が狭くなった。振り返れば、格子が見えた。心は千本格子のそれをカラカラ開けて、まだ中に進む。
木の香りが鼻をくすぐる。何畳あるのか検討もつかない部屋を更に奥に進んでいく。
荷物状態の静は暴れることも何か言うこともなく、次々現れる部屋の素晴らしさに圧倒されていた。
数寄を凝らした和をベースにした部屋。そこだけ段差のついた和室には、天井から伸びた棒が飾り棚をオブジェの様に演出していた。
部屋のどこにも古めかしさはない。だが真新しさもない。古さと新しさを融合させたそこ。
と、急に視界が暗くなった。振り返ると照明の落とされた部屋。
あ…と思った時には、静の身体は宙に舞っていた。
衝撃を全て吸収するベッドに身体が落とされ、慌てて起き上がると心が静の唇を奪った。ちゅっと吸われて、離れたと思ったら唇をペロリと舐められる。
獣が味見をするようなそれを繰り返され、ぎろり睨むと心が笑った。
「あそこであのまま…ヤラれるかと思った」
「それもええけど、やっぱり誰にも見せたくない」
「あ?」
「…例えば、空にも」
そう言って、心は静の肩を緩く押す。それに静が応えるように、身体を倒した。
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