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第3幕・Empowerment(エンパワーメント)の章〜⑦〜
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7月2日(日)
月が変わり、あの日から1週間が経過しても、悶々とした気持ちを抱えたまま、僕は日々を過ごしていた。
1週間前と同じく、
(あの男性は、誰なんだろう……?)
(奈緒美さんの家に招かれるような仲なんだろうか……?)
と、自分では答えを導き出せない疑問が、頭の中をグルグルと駆け回ると同時に、
(どうして、あの時、奈緒美さんに声を掛けなかったんだ……)
という自分自身への嫌悪感が、僕の心を覆う。
駅の改札口に向かう二人をコッソリと追いかけ、挙げ句、彼女が男性と別れたの確認すると、その場から逃げるように去ってしまった自分の意気地なさが、本当に情けなくなる。
小学生の頃に転校していったクラスメートに淡い感情を抱いた時や、高校に入学してから一緒に文化委員の仕事をしていた女子に親しみ以上の想いを抱いていた時、そして、なかなか就職が決まらず、鬱々とした感情のまま、仲の良かったサークル仲間の女友達に想いを告げられなかった二年前――――――。
いま思えば不思議なことだけど、なぜか、そばにいる異性に対して興味や関心が高まった時期に、我が愛するチームは、ペナントレースで優勝争いを演じ、そして、秋には虚しく敗れ去っていた。
奈緒美さんとの仲が進展している……と、僕が一方的に思い込んでいた時期も、チームは首位を快走していたが、その流れが途切れたとたん、彼女との関係について、現実を思い知らされることになった。
幸いなことに、沈みがちな僕の気分とは異なり、一度はセントラル・リーグの首位に立ったベイスターズが、連勝の反動からか、首位攻防戦直後の6月末から調子を落とし、阪神はアッサリと首位を奪還したものの、3位のカープ、4位のジャイアンツも交流戦後に調子を上げてきており、まだまだ抜け出すチームはなく、ペナントレースの行方は、混沌としている。
「贔屓の球団のチーム状況と自分のプライベートなことがリンクするなんて、馬鹿げたことだ……」
と、何度も、その考えを否定するけど、多忙であるらしい奈緒美さんと連絡を取ろうか迷っている僕の気持ちと同様に、初夏の阪神タイガースは、シーズン序盤のように、勝ったり、負けたり、引き分けたりの一進一退の攻防を繰り返していた。
【本日の試合結果】
巨人 対 阪神 11回戦 巨人 2ー2 阪神
初回にジャイアンツのブリンソンのホームランで先制を許した阪神は、1点を追う4回表にミエセスの押し出し死球と木浪のタイムリーで2点を挙げて逆転に成功する。
しかし、その裏、先発の才木が、ジャイアンツの若きホープ秋広優人のソロ・ホームランで同点に追いつかれる。
試合は、その後、両チームの投手陣が互いに得点を許さず、3時間45分の熱戦は、延長12回引き分けに終わった。
◎7月2日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:39勝27敗 3引き分け 貯金12
順位:首位(2位と1.5ゲーム差)
※
7月9日(日)
その日の試合は、まるで、ここ数週間の僕の気持ちを表しているかのように、7回終了まで両チーム無得点のゼロ行進となり、膠着状態が続いていた。
先発の西純矢の後を継いだ岩貞祐太が三者凡退で8回表のスワローズの攻撃を三者凡退で抑えると、テレビ観戦をしていた僕は、
(この回は、一番の森下からか……チャンスを作る前にトイレに行っとくか……)
と考えて席を立ち、ワンルームの部屋からトイレに立つ。
しかし、その選択を僕は後悔することになる。
用を足し終えて、43∨型のテレビに目を向けると、画面には阪神ベンチが大写しになっている。
「えっ!? まさか……」
と、絶句しながら画面に見入っていると、この日、前の週のジャイアンツ戦で死球を受けて登録を抹消された近本に代わって、1番打者として起用されたルーキーの森下翔太が、スワローズの三番手投手・木澤尚文の真ん中に入ってきた速球をとらえて、満員の左中間スタンドに叩き込んだVTRが流れてきた。
これは、森下にとって、公式戦でのプロ初ホームランだ。
開幕前のオープン戦では、何本かホームランを放っていたものの、二軍での調整が続いた時期もあり、シーズン開幕から三ヶ月以上が経過して、ようやく第1号が飛び出した。
正直なところ、この試合まで、森下の成績といえば、打率もさほど高くなく、ホームランも打っていなかったことから、この打者が一振りで試合を決めるということは、まったく予想できなかった。
ただ、5月のカープ戦でサヨナラヒットを放ったときのように、初球から力強くバットを振っていけるのが、この選手の強みだ。
自分の応援するチームの選手の能力を見くびってしまうなど、ファンにとってはあるまじき行為だ。
さらに、ドラフト1位で入団してきた大型新人のこの選手が、今後、どのように成長を遂げるのかはわからないが、将来有望な選手のプロ入り第1号ホームランを見逃してしまうとは、一生の不覚でもある。
プライベートと同じく、試合観戦でも星のめぐりが悪いな、と感じながらも、首位争いをするチームに新たな戦力が加わったことをたくましく思い、ルーキーの飛躍に楽しみにしている自分に気づいた。
【本日の試合結果】
阪神 対 ヤクルト 14回戦 阪神 1ー0 ヤクルト
タイガース・西純矢、スワローズ・高橋奎二、両先発の好投もあり、両チーム無得点で迎えた8回裏、先頭で打席に立ったルーキーの森下翔太が、満員のレフトスタンドに飛び込む値千金以上に価値のあるソロ・ホームランを放って先制。
8回表からマウンドに上がった岩貞祐太に勝ち星がつき、交流戦終盤から抑え投手に指名された岩崎優が12セーブ目をあげる。
タイガースは、接戦を制して、単独首位の座を守った。
◎7月9日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:41勝30敗 3引き分け 貯金11
順位:首位(2位と1.0ゲーム差)
月が変わり、あの日から1週間が経過しても、悶々とした気持ちを抱えたまま、僕は日々を過ごしていた。
1週間前と同じく、
(あの男性は、誰なんだろう……?)
(奈緒美さんの家に招かれるような仲なんだろうか……?)
と、自分では答えを導き出せない疑問が、頭の中をグルグルと駆け回ると同時に、
(どうして、あの時、奈緒美さんに声を掛けなかったんだ……)
という自分自身への嫌悪感が、僕の心を覆う。
駅の改札口に向かう二人をコッソリと追いかけ、挙げ句、彼女が男性と別れたの確認すると、その場から逃げるように去ってしまった自分の意気地なさが、本当に情けなくなる。
小学生の頃に転校していったクラスメートに淡い感情を抱いた時や、高校に入学してから一緒に文化委員の仕事をしていた女子に親しみ以上の想いを抱いていた時、そして、なかなか就職が決まらず、鬱々とした感情のまま、仲の良かったサークル仲間の女友達に想いを告げられなかった二年前――――――。
いま思えば不思議なことだけど、なぜか、そばにいる異性に対して興味や関心が高まった時期に、我が愛するチームは、ペナントレースで優勝争いを演じ、そして、秋には虚しく敗れ去っていた。
奈緒美さんとの仲が進展している……と、僕が一方的に思い込んでいた時期も、チームは首位を快走していたが、その流れが途切れたとたん、彼女との関係について、現実を思い知らされることになった。
幸いなことに、沈みがちな僕の気分とは異なり、一度はセントラル・リーグの首位に立ったベイスターズが、連勝の反動からか、首位攻防戦直後の6月末から調子を落とし、阪神はアッサリと首位を奪還したものの、3位のカープ、4位のジャイアンツも交流戦後に調子を上げてきており、まだまだ抜け出すチームはなく、ペナントレースの行方は、混沌としている。
「贔屓の球団のチーム状況と自分のプライベートなことがリンクするなんて、馬鹿げたことだ……」
と、何度も、その考えを否定するけど、多忙であるらしい奈緒美さんと連絡を取ろうか迷っている僕の気持ちと同様に、初夏の阪神タイガースは、シーズン序盤のように、勝ったり、負けたり、引き分けたりの一進一退の攻防を繰り返していた。
【本日の試合結果】
巨人 対 阪神 11回戦 巨人 2ー2 阪神
初回にジャイアンツのブリンソンのホームランで先制を許した阪神は、1点を追う4回表にミエセスの押し出し死球と木浪のタイムリーで2点を挙げて逆転に成功する。
しかし、その裏、先発の才木が、ジャイアンツの若きホープ秋広優人のソロ・ホームランで同点に追いつかれる。
試合は、その後、両チームの投手陣が互いに得点を許さず、3時間45分の熱戦は、延長12回引き分けに終わった。
◎7月2日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:39勝27敗 3引き分け 貯金12
順位:首位(2位と1.5ゲーム差)
※
7月9日(日)
その日の試合は、まるで、ここ数週間の僕の気持ちを表しているかのように、7回終了まで両チーム無得点のゼロ行進となり、膠着状態が続いていた。
先発の西純矢の後を継いだ岩貞祐太が三者凡退で8回表のスワローズの攻撃を三者凡退で抑えると、テレビ観戦をしていた僕は、
(この回は、一番の森下からか……チャンスを作る前にトイレに行っとくか……)
と考えて席を立ち、ワンルームの部屋からトイレに立つ。
しかし、その選択を僕は後悔することになる。
用を足し終えて、43∨型のテレビに目を向けると、画面には阪神ベンチが大写しになっている。
「えっ!? まさか……」
と、絶句しながら画面に見入っていると、この日、前の週のジャイアンツ戦で死球を受けて登録を抹消された近本に代わって、1番打者として起用されたルーキーの森下翔太が、スワローズの三番手投手・木澤尚文の真ん中に入ってきた速球をとらえて、満員の左中間スタンドに叩き込んだVTRが流れてきた。
これは、森下にとって、公式戦でのプロ初ホームランだ。
開幕前のオープン戦では、何本かホームランを放っていたものの、二軍での調整が続いた時期もあり、シーズン開幕から三ヶ月以上が経過して、ようやく第1号が飛び出した。
正直なところ、この試合まで、森下の成績といえば、打率もさほど高くなく、ホームランも打っていなかったことから、この打者が一振りで試合を決めるということは、まったく予想できなかった。
ただ、5月のカープ戦でサヨナラヒットを放ったときのように、初球から力強くバットを振っていけるのが、この選手の強みだ。
自分の応援するチームの選手の能力を見くびってしまうなど、ファンにとってはあるまじき行為だ。
さらに、ドラフト1位で入団してきた大型新人のこの選手が、今後、どのように成長を遂げるのかはわからないが、将来有望な選手のプロ入り第1号ホームランを見逃してしまうとは、一生の不覚でもある。
プライベートと同じく、試合観戦でも星のめぐりが悪いな、と感じながらも、首位争いをするチームに新たな戦力が加わったことをたくましく思い、ルーキーの飛躍に楽しみにしている自分に気づいた。
【本日の試合結果】
阪神 対 ヤクルト 14回戦 阪神 1ー0 ヤクルト
タイガース・西純矢、スワローズ・高橋奎二、両先発の好投もあり、両チーム無得点で迎えた8回裏、先頭で打席に立ったルーキーの森下翔太が、満員のレフトスタンドに飛び込む値千金以上に価値のあるソロ・ホームランを放って先制。
8回表からマウンドに上がった岩貞祐太に勝ち星がつき、交流戦終盤から抑え投手に指名された岩崎優が12セーブ目をあげる。
タイガースは、接戦を制して、単独首位の座を守った。
◎7月9日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:41勝30敗 3引き分け 貯金11
順位:首位(2位と1.0ゲーム差)
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