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第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜④
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「いきなり、飛び道具をブッ放してくるとか、おっかないヤツだなぁ……」
自分自身と瓜二つ(髪の色をのぞく)の姿をしている人物に、見たこともないような武器で攻撃されたという事実に対して、現実感を持つことができずに感想をつぶやくと、親友の姿をした捜査官は、あきれた表情で苦言を呈してくる。
「もうちょっと、緊張感を持ってくれよ。ブルームたちが来るまで、あのふたりを相手に、ボクは、キミと浅倉桃を守りきらなきゃならないんだよ?」
その一言で、オレは事態の深刻さを再認識する。
そうだ――――――。
自分自身はともかく、桃には絶対に無事でいてもらわないと……。
オレの表情が変わったのを察したのか、ゲルブは、落ち着いたようすで語る。
「わかってくれたなら、良いんだけどね……玄野雄司、ボクはキミ以上にシュヴァルツの性格を把握しているつもりだ。少なくとも、応援のメンバーが到着するまでは、彼を刺激するような言動は謹んでくれ」
オレ自身と冬馬のように、シュヴァルツとゲルブの間にも、浅からぬ関係というものがあるのだろうか?
「わかったよ……なるべく言葉を選んで発言する」
そう答えながら、反政府的な立ち場の相手に対して、ずい分と寛容だな、と感じる。
桃やオレの身を案じるゲルブと言い、三葉と同じ姿をしているクリーブラットと言い、過激な思想を持つグループを率いているシュヴァルツに対して、憎みきれない複雑な感情を抱いているように感じられるのは、どうやら、気のせいでもないようだ。
ただ、こうして、オレと捜査官が会話を交わしている間に再度の攻撃を加えてこないことを考えると、先ほどの突然のレーザー銃の発砲は威嚇射撃であって、シュヴァルツたちは、今すぐにオレやゲルブの命を奪おうと考えているわけではないのかも知れない。
「交渉の余地があるなら、向こうの要求を聞いてみるのも悪くはないか? ブルームたちが来るまでの時間稼ぎにもなりそうだしな」
小声でゲルブに確認すると、 捜査官も同じ方針を考えていたのか、だまってうなずき、こちらの考えに賛同の意を示す。
オレも、だまってうなずき返して、ゲルブの意志を確認したことを伝えると、制服についた砂ぼこりを払いながら立ち上がり、並行世界の住人に大声で語りかける。
「オーケー、シュヴァルツ。アンタらのチカラは、良くわかった! オレをココに呼び出そうとしていたということは、なにか目的があるんだろう? そっちの要求を聞かせてくれないか?」
そう言って、こちらの意志を伝えると、シュヴァルツは、
「最初から、そういう殊勝な態度でいれば、地面にひれ伏さずに済んだものを……」
と反応を示して、構えていたレーザー銃を下ろして彼らの要求について答える。
「我らの要求は、玄野雄司、貴様自身だ。貴様が、大人しくコチラに来れば、浅倉桃は解放しよう」
オレの身柄を確保するために、桃を利用するとは……。
『ラディカル』のメンバーが取った手段以上に、自分自身のせいで、桃の身が危険にさらされたことについて、怒りと不甲斐なさで身体が震えそうになる。
ただ、ここは、彼らの要求に従い、自分の身を相手に委ねてでも、桃の解放を優先するべきだろう――――――。
そう考えて、シュヴァルツの要求を呑もうと返答しようとしたところ、すぐそばから、静かにオレの決断を静止する声があがった。
「待ってくれ、玄野雄司。いま、キミが彼らの元に行くのはマズい。おそらく、シュヴァルツの狙いは、キミ自身の脳内に蓄積された経験や記憶だ」
ゲルブが気になることを言い出したので、オレは、捜査官に対して疑問に感じたことをたずねる。
「オレ自身の経験や記憶が目的って、どういうことだ? たしかに、オレは、いくつかの並行世界移動を体験してきたが、大した知識や経験を積んだわけじゃないぞ? オレの体験談なんて、ゲルブやシュヴァルツのセカイの住人からすれば、取るに足りないものだろう?」
「キミ自身は、そう感じているかも知れないけど……多分、シュヴァルツは、そう考えてはいない。前にも話したとおり、ボクらは、特別な施術を受けて、他の並行世界に暮らす自分と同等の存在の記憶や経験を共有することができる。ただ、特殊な経緯でトリップの能力を得たキミだけは例外的に、他のセカイの自分と記憶を共有できないし、外部からも、その影響を受けない。自覚は無いだろうけど、シュヴァルツは、自分の中に欠けているキミの経験や記憶を欲している。そして、それを得たあとは……」
ゲルブは、最後の言葉を濁したが、シュヴァルツの計画は、どうやら、オレの脳内情報を得ることで準備が冠水するらしい。ゲルブが言ったことから推察するなら、『ラディカル』によるセカイ統合計画は、最終的な局面を迎えているということなのだろう。
オレの17年間の人生に、セカイ統合計画を左右するほどの価値があるなどとは、とうてい思えないのだが……。
ただ、それでも、桃の身が危険にさらされ続けていることを思えば、それをシュヴァルツたちに差し出しても――――――。
自分自身と瓜二つ(髪の色をのぞく)の姿をしている人物に、見たこともないような武器で攻撃されたという事実に対して、現実感を持つことができずに感想をつぶやくと、親友の姿をした捜査官は、あきれた表情で苦言を呈してくる。
「もうちょっと、緊張感を持ってくれよ。ブルームたちが来るまで、あのふたりを相手に、ボクは、キミと浅倉桃を守りきらなきゃならないんだよ?」
その一言で、オレは事態の深刻さを再認識する。
そうだ――――――。
自分自身はともかく、桃には絶対に無事でいてもらわないと……。
オレの表情が変わったのを察したのか、ゲルブは、落ち着いたようすで語る。
「わかってくれたなら、良いんだけどね……玄野雄司、ボクはキミ以上にシュヴァルツの性格を把握しているつもりだ。少なくとも、応援のメンバーが到着するまでは、彼を刺激するような言動は謹んでくれ」
オレ自身と冬馬のように、シュヴァルツとゲルブの間にも、浅からぬ関係というものがあるのだろうか?
「わかったよ……なるべく言葉を選んで発言する」
そう答えながら、反政府的な立ち場の相手に対して、ずい分と寛容だな、と感じる。
桃やオレの身を案じるゲルブと言い、三葉と同じ姿をしているクリーブラットと言い、過激な思想を持つグループを率いているシュヴァルツに対して、憎みきれない複雑な感情を抱いているように感じられるのは、どうやら、気のせいでもないようだ。
ただ、こうして、オレと捜査官が会話を交わしている間に再度の攻撃を加えてこないことを考えると、先ほどの突然のレーザー銃の発砲は威嚇射撃であって、シュヴァルツたちは、今すぐにオレやゲルブの命を奪おうと考えているわけではないのかも知れない。
「交渉の余地があるなら、向こうの要求を聞いてみるのも悪くはないか? ブルームたちが来るまでの時間稼ぎにもなりそうだしな」
小声でゲルブに確認すると、 捜査官も同じ方針を考えていたのか、だまってうなずき、こちらの考えに賛同の意を示す。
オレも、だまってうなずき返して、ゲルブの意志を確認したことを伝えると、制服についた砂ぼこりを払いながら立ち上がり、並行世界の住人に大声で語りかける。
「オーケー、シュヴァルツ。アンタらのチカラは、良くわかった! オレをココに呼び出そうとしていたということは、なにか目的があるんだろう? そっちの要求を聞かせてくれないか?」
そう言って、こちらの意志を伝えると、シュヴァルツは、
「最初から、そういう殊勝な態度でいれば、地面にひれ伏さずに済んだものを……」
と反応を示して、構えていたレーザー銃を下ろして彼らの要求について答える。
「我らの要求は、玄野雄司、貴様自身だ。貴様が、大人しくコチラに来れば、浅倉桃は解放しよう」
オレの身柄を確保するために、桃を利用するとは……。
『ラディカル』のメンバーが取った手段以上に、自分自身のせいで、桃の身が危険にさらされたことについて、怒りと不甲斐なさで身体が震えそうになる。
ただ、ここは、彼らの要求に従い、自分の身を相手に委ねてでも、桃の解放を優先するべきだろう――――――。
そう考えて、シュヴァルツの要求を呑もうと返答しようとしたところ、すぐそばから、静かにオレの決断を静止する声があがった。
「待ってくれ、玄野雄司。いま、キミが彼らの元に行くのはマズい。おそらく、シュヴァルツの狙いは、キミ自身の脳内に蓄積された経験や記憶だ」
ゲルブが気になることを言い出したので、オレは、捜査官に対して疑問に感じたことをたずねる。
「オレ自身の経験や記憶が目的って、どういうことだ? たしかに、オレは、いくつかの並行世界移動を体験してきたが、大した知識や経験を積んだわけじゃないぞ? オレの体験談なんて、ゲルブやシュヴァルツのセカイの住人からすれば、取るに足りないものだろう?」
「キミ自身は、そう感じているかも知れないけど……多分、シュヴァルツは、そう考えてはいない。前にも話したとおり、ボクらは、特別な施術を受けて、他の並行世界に暮らす自分と同等の存在の記憶や経験を共有することができる。ただ、特殊な経緯でトリップの能力を得たキミだけは例外的に、他のセカイの自分と記憶を共有できないし、外部からも、その影響を受けない。自覚は無いだろうけど、シュヴァルツは、自分の中に欠けているキミの経験や記憶を欲している。そして、それを得たあとは……」
ゲルブは、最後の言葉を濁したが、シュヴァルツの計画は、どうやら、オレの脳内情報を得ることで準備が冠水するらしい。ゲルブが言ったことから推察するなら、『ラディカル』によるセカイ統合計画は、最終的な局面を迎えているということなのだろう。
オレの17年間の人生に、セカイ統合計画を左右するほどの価値があるなどとは、とうてい思えないのだが……。
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