上 下
42 / 75

第3章〜逆転世界の電波少女〜③

しおりを挟む
 ももとの会話のように、情報収集を試みてやぶ蛇を突くことを恐れたオレは、それ以降、より慎重な言動を取るようになった。

「『ラディカル』のメンバーは、トリップの能力を持っている貴方あなたに執着していると思うから、並行世界での行動については、十分に気をつけてね」

 このブルームの認識が正しいのであれば、あの日のキルシュブリーテのように、『ラディカル』のヤツらが、オレの周りの人間に接触を図ってくる可能性は高いと思う。

 そうしたこともあって、一度、その身を危険にさらしてしまった河野雅美こうのまさみの住むNo.173205080(『ルートB』)のセカイへの移動は、なるべく避けようと考えている。
 自分のそばに居ることで、これ以上、河野こうのを危ない目に遭わせないようにするには、その方が良いだろう。

 そうすると、必然的にオレの活動の場は、自宅でもももを通じて、周囲の変化を感じ取りやすい、No.223620679(『ルートC』)のセカイか、自分との関係性が濃い三葉みつばが存在するNo.141421356(『ルートA』)のセカイに絞られる。

 ももとの会話で冷や汗を流した翌日の放課後、放送・新聞部の活動を終えたオレは、自宅に戻って、セカイ・システムにアクセスする。

 ブルームやゲルブの話しを聞き、キルシュブリーテと遭遇して、身近な人間の危機に直面して以降、いくつもの惑星ほしを視覚的に確認できるこの光景に、オレは特別な想いを抱くようになった。

 それぞれの惑星ほしの中でも多くのモノが、美しく青く輝いているということもあるが、そのひとつひとつには、自分が生まれてから十七年間を過ごしてきたセカイと同じくらいの数の人間が暮らし、日々の生活を送っている。
 
 そのすべての人たちが、自分たちの人生を肯定し、幸福な生活をしているとは言い切れないかも知れないが……。

 それでも、数え切れないほど多くの人たちの想いを考慮することなく、他人が勝手に、数多あまたあるセカイをたったひとつのものに統合することなど、許されることではないだろう。

(シュヴァルツとかいうリーダーや、『ラディカル』のメンバーは、いったい、なんの権利があって、セカイ統合なんて無茶な計画を立てるんだ……)

 彼らに対して、憤りに近い感情を覚えながら、オレは、『ルートA』と名前を付けておいた惑星ほしを選択し、そのセカイに舞い降りる。

 中学生以降は、イベント好きの陽キャラな性格が全面に出てきた三葉みつばは、学校行事には積極的に参加するものの、それ以外の期間は、自身の歌手活動や情報発信にチカラを注いでいて、通常の授業日などは、(進級に差し障りがない程度に)自主休学や在宅学習を選択することも多かった。

 この日も、彼女が学校に登校していなかったことを確認したオレは、スマホのメッセージアプリを起動し、三葉みつばにメッセージを送る。

 ==============

 お疲れさま
 今日の活動は、どんな感じ?

 時間があったら、
 返信してくれる嬉しい
 ==============

 送信ボタンをタップすると、すぐにメッセージに既読がつき、続いて彼女からの返信が届いた。

 ==============

 レコーディングが終わって
 いま、帰ってきた!

 ねぇ、ちょっと話せない?
 
 ==============

 三葉みつばからの返信メッセージを確認したオレが、即座に「OK!」のスタンプを返すと、すぐに

 ♪ トゥルトゥ・トゥルトゥ・トゥルトゥ・トゥルルン
 
と、聞き慣れた着信音が鳴った。

 1コールで応答ボタンをタップすると、ディスプレイに小学生の頃から見慣れた近所に住む幼なじみがあらわれ、着信音以上に聞き慣れたその声がスピーカーを通じて聞こえてきた。

「ちょいと、お兄さん! 彼女の帰り際を狙って、メッセージを送って来るなんて、どんだけわたしのこと好きなん?」

 その弾んだトーンの声に心がなごみ、朗らかな彼女の表情を目にすると、こちらの声も穏やかなものになる。

「今日は学校で会えなかったから、どうしてるのかと思ってさ……」
 
 そう返答すると、少し驚いた表情の彼女は、

「そうなんだ! 実は……わたしも、帰ってきたら雄司ゆうじの声が聞きたいと思ってたんだ……なんだか、テレパシーみたいで嬉しい……」

と言ったあと、はにかむように微笑んでクスクスと笑う。
 その笑顔に、ドキリと鼓動が早くなるのを感じ、同時に、チクリと胸が痛むのを感じた。

 オレは、数日前、屈託なく笑う彼女の表情を曇らせてしまったのだ
 その事実から目を逸らすように、オレは、話題を変える。
 
「そうか……それなら良かった……ところで、最近、周りで変わったことはなかったか? 普段とは違った言動をする人が居るとか……」

 慎重に行動をしようと考えながら、とっさのことで、前日のももに対する会話と、まったく同じ内容に触れてしまったことを後悔していると、彼女は、口元に指を添えながら、

「そうだなぁ……変わったことと言えば、最近、見たおかしな夢のことかな?」

と、またも、オレの心臓に刺さる言葉を返してきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

宇宙戦艦三笠

武者走走九郎or大橋むつお
SF
ブンケン(横須賀文化研究部)は廃部と決定され、部室を軽音に明け渡すことになった。 黎明の横須賀港には静かに記念艦三笠が鎮座している。 奇跡の三毛猫が現れ、ブンケンと三笠の物語が始まろうとしている。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...