上 下
34 / 75

第2章〜Everything Everyone All At Once〜⑮

しおりを挟む
 ブルームの話しにうなずきながらも、あらためて彼女に託された小さな木製の楽器に目を向けると、

(連邦政府とやらは、よくこんな物騒な機器に使用許可を出したな……)

と感じざるを得ない。

 そんなオレのようすに気づいたのか、上級生の姿をした連邦捜査官は、説得するようにこんなことを言ってきた。

玄野くろのくん、怪訝な表情をしているけど、私たちのセカイよりも、貴方たちのセカイに近い場所でも、このコカリナは使われていたみたいよ?」

 そう言って、彼女はスマホを取り出して、SNSの『ミンスタグラム』のアプリを起動し、ディスプレイにあるユーザーの投稿を表示させた。
 
 ====================
 いいね!を見る
 ooshima_yumiko 

 今日のプールは、とっても楽しかった!
 時間が止まったと思うくらい一瞬、一瞬が充実してた!

 不思議なんだけど、ホントに時が止まったように感じる瞬間があったんだよね 
 夏海が首に掛けてたアクセと関係あるのかな? 
 
 #夏のプール
 #ビッグパトス
 ====================

「えっ!? ビッグパトスで?」

 オレは、思わず声をあげる。
 
 その書き込みには、たしかに、オレが手にしているコカリナという楽器と同じ木製器具が写った画像が投稿されていた。

 ビッグパトスとは、オレたちの通うこのあいらんど高校から、新交通システムのマリンパーク駅を挟んだ向こう側にある夏季限定営業のアミューズメント・スポットだ。
 まあ、平たく言えば、ウォータースライダーなどが揃った巨大なプール施設なのだが、まさか、自分の住む街で、そんな空想科学や現代ファンタジーじみた現象が発生していたとは思わなかった。

「祖父によると、このコカリナを譲ってくれた知人は、同じモノをお孫さんに授けると言っていたそうだから、その授けられたコカリナが、どこかの使われた可能性はあるのよね」

 自分自身を納得させるように、独り言のように語るブルームの言葉を聞きながら、彼女が示した投稿と関連の高い内容を眺めていると、こんな書き込みも見つかった。

 ====================
 いいね!を見る
 ooshima_yumiko
 JRの駅前にあるカリヨンの伝説って知ってる?
 このカリヨンの音が奏でられている間に、駅前のペデストリアンデッキで恋人同士がキスをすると、『永遠の愛』が約束されるんだって!
 とっても、ロマンチックだね!!

 #カリヨン広場
 #フランドルの鐘
 #カリヨンコンサート
 ====================

 自分が元いたセカイでも、同じように都市伝説じみた言い伝えがあったような覚えがある。

 そのウワサ話を聞いた中学生のとき、冬馬とうまと一緒に、このエピソードの元ネタが、古い映画なのか、テレビゲームなのかを議論した覚えがある。
 結局、どう話し合っても結論は出なかったが、その都市伝説の出どころが、こうしたSNSの書き込みに端を発しているなら、答えが出ないのも当然のことかも知れない。

 ともあれ、自分が暮らしていたセカイと同じような価値観を持ったセカイが他にもあることを肌で感じることができたことで、やはり、自分の住むセカイだけでなく、他のセカイの存在も尊重しなければならない、という想いが強くなる。

 そして、もしも、他のセカイに住む自分自身と価値観を共有できるとしたら――――――。

 あらゆるセカイを統合しようと目論む『ラディカル』のメンバーの考えを変えることもできるのではないか?

 そんな想いを抱き、の住人であるふたりにたずねてみた。

「オレは、結果的に異なるセカイの自分に迷惑を掛けることになってしまったけど……ブルームやゲルブは、どんな風に、そういう危険を回避している? トリップしたセカイに住んでいる自分とはどうやって、折り合いをつけているんだ?」

 その方法を知った上で、これからは、異なるセカイにトリップする時にも注意深く行動するようにしたい。

 そんなオレの想いが通じたのか、ゲルブが、感心したように大げさにうなずきながら、ホクホクした笑顔で応じる。

「ボクらのやり方に興味を持って参考にしようと考えているんだね。なかなか殊勝しゅしょうな心がけじゃないか。ボクらのセカイで、トリッパーとして認められるには特殊な手術を受けないといけない、と言ったけど、それは、脳の記憶領域を増幅する内容なんだ」

「なぜ、そんなことをする必要があるんだ?」

「キミが言ったためだよ。この施術のおかげで、ボクらは、脳の記憶容量を増やして、トリップしたセカイの自分の記憶や価値観を同期したり、共有することができるんだ。異なるセカイの自分の価値観を知るというのは、捜査官という肩書きを持つトリッパーとして、必要不可欠な要素だとボクは思ってる」

「なるほど……それなら、『ラディカル』のメンバーとは、価値観が合わなさそうだな……」

 苦笑しながら、そう応じると、「そうだろう?」とゲルブもニコリと微笑む。
 その笑顔は、オレが良く知る親友・黄田冬馬きだとうま面持おももち、そのものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...