33 / 75
第2章〜Everything Everyone All At Once〜⑭
しおりを挟む
「どうやら、罪の意識は十分に感じているみたいだし、これからの行動には気をつけてもらいたいね。捜査官の立場としては、いま言えることはこれくらいかな?」
オレを励まそうとしてくれているのか、ゲルブは、そんな風に語るが、自分のしでかしたことを考えると、まだしも彼らの法律で裁かれた方が良かったとも思える。
彼らのセカイに刑務所というものがあるのかはわからないし、どんな通貨が流通しているのかも不明だが、裁判での判決に従って、服役なり罰金なりを課してもらった方が、明確に罪を償ったと意識することができる。
しかし、そうした刑罰などが課せられないのであれば、オレは、どんなカタチで自分の罪を償えば良いのだろう――――――?
しばらく一言も発しないまま、そんなことを自問自答していると、オレのようすに違和感を覚えたのか、ブルームが声をかけてきた。
「どうしたの玄野くん? いまになって、別のセカイに、トリップすることの恐ろしさに気がついた?」
彼女の言葉には、ただうなずくしかない。
そして、オレは、うめくように言葉を発した。
「オレは……どうすれば、罪をつぐなえるんだ……?」
すがるように、捜査官を名乗るふたりの顔を見上げると、彼らが互いに顔を見合わせるのがわかった。
困ったような表情で苦笑するゲルブに対して、ブルームは顔色を変えず、澄ましたままの表情だ。
そして、彼女は、その表情のまま、こんなことを提案してきた。
「貴方が、罪の意識を感じていることは、十分にわかったわ。そうね……もし、自分の行動に対して、贖罪の意識があるなら、私たちの捜査に協力してくれない?」
ブルームの言葉に反応し、オレは視線を彼女に向ける。
同時に、視界のスミで、ゲルブが、
(おいおい……急にナニを言い出すんだ……)
という表情をしているのがわかった。
「私たちの現行法では、たしかに、貴方の行為を裁くことはできない。そのことによって、貴方が罪を償う方法がわかならなくなったと言うなら、並行世界そのものを潰そうとしている『ラディカル』の目論みを阻止することにチカラを注いでみない? 私たちとは異なるセカイで生きてきた貴方になら、できることもあると思うわ」
「――――――オレでも、アンタ達の役に立つことができるのか?」
ブルームの言葉に対して、藁にもすがる想いでたずねると、彼女は微かな笑みを浮かべて答えた。
「えぇ、キルシュブリーテが、このセカイを去ったことで、貴方のトリッパーとしての能力も戻っていると思うしね。並行世界を移動できる能力は、私たちにとっても貴重な戦力になるわ」
「そ、そうか……」
彼女の言葉で、オレは救われたような気分になる。
なにか、目標のようなものができるだけでも、他人に害を及ぼすことしかなかった、自分のトリッパーとしての存在に意義が見いだせる。
「罪悪感につけ込んで、捜査に協力させるなんて、相変わらずブルームは、人が悪いなぁ……」
ゲルブは、あきれたような表情で、そんな感想を口にするが、当のブルームは、そのことをまったく意に介していないようだ。
「あら、人が悪いなんて心外ね……私はただ、玄野くんに、トリップを行える能力者としての自覚を持って欲しかっただけなんだけど……」
「モノは言いようだね……」
ヤレヤレ……と肩をすくめがら苦笑するゲルブだが、オレは、ありがたくブルームの提案に乗らせてもらうことにした。
「ありがとう、ブルーム、ゲルブ……オレで良かったら、アンタ達の捜査に協力させてくれ」
そう言って頭を下げると、ふたりは、
「えぇ、もちろん! 歓迎するわ」
「オーケー! あまり無茶はしないようにね」
と、それぞれに、らしい反応を返してくれた。
そして、ブルームは、さらに、こんな申し出をしてきた。
「協力の申し出に感謝して、貴方には、このアイテムを預けておくわ」
そう言って、彼女が手渡してきたのは、ペンダントのように首に下げている木製の器具だった。
それは、キルシュブリーテが、河野を突き落とそうとした瞬間に取り出し、不思議な音色を奏でたものだ。
「これは……?」
木製の器具を受け取り、説明を求めると、ブルームは、片手に収まる大きさの機器についての解説を淡々と始める。
「これは、コカリナという名前の楽器なんだけど、時間を止められるという不思議なチカラを持っているの」
時間を止められる――――――。
やはり、あの瞬間、感じたことに間違いはなかったようだ。
しかし、相手側が特殊な機器で、疑似催眠なる不思議な術を使ったり、捜査官は、時間を停止する器具を持っていたり、とキルシュブリーテやブルームたちの住んでいるセカイの技術力は、いったいどうなっているんだ?
そんなことを考えていると、その想いが表情にあらわれたのか、ブルームが、自らの言葉を補うように、不思議なアイテムに関する解説を付け加えた。
「キルシュブリーテの使っていたデバイスは、私たちのセカイの技術で作られたものだけど、このコカリナは、実は、私の祖父が東欧に居た頃に知人から、いただいたモノなの。私たちのセカイでも、まだ解明されていない技術で作られているようなんだけど、捜査に有用ということで、連邦政府に許可を得て使わせてもらっているのよ」
オレを励まそうとしてくれているのか、ゲルブは、そんな風に語るが、自分のしでかしたことを考えると、まだしも彼らの法律で裁かれた方が良かったとも思える。
彼らのセカイに刑務所というものがあるのかはわからないし、どんな通貨が流通しているのかも不明だが、裁判での判決に従って、服役なり罰金なりを課してもらった方が、明確に罪を償ったと意識することができる。
しかし、そうした刑罰などが課せられないのであれば、オレは、どんなカタチで自分の罪を償えば良いのだろう――――――?
しばらく一言も発しないまま、そんなことを自問自答していると、オレのようすに違和感を覚えたのか、ブルームが声をかけてきた。
「どうしたの玄野くん? いまになって、別のセカイに、トリップすることの恐ろしさに気がついた?」
彼女の言葉には、ただうなずくしかない。
そして、オレは、うめくように言葉を発した。
「オレは……どうすれば、罪をつぐなえるんだ……?」
すがるように、捜査官を名乗るふたりの顔を見上げると、彼らが互いに顔を見合わせるのがわかった。
困ったような表情で苦笑するゲルブに対して、ブルームは顔色を変えず、澄ましたままの表情だ。
そして、彼女は、その表情のまま、こんなことを提案してきた。
「貴方が、罪の意識を感じていることは、十分にわかったわ。そうね……もし、自分の行動に対して、贖罪の意識があるなら、私たちの捜査に協力してくれない?」
ブルームの言葉に反応し、オレは視線を彼女に向ける。
同時に、視界のスミで、ゲルブが、
(おいおい……急にナニを言い出すんだ……)
という表情をしているのがわかった。
「私たちの現行法では、たしかに、貴方の行為を裁くことはできない。そのことによって、貴方が罪を償う方法がわかならなくなったと言うなら、並行世界そのものを潰そうとしている『ラディカル』の目論みを阻止することにチカラを注いでみない? 私たちとは異なるセカイで生きてきた貴方になら、できることもあると思うわ」
「――――――オレでも、アンタ達の役に立つことができるのか?」
ブルームの言葉に対して、藁にもすがる想いでたずねると、彼女は微かな笑みを浮かべて答えた。
「えぇ、キルシュブリーテが、このセカイを去ったことで、貴方のトリッパーとしての能力も戻っていると思うしね。並行世界を移動できる能力は、私たちにとっても貴重な戦力になるわ」
「そ、そうか……」
彼女の言葉で、オレは救われたような気分になる。
なにか、目標のようなものができるだけでも、他人に害を及ぼすことしかなかった、自分のトリッパーとしての存在に意義が見いだせる。
「罪悪感につけ込んで、捜査に協力させるなんて、相変わらずブルームは、人が悪いなぁ……」
ゲルブは、あきれたような表情で、そんな感想を口にするが、当のブルームは、そのことをまったく意に介していないようだ。
「あら、人が悪いなんて心外ね……私はただ、玄野くんに、トリップを行える能力者としての自覚を持って欲しかっただけなんだけど……」
「モノは言いようだね……」
ヤレヤレ……と肩をすくめがら苦笑するゲルブだが、オレは、ありがたくブルームの提案に乗らせてもらうことにした。
「ありがとう、ブルーム、ゲルブ……オレで良かったら、アンタ達の捜査に協力させてくれ」
そう言って頭を下げると、ふたりは、
「えぇ、もちろん! 歓迎するわ」
「オーケー! あまり無茶はしないようにね」
と、それぞれに、らしい反応を返してくれた。
そして、ブルームは、さらに、こんな申し出をしてきた。
「協力の申し出に感謝して、貴方には、このアイテムを預けておくわ」
そう言って、彼女が手渡してきたのは、ペンダントのように首に下げている木製の器具だった。
それは、キルシュブリーテが、河野を突き落とそうとした瞬間に取り出し、不思議な音色を奏でたものだ。
「これは……?」
木製の器具を受け取り、説明を求めると、ブルームは、片手に収まる大きさの機器についての解説を淡々と始める。
「これは、コカリナという名前の楽器なんだけど、時間を止められるという不思議なチカラを持っているの」
時間を止められる――――――。
やはり、あの瞬間、感じたことに間違いはなかったようだ。
しかし、相手側が特殊な機器で、疑似催眠なる不思議な術を使ったり、捜査官は、時間を停止する器具を持っていたり、とキルシュブリーテやブルームたちの住んでいるセカイの技術力は、いったいどうなっているんだ?
そんなことを考えていると、その想いが表情にあらわれたのか、ブルームが、自らの言葉を補うように、不思議なアイテムに関する解説を付け加えた。
「キルシュブリーテの使っていたデバイスは、私たちのセカイの技術で作られたものだけど、このコカリナは、実は、私の祖父が東欧に居た頃に知人から、いただいたモノなの。私たちのセカイでも、まだ解明されていない技術で作られているようなんだけど、捜査に有用ということで、連邦政府に許可を得て使わせてもらっているのよ」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
全ての悩みを解決した先に
夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」
成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、
新しい形の自分探しストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる