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第1章〜ヒロインたちが並行世界で待っているようですよ〜⑭
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妹(的存在)のいる生活の理想と現実のギャップに、大いに無念さを感じながらも、しばらく、ようすを探ってみようと考えたオレは、桃と一緒に登校し、このセカイの十二月中旬の学校生活を楽しむことにした。
今年度の生徒会、そして、放送・新聞部の三年生最後の活動となるクリスマス・パーティは、『ルートC』と名付けたこのセカイでも開催されるようで、荒金桜花部長は、多忙ながらも、自分のクラブ活動の締めくくりとなるこの状況を楽しんでいるようだ。
一方、撮影班の責任者になっている冬馬は、パーティのステージに立つ、演劇部やコーラス部との打ち合わせに出かけている。オレの知っている友人は、映像撮影や編集の腕はプロ並みの技術を持つ反面、人付き合いが苦手なのか、他のクラブとの対外交渉には消極的だったのだが、こっちのセカイでは、少し状況が異なるようだ。
そして、オレと桃は、ふたりで、今回のパーティの司会進行を務めることになっている(そうだ)。
全体の進行表を確認する桜花部長と一緒に、部室で桃と司会進行に関する打ち合わせを行っていると、下級生が寂しげにつぶやいた。
「こうして、桜花部長と一緒に、部室で仕事をすることも、残り少なくなるんですね……」
「そうね……私も、浅倉さんや玄野くん、黄田くんと一緒に活動ができて、本当に楽しかったから、名残惜しいわ……できれば、高校卒業後も、このメンバーで集まりたいわね」
普段は、感傷的なことを口にしない部長が、珍しく部活動や高校生活の思い出に浸っているように語るのを聞くと、オレ自身も、この時間が貴重なものだと感じ、なんだか感慨深い気持ちが込み上げてくる。
そんなことを考えながら、桃と一緒に制作した(とされている)クリスマス・パーティの進行台本に目を通していると、下級生にして同居人である彼女が、また、口を開いた。
「そういえば……部長が引退する前に聞いておきたかったんですけど、あのポスターって、なんですか? たしか、中学の時の放送部の部室にも貼ってありましたよね」
桃が、指差したポスターは、横長サイズのもので、左側には地球を写した衛星写真の上に英文が書かれており、右側には海外と思われる場所の田舎道の早朝の風景の上に、
Stay hungry.Stay foolish.
という一文がタイプされている。
後輩女子の質問に、こうした話しを語ることが、何よりもスキな桜花部長が、嬉々として語りだした。
「あれは、『WHOLE EARTH CATAROG』というタイトルの雑誌の最終号の表紙と裏表紙なの。この雑誌は、スチュアート・ブランドという編集者によって創刊されたんだけど、私たちが見慣れたこの地球の衛星写真が自由に見られるのも、ブランドたちが、NASAに対して地球の写真を公開する請求運動を起こしたことがきっかけなのよ」
桃が、「へぇ~、そうなんですか」と、感心したような声を上げると、部長はさらに語り続ける。
「この雑誌の最終号の発売記念イベントで、売上金の2万ドルをユニークな使い方を発表した参加者に譲る、という企画があったらしいんだけど……その中から、ひとりの参加者が『紙幣なんて燃やしてしまおう』という提案をしたらしくて、彼に2万ドルが与えられたの。ただ、彼は提案どおりに紙幣を燃やさず、その資金を使って4年後に、コンピュータの愛好家たちが、情報やアイディアを無償で交換するためのクラブを立ち上げたのよ」
流暢に語る部長の言葉に、オレは、以前、彼女に聞かせてもらった重要なポイントを付け加える。
「そのコンピューター・クラブに参加していたのが、スティーブ・ジョブズなんですよね?」
確認するように発した一言に、桜花部長はうなずいて、さらに情報を付け足した。
「ジョブスが、ここでコンピュータに関する知識を深めて、同じくクラブの会員だったエンジニアのスティーブ・ウォズニアックとともに創業したのが、いまの私たちの生活に欠かせないPCやスマホを開発したアップル社なの。ポスターの右側に書かれている『Stay hungry.Stay foolish』という言葉は、有名なスピーチの一例として、浅倉さんも英語の授業で聞いたことがあるんじゃないかしら? もっとも、この言葉をどう解釈して和訳するかは、プロの翻訳家の間でも意見が別れるみたいなんだけど……」
最後は、苦笑しながら語る部長の語り口に、下級生は、「はぁ~、なるほど~」と、感心するようにうなずいている。
上級生や教師にも、遠慮なしにモノを言うタイプの桃だが、その唯一の例外と言って良い存在が、桜花部長で、普段の言動からも、彼女に対するリスペクトの念が感じられる。
そんな先輩と後輩の会話を聞きながらも、オレは、ポスターを眺めながら、まったく別のことを考えていた。
オレが気になったのは、アップル信者なら、誰もが知っている英文の方ではなく、ポスター左側の中央に映し出された自分たちが住む惑星の姿だった。
魅入られるように雑誌タイトルの下に浮かぶ天体を見つめ続けていると、
(まるで、オレがアクセスしてる『セカイ・システム』の映像みたいだな……)
という想いが、心のどこからか湧き上がってきた。
今年度の生徒会、そして、放送・新聞部の三年生最後の活動となるクリスマス・パーティは、『ルートC』と名付けたこのセカイでも開催されるようで、荒金桜花部長は、多忙ながらも、自分のクラブ活動の締めくくりとなるこの状況を楽しんでいるようだ。
一方、撮影班の責任者になっている冬馬は、パーティのステージに立つ、演劇部やコーラス部との打ち合わせに出かけている。オレの知っている友人は、映像撮影や編集の腕はプロ並みの技術を持つ反面、人付き合いが苦手なのか、他のクラブとの対外交渉には消極的だったのだが、こっちのセカイでは、少し状況が異なるようだ。
そして、オレと桃は、ふたりで、今回のパーティの司会進行を務めることになっている(そうだ)。
全体の進行表を確認する桜花部長と一緒に、部室で桃と司会進行に関する打ち合わせを行っていると、下級生が寂しげにつぶやいた。
「こうして、桜花部長と一緒に、部室で仕事をすることも、残り少なくなるんですね……」
「そうね……私も、浅倉さんや玄野くん、黄田くんと一緒に活動ができて、本当に楽しかったから、名残惜しいわ……できれば、高校卒業後も、このメンバーで集まりたいわね」
普段は、感傷的なことを口にしない部長が、珍しく部活動や高校生活の思い出に浸っているように語るのを聞くと、オレ自身も、この時間が貴重なものだと感じ、なんだか感慨深い気持ちが込み上げてくる。
そんなことを考えながら、桃と一緒に制作した(とされている)クリスマス・パーティの進行台本に目を通していると、下級生にして同居人である彼女が、また、口を開いた。
「そういえば……部長が引退する前に聞いておきたかったんですけど、あのポスターって、なんですか? たしか、中学の時の放送部の部室にも貼ってありましたよね」
桃が、指差したポスターは、横長サイズのもので、左側には地球を写した衛星写真の上に英文が書かれており、右側には海外と思われる場所の田舎道の早朝の風景の上に、
Stay hungry.Stay foolish.
という一文がタイプされている。
後輩女子の質問に、こうした話しを語ることが、何よりもスキな桜花部長が、嬉々として語りだした。
「あれは、『WHOLE EARTH CATAROG』というタイトルの雑誌の最終号の表紙と裏表紙なの。この雑誌は、スチュアート・ブランドという編集者によって創刊されたんだけど、私たちが見慣れたこの地球の衛星写真が自由に見られるのも、ブランドたちが、NASAに対して地球の写真を公開する請求運動を起こしたことがきっかけなのよ」
桃が、「へぇ~、そうなんですか」と、感心したような声を上げると、部長はさらに語り続ける。
「この雑誌の最終号の発売記念イベントで、売上金の2万ドルをユニークな使い方を発表した参加者に譲る、という企画があったらしいんだけど……その中から、ひとりの参加者が『紙幣なんて燃やしてしまおう』という提案をしたらしくて、彼に2万ドルが与えられたの。ただ、彼は提案どおりに紙幣を燃やさず、その資金を使って4年後に、コンピュータの愛好家たちが、情報やアイディアを無償で交換するためのクラブを立ち上げたのよ」
流暢に語る部長の言葉に、オレは、以前、彼女に聞かせてもらった重要なポイントを付け加える。
「そのコンピューター・クラブに参加していたのが、スティーブ・ジョブズなんですよね?」
確認するように発した一言に、桜花部長はうなずいて、さらに情報を付け足した。
「ジョブスが、ここでコンピュータに関する知識を深めて、同じくクラブの会員だったエンジニアのスティーブ・ウォズニアックとともに創業したのが、いまの私たちの生活に欠かせないPCやスマホを開発したアップル社なの。ポスターの右側に書かれている『Stay hungry.Stay foolish』という言葉は、有名なスピーチの一例として、浅倉さんも英語の授業で聞いたことがあるんじゃないかしら? もっとも、この言葉をどう解釈して和訳するかは、プロの翻訳家の間でも意見が別れるみたいなんだけど……」
最後は、苦笑しながら語る部長の語り口に、下級生は、「はぁ~、なるほど~」と、感心するようにうなずいている。
上級生や教師にも、遠慮なしにモノを言うタイプの桃だが、その唯一の例外と言って良い存在が、桜花部長で、普段の言動からも、彼女に対するリスペクトの念が感じられる。
そんな先輩と後輩の会話を聞きながらも、オレは、ポスターを眺めながら、まったく別のことを考えていた。
オレが気になったのは、アップル信者なら、誰もが知っている英文の方ではなく、ポスター左側の中央に映し出された自分たちが住む惑星の姿だった。
魅入られるように雑誌タイトルの下に浮かぶ天体を見つめ続けていると、
(まるで、オレがアクセスしてる『セカイ・システム』の映像みたいだな……)
という想いが、心のどこからか湧き上がってきた。
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