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第1章〜ヒロインたちが並行世界で待っているようですよ〜⑩
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幸運なことに、琴吹先輩と話し合う機会は、すぐに訪れた。
文化祭が終わったことで、大学入試や就職活動を控えた三年生が参加する大きな校内行事は、学期末の生徒会主催による合同クリスマス会を残すだけとなり、今年度の生徒会としての活動が終盤に入ったということもあって、『一年間の生徒会活動を振り返る』ということで、放送・新聞部が琴吹美菜子生徒会長の単独インタビューを行うことになったのだ。
もちろん、この企画のお膳立てをしてくれたのは、自らも生徒会役員である我が部の代表者・荒金桜花先輩である。
十二月初旬の放課後、三十分以上にわたって、今年度の生徒会活動に関する思い出や次期生徒会に期待することなどを聞くロングインタビューを終え、取材に対するお礼を述べると、その後は、これまでの活動の流れどおり、記事にしないことを約束する恒例の雑談タイムとなった。
「来年の生徒会のお話しをしてもらいましたけど、琴吹会長は、こんなヒトに生徒会を任せたいな、って思っている後輩はいますか?」
「そりゃ、もちろん居るよ~! ここだけの話しってことにしてもらえるなら、具体的に答えるけど?」
ニヤリと悪戯っぽく笑う生徒会長に応じて、オレも、
「えぇ、もちろん、今回もオフレコであることをお約束します」
と、薄く笑みを浮かべながら答えて、放送・新聞部の備品であるICレコーダーを停止させる。
「これまでも、たくさん話しをしてきたから、玄野くんは、もう理解ってるんじゃないかと思うけど、私が次期生徒会長に推したいのは、ウチの吹奏楽部の後輩ちゃんだよ」
録音が停止されたことを確認した琴吹会長は、あっさりと後継者候補を挙げた。
「河野さんに対する信頼は、それだけ篤い、ということですか?」
インタビュアーとしての口調を崩さないままでたずねると、「うん、そうだよ!」と、会長は即答する。
そして、今度は、チェシャー猫のようなニヤニヤ笑いを浮かべながら、こんな言葉を付け加えた。
「でも、それは、キミも良くわかって理解ってるんじゃないんじゃない? 後輩ちゃんからも頼られているクラス委員のパートナーくん」
唐突に自分に振られた話しに意表を突かれ、
「えっ?」
と、やや間の抜けた声を発してしまったあと、取材者である立場も忘れ、
(河野が、オレを頼っている? どういうことだ?)
そんな風に不思議に思いながら、疑問に満ちた表情で率直にたずねる。
「先輩、どういうことですか?」
「またまた~! 隠さなくてもイイじゃん! ウチの後輩ちゃんは、二学期にクラス委員の仕事をするようになってから、楽しそうにキミのことを話すようになったんだよ、玄野雄司くん」
引き続き、ニマニマと楽しげな笑みを浮かべて、琴吹会長は語る。
(オレは、そんなに河野に信頼されていたのか?)
疑問に感じながらも、上級生の話しに耳を傾けていると、彼女は、さらに一人語りを続けた。
「でも、あの娘に後任を託すには、ひとつだけ心配事があってね~」
そう語る生徒会長に対して、オレは反射的に「心配事って……それ、どんなことですか?」とたずねる。
自身がつぶやくように語った言葉にオレが食いついとを感じたのか、琴吹先輩は、再び口角を上げて、語りかけてきた。
「ウチの後輩ちゃんって、責任感が強いでしょ? 頼みごとをされたら断れないタイプでもあるし、次の吹奏楽部の部長にもなりそうなんだよね。生徒会長と吹奏楽部の部長の兼務なんて、私ですら荷が重いよ……私の場合は、シオリンが部長を引き受けてくれたし、生徒会には、荒金桜花って名前の優秀な副会長が居てくれたから、なんとか一年間やってこれたんだけどね」
後半に名前の上がったオレの良く知る上級生の存在をあえて強調しながら、生徒会長は、わざとらしく笑みを浮かべる。
ちなみに、その前に名前があがった『シオリン』とは、吹奏楽部の部長である速水詩織先輩のことだ。
「なるほど……河野さんの支えになる生徒が居れば、琴吹先輩の心配のタネも消える、ということですね?」
相づちを打つように、会長の言葉にうなずくと、「さすが、玄野くん! 飲み込みが早いじゃん」と、満足したような表情を見せてくれた。
「そうなると……彼女と仲の良い山竹さんとかですかね? あとは、吹奏楽部に信頼できるヒトが居れば……」
あごに手を当てながら、思案顔でそう返答すると、彼女は、オレの目の前でチッチッチと、人差し指を振ったあと、「わかってないな~、玄野くんは……」と、肩をすくめる。
その言動の意図をつかみかねたオレは、
「えっ!? 何がですか?」
と、素直に疑問を口にした。
すると、フフンと不敵な笑みを浮かべた生徒会長は、
「こういうときはね、公私ともに支えになってくれる異性の存在が、なによりもチカラになるものなんだよ」
などと断言する。
「はあ……公私ともに支えてくれる異性ですか……」
たしかに、河野雅美のように責任感の強い女子に相応しい相手が居れば、彼女のココロの支えになるのかも知れないだろうけど……。
(そんな相手が、校内で簡単に見つかるものなのか?)
そんな疑問を感じながら答えたオレの言葉には、やや不満だったのか、会長は少し呆れた口調で、こちらが予想もしないことを口にした。
「ここまで言っても理解できないかな? 私は、その最有力候補がキミだと思ってるんだけど、玄野雄司くん!」
オレにとって、斜め上を行くその回答に、これまでに無いくらい気の抜けた感じで声を上げてしまう。
「はいっ!? オレですか?」
そして、部活や学校内のイベントのみならず、その他の人間関係などを含め、あらゆることを楽しみ尽くす性格の生徒会長は、こう宣言した。
「そう! 私との約束を守ってくれるなら、ウチの後輩ちゃんと付き合える必勝法を授けてあげるよ? どう? 興味はない?」
文化祭が終わったことで、大学入試や就職活動を控えた三年生が参加する大きな校内行事は、学期末の生徒会主催による合同クリスマス会を残すだけとなり、今年度の生徒会としての活動が終盤に入ったということもあって、『一年間の生徒会活動を振り返る』ということで、放送・新聞部が琴吹美菜子生徒会長の単独インタビューを行うことになったのだ。
もちろん、この企画のお膳立てをしてくれたのは、自らも生徒会役員である我が部の代表者・荒金桜花先輩である。
十二月初旬の放課後、三十分以上にわたって、今年度の生徒会活動に関する思い出や次期生徒会に期待することなどを聞くロングインタビューを終え、取材に対するお礼を述べると、その後は、これまでの活動の流れどおり、記事にしないことを約束する恒例の雑談タイムとなった。
「来年の生徒会のお話しをしてもらいましたけど、琴吹会長は、こんなヒトに生徒会を任せたいな、って思っている後輩はいますか?」
「そりゃ、もちろん居るよ~! ここだけの話しってことにしてもらえるなら、具体的に答えるけど?」
ニヤリと悪戯っぽく笑う生徒会長に応じて、オレも、
「えぇ、もちろん、今回もオフレコであることをお約束します」
と、薄く笑みを浮かべながら答えて、放送・新聞部の備品であるICレコーダーを停止させる。
「これまでも、たくさん話しをしてきたから、玄野くんは、もう理解ってるんじゃないかと思うけど、私が次期生徒会長に推したいのは、ウチの吹奏楽部の後輩ちゃんだよ」
録音が停止されたことを確認した琴吹会長は、あっさりと後継者候補を挙げた。
「河野さんに対する信頼は、それだけ篤い、ということですか?」
インタビュアーとしての口調を崩さないままでたずねると、「うん、そうだよ!」と、会長は即答する。
そして、今度は、チェシャー猫のようなニヤニヤ笑いを浮かべながら、こんな言葉を付け加えた。
「でも、それは、キミも良くわかって理解ってるんじゃないんじゃない? 後輩ちゃんからも頼られているクラス委員のパートナーくん」
唐突に自分に振られた話しに意表を突かれ、
「えっ?」
と、やや間の抜けた声を発してしまったあと、取材者である立場も忘れ、
(河野が、オレを頼っている? どういうことだ?)
そんな風に不思議に思いながら、疑問に満ちた表情で率直にたずねる。
「先輩、どういうことですか?」
「またまた~! 隠さなくてもイイじゃん! ウチの後輩ちゃんは、二学期にクラス委員の仕事をするようになってから、楽しそうにキミのことを話すようになったんだよ、玄野雄司くん」
引き続き、ニマニマと楽しげな笑みを浮かべて、琴吹会長は語る。
(オレは、そんなに河野に信頼されていたのか?)
疑問に感じながらも、上級生の話しに耳を傾けていると、彼女は、さらに一人語りを続けた。
「でも、あの娘に後任を託すには、ひとつだけ心配事があってね~」
そう語る生徒会長に対して、オレは反射的に「心配事って……それ、どんなことですか?」とたずねる。
自身がつぶやくように語った言葉にオレが食いついとを感じたのか、琴吹先輩は、再び口角を上げて、語りかけてきた。
「ウチの後輩ちゃんって、責任感が強いでしょ? 頼みごとをされたら断れないタイプでもあるし、次の吹奏楽部の部長にもなりそうなんだよね。生徒会長と吹奏楽部の部長の兼務なんて、私ですら荷が重いよ……私の場合は、シオリンが部長を引き受けてくれたし、生徒会には、荒金桜花って名前の優秀な副会長が居てくれたから、なんとか一年間やってこれたんだけどね」
後半に名前の上がったオレの良く知る上級生の存在をあえて強調しながら、生徒会長は、わざとらしく笑みを浮かべる。
ちなみに、その前に名前があがった『シオリン』とは、吹奏楽部の部長である速水詩織先輩のことだ。
「なるほど……河野さんの支えになる生徒が居れば、琴吹先輩の心配のタネも消える、ということですね?」
相づちを打つように、会長の言葉にうなずくと、「さすが、玄野くん! 飲み込みが早いじゃん」と、満足したような表情を見せてくれた。
「そうなると……彼女と仲の良い山竹さんとかですかね? あとは、吹奏楽部に信頼できるヒトが居れば……」
あごに手を当てながら、思案顔でそう返答すると、彼女は、オレの目の前でチッチッチと、人差し指を振ったあと、「わかってないな~、玄野くんは……」と、肩をすくめる。
その言動の意図をつかみかねたオレは、
「えっ!? 何がですか?」
と、素直に疑問を口にした。
すると、フフンと不敵な笑みを浮かべた生徒会長は、
「こういうときはね、公私ともに支えになってくれる異性の存在が、なによりもチカラになるものなんだよ」
などと断言する。
「はあ……公私ともに支えてくれる異性ですか……」
たしかに、河野雅美のように責任感の強い女子に相応しい相手が居れば、彼女のココロの支えになるのかも知れないだろうけど……。
(そんな相手が、校内で簡単に見つかるものなのか?)
そんな疑問を感じながら答えたオレの言葉には、やや不満だったのか、会長は少し呆れた口調で、こちらが予想もしないことを口にした。
「ここまで言っても理解できないかな? 私は、その最有力候補がキミだと思ってるんだけど、玄野雄司くん!」
オレにとって、斜め上を行くその回答に、これまでに無いくらい気の抜けた感じで声を上げてしまう。
「はいっ!? オレですか?」
そして、部活や学校内のイベントのみならず、その他の人間関係などを含め、あらゆることを楽しみ尽くす性格の生徒会長は、こう宣言した。
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