上 下
4 / 75

第1章〜ヒロインたちが並行世界で待っているようですよ〜②

しおりを挟む
 クーラーの効いた自室のベッドで横になりながら、その不思議な現象を体感していて最初に驚いたのは、が、存在するということだ。

 後頭部を軽く撫でてから目を閉じ、まぶたを開くと、再び宇宙遊泳をしているよう(もちろん体験したことはなけど……)な浮遊感を覚えた。

 あらためて目の前にあらわれた青い惑星(宇宙に存在する天体に対して造詣が深いわけではない平凡な高校生には、地球そのものにしか見えなかった)の外側に目を向けると、右上の方に小さなバツ印が見えた。その部分に軽く触れると、目の前のスクリーンは、パソコンなどで良く目にする白地のフォルダ画面のような状態に変化し、青い惑星がいくつも並んでいるのが確認できる。

 そのうちのひとつに軽く触れると、再び惑星が巨大化して、目の前にあらわれる。

 ゆっくりと回転する球体に見慣れた細長い島国が発見できたので、『摩耶まやあいらんど』と、自分たちが住む人工島の名前を思い浮かべると、球体の左上にイメージしたとおりの文字列が表示された。このまま拡大して、わが街が、どんな風に表現されているか確認してみるか、と脳内で考えただけで、日本列島の中心部に近い位置にフォーカスが当たり、グングンと地図のようなグラフィックが拡大される。

 そして、自分たちの住まう人工島の上空であることが認識できるくらい拡大されると、二次元マップは、鳥瞰図のような3D表示に切り替わり、上空からぐるりと視察するように表示された人工島が回転し始めた。

「おぉっ! GoogleアースやGoogleマップそのものじゃん!」

 楽しくなってきたオレは、学校の授業などでも使い慣れたアプリを操作するように、鳥瞰図を2D表示に切り替え、画面の右下に表示されている人型のアイコンを指でつまんで、水色で示された我が家の前の道路に配置してみる。

(さてさて、この謎のアプリでは、我が家はどんな風に表現されているのかな?)

 そんな好奇心にかられ、ワクワクしながら目の前に広がるスクリーンを眺めていると、これまで、CGのような解像度で表示されていた街並みが一気に高精細な見た目に切り替わり、周囲360度が自宅前の風景に変化した。
 さらに、ご丁寧なことに、真夏のうだるような暑さまで再現されている!

 いや、そうじゃない――――――。

 さっきまで、自室のベッドに居たハズのオレの身体は、真夏の太陽が照りつける自宅玄関前に瞬間移動していたのだ!

 再び不可解な現象に遭遇したことに困惑しながらも、住み慣れた我が家の玄関ドアを開け、

「ただいま~」

と、帰宅を装いながら、恐る恐る声を出しながら自宅に入ると、リビングから「あら……」と声がした。

雄司ゆうじ、アンタもう帰ってきたの?」

 これまた聞き慣れた母親の声に、安堵と気まずさが入り混じった感情を覚えながら、「ああ……」と、生返事をしながら、そのまま二階にある自室に戻ることにする。

(なんなんだ……今の現象は……)

 事故で頭を打ち付けた影響で、脳の認知機能や記憶を司る部位に影響が出たりしているのだろうか?

 そんな恐ろしい想像が頭をよぎり、母親の

「そう言えば、さっき、モモちゃんが、アンタに聞きたいことがあるって言ってたわよ!」

という声に生返事で答えてしまったため、その内容を正確に把握することができなかった。

 病室で突如として目の前にあらわれた宇宙空間といい、さっきの瞬間移動のような現象といい、意識が戻って以降、不可解なことが多すぎる。

「オレは今、瞬間移動をほんのちょっぴりだが体験した。い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……あ……ありのまま、今、起こった事を話すぜ! オレは自室のベッドの上で横たわっていると思ったら、いつのまにか自宅の玄関前に移動していた。な……何を言ってるのか、わからねーと思うが、オレも何が起きたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだ……催眠術だとか意識障害だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
 
 前世紀のコミック作品のキャラクターのセリフが、フルバージョンで脳内再生されるほど、動揺したオレは、とりあえず、心を落ち着けよう――――――と、自室に戻って、再びベッドに横になる。

 冗談はさておき、いま現在の状態と同じように、ベッドで仰向あおむけになっていたはずなのに、いつの間にか、玄関を抜けて家の外に出ていたという事実は、数日前に事故に遭い、昏睡状態に陥るという経験をしたオレに恐怖心を与えるのに十分だった。

 退院時、母親と一緒に受けたカウンセリングで、主治医の先生から、

「頭部には、ショックを与えないよう、十分に気をつけて下さい」

という注意を受けたことから、『夢遊病』や『記憶の欠落』というキーワードが頭をよぎる。

 そんな事情もあって、ネガティブな思考に陥りそうになるのと、ほぼ同じタイミングで、

 コンコン――――――

自室のドアがノックされた。そして、

! ちょっと相談があるんだけど……」

と、言いながら、中学時代から良く知っている仲の部活動の後輩女子が、無遠慮にオレの部屋に入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...