上 下
1 / 75

プロローグ〜告白も二度目なら〜前編

しおりを挟む
 この日のために開放された校舎の屋上からは、全校生徒の多くが集まった中庭が見える。

 オレが立っている鉄筋コンクリートづくりの4号館の校舎は、他の建物より階層が低く設計されているが、それでも、校舎の3階に相当するこの場所から中庭に集う生徒に視線を向けると、思わず足がすくむような気持ちになる。

 それでも、生徒たちの中に、小学生の頃から、ずっとそばにいた女子生徒の姿を確認すると、オレの気持ちは固まった。

 白井三葉しろいみつば――――――。

 6年前の春、近所に引っ越して来て以来、オレと親しく話す仲になった彼女は、大手歌劇団の出身であり、二時間ドラマの女王と呼ばれている有名女優を母に持ちながら、自身も歌手活動や動画配信などを行う同世代女子のカリスマと言って良い存在だ。

 テレビ出演から動画配信までを忙しくこなす身でありながら、三葉みつばは、学校に登校してくれば、気さくにクラスメートと交流し、男女へだてなく接するその姿は、言うまでもなく、学園内の中心的存在と言えた。

 そんな白井三葉しろいみつばと、もっとも親しく話す仲である、ということが、オレにとっての密かな自慢でもあり、オレ自身の自己肯定感のになっているのだが、そんな少しばかり卑屈な想いとも、今日で別れを告げる、と決意した。

 オレたちの通う、あいらんど高校の生徒会が主催する秋の文化祭の一大イベント、4号館屋上で行われる『青少年の主張』でステージに登壇する機会を得たオレは、この機会に、幼なじみであり、永年の片想いの相手である女子生徒に、《愛の告白》というやつを敢行しよう、と心に決めたのだ。

 屋上に設置された簡易ステージのマイクの前に立ったオレは、腹にチカラをこめて声を張り上げる。

白井三葉しろいみつばさん! 聞いてください!!」

 メガホンの形のように両方の手のひらで口元を囲いながら、マイクに向かって叫ぶと、中庭からは、

「な~に~?」

と、三葉みつばの朗らかな声が返ってきた。

 幼なじみの返答に、ゴクリと固いツバを飲み込んだオレは、最後の勇気を振り絞り、意を決して、想いの丈をマイクにぶつける。 「6年前、あいらんど小学校に転校して来たときから、ずっと、あなたのことが好きでした! 僕と付き合って下さい!」

 思い切って、その言葉を言い終えると、期待どおりと言うか思ったとおり、眼下の中庭からは、小さくないどよめきが起こった。 そして、全校生徒の目線は、その中心にいる彼女に集まる。

 衆人の熱い視線を受けながら、三葉みつばが、慎重に……言葉を選ぶように……口を開くのがわかった。

玄野くろのクン……ううん、雄司ゆうじ――――――あなたが想ってることを言葉にしてくれて、ありがとう」

 そう言って、潤んだような瞳(というのは直線距離して数十メートル離れているオレの主観だ)で、彼女は屋上を見上げている。 最初に出会った時からオレを魅了していた整った顔立ちで斜め上のコチラに視線を向ける彼女の姿を見つめながら、これまで以上に高まる自分自身の鼓動を感じ、その言葉の続きを待つ。

「一生懸命な姿は、わたし達が出会った頃と変わってなかった――――――今日も、とっても素敵だったよ」

 微笑みながら言葉を続ける三葉みつばに対して、彼女を見守っている全員が、はやる気持ちを抑えきれずに、次の言葉を待っていることが感じられる。 そして、オレが、その緊張に耐えきれなくなり、思わず、ゴクリ――――――と、再び固唾を飲み込むと、シロは再び口を開いた。

「そんな雄司の姿を見せてもらって、あらためて、思ったの」  そして、彼女は、ようやく最後の言葉を口にした……。

「やっぱり、雄司とは、、って――――――」

 その言葉を確認した瞬間、中庭からは、終盤のチャンスで四番打者が凡退したときの外野席と同じように、

「あ~あ……」 というため息が、一斉に漏れる。 そして、彼らと同じように、

「あ~、やっぱり、ダメだったか……」

苦笑するオレに対して、

「センパイ……」

と、背後から声をかけてくる下級生がいた。

「モモ……残念だけど、オレが期待していた結果とは違ったみたいだわ」

 にして、も持つ女子生徒に、そう告げると、彼女は寂しげな表情でオレを見すえて、言葉を振り絞る。

「そんな……せっかく、がんばって気持ちを伝えたのに……」  自分のことのように悲しげに語る彼女の言葉に、心が動かされないと言えば、ウソになる。

 ただ、こんなセカイは、オレにとって必要ではない。

 いや、このセカイが、オレの想いを拒み、否定するのなら、そんな場所からは、こっちから立ち去ってやろうじゃないか――――――!

 幼なじみに想いを告げるのとは異なり、まったく、気負うことのないまま、オレは決断する。

(こんなセカイは、願い下げだ! いい夢を見させてもらったぜ! それじゃあな!!)  そう心の中でつぶやいたあと、オレは、モモが悲鳴のような声をあげ、中庭の生徒たちが呆けたようにコチラを見上げる中、ステージを駆け降り、屋上から地面に向かって飛び降りた――――――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

全ての悩みを解決した先に

夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」 成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、 新しい形の自分探しストーリー。

処理中です...