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プロローグ〜告白も二度目なら〜前編
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この日のために開放された校舎の屋上からは、全校生徒の多くが集まった中庭が見える。
オレが立っている鉄筋コンクリート造の4号館の校舎は、他の建物より階層が低く設計されているが、それでも、校舎の3階に相当するこの場所から中庭に集う生徒に視線を向けると、思わず足がすくむような気持ちになる。
それでも、生徒たちの中に、小学生の頃から、ずっとそばにいた女子生徒の姿を確認すると、オレの気持ちは固まった。
白井三葉――――――。
6年前の春、近所に引っ越して来て以来、オレと親しく話す仲になった彼女は、大手歌劇団の出身であり、二時間ドラマの女王と呼ばれている有名女優を母に持ちながら、自身も歌手活動や動画配信などを行う同世代女子のカリスマと言って良い存在だ。
テレビ出演から動画配信までを忙しくこなす身でありながら、三葉は、学校に登校してくれば、気さくにクラスメートと交流し、男女別け隔てなく接するその姿は、言うまでもなく、学園内の中心的存在と言えた。
そんな白井三葉と、もっとも親しく話す仲である、ということが、オレにとっての密かな自慢でもあり、オレ自身の自己肯定感のよりどころになっているのだが、そんな少しばかり卑屈な想いとも、今日で別れを告げる、と決意した。
オレたちの通う、あいらんど高校の生徒会が主催する秋の文化祭の一大イベント、4号館屋上で行われる『青少年の主張』で運良くステージに登壇する機会を得たオレは、この機会に、幼なじみであり、永年の片想いの相手である女子生徒に、《愛の告白》というやつを敢行しよう、と心に決めたのだ。
屋上に設置された簡易ステージのマイクの前に立ったオレは、腹にチカラをこめて声を張り上げる。
「白井三葉さん! 聞いてください!!」
メガホンの形のように両方の手のひらで口元を囲いながら、マイクに向かって叫ぶと、中庭からは、
「な~に~?」
と、三葉の朗らかな声が返ってきた。
幼なじみの返答に、ゴクリと固いツバを飲み込んだオレは、最後の勇気を振り絞り、意を決して、想いの丈をマイクにぶつける。 「6年前、あいらんど小学校に転校して来たときから、ずっと、あなたのことが好きでした! 僕と付き合って下さい!」
思い切って、その言葉を言い終えると、期待どおりと言うか思ったとおり、眼下の中庭からは、小さくないどよめきが起こった。 そして、全校生徒の目線は、その中心にいる彼女に集まる。
衆人の熱い視線を受けながら、三葉が、慎重に……言葉を選ぶように……口を開くのがわかった。
「玄野クン……ううん、雄司――――――あなたが想ってることを言葉にしてくれて、ありがとう」
そう言って、潤んだような瞳(というのは直線距離して数十メートル離れているオレの主観だ)で、彼女は屋上を見上げている。 最初に出会った時からオレを魅了していた整った顔立ちで斜め上のコチラに視線を向ける彼女の姿を見つめながら、これまで以上に高まる自分自身の鼓動を感じ、その言葉の続きを待つ。
「一生懸命な姿は、わたし達が出会った頃と変わってなかった――――――今日も、とっても素敵だったよ」
微笑みながら言葉を続ける三葉に対して、彼女を見守っている全員が、はやる気持ちを抑えきれずに、次の言葉を待っていることが感じられる。 そして、オレが、その緊張に耐えきれなくなり、思わず、ゴクリ――――――と、再び固唾を飲み込むと、シロは再び口を開いた。
「そんな雄司の姿を見せてもらって、あらためて、思ったの」 そして、彼女は、ようやく最後の言葉を口にした……。
「やっぱり、雄司とは、ずっと、お友達でいたいな、って――――――」
その言葉を確認した瞬間、中庭からは、終盤のチャンスで四番打者が凡退したときの外野席と同じように、
「あ~あ……」 というため息が、一斉に漏れる。 そして、彼らと同じように、
「あ~、やっぱり、このやり方じゃダメだったか……」
苦笑するオレに対して、
「センパイ……」
と、背後から声をかけてくる下級生がいた。
「モモ……残念だけど、オレが期待していた結果とは違ったみたいだわ」
部活の後輩にして、同居する義妹という側面も持つ女子生徒に、そう告げると、彼女は寂しげな表情でオレを見すえて、言葉を振り絞る。
「そんな……せっかく、がんばって気持ちを伝えたのに……」 自分のことのように悲しげに語る彼女の言葉に、心が動かされないと言えば、ウソになる。
ただ、こんなセカイは、オレにとって必要ではない。
いや、このセカイが、オレの想いを拒み、否定するのなら、そんな場所からは、こっちから立ち去ってやろうじゃないか――――――!
幼なじみに想いを告げるのとは異なり、まったく、気負うことのないまま、オレは決断する。
(こんなセカイは、願い下げだ! いい夢を見させてもらったぜ! それじゃあな!!) そう心の中でつぶやいたあと、後頭部のあたりを二度なでたオレは、モモが悲鳴のような声をあげ、中庭の生徒たちが呆けたようにコチラを見上げる中、ステージを駆け降り、屋上から地面に向かって飛び降りた――――――。
オレが立っている鉄筋コンクリート造の4号館の校舎は、他の建物より階層が低く設計されているが、それでも、校舎の3階に相当するこの場所から中庭に集う生徒に視線を向けると、思わず足がすくむような気持ちになる。
それでも、生徒たちの中に、小学生の頃から、ずっとそばにいた女子生徒の姿を確認すると、オレの気持ちは固まった。
白井三葉――――――。
6年前の春、近所に引っ越して来て以来、オレと親しく話す仲になった彼女は、大手歌劇団の出身であり、二時間ドラマの女王と呼ばれている有名女優を母に持ちながら、自身も歌手活動や動画配信などを行う同世代女子のカリスマと言って良い存在だ。
テレビ出演から動画配信までを忙しくこなす身でありながら、三葉は、学校に登校してくれば、気さくにクラスメートと交流し、男女別け隔てなく接するその姿は、言うまでもなく、学園内の中心的存在と言えた。
そんな白井三葉と、もっとも親しく話す仲である、ということが、オレにとっての密かな自慢でもあり、オレ自身の自己肯定感のよりどころになっているのだが、そんな少しばかり卑屈な想いとも、今日で別れを告げる、と決意した。
オレたちの通う、あいらんど高校の生徒会が主催する秋の文化祭の一大イベント、4号館屋上で行われる『青少年の主張』で運良くステージに登壇する機会を得たオレは、この機会に、幼なじみであり、永年の片想いの相手である女子生徒に、《愛の告白》というやつを敢行しよう、と心に決めたのだ。
屋上に設置された簡易ステージのマイクの前に立ったオレは、腹にチカラをこめて声を張り上げる。
「白井三葉さん! 聞いてください!!」
メガホンの形のように両方の手のひらで口元を囲いながら、マイクに向かって叫ぶと、中庭からは、
「な~に~?」
と、三葉の朗らかな声が返ってきた。
幼なじみの返答に、ゴクリと固いツバを飲み込んだオレは、最後の勇気を振り絞り、意を決して、想いの丈をマイクにぶつける。 「6年前、あいらんど小学校に転校して来たときから、ずっと、あなたのことが好きでした! 僕と付き合って下さい!」
思い切って、その言葉を言い終えると、期待どおりと言うか思ったとおり、眼下の中庭からは、小さくないどよめきが起こった。 そして、全校生徒の目線は、その中心にいる彼女に集まる。
衆人の熱い視線を受けながら、三葉が、慎重に……言葉を選ぶように……口を開くのがわかった。
「玄野クン……ううん、雄司――――――あなたが想ってることを言葉にしてくれて、ありがとう」
そう言って、潤んだような瞳(というのは直線距離して数十メートル離れているオレの主観だ)で、彼女は屋上を見上げている。 最初に出会った時からオレを魅了していた整った顔立ちで斜め上のコチラに視線を向ける彼女の姿を見つめながら、これまで以上に高まる自分自身の鼓動を感じ、その言葉の続きを待つ。
「一生懸命な姿は、わたし達が出会った頃と変わってなかった――――――今日も、とっても素敵だったよ」
微笑みながら言葉を続ける三葉に対して、彼女を見守っている全員が、はやる気持ちを抑えきれずに、次の言葉を待っていることが感じられる。 そして、オレが、その緊張に耐えきれなくなり、思わず、ゴクリ――――――と、再び固唾を飲み込むと、シロは再び口を開いた。
「そんな雄司の姿を見せてもらって、あらためて、思ったの」 そして、彼女は、ようやく最後の言葉を口にした……。
「やっぱり、雄司とは、ずっと、お友達でいたいな、って――――――」
その言葉を確認した瞬間、中庭からは、終盤のチャンスで四番打者が凡退したときの外野席と同じように、
「あ~あ……」 というため息が、一斉に漏れる。 そして、彼らと同じように、
「あ~、やっぱり、このやり方じゃダメだったか……」
苦笑するオレに対して、
「センパイ……」
と、背後から声をかけてくる下級生がいた。
「モモ……残念だけど、オレが期待していた結果とは違ったみたいだわ」
部活の後輩にして、同居する義妹という側面も持つ女子生徒に、そう告げると、彼女は寂しげな表情でオレを見すえて、言葉を振り絞る。
「そんな……せっかく、がんばって気持ちを伝えたのに……」 自分のことのように悲しげに語る彼女の言葉に、心が動かされないと言えば、ウソになる。
ただ、こんなセカイは、オレにとって必要ではない。
いや、このセカイが、オレの想いを拒み、否定するのなら、そんな場所からは、こっちから立ち去ってやろうじゃないか――――――!
幼なじみに想いを告げるのとは異なり、まったく、気負うことのないまま、オレは決断する。
(こんなセカイは、願い下げだ! いい夢を見させてもらったぜ! それじゃあな!!) そう心の中でつぶやいたあと、後頭部のあたりを二度なでたオレは、モモが悲鳴のような声をあげ、中庭の生徒たちが呆けたようにコチラを見上げる中、ステージを駆け降り、屋上から地面に向かって飛び降りた――――――。
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