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第4章〜悪魔が来たりて口笛を吹く〜③
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針太朗が乗車した普通電車は、乗り換え駅から十分ほどで花屋敷駅に到着した。
彼が、駆け足で西側の改札口に急ぐと、見慣れた上級生の姿があった。
「奈緒さん! 来てくれて、ありがとうございます!」
「礼には及ばない。我が校の生徒の身に危険が及んでいると言うことだからな。それより、時間が惜しい。学院に急ごう。必要なことは、学院への道すがらに聞かせてくれ」
生徒会長の東山奈緒の言うとおり、修道服を着た外国人女性が、正門で入校受け付けを行っていたという目撃情報から、すでに十五分ほどが経過している。
友人との会話で、「駅についたら、速攻で学校に向かおうと思う」と語った針太朗も、奈緒に同調した。
彼にとっては、入学式の日以来となる、学院専用通学路を使わない道のりを駆け足で進み始めると、快く協力を申し出てくれた上級生が確認するように問いかける。
「やはり、あの日、武道場に居た女性が関わっていたのか……針太朗くん、キミはあの女性の正体について、なにか聞いているのか?」
「はい! 保健室の安心院先生のお姉さんから、色々と聞かせてもらいました。ボクらの前にあらわれたあのヒトは、オノケリスとかいう名前の魔族だそうです」
「なるほど……私たちの同輩と言うわけか……これは、心して掛からなければな……」
相手となる存在が、自身と同じ魔族の血を引くということを認識した奈緒は、気を引き締める。
「はい……」
針太朗が一言だけうなずくと、彼女は、さらに続けて、
「その相手と真中さんの居場所は、わかっているのか?」
と、彼にたずねる。
「いまのところ、乾から情報が上がって来てないですね。学校に着いたら、ボクは、演劇部の部室に向かおうと思います。奈緒さんは、どうしますか?」
「私は、まず弓道部の部室で道具を揃える。キミが先に彼女たちを見つけたら、すぐに連絡をくれ」
奈緒が、そこまで言うと、二人は正門前に到着した。
生徒会長の言葉に再びうなずいた、針太朗は、肩で息をしながらも、古美術堂の店主に手渡された小瓶を取り出す。
「わかりました、奈緒さん! それとコレをあなたに託します」
「これは……?」
と、中身をたずねる彼女に、彼は古美術堂で聞かされたことをそのまま伝える。
「対魔族相手の切り札になるモノ、だそうです。この中身を矢尻に塗って使ってください」
「承知した。おそらく、油断ならない相手であろうから……キミも気を付けてな」
奈緒は、そう言って、武道場のそばにある弓道部の部室に向かって駆けていく。
一方の針太朗は、数日前に訪ねた部室を目指し、文化部系の部室がある校舎に向かう。
時刻は、午後六時半に迫ろうとしていた。西日はすっかり傾き、山の端に隠れようとしている。
そして、南の空には、薄い三日月が、白から黄色へと色を変えようとしていた。
ヒトならざるモノ――――――。
魔族と呼ばれる者たちが、自分の周囲に存在するということを知ったのは、わずか十日ほど前のことだったが、これまで、自分や知人・友人たちに対して、明確な悪意が向けられるようなことはなかったため、リリムと呼ばれる女子生徒たちの動向にさえ注意を払っていれば、自分たちの身に危険がおよぶことはないと、針太朗は、どこか楽観的に考えていた。
ただ、あからさまな悪意を感じる謎の封書を目にし、その差し出し人と思われる相手と直接的に対峙するとなると、これまでのモノとは異なるプレッシャーを感じる。
それでも、自分と親しく話すようになった女子生徒のことが気に掛かることに変わりはなかった。
なにより、今日のこの事態は、怪文書と言える封書の中身を目にして、彼女との接触を避け、頼るべき相手に相談を持ちかけなかったことに原因がある。
(真中さんと、もっとちゃんと向き合っていれば……)
自分でも言いようのない感情にとらわれ、仁美との会話を避けてしまったことに対する罪悪感と後悔が、針太朗を突き動かし、一刻も早く彼女の元にたどりつこうと、もつれそうになる彼の足を前へ、前へと急がせる。
いまさらながらに、乗り換え駅での通話のときに、友人が語っていたことを思い出す。
「針本、キミは、真中仁美が、他の男子と仲良くしている姿を目にしてショックを受けた。そうだろう? そして、それから、彼女のことを避けるようになった。あの写真が、フェイク画像だったってことは、それこそが、写真の送り主の狙いだったってことだよ」
(そうなのか――――――? ボクは、真中さんのことが……)
自分でも気付いていなかった、隣のクラスの真中仁美という女子生徒に対する自らの感情に向き合おうとすると、針太朗は、これまで以上に息苦しさを覚える。
それは、花屋敷駅から学院まで走りどおしだったから、という理由だけではないだろう。
しかし、いまは、その真の原因を探ろうとしている場合ではない。
演劇部の新人部員として、積極的に活動しようとしている彼女を救いたい――――――。
針太朗の中に湧き上がって来る想いは、ただそれだけだった。
彼が、駆け足で西側の改札口に急ぐと、見慣れた上級生の姿があった。
「奈緒さん! 来てくれて、ありがとうございます!」
「礼には及ばない。我が校の生徒の身に危険が及んでいると言うことだからな。それより、時間が惜しい。学院に急ごう。必要なことは、学院への道すがらに聞かせてくれ」
生徒会長の東山奈緒の言うとおり、修道服を着た外国人女性が、正門で入校受け付けを行っていたという目撃情報から、すでに十五分ほどが経過している。
友人との会話で、「駅についたら、速攻で学校に向かおうと思う」と語った針太朗も、奈緒に同調した。
彼にとっては、入学式の日以来となる、学院専用通学路を使わない道のりを駆け足で進み始めると、快く協力を申し出てくれた上級生が確認するように問いかける。
「やはり、あの日、武道場に居た女性が関わっていたのか……針太朗くん、キミはあの女性の正体について、なにか聞いているのか?」
「はい! 保健室の安心院先生のお姉さんから、色々と聞かせてもらいました。ボクらの前にあらわれたあのヒトは、オノケリスとかいう名前の魔族だそうです」
「なるほど……私たちの同輩と言うわけか……これは、心して掛からなければな……」
相手となる存在が、自身と同じ魔族の血を引くということを認識した奈緒は、気を引き締める。
「はい……」
針太朗が一言だけうなずくと、彼女は、さらに続けて、
「その相手と真中さんの居場所は、わかっているのか?」
と、彼にたずねる。
「いまのところ、乾から情報が上がって来てないですね。学校に着いたら、ボクは、演劇部の部室に向かおうと思います。奈緒さんは、どうしますか?」
「私は、まず弓道部の部室で道具を揃える。キミが先に彼女たちを見つけたら、すぐに連絡をくれ」
奈緒が、そこまで言うと、二人は正門前に到着した。
生徒会長の言葉に再びうなずいた、針太朗は、肩で息をしながらも、古美術堂の店主に手渡された小瓶を取り出す。
「わかりました、奈緒さん! それとコレをあなたに託します」
「これは……?」
と、中身をたずねる彼女に、彼は古美術堂で聞かされたことをそのまま伝える。
「対魔族相手の切り札になるモノ、だそうです。この中身を矢尻に塗って使ってください」
「承知した。おそらく、油断ならない相手であろうから……キミも気を付けてな」
奈緒は、そう言って、武道場のそばにある弓道部の部室に向かって駆けていく。
一方の針太朗は、数日前に訪ねた部室を目指し、文化部系の部室がある校舎に向かう。
時刻は、午後六時半に迫ろうとしていた。西日はすっかり傾き、山の端に隠れようとしている。
そして、南の空には、薄い三日月が、白から黄色へと色を変えようとしていた。
ヒトならざるモノ――――――。
魔族と呼ばれる者たちが、自分の周囲に存在するということを知ったのは、わずか十日ほど前のことだったが、これまで、自分や知人・友人たちに対して、明確な悪意が向けられるようなことはなかったため、リリムと呼ばれる女子生徒たちの動向にさえ注意を払っていれば、自分たちの身に危険がおよぶことはないと、針太朗は、どこか楽観的に考えていた。
ただ、あからさまな悪意を感じる謎の封書を目にし、その差し出し人と思われる相手と直接的に対峙するとなると、これまでのモノとは異なるプレッシャーを感じる。
それでも、自分と親しく話すようになった女子生徒のことが気に掛かることに変わりはなかった。
なにより、今日のこの事態は、怪文書と言える封書の中身を目にして、彼女との接触を避け、頼るべき相手に相談を持ちかけなかったことに原因がある。
(真中さんと、もっとちゃんと向き合っていれば……)
自分でも言いようのない感情にとらわれ、仁美との会話を避けてしまったことに対する罪悪感と後悔が、針太朗を突き動かし、一刻も早く彼女の元にたどりつこうと、もつれそうになる彼の足を前へ、前へと急がせる。
いまさらながらに、乗り換え駅での通話のときに、友人が語っていたことを思い出す。
「針本、キミは、真中仁美が、他の男子と仲良くしている姿を目にしてショックを受けた。そうだろう? そして、それから、彼女のことを避けるようになった。あの写真が、フェイク画像だったってことは、それこそが、写真の送り主の狙いだったってことだよ」
(そうなのか――――――? ボクは、真中さんのことが……)
自分でも気付いていなかった、隣のクラスの真中仁美という女子生徒に対する自らの感情に向き合おうとすると、針太朗は、これまで以上に息苦しさを覚える。
それは、花屋敷駅から学院まで走りどおしだったから、という理由だけではないだろう。
しかし、いまは、その真の原因を探ろうとしている場合ではない。
演劇部の新人部員として、積極的に活動しようとしている彼女を救いたい――――――。
針太朗の中に湧き上がって来る想いは、ただそれだけだった。
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