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第3章〜ピンチ・DE・デート〜⑫

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 気恥ずかしさを覚えながらも、希衣子けいことの距離が縮まったように思える雰囲気を台無しにされたため、カフェに鳴り響く着信音を煩わしく感じながら、針太朗しんたろうは、通話ボタンをタップする。

「どうしたのいぬい? なんの用?」

 なるべく声には出さないように努めたが、それでも、彼の第一声は少しトゲのあるモノになっていた。

「いや、急で申し訳ないんだけど……針本、今日は1組の真中まなかと会う約束をしてるか?」

 クラスメートの乾貴志いぬいたかしの質問の意図と内容が上手く飲み込めない上に、今週ずっと気にかけていた女子生徒の名前が出たことで、針太朗しんたろうは困惑しながら返答する。

「いや、まさか……そんな訳ないだろ? ボクは今日、ケイ……北川きたがわさんとウニバに来てるって、いぬいも知ってるハズだよね?」

「あぁ、そうだよな……ただ、さっき、放送メディア研究部の部活紹介の記事のために、演劇部を取材の申込みをしようとしたんだけど、そのとき、高橋部長が、『一年の真中が針本はりもとくんと会うんだ』って、うちの学校に向かったって、言ってたから気になったんだよ……で、休日のこんな時間から、帰宅部の針本が、学校に行くなんておかしいと思って電話をさせてもらった」

「そっか……ありがとう」

 針太朗しんたろうは、クラスメートから情報提供をしてもらえたことの感謝と、その通話を邪険に扱いそうになったことに謝罪する気持ちを込めて返答しながら、言い知れない胸騒ぎを感じていた。

「あと、最近、うちの学院の周りで不審者情報が出ていてな……今週の初め頃から、どう見ても学院関係者じゃない外国の女性が、花屋敷駅や学院周辺をウロついてるって、僕ら放送メディア研究部に情報が上がってきてるんだ。まあ、半分以上は男子生徒からの『あのキレイな女性を取材してこい』って要望なんだけど……女子の中からは、ひつこく他の生徒に関する情報を聞かれたって、苦情みたいな声も上がってきてるんだ。だから、学校に向かってる真中まなかにも気をつけてもらわないとな、って思ったんだよ」

「そうだったんだ……悪いね、わざわざ連絡してもらって」

「いや、こっちの方こそ、二人でお楽しみのところ、申し訳なかった。でも、なんか、気になることがあったら、いつでも構わないから、こっちに連絡してくれてイイよ! それじゃ!」

 貴志たかしからの通話を終えたことを確認すると、針太朗しんたろうの目の前でドリンクをすすっていた希衣子けいこが、声をかけてくる。

「イヌイだったの? こんな時にどんな用?」

 案の定、また少々の不機嫌モードになりながら、彼女はたずねてくる。
 希衣子けいこのそんな様子に対して、どこまで話そうか……と、一瞬、迷いながらも、先ほどと同様に、針太朗しんたろうは、友人からの伝達事項を包み隠さず話そうと考えた。

「うん……ボクは、約束した覚えが無いんだけど……1組の真中さんが、ボクに会うために学校に向かってるらしいんだ……」

「ふ~ん、それで?」

 興味なさそうに返答をしながらも、相変わらず、ご機嫌ななめな様子で返答する相手に申し訳なさを感じつつ、彼はなんとか話しを次に進めようとする。

「いや、それ以上のことは無いんだけど……あとは、最近、学校の周りや花屋敷駅で不審な外国人女性の目撃談が増えているから、気をつけろって……」

 針太朗しんたろうが、そこまで言うと、「えっ!?」と、口にしたクラスメートの顔色がサッと変わり、

「ねぇ、シンタロー。もしかして、その外国人のオンナって、コイツのことかな?」

そう言って、スマホに保存していた画像を彼にかざす。
 その瞬間、針太朗しんたろうは、

「あっ!」

と声を上げる。

 もちろん、乾貴志いぬいたかしとの通話では、学校周辺をウロつく不審者の姿や形はわからなかったのだが、北川希衣子きたがわけいこのスマートフォンの画面に映し出されていたのは、彼が会ったことのある人物とそっくりだったからだ。

「やっぱり! シンタローも知ってるの?」

 問いかける希衣子けいこの声にうなずいて、針太朗しんたろうは慎重に語る。

「ボクは、学校の周りでは会ったことがないんだけど……先週、奈緒なお先輩の弓道の試合の時に、武道場に押しかけてきた外国人とそっくりなんだ……ケイコは、このヒトを学校の周りで見たことがあるの?」

「いや、見たどころの話しじゃなくて、帰り際の駅のホームで、なんか向こうから一方的に絡まれてさ。最初は芸能事務所のスカウトかなにかかな~、って思ってたんだけど、週末の予定とか、仲の良い男子は居るかとか、いきなり聞いてきたんだよね。で、あまりにしつこいから、一緒にいた里香りか美優みゆうが写真を撮って、『これ以上しつこくするなら、学校か警察に通報すんゾ!』って言ったら大人しくどこかに行ったんだけど……」

「そっか……そんなことがあったんだ……」

 彼自身と仁美ひとみ奈緒なおの三人が遭遇した女性と、おそらく同一人物と思われる相手に関する情報を耳にして、針太朗しんたろうが先ほどから感じていた胸騒ぎは、大きな不安に変わる。

(やっぱり、あのヒトは、奈緒なおさんやケイコを狙っているのか……?)

(そして、おそらく真中まなかさんも―――――)

 そう考えると、こらえきれず、ついカフェの席から腰が浮いてしまう。

「気になるんだね、マナカのことが……」

 気がつくと、寂しげな面持ちでたずねる希衣子けいこの姿があった。
 その表情に心苦しさを覚えながらも、針太朗しんたろうはうなずく。

「うん……でも、真中まなかさんだけじゃなくて、生徒会長の奈緒なおさんや、もちろん、ケイコのことが心配なんだ。だから―――――」

 申し訳なさそうに語る彼に、彼女は精一杯の笑顔を作って、

「わかったよ、シンタロー。アタシの夢は、今日はおあずけ。あの怪しいオンナが関わってるんなら、他人事じゃないしね! いいよ、マナカの所に行ってあげて。シンタローが大好きな、エルマーなんとかって男の子も、優しくて、勇気のあるんでしょ?」

と、クラスメートを送り出そうとする。

「ありがとう、ケイコ! この埋め合わせは必ずするから!」

 ハリウッド映画や海外ドラマの登場人物のようなことを言う針太朗しんたろうに対して、希衣子けいこが静かにうなずくと、彼は、去り際にこんなことを口にした。

「それと、もうひとつ、ケイコにお願いしたいことがあるんだ――――――」
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